終末の関係
ユカリと相談した結果、とりあえず少し前までいたキャンプ場へと戻ることにした。
チェックアウトする時に管理人のおじさんがいたのは間違いないし、なにかわかるかもしれない。
山沿いの道を走り続け、最初にゾンビみたいなのと遭遇した地点も通過。
「いなかったね…。見間違いとか…?」
「二人揃って?」
「……」
あたしだって全部見間違いであってほしい。でも、窓についた手形が何よりの証拠なわけで…。
県道から山へと入る道へと曲がり、ガタガタととても舗装路とは思えないような道をすすむ。
こんなに道悪かったっけ…。
「…ユカリ、悪いけどナビに変えてもらえる?」
「うん? わかった」
ちらっとナビの画面を見るも、今走っている場所とナビの表示が合ってない。
「ユカリ、現在地ってところをタッチして」
「さっきからしてるんだけど、県道から車が動いてないんだよね」
つまりGPSもイカれてると?あれって衛生を利用してるから、地上で何かあったところで…。
いや…そういうのを管理してる場所が落ちたら意味ないのか?詳しいことは知らないけど、ナビさえ使えないのはわかった。
「スマホのナビもだめ。というか圏外でなんにもできない」
「キャンプ場では普通にスマホは使えてたよね?」
「うん。一緒に動画見ながら寝たじゃん。昼間だって音楽かけてたよ」
だよね…。夜にガチめの怪談動画を見せられて一人でトイレに行けなかったもの。
怖がるあたしに、ユカリはいつも”私が守るから大丈夫“って傍に居てくれるのだけど、そもそも怖いものを見せないでくれればいいのにとは思う。
でもユカリが好きなものを否定もしたくなくて、毎回つき合ってるあたしもあたしなんだろう。
山道を一時間走り…。
さらに数十分走ってもキャンプ場にたどり着けない。
「県道からこんなにも時間かかったっけ」
「うーん…。行きは音楽かけながらノリノリだったし、帰りはまた明日から仕事かぁ〜って現実逃避してたからハッキリしないかも」
「あたしも似たようなものだったけど…」
でも、このキャンプ場をネットで見つけたときに、県道から一時間弱って書いてあった気が。
道が悪くて揺れるからゆっくり走ったせいで、まだついてないだけかも。
そう思い、更に十分ほど走ったらようやく開けた場所に出た。
「ここじゃない? キャンプ場!」
「かな…」
でもおかしいんだよ。奥に事務所や薪とかが買えるちょっとした売店、あとはトイレやお風呂もあったのに、ここにはそんな建物なんて何もない。店を閉めてて明かりを消したから暗くて見えないだけ…?
「他に人もいなくなってるね」
「うん、あたしらが帰るときにもまだ何組か居たよね」
「多少なりあった街灯すら消えてるもんね」
ヘッドライトを消すと本当に真っ暗。
「どうする?降りて周りを見てみる?」
「真っ暗の中? ユカリは平気かもだけどあたしは無理」
「ライトあるよ? 海外製のめちゃくちゃ明るいやつ!」
ユカリが手に持つのは海外の警察とかが持ってそうなライト。フラッシュライトとか言うんだっけ。
前に説明受けたけど、チンプンカンプンだった…。
「ライトが明るいかとかそういう問題じゃないんだって。 とりあえず状況の整理をして考えもまとめたいし、後ろを寝れるようにしよう?ここならあいつらも多分来ないでしょ。見かけてもないし」
「んー…そだね」
ユカリから先に車内を後部座席側へと移動して、ソファ状態の座席を二人でベッドへと組み換え。
窓にはしっかりと遮光カーテンを閉めて、外から見えないように。
「バッテリーは平気?」
「うん、結構走ったから満タン」
「まだそこまで寒くもない時期で良かったよ」
「だね、ヒーターとかクーラー使うとバッテリー結構減るらしいから」
お互いに例のことへは触れたくないからか、どうでもいい会話が続く。
ベッドへと身体を投げ出して、難しい顔をしているユカリ。美形は何してても美形だな…羨ましい。
あたしみたいなモブとは違うわ。
「…ユカリ、大丈夫?」
「大丈夫じゃない…。カオリも見たよね?」
「うん…」
「なにあれ…」
「わかんないよ、あんなの初めて見たし」
「……情報の整理しようか」
「ん…」
こういう時、ユカリは頼りになるからありがたい。
「アレをとりあえずはゾンビと仮定するね」
「うん」
「人里離れた山道で見かけたのは一人」
「だね」
「街には見えただけでもざっと数十人かもっといた」
「いたね」
「で、テレビもラジオもスマホもナビさえ使えない」
「あたしのスマホも確認したけどだめだったよ」
「一番わからないのはキャンプ場が無いこと」
「あたしたちが帰った後に、他の客もみんな帰ったから管理人も帰った可能性…」
「それは私も思ったけど、建物さえなかったよね?」
「…暗くて見えなかっただけとか。ヘッドライトの照らした方向なんて真正面だけだし」
「じゃあそれは夜が明けたら二人で確認しよう」
「わかった」
「窓の手形がある以上、私達の勘違いや幻覚じゃないよね?」
「そうだったらいいのにとは思うけど…」
今もう一度運転席に行って確認する勇気はない…。
「当面の問題は、水と食料だね」
「ユカリはサバイバルする気?」
