終末の帰省 壱
とおまわりしたり周りを気にしながら走ったから、街から一時間足らずでつく距離を数時間かけて移動。村へと到着する頃にはもう真っ暗。
ここへ来るまでの間、チラホラと放置車両みたいなのはあったけど、人影はなく。
地元へ近くなればなるほどそれすらなんにもなくなってきた。
うちの実家は本当に田舎で、家の周りは田んぼや畑ばかりの長閑なところ。
街灯さえ無い真っ暗な中、記憶のとおりにヘッドライトに照らされる道を走る。
「カオリは時々実家に帰ってたよね?」
「そうね。田植えとか稲刈りの時期なんて手が足りないし。ユカリも手伝ってくれてたでしょ」
「そだね…。ほら、うちは実家が商店だから。そこも兄夫婦が継いだから、私がわざわざ行く必要もなくて、顔を出すにしても盆と正月くらいかな」
「知ってるって。大学時代から毎年お盆と年末年始は一緒に帰省してたでしょ?」
「少しでも一緒にいたかったし…」
お互いの実家は結構遠いんだけどね…。あたしの実家はこの村よりさらに向こうの隣村だから、幼稚園や小・中学生はユカリと学校も違った。
今はそれも合併してると聞いてる。そのせいでもう母校はない訳だけど…。
「…ユカリの実家のが道順的に先になるから寄ろうか」
「いや、後でいいよ。先にカオリの実家に行こ。遅くなると迷惑でしょ?」
「知らない仲じゃないし大丈夫よ?泊まるのもいつもうちだったじゃない」
「私が気にするの。それにうちは兄夫婦がいるから居心地悪いしさ。帰りに少し顔出すくらいでいいよ」
「わかったよ」
ユカリがいいならいいけど…。
高校に入る少し前にあたしの出身地の村とユカリの育った村、あとはさっきホームセンターに寄った街が合併して村から市になったけど、あたしにはなにも変わらない昔のまま、ここも村って認識。
住所が変わっただけだから当たり前だけど。
地名なんて昔の教訓や歴史、文化とかにも関わる大切なものだと思うんだけどなぁ。安易に変えすぎでは?と個人的には思う。
村のなかでも比較的広い道を走ってるんだけど、稀にある街灯はついているし、放置されている車もない。
当然フラフラと歩いている人影もなく、ほっとする。もしかしたらこっちはみんな無事なのかも。なんて期待までしてしまう。
「そろそろうちが見えるね」
「ユカリの実家はこの通り沿いだもんね」
「一応この村唯一のなんでも屋だから。取り寄せにはなるけど、どんなものでも仕入れるよ?」
「…誰だっけ、高校一年の時に同級生の男子がいかがわしい本を親に内緒で頼んでたんだけど、その一家の注文品と纏めて渡されたものだから…」
「あったあった! 一個上の姉にバラされてめっちゃくちゃ誂われたせいで学校中に広まってた」
「あれは流石にちょっと可哀想だったよね」
「姉の方は男子から鬼畜姉ってあだ名がつけられて」
「男子の方は女子から変態弟って」
懐かしい話題で盛り上がりながらユカリの実家の前を通り、運転席側にある店の方を見たんだけど思わず急ブレーキを踏んだ。
「………」
「嘘だよね…?」
助手席から運転席側へ身を乗り出して外を覗き込んでいたユカリは慌ててドアを開け車を降りていったから、あたしも直ぐに車を降り、追いかけた。
店の前で立ったまま建物を見上げているユカリ。
店舗のシャッターは閉まっているし、二階の居住エリアの明かりもついていない。
でも気にするのはそこではなくて…。
「なんで!? どうして…」
あたしも意味がわからなかった。ユカリの名字は三代だ。だから店の名前も三代商店といい、建物に大きな看板がある。
今はその看板が問題なんだ。どう見ても三島商店としか読めない。
ユカリは走って裏へと回るから追いかける。
確か家の玄関はこっちだったな。
高校でユカリと同じクラスになり、仲良くなってから何度か遊びに来たから覚えてる。
裏手にまわり、視界に入った玄関にかけられた表札も違う…。
「お父さん! お母さん!」
ユカリはそう呼びながら玄関のすりガラスのはまった引き戸をバンバンと叩くけど、中からの反応はない。
「ヒロ兄! 亜香里義姉さん! 誰かいないの!?」
叫ぶユカリの声に紛れてガサガサと音がして、玄関のさらに奥…確かあちらは庭だったと記憶している方から人影が。
「誰?お母さん?」
その瞬間、玄関の引き戸に家の中からバンッと手形が。
「…っ!? ユカリ、ダメ!!」
「…なっ…」
固まるユカリを抱えて引きずるように表通りへと向かい移動。
表通りへ出ると、あたしたちを追いかけてヨタヨタと奥から出てきたモノが街灯に照らされてハッキリと見えた。
ユカリもそこでやっと正気に戻ったのか、自分の意思で歩いてくれたから二人で車に駆け込み急いで発進。
「……」
「………」
あたしはユカリになんて声をかけたらいいの…?
意味がわからなさ過ぎて混乱して。さっき見たことも含め、全部ぜーんぶ自分の記憶が正しいのかさえわからなくなってくる。
「…知らない人だった…」
「え…?」
「あの庭の方から出てきたやつ! 家族じゃない!」
あたしでは判断できなかったけど、身内のユカリが言うのならそうなのだろう。
「……とりあえずカオリの実家に行こう?そっちは大丈夫かもだし」
「……うん」
もう絶対に大丈夫じゃないという確信があるけど、行ってみなきゃわからない。でも…。
「怖いよ…行きなくない」
「カオリ…」
アクセルを踏む足も力が入らず、徐々に速度の落ちる車。
「…じゃあせめてどこかにちゃんと車を止めよう? ね、カオリ」
「そう…だね…」
ユカリのが辛いはずなのに…ごめん…。
少し車を走らせたら空き地みたいなところを見つけたからそこへ停車。
「こんな空き地あったっけ」
「…わかんない。この辺も人が都会へ流れてるって話だったからそのせいかも」
「私達も出てるくらいだもんね」
大学も仕事先も街に行かなきゃないんだもの。
「ごめんね、ユカリ…。ユカリのが辛いはずなのに」
「…辛いというか意味わかんないよね。なにあれ。誰の家?」
「外観は記憶のままだったけど…」
「うん。私にもそう。名前以外は…」
なんだっていうの!? ここは何処なの?
「カオリ…今日はもうここで休もう?」
「うん…。後ろ用意しないとだね」
増えてしまった荷物を前の席や展開した二階部分へと押し込み、なんとかベッドへと組み替える事ができた。
二人で倒れ込むように横になる。食欲なんてあるはずもない。昨日の夜からお菓子を少し摘んだ程度なのに。
「カオリは…カオリは何処にも行かないでね…」
「いかない。ユカリの傍にいるよ」
あたしだって離れたくない。恋人になったからっていう理由だけでなく、もう頼れる相手がお互いしかいないのだから。
抱きついてきたユカリが震えているのがわかり、きつくきつく抱きしめた。
「ずっと一緒にいよう? どこにもいかないから」
「ぜったい…だよ…?カオリまでいなくなったら…わた…し…うっ…っ…」
その日の夜は今までで一番心細く、離れ難くて…震えるユカリをずっと抱きしめてた。




