↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/29

第3話「おてんばなお姫様」

「うん。でも気にしなくていいの。身分はそんなに高くないのよ」


「身分……とか、女性のことはよくわからなくて。ごめん」


「緋月は京に住んでいるの? 私、はじめて街に出たからビックリしちゃったの」


唐突な質問に緋月は目を丸くし、頬を赤くする。


「俺は……父が御所に仕えていて……」


「そうなの!? 普段どこにいるの? 私、結構ウロチョロしているけれど、緋月を見たことがないわ!」


こんなにも綺麗な男の子がいたら気づかないはずがないのに! と、私は目を輝かせ、緋月に期待を寄せる。


だが返ってきたのは想像していたものと異なっていた。


「えぇっと……それは、ちょっと……。言えない……」


踏み込みすぎた、と私は悪癖を出してしまったことにサーッと血が引いていく感覚を味わった。


めそめそしながら緋月への罪悪感に項垂れる。


「ごめんなさいぃ……。私、気になったことはつい聞いてしまう癖があって」


こういうことに気を回すのが下手だから、芹を困らせる。


御所で生きることは、目を瞑ることでいっぱいだ。


見てもいけない。

言ってもいけない。

聞いたことがあっても知らぬふり。


それが美徳であり、賢い生き方だ。


母にも芹にも重々言われてきたことなのに、私は好奇心を抑えるのが下手くそだった。


「いいと思うよ」


落ち込む私に、緋月は穏やかに微笑みかける。


見た目は繊細で月の精霊を連想させるのに、私の手を包み込むのはやたらと分厚い皮の荒れた手だった。


「俺に答えられることだったらなんでも聞いて。あんまり役立たないだろうけど」


「いいの?」


その問いに緋月は目尻を柔らかくして頷いた。


舞いあがるほどのうれしさに、私はさっそく調子にのって緋月に質問攻めをする。


緋月は戸惑いながらも答えてくれたので、ついつい時間を忘れて会話に夢中になった。


「時羽様。遅くなってすみません。おにぎりですがお持ち……」


太陽が沈んで月が顔を出した頃、芹がおにぎりを持ってきてくれた。


しかし芹が緋月を認識した途端、ギョッとしておにぎりを落としてしまう。


「あっ」と慌てて芹の持つロウソクの灯りを頼りにおにぎりを拾い上げる。


竹皮に包まれていたので汚れることがなく、ホッとしながら顔を上げると芹が険しい顔をして硬直していた。


「芹? どうしたの? あっ、緋月にビックリしているのね! あのね、緋月は――」


「な、な、何故男が!? 時羽様、何もされていませんか!?」


「え……えぇ? 何もないわ。どうしてそんなに驚くの?」


芹がピリピリする理由がわからずに首を傾げていると、芹は目尻を尖らせて私に説教をし出す。


「姫なんだから気軽に男と接触してはいけない」だとか、「恥じらいを持ちなさい」だとか……。


あまりの形相に“鬼婆”を思い浮かべてしまったのは黙っておくことにした。



怒髪天を衝く芹に申し訳なくなったのか、緋月が静かにこの場を去ろうとする。


スッと身を引くのが視界に入り、私は芹の説教そっちのけで緋月を追いかけた。


まだ一緒にいたい。

そう言いたいだけなのに上手く言葉が出てこない。


喉の詰まる感覚に焦っていると、緋月は困ったように肩を落として私の手を離し、縁側に腰かけた。


待ってくれるんだと、頬が安堵に緩む。


私がそんな調子なものだから、芹もこれ以上は言っても無駄だと額を抱え、ため息を吐いていた。


「あなた、どこの方? 町民……では」


芹の問いに緋月は膝の上で拳を握り、礼儀正しく頭を垂れた。


「父が御所でお仕えしています。すみません。姫様には手傷を負った俺を気づかっていただいただけですので……」


「何を言っているの! 助けられたのは私よ! あのね、芹。街で暴動が起きていたの! それで緋月が……」


「……暴動?」


私の発言に芹の眉がクイッと持ちあがる。


すぐに目を細め、眉間にシワを寄せる姿は説教目前と予告しているようなものだ。


これはマズイことを言ってしまったと、私は両手で口元を隠し、うろたえて芹の顔色を窺った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。