終末の病院
目が覚めたのは朝方。
ズキズキと痛むけど耐えられないほどじゃないな。
今まであまり大きな怪我をしたことがないから、経験のない痛みって意味では本当にきつかった。
身体を起こすと、椅子に座ったユカリがあたしの寝ていたベッドに突っぶすようにして寝てる。
また心配かけちゃったな、ごめんね…。
周りを見渡すと病院の処置室っぽい。
結構荒れてるのはユカリが引っ掻き回したせいなのか、こんな世界だからなのかはわからない。
枕元にあった、私が着ていた服は血に染まり、今はどす黒く変色してる。
広げてみると、傷口付近は特に血のシミがひどい。ただ、まるで刃物で切られたかのように服が切り裂かれてる。
引っかかれたわけではないのかな…。かと言ってゾンビが刃物を持ってたのか?と言われたらそこまで見てないからわからないとしか…。
後は脱がすためにハサミか何かで慌てて切ったような……!?
咄嗟に自分の身体を見下ろすと、包帯でぐるぐるになってた。
そうよね、素っ裸にされてるわけない。
包帯越しに血が滲んでもいないから、ユカリの手当は的確だったんだろうね。ありがとう…。
ベッドから降りようとして、寝ているユカリが持っているノートが目についた。
あれって…。昨日、この世界に関することが書かれてるとか言ってた…?
あたしも見てみたいけど、ユカリが頭の下敷きにして寝てるから取るのは無理か。
仕方なく周りを見てみようとベッドから降りて靴を履く。
「っつ…ぅ…」
流石に屈んだりすると痛むな。そもそも何で怪我をしたのかが謎。
覚えてるのはユカリの背後、木々の合間から突然出てきたゾンビ。咄嗟に身体が動いてユカリを引きずり倒すようにしたのは間違いない。その途中で激痛が走った。
「カオリ…」
「起きた?」
変な格好で寝てたからか背伸びをしてる。
「うん…。 はっ! カオリ、傷は!?起きてて大丈夫なの?」
「少し傷むけど大丈夫。手当てしてくれてありがとね」
「そんなこと…。 よかった、カオリだよね?」
「どういう事よ…。あたしじゃなかったらなんだっていうの?」
「そう…だよね」
心底ホッとしたような様子のユカリに違和感を感じ、問い詰めた。
ーーーー
ーー
「なるほどね…。もしゾンビ化するのなら昨夜が山場だったと」
「うん…。でも言えるわけないじゃない!」
まあ…そうよね。聞いてたらその時点で殺してって言ってただろうし。
「となるとあたしの怪我の原因がわからないんだけど…」
「……それもごめん。多分私のせい」
「だから助けたのはあたしがやりたくて…」
「じゃなくて! これ…」
ユカリが申し訳なさそうに取り出したのは…
「斧…? あっ…」
そういえば山へ入るからって木を伐るかもしれないって持ってた!
押し倒した時にその刃の部分で…って事ね。実際に血もついてるから間違いないだろうね。いや、あれはあのとき倒したゾンビのか?
「あははっ」
「カオリ!? やっぱりゾンビにもやられてたの!?」
「違う違う。 むしろそうじゃ無くてよかったって事」
「でも私が…」
「気にしなくていいから。この通り元気だし、ゾンビにもなってない」
「うん…」
落ち込むユカリを元気付け、夜のうちに集めておいたという医薬品を詰めたかばんを持って病院を出た。
「しばらくカオリは運転禁止だからね」
「ええ!? そんなぁ…」
運転するの好きなのに。しかもオートマだから別に片手でも運転くらいできるのに。
「傷が治るまではだめ!」
不服なのが顔に出てたのか、怒ったように言われてしまった。
「わかったよ…」
言い出したら聞かないもんね。諦めよう…。
「この後はどうする?」
「拠点に帰る! もうしばらく動かないから」
だよね…。これだけ心配かけるような事が続いたのらそうなっても仕方がないと思う。
病院はあたしたちの住んでた街にある、何度か行ったことのあるところだった。
流石に救急で入ったことはないからわからなかったけど、車に乗って駐車場を走り出るときに見慣れた景色を見てやっと気がついた。
「ここからだと結構距離あるけど…」
「ナビ見ててくれたらいいよ。流石に一日とかはかからないでしょ」
数時間は走り続けることになるだろうけどね。
ユカリもそれを見越してか、飲み物や簡単につまめる食品とかを持ってきてる。
「お昼食べる時は休憩がてら止まりなよ」
「……」
「聞いてる?」
「わかったよ…」
そんなに慌てなくてもいいのに。のんびり行こうよ…。こんな状況なんだから。
お昼過ぎにまた道の駅で停車。
ここでもらってきたおみやげみたいなものを開封して食べながら休憩。
「カオリ、脱いで」
「明るいうちから!?」
「ちっがう! 傷を見せて」
ああ…びっくりした…。
「私そんなにがっついてるイメージなの?」
「まぁ…。求められて嫌ではないけど、慣れないからビックリするだけ」
ため息をつきながらも一度包帯を外し、ガーゼの交換を手早くしてくれた。
明るいところで傷を見ると、自分の身体なのにちょっと引く…。痛々しすぎるというか、傷が生々しいと言えばいいのか。
「痛みは?」
「見た目ほどではないかな」
「痛み止め持ってきたから我慢しないで言ってね。抗生物質はちゃんと飲んで」
「わかったよ」
渡された薬を飲み、また包帯でぐるぐる巻に…。
「絶対に跡が残るね…。本当にごめん」
「もう謝るのやめてよ。結局守ってくれて、手当してくれたのもユカリなんだよ?」
「でも…」
何を言っても駄目そうね…。だったら…
「これからもずっとそばに居て」
「もちろん…私が一緒にいたいからいるよ。一生面倒も見る」
重いんだって…。たかが傷だよ?……まぁ人によっては嫌がるか。
でもいいんだ。もう見せる相手なんてユカリだけだろうから。
拠点のトレーラーハウスに戻る前に、近くのコンビニで食材の確保。
相変わらず新鮮なものが補給されてるのは何なんだろう。本当に食べて平気なんだろうか…。
「カオリ、お弁当でも良かったんだよ」
「料理くらいさせて。それ以外は大人しくするから」
「わかった。でも無理はしないでね」
「ん…」
せめて今のあたしでもできる事で元気付けたいから。
色々あったせいで、本来の目的を何も果たせないままトレーラーハウスに戻ってきた。
何しに行ったんだか…。
医薬品とかが手に入ったから良かったと思うしかないね。
あとはアレか…。ゾンビみたいな人達が陽に当たると砂になって消えるっていうのがわかったのは収穫なのかも。




