戦火へ
北の大陸、最西端の国アルベシオン王国のとある街にたどり着く。アルベシオン王国の特産品は魔導石であり、魔導帝国ビルシュ・ベルへ輸出するためにビルシュ・ベル協力の下、魔導列車を共同開発していた。ファースランド帝国がビルシュ・ベルを滅ぼした後も、手前のノルリッジ王国までは現在も運行していた。
ベネツィオは戦争中のため一日一本となってしまった列車の発車時刻まで近くのカフェで時間を過ごしていた。竜国では嗜好品はあまり手に入らないのだ。久しぶりに飲むミルクココアに舌鼓を打つ。ぼーっと街を眺めていると通りは傭兵で溢れかえっていた。
メタフォたちとは違い、新人? の”砂スラ”と”へびっちょ”はやや人の街に緊張気味だ。
「大丈夫ですよ、服の中にいれば、誰も気が付きませんから」
魔法の箱について、今更ながらに説明すると、わたしも生き物も生きている者を入れた時は、入れた場所でしか出られないのだ。なので必要なときだけ、メタフォを出すというのは不可能なのだ。
野生に近い”砂スラ”と”へびっちょ”が緊張している理由は他にもある。このご時世にアカデミーローブを着たロリっ子が1人でカフェにいるため嫌でも目立つのだが、その視線の中に悪意を感じるものもいくつかあった。
うん? 眷属狩り? 諜報部員? 私怨? なんだろうな〜? 程度なのだが、一応、魔法・悪の認識にて、チェックしておく。殺意がなければOKにしておこう。
発車時刻が近づいてきたので、カフェでサンドイッチを2つと、ビンの牛乳を購入する。それを小さめのトランクケースに入れ、駅に向かう。駅の中にも傭兵が溢れかえっていた。
2号車A-3か、窓側だね。席に座り足元にトランクケースを置く。
フードを被ると中のメタフォが頭の上に乗った。へびっちょは、ダンモフの真似をしてわたしの右腕に巻き付いている。砂スラは腹巻き状態でお腹に巻き付いている。みんな好き勝手にわたしに纏わり付くのだが、うさ角だけはわたしの太ももの上だ。
「お姉ちゃん、そのうさぎ、かわいいね」と対面席に座る小さな女の子が声をかけてきた。
目線を上げると、いつの間にか親子が座っていた。いかん、いかん、緊張感なさすぎた。
「うん、可愛いでしょ、うさ角って言うんだよ」
うさ角はぴょんと跳ねて女の子の膝の上に乗った
「わぁ! うさ角ちゃんが遊びに来たぁ!!」とはしゃいでいる。
わたしの隣には、若い男性が座る。「うさぎさん、かわいいね」と笑う男性に、ダンモフのモフモフを糸状にして首に巻き付け、小さな声で「余計な真似をしたら殺すぞ」と注意を促す。
この人、多分、わたしの敵だね。魔法・悪の認識でアウト宣言です。
えっと…この列車が止まるのは6時間後。アルベシオン王国の東の町ヘルヒベンだったかな?
ガックンと列車が動き出す。わたしは目を閉じ、斥候魔法の感覚強化にて、列車の中で動く敵意に意識をロックオンさせつつ眠りにつく。
だがベネツィオが意識を向けるべきだったのは、遥か東、アルベシオン王国国境付近に進軍するファースランド帝国・第8師団に所属するベネツィオと対等の力を秘める少年だった。
いみじくも仕組まれた運命のように、約18時間後、この2名は激突する。
その戦いを皮切りに、ベネツィオを畳み掛ける悲劇が始まるのだ。




