遺跡のクエスト その3
わたしが買い物を終えて寮に帰ろうとすると不意に声をかけられる。
「ベネツィオ、今日は一人かい? 今度こそ、学園の社交界デビューをプロデュースさせてくれよ」
同じコースの男子だ。声変わりが初めリ声が聞き取りにくい。わたし達4人は基本的に他のクラスメイトと交流していない。なぜならば4人とも地位が低いからだ。貴族のトラブルに巻き込まれた場合、自力で解決するのは難しく、かと言って助けを求められる貴族の繋がりもないのだ。
しかし、ベネツィオが女男爵であこと、領主イッシュベル侯爵と交流があること、元王宮魔法使いイーノーベのお気に入りであること、災害指定級の魔物を単騎で倒せること、テイマーとして異例の三体を保有できること、またその二体がユニークであること、学園の生徒であること、属性魔法を所持していること…など、貴族たちも手を出し難い人物であるのだが、逆にそれらが貴族の欲する力であった。さらに元々、可愛い顔立ちで、性的に興奮させられる体つき、そして…魅了のスキルが、起爆剤となり、貴族内でのベネツィオ争奪戦は激しさを増していた。
「この前、はっきりとお断りした通り、わたしは社交界に興味はありません。わたしは…生きるか、死ぬか、血と肉、狂喜と闘志…。そんな世界が大好きなのです」ニコリと笑う。
ゾゾッと畏怖する領主ホーロヴェムの次男であるセニシアルは、「ははっ…。どうしたら…信じてくれるのかな…。また会おう」と頭を掻きながら去って行った。
もしかして、セニシアルは、悪い人じゃないかもしれない。でも…。ハッとなって、魔法の杖の短剣にダンモフのモフモフでカバーすると、魔法を込める…。そう、悪の認識だ。
セニシアル…善悪(9:1)、恋
ははっ…。人の心を覗くとは…。気分が良くないな…。
「セニシアル! 待って!」
セニシアルを呼び止めて、社交界に行けない本当の理由を丁寧に話す。
「さっきは酷い言い方してごめんなさい。領主の次男であるセニシアルには理解が難しいかもしれないけど、今まで権力に散々な目に合わされてきたの。だから…魔法・高官コースを選んだの。もう貴族たちに目をつけられるのは嫌なの…。あなたの好意を無駄にしてごめんなさい」
セニシアルは、ベネツィオの話を、相槌を打ちながら真剣に聞いていた。
「ベネツィオ。それは逆だし、もう遅い。権力から逃れるためには、より強い権力が必要だ。高官コースを選んだのなら、もうわかっているはずだ。それに、君を狙う貴族は…あまりにも多い。そのときを虎視眈々と狙っている。だから…俺は…君を…守りたい」
恐らくセニシアルにとっての告白なんだろう。
「ありがとう」素直に感謝して、別れた。
やはり他人に悪の認識を使うと、善人だったときの罪悪感が重たいな。涙が溢れ出しそうだ。わたしはアカデミックローブのフードを被る。中にいたメタフォは上手に私の頭の上に移動し、一緒にフードを被る。
ぼーっと歩いていたら、裏路地に来てしまった。治安の良い都市フェイリスだとしても、女の子が一人で歩くには危険だ。「やめてください…」と声が聞こえてしまった。はっきり言って聞きたくなかった。
基本魔法の浮かぶ目玉を召喚して辺りを探る。いた…少女が襲われている…。襲っているのは…アカデミックローブを来た生徒だ。その生徒は…シルシニル…。セニシアルの双子の弟である。
どうする…。助けるか? 見捨てるか? 短剣をぎゅっと握り…目を瞑る。




