第10話「緋月と浅葱」
「別にいいじゃん。オレと時羽ちゃんはもう友だちだし。相談役だって必要だろ?」
「必要以上に入り込むな。お前なんかいらん」
「そういうなって。“緋月くん”?」
(あ、ダメだ……)
穏やかに見えて、緋月の攻撃の手は早い。
浅葱の頭部を殴り、あまり見ない年相応の顔をして牙を向いていた。
私には見せてくれない一面。
新鮮だからもっと見ていたいと思うのは浅葱に失礼だろうか?
イタズラ心に笑っていると、緋月と浅葱が顔を合わせて目を丸くしていた。
その後も浅葱はちょこちょこ現れるようになった。
「やっほ。遅かったな」
「浅葱、お前……」
緋月が訪れると、浅葱は勝ち誇った顔をして挑発する。
今日は私の頬を指で突くことにしたようで、ムニムニされるとこちらもどうすればいいかわからずに目を閉じた。
音だけでわかってしまう、緋月が怒って浅葱を殴る姿。
不思議な関係だとにやけながら、私は購入した紐と道具をこっそりと部屋に隠しに行った。
「時羽姫。また外に出られたとか」
厳しい物言いに身体がギクリと硬直する。
ピリピリした様子の緋月に対して両手を前に突き出し、なんとか誤魔化そうとしていたら自然と爪先立ちになっていた。
「浅葱さんも一緒だったから。外のこと、たくさん教えてくれたのよ」
それが余計に緋月の苛立ちを煽ったようだ。
緋月は目を尖らせて浅葱を睨みつける。
かなりの剣幕だが、慣れきった浅葱はのらりくらりと笑って緋月の攻撃をかわしていた。
(すごい。二人の動き、なかなかマネできるものではないわ!)
ついつい感心していると、浅葱と衝突していた緋月が振り向いて目が合う。
顔色がどことなく青く、疲れているみたいだ。
緋月は深くため息を吐くと、浅葱から離れて私の前で膝をつく。
両手で私の指先に触れ、切実な目をして見上げてきた。
「しばらくは外に出ないでください」
「どうして?」
「……鬼が出るのです」
(鬼?)
あまりピンとこないのは、実際に鬼を見たことがないからだ。
絵巻ではよく語られるが、家屋にこもっていれば馴染みのないもの。
「どうして鬼が出るの?」
今まではそんな話が出なかったが、緋月がわざわざ伝えてくるのだから、それくらい警戒してほしいのだろう。
私は外に出たとしても日中のため、夜のことはなおさらわからなかった。
「あまり国が潤っていないのです。鬼とは弱ったところを襲う生き物なんです」
「そう……なのね。民は大丈夫なの? そんなに危ないのなら心配だわ」
「大丈夫です。兵たちが警戒していますから」
例え警備がいたとしても、鬼が出るとなれば民にとっては不安でしかないだろう。
誰も傷つかないでほしい。
そんなキレイごとでも、祈らずにはいられない。
姫として生まれながら何の役にも立てずにおり、月や星に祈るだけが時羽に出来る精一杯のことだった。
だから父親にも愛されない――。
「ま、大丈夫だって。外に出るときはオレがついてるからさ」
浅葱がパチッと片目をつむり、八重歯をみせて二カッと笑う。
眩しいほどに晴れ晴れとした浅葱に、また機嫌を悪くした緋月がすぐさま立ち上がり、牽制をかけにいった。
「こればかりは緋月さんに賛成ですね。浅葱さんが頼りにならないというわけではありませんが……」
家屋の中にいた芹が出てきて、浅葱の言葉に添える。
「もう、芹ってば。……でもそうだね。しばらくは控えるわ」
心配しなくてもみんなに守られているから大丈夫。
忘れられた姫君であっても、私を知って傍にいてくれる人がいる。
胸が痛んだとしても、さみしさが消えることはなくても……。
ちゃんと温かさは知っていると、私は誇らしく思っていた。
(もうっ! 余計なことは考えない! 今は髪飾りに集中! ……喜んでくれるといいな)
私は手先が不器用で、何度作っても納得できるものにならない。
だがしぶとさは人一倍の自信がある。
良い仕上がりになるまで諦めてたまるかと、緋月と芹の横顔を見て気合いを入れなおした。




