終末の休息
怪我をして一週間。多少の痛みにもなれたし、化膿したりとか悪化もない。これはユカリのおかげだろうね。
拠点にしたトレーラーハウスはかなり居心地がよく、周辺に店も多いから色々と集めるのにも苦労しないのは本当に助かった。
昼間は外を歩くゾンビもいないし、建物の中にもそこまで多くはない。音を立てなきゃやり過ごせる程度。
そこそこ大きな街なのに?って思うけど、二人で歩いて買出しに行った時に気がついた。
あちこちに山となった砂があるんだよね…。これってつまりそういう事だと思う。
今もまだ歩いているゾンビは何とか陽の光をさけて残ってる数少ない生き残り…生き残りではないか…。
本能的に光を避けてはいるみたいだけど、機敏でもないし知能も然程ないみたいだから…。
問題は、ユカリがいい加減大人しくしているのに耐えられなくなってきてそうなところかも。
本人はあたしに気を使って”どこにも行かない”とか言ってるけど、長い付き合いだ。動きたくて仕方がないのなんてわかってる。
近場の買出しだけでも喜ぶくらいなんだから。
「ねえユカリ、そろそろ動こうよ」
「まだ完治してないからダメ!」
「完治なんて数カ月かかるでしょ? やっぱりあのキャンプ場が気になるし、行こうよ。運転は任せるから」
「……」
「ね? 無茶はしないし、ユカリの言うことを聞くから」
「絶対?約束する?」
「うん。約束」
「わかった。 じゃあカオリは食料の用意して。 私は車回してくるから」
「はーい」
ユカリが軽キャンの方に色々と準備してるのをあたしは知ってる。いつでも動けるようにって。
それが単にここを逃げなきゃいけなくなった場合に備えてなのか、出かけるためなのかはわからないけど…多分両方かな。
この一週間で冷え込みもキツくなってきたし、あまりのんびりしてたら雪が降り出す。
そうなったら本当に動けなくなるから、今のうちに行けるところは行っておきたい。
たぶんユカリだって同じ事を考えてるはずなんだから。
保存食みたいなのも色々と作ったからそれも用意して…。
水とか重たいものはユカリに任せよう。あたしが持ったら絶対に怒るし、実際に重いものを持つのはまだ傷に響く。
「用意できた?」
「うん。重いものは任せていい?」
「当たり前でしょ! 運ぶものは任せてくれたらいいから」
頼りになるね、ユカリは。
軽キャンに色々と積み込んで、最後にあたし達。
約束通り助手席へ乗り込み、運転はおまかせ。
「行こうか」
「しゅつぱーつ!」
楽しそうにしちゃって。やっぱり本音では動きたくて仕方なかったんだと思う。
休みになるとあちこち行きたがったのは昔からだものね。
あたしはいつもついていくだけ。旅行にしても話を持ってくるのはいつもユカリだったから…。
鼻歌を歌いながら車を走らせるユカリ。
楽しそうで何よりだよ。
「なに?じっとこっち見て」
「楽しそうで良かったなぁと思ってね」
「別にそんな事ないよ?」
「はいはい…」
今日は道の駅は止まらず通過して、真っ直ぐ山へと走らせるそう。
「休憩挟まなくて大丈夫?」
「一週間休んだし!」
そういう問題ではないと思うんだけど…。
でも、話しながら走ってたら長い距離もあっという間だった。
朝早くに拠点を出てきたから、お昼過ぎには山へと続く道へ到着。
「どうする?上にあがっちゃう?」
「ユカリのしたいようにしていいよ。あたしは指示に従うって言ったでしょ」
「カオリがどうしたいかも聞きたいんだよ」
「ユカリについていきたい」
「もう! じゃあ車で上まで行くからね」
「わかった」
デコボコ道の揺れがちょっと傷に響くけど、顔に出すわけにいかない。
「痛いんでしょ」
「…大丈夫だから」
「嘘つくの禁止!」
「少しだけね。これだけ揺れたら仕方ないって」
「耐えられなくなる前にいってよ」
「本当にこれくらいなら平気」
ごまかせなかったか…。付き合いが長くて相手のことをわかってるのはお互い様だって実感してしまうね。
ガタガタと揺れる道を一時間ちょっと走り、空き地へと到着。前より早くついたな…。
「相変わらず草が生え放題だね」
「やっぱりキャンプ場はないか…」
ここに来たら元の世界へ帰れるかも…なんて微かにでも期待してたんだけど、そううまくはいかないよね…。
初日のようにもう一度二人で歩いて回ったけど、あの時に見た景色と変わらない。何もない自然のまま。
「ここまでの道にも何もなかったよね?」
「無いね。横道もなかったし、草木の生える山でしかなかったよ」
二人で悩んでも何もわからない訳で…。
「もう一度あの日のことを順番に全部思い出してみよう」
「そうね…。 キャンプして、チェックアウトする所までは元の世界だと思っていいよね?」
「だと思う。人もいたし。 山を降りて途中の道で初めてアイツらを見かけて、街には溢れてた」
「うん。それで逃げるようにここへと戻ってきたけど、真っ暗で何も見えないくらいだった」
「だね。 本当に真っ暗で…あっ!」
「どうしたの?ユカリ」
「あの夜、月って出てた?」
「わからない。でも天気は良かったのに暗かったから、出てなかったかも。 なんで?」
「新月だったとか…」
「そんなスピリチュアルな話なの?」
「でも新月ってある意味星がリセットされるみたいなものでしょ?」
言わんとするところはわかるけど…。
「じゃあ何?ユカリは新月の夜になったらここに異世界へのゲートか何かが開くって言いたいの?」
「ハッキリとはわからないけど、そんな感じ」
「ならその日にここへ来てみよう」
「いいの?」
「いいも何も、今はユカリの考えくらいしかアテも無いんだから試してみるしかないじゃない」
正直藁にもすがる思いなのだから。しかも全く信憑性が無いわけじゃなく、こんな不思議体験をしている今なら有り得そうとも思える。
「あの日、他に何かあった?覚えてる事ある?」
「山を降りるのに時間かかったとか、ここへ来るのにも時間かかったとか…?」
「あったね…。他はもっとない?」
あったっけ…。正直山を降りてから起きた出来事にパニックだったからなぁ。しかもその直後にユカリからの再告白と……。
「何を思い出してるの?」
「ニヤニヤすんな!」
そうやってわかってて聞いてくるのはノンデリのする事だからね!?本当にもう…。




