終末の帰省 弐
なかなか寝付けなかったけど、疲れもあっていつの間にか寝てたらしい。
ユカリはまだあたしに抱きついたまま…。目元の涙の跡が痛々しく見えて。
普段しっかりしてるし、泣いてるところなんて見たこともなかったユカリが…。
あたしも頼ってばかりはいられないよね。恋人になったのなら、あたしだってユカリを支えて頼られるくらいにならないと。
この後、何が待ち受けているにせよ…だ。 あたしはまだ心の準備をする余裕もある。
ユカリのサラサラの髪を梳くように撫ぜていたら目を開けたユカリ。
「手付き優しい…。どうしたの?そっちから触れてくれるなんて」
「もう恋人だから合法なんでしょ?」
「ん…」
気持ち良さそうにまた目を細めたユカリが愛しくて暫くそのまま撫ぜてた。
「…ありがとカオリ」
「うん?」
「落ち着いた。私にはカオリがいるもんね」
「そうだよ。自分のものにしたかったんでしょ?」
「うん…。高二のころからね」
「そんなに前から? 何かきっかけあったっけ…」
「私の問題だったからカオリには実感なかったかも。ちょうどその頃にヒロ兄が亜香里義姉さんと結婚してさ。なーんか私の居場所が家の中になくなった気がしてて」
「そういえば家によく泊まりに来てたっけ。あれって高二の夏くらいからだったよね」
「よく覚えてるね。そう高二の夏。 カオリはいつでも歓迎してくれたし、カオリの家族もそう。まるで実の娘みたいに迎え入れてくれてさ。あれが本当に嬉しくて…。私にも居場所があるって思わせてくれたんだよ」
「うちって家だけは大きかったから部屋も余ってたし。肉類以外はほぼ自給自足みたいなものだったからね」
「カオリの家の野菜がほんっと美味しくて。苦手だった野菜も平気で食べられたくらい」
「ユカリが美味しい美味しい言って食べるからうちの祖父母が喜んでたよね」
「本当に美味しかったから。 うちが仕入れてるのとかスーパーで買う野菜と違いすぎて」
「食べる直前にとって来てたりしたから余計かもね」
あたしも実家の野菜が好きだし、帰省するといつも持たせてもらうくらい。
「お腹空いてきた! カオリ何か作って」
「いいよ。ユカリは料理苦手だもんね?」
「いいんだよ。嫁に作ってもらう予定だったから」
「嫁のあてなんかあったの?」
「なってほしい相手はずーっといたよ」
「はいはい。 作るから少し離れててね。狭い中でやんなきゃだし」
「じゃあ私は車内の片付けしとくね」
「お願い」
助手席側の後部に水道や電子レンジ、IHコンロも収納されてるからそこで調理ができる。
換気扇で窓の一つが潰れてるけど、しっかりと換気されるから匂いもこもらないし。
IHコンロを出そうとして、ふと思いだしたことが。
「ねえユカリ。キャンプ前に買い込んだ食材ってキャンプの時に使い切ったよね」
「うん。小型のグリルで焼き肉とかしたじゃん」
「ユカリは昨日ホームセンターで食品って何を買ったっけ」
「缶詰とかの非常食品?」
「……ごめん、料理するものがないわ」
「ええ!? くっそ…嫁の作る朝ごはんだーって夢膨らませてたのに」
そこまで言われたら頑張らなきゃってなるじゃない。
「……待ってね、えーっと…なにがあるんだろ」
何とかできないかとユカリが収納へ詰め込んだものを見てみたら、お湯を注ぐだけで白米ができる袋詰のものとか、いろいろな缶詰もある…。
これならなんとかできるかも。
「やれるだけやってみる。少し待ってて」
「やったぜ。さすが私の嫁」
「もう嫁なの?」
「うん!」
即答されてしまった。…いいけどね。
沸かしたお湯でお米を戻してる間に焼き鳥の缶詰の中身をフライパンへ。
温めながらトマトジュースと豆の缶詰も水切りしたら入れて、調味料で味を整えて…。
戻し終わった白米を入れて更に煮詰めたらなんちゃってトマトリゾットの完成。
味も…うん、悪くない。と思う。
お皿にラップを敷いてからよそい、ユカリへと手渡す。
「野菜がないからこれくらいしかできなかったけど、食べてみて」
「朝からおしゃれじゃん。普通に店で出てきそうだよ」
「味もそうだといいけどね」
二人ともまるっと一日以上ぶりの食事。これだけ空腹なら何でも食べられそう。
「美味しいよ! これ、非常食のだけで?」
「うん。なんとかなった」
「なんとかするのがすごいわ…」
誰でもできる程度だけどね…。あ、ユカリ以外は。ほんっと料理だけはできないからなぁユカリ。
危なっかしくて見てられないくらいに酷い。頭も運動神経もいいのに。
社会人になってからも結構な頻度でユカリの部屋に行って作り置きとかしてたし、うちに食べに来たりもしてた。だって同じマンションだし…。
就職先は違ったけど、お互いに割と近くだったから一緒に部屋探しもして、わざわざ同じマンションにしたくらい。
今思えばいっそ同じ部屋でも良かったんだろうけど、あの頃はあくまでも親友だった訳で…。
「というか、ユカリってしょっちゅうあたしの手料理食べてたよね?」
「うん。でもあれは親友としてでしょ?」
「まあ…。でも違いなんてある?」
「あるの! カオリのそういうとこだよ?」
「何がよ…」
「べっつにー。 ベッドの中ではあんなに素直で可愛いのに」
「ユカリもそういうところ! ノンデリが過ぎる」
「えー。数年我慢してきたんだから許してよ。ね…?」
「わかったから…。 触んな!!」
「けちー。カオリは私と違って大っきいから揉みごたえが…ごめんごめん! そんな冷たい目しないで」
「メリハリというか、時と場合は考えようよ…」
「はーい…。今だからなのに…」
そうボソッと呟いたユカリの寂しそうな顔を見ていたら罪悪感が…。
昨夜あんな現実を突き付けられたんだもんね。支えようって思ったばかりなのにこんな顔をさせてしまって…あたしは何をしてるんだろう。
「明るい昼間しか行動できないんだし、そういうのは夜にしない?何も嫌って言ってるわけじゃないから」
「わかった。本当にその通りだね。 …カオリは行ける?」
「ん…。片付けたら行こう」
もう期待も希望も持たない。ここはそういう世界なんだと覚悟もした。
あたしにとっての希望はもうユカリだけ。その事実さえあれば充分。