「それしかなくない? 街はあんななんだよ?ネットも使えないから情報も一切ない。他に私達みたいな生存者がいるのかさえわからない…」
「うん…」
「というわけで、明日ここを調べたあとはホームセンターに行きます」
「なんでホームセンター?」
「サバイバルに必要なものが色々あるから?」
ユカリってこういう子だったわ。
どんな危機的状態でさえ、楽しめる状況へと変えてしまう。
そんなポジティブなユカリが好きだから、私は傍にいるんだ…。あたしはユカリにいつも甘えてばかり…。
「ユカリ…怖いよあたし…。何なのあれ」
「大丈夫。私がついてるからね」
そう言って抱きしめてくれるユカリ。
安心感と同時に、いつかの記憶がフラッシュバックしてしまい、慌てて離れようとしたけど離してもらえず。
「もう二人きりなのかもしれないんだよ? それとも私に触れられるのがそんなに嫌?前の事を思い出すから?」
「あれはお互いに酔ってたから…」
「カオリは後悔してるの?あの日の事。それとも私が嫌い?」
「……わからない。でもユカリを嫌いなわけではないよ」
むしろ誰よりも信じてるし好きだもの…。
〜数年前〜
大学一年だった頃。
あたしには付き合っていた恋人がいた。
でも、あっさりと裏切られ、捨てられたことがあった。
落ち込むあたしをユカリは自分の部屋へと招き入れてくれて、嫌な顔一つせず愚痴ともいえない話を聞いてくれて…。一緒に普段飲まないお酒をヤケ気味に飲んでしまい…。
裏切られたショックで泣いていたあたしをユカリはずっと慰めてくれてて…。
どちらからだったのかはわからないけど、いつの間にか求め合うようなキスをしてて……。
翌朝目が覚めたときには、お互いに一糸まとわぬ姿で同じベッドに抱き合って寝てた。
慌てるあたしをきつく抱きしめたユカリは…
「ねぇカオリ…。そんな男は忘れてさ、私の女にならない?」
ユカリにそう言われたのを今でもはっきりと覚えている。あたしは酔っていたのもあって何があったのか、キス以降の記憶はほとんどないのだけれど状況証拠が揃いすぎてたのは確か。
寝起きの頭に突きつけられた現実。頭の整理すらできず、混乱してて。
「ごめん…」
そう返事をし、慌てて服を着てユカリの部屋を逃げるように飛び出した。
その日以降、大学で会ってもユカリも何も言っては来ないかったし、それまでとかわらず友達として接してくれていた。
あれから数年経過し、お互い社会人になり…。疎遠になるのかと覚悟していたのに、ユカリは離れるどころか頻繁に食事やショッピングに誘ってくれて。それが嬉しくて仕事終わりだったり、休日だったり…。週の何日かはいつも一緒にいた。
だからあたしも夢だった軽キャンをローンで購入して、納車されてすぐにユカリを誘ってキャンプに来た。
この数年、あの日のことにはお互い一切触れてこなかった。あたしはこの友情関係が壊れてしまうんじゃないか、っていう恐怖で…。
ユカリはどう思ってたんだろう?
「あの日私が言ったセリフ覚えてる?」
あたしの頭を抱くようにしているユカリ。絞り出すようにそう問いかける声が頭の上から聞こえる。
「うん…忘れるわけない」
「それは嬉しいな。人生でたった一度きりの本気の告白だったから」
「…なんであたしなの? ユカリは美人だし、女の子が好きならいくらでも…」
「誰でもいいわけ無いじゃん。カオリだからだよ」
「わかんないよ…。ユカリと比べてあたしなんて美人でも可愛くもないモブだよ?なにがいいの」
「カオリは昔から可愛いよ。なにより一緒にいて落ち着くから。隣にいてホッとできる相手なんてカオリだけ。私が私で居られる相手だから。カオリだから大好きなんだよ」
「…ズルいよ。こんなタイミングであの日の事を持ち出すなんて。今まで忘れたように振る舞ってたくせに…」
「カオリが思い出したくないんじゃないかと思ってたからね。 でも、こんな事になっちゃったらさ、もう後悔したくないって思って」
「だからこのタイミング?」
「そう。仮にさ、もし私達もいつかアイツらみたくなる運命だとしても、最後まで抗いたいじゃない。そのために私にはカオリが必要なの」
「…ほんとズルい。そんな事言われて拒否できるわけないのに」
「じゃあ…!」
「うん…。ユカリの女になるよ。 だいたいさ、いつまた言われてもいいようにってあれからフリーでいたんだよ? まぁそもそもの話、私はモテないっていうのもあるけど…」
「早く言ってよ!? 一世一代の告白に”ごめん“って言われたこっちは、また告白する勇気なんて持てないよ?」
「あの時に言った”ごめん“は、断ったとかじゃなく、どうしていいかわからなくて…初めての事だったし。ユカリは大切な親友だと思ってて…だから…」
「なにそれ! 私はこの数年ずーっと傍で悩んでたのに。それでもカオリを失うのだけは嫌だから友達っていう立場に甘んじてたのに!」
「ごめ…」
謝ろうとした言葉はユカリによって塞がれ、押し倒されて…。今度は酔った勢いでもなく、自分の意思で身を委ねた。
数年間、あたしが曖昧にしてきたせいでユカリを苦しめていたのならすべて受け止めるつもりで…。




