第23話「新しいお友達」
緋月の協力もあり、一から布を合わせて巾着袋を縫いあげた。
同時進行で用意した乾燥花びらを中に詰め込んで無事完成。
我ながら良い出来だと満足していると、爽やかな風が吹き抜けて新緑を揺らした。
「やっほ~! 時羽ちゃん、遊びに来たよ!」
「浅葱さん! と……」
お団子頭に、ほんのり桃色に染まった頬。
丸っこい目をした女性が浅葱の隣に立っている。
そばかすが愛らしく、ほんわかとした笑みを絶やさない。
なんて可愛らしい人だと胸を高鳴らせていると、桃が私の前に駆け寄って頭を深々と下げた。
「姫様、お初にお目にかかります。桃、と申します。浅葱からお話は聞いておりました。無礼ばかりで申し訳ございません」
「無礼なんて……! 浅葱さんのおかげで楽しいことがたくさんあるわ!」
「ほら、桃。時羽ちゃんはフレンドリーだから気にしなくていいって言ったじゃん」
「でもお姫様だよ? あたしたちが口を聞いていい方じゃない」
鬼狩りの立ち位置はわからないが、日の目は見ないのだろう。
緋月も自分を卑下するような言動が多く、表立って言えるお役目でもないため、マイナス思考になりやすいのかもしれない。
私からしてみれば、鬼から国を守る立派なお務めをする人たちだ。
もっと自信を持っていいんだと思いながら、桃の手をそっと包み込んだ。
「えっ!? えっ、えっ? 姫様?」
「桃さん、浅葱さんの婚約者なんですってね。もうずいぶんと長いのかしら?」
「えぇっと……はい。とは言っても兄妹みたいに育ちましたから」
鬼狩り一族がどういう人で構成されているかはわからない。
おそらく生まれながらに鬼狩りとなるよう育てられているのだろう。
浅葱や緋月の身のこなしは、普通の兵士には出来ない卓越したものだった。
「二人とも、よかったら座って。桃さんに渡したいものがあるの」
そう言って縁側を軽く叩いて、二人に座るよう促した。、
私は部屋に入って大切にしまっていた匂い袋を持ち、桃の前に膝をつく。
「これ、作ってみたの」
「匂い袋ですか……?」
「浅葱さんから桃さんのことを聞いて、緋月と一緒に考えたの。気に入ってくれたらうれしい」
桃は目元を赤くて、驚いた様子で浅葱に目を向ける。
浅葱はポッと頬を染め、後頭部をかいて小さく頷いた。
その反応を見て、桃は匂い袋を抱きしめて涙目に微笑んだ。
「こんな素敵なものをありがとうございます。大切にします」
その後、すぐに桃と打ち解け、浅葱が席を外している間は恋語りに花を咲かせた。
「浅葱から姫様と緋……月さんのことは聞いています」
一瞬、「緋月」を呼ぶのに戸惑いをみせる。
余計なことは言わないよう注意しているのだろう。
こうして緋月を語る人が増えていくのが嬉しくて、くすぐったさに前髪を指でいじくった。
「浅葱さんと緋月って仲が良いよね。見ていて楽しいわ」
「仲が良い……んですかね? たしかによく喋るようにはなったなぁと思いますけど」
「前はそうでもなかったの?」
あんなに軽口を叩いているのに……。
私の疑問に桃は申し訳なさそうに俯いてしまう。
「鬼狩りはみんなあまり仲良くないんです。浅葱みたいなタイプは珍しいです」
「仲良くないって……親兄弟も?」
あっさりと桃が頷いたので、胸がチクリと痛む。
この塞がる気持ちはいつも抱いているものだ。
父親に気づいてもらえない寂しさは、ずっと消えてくれない。
だから十五歳になっても子供じみた行動が止められない。
無謀に、無様に――。
「緋月は最初から気さくに接してくれたわ。すごくやさしい人だなって」
「それを聞いたとき、少し意外でした。兎の木彫りを彫るような人じゃないですから。鬼狩りの中でも彼は――」
「桃」
どこからともなく目の前に緋月が現れ、冷めた目を細めて笑う。
あまりの空虚さに緋月の知らない一面を見た。
「ひ、ひ……づきさん」
「浅葱と一緒に? アイツはどこに隠れているんだ?」
「あ……っと、姫様とお話をしたらと、席を外して……」
「そうか。時羽姫、彼女となら仲良くしていいですよ。……姫?」
「あっ……ごめんなさい。彼女ならってどういう意味?」
私には絶対に見せない、鬼狩りの顔だ。
凍てつく冷たさは勝手に私の身体を震わせてくる。
どうしてそんな目をするのか、気になっても聞いてはいけないと、視線を落とした。
動揺していては緋月に気を使わせてしまう。
胸に手を当て、緋月を見上げてにっこりと笑みを向けた。
それでも緋月は私をよく見ている。
口元を隠して目を逸らしてしまった。
「浅葱は異性ですから……。彼女なら同性ですし、話し相手になるでしょう」
「……そうね。芹がいなくなってからお話する機会も減ったから」
なんだ、そういうことか。
話し相手になるという意味合いならば、ほんの少し物足りない気持ちを抱いてしまう。
だが気にしないと、一瞬湧き出た寂しさに蓋をした。
「すみません。俺もあまり来られずにいて」
「ううん! 仕方ないわ! お役目の方がずっと大事だもの! 私はこうして緋月とお話が出来るだけで充分!」
「そう……ですね。俺も時羽姫とお話出来ることがうれしいですから」
緋月にとってささいな言葉でも、私にとっては熱が凝縮されるほど喜びだ。
ふにゃふにゃになってしまいそうな頬を両手で抑えていると、前髪が気になってついついいじってしまった。
「あれ~? 緋月も来たのかぁ?」
能天気な声とともに戸口の方から浅葱がやってくる。
遠慮なく家屋に入っているので、緋月の目が鋭くなり、瞬時に浅葱を引っ張り追い出そうとした。
騒がしく揉める二人には慣れたが、桃には珍しく見えるようだ。
意外な姿に目を丸くし、段々と可笑しくなったのかクスクスと笑っていた。
(うれしいな。こうして輪が広がっていくのはとても……)
なんて幸せなのだろう。
満たされる感覚は自然と口角を緩くした。
こうして新しい友人ができ、同性として心強い存在になっていった。




