終末の時
高校時代からの親友であるユカリを誘い、最近やっと納車された軽キャンに乗って連休を利用した一泊ニ日のキャンプへ行った。
街の喧騒から離れ、二人で食べたいものを作って食べて、のんびりとやりたい事をして過ごした。
明日からは二人とも仕事。現実へと戻らなくては…。気心の知れた相手との時間が楽しかっただけに寂しさも大きい。
なごりおしいけど夕方にはキャンプ場のある山から下山。
薄暗い山沿いの県道に出てしばらく走った所で、道路をフラフラと歩く意味のわからないものが突然ヘッドライトに照らさた。
慌ててハンドルを切り、なんとか避けはしたけど…。ライトに照らされたアレが目に焼き付いて離れない。
普通なら止まって確認するべきなのかもしれないけど…。
ひいたわけでもないし、何より怖くて止まる気にもなれず、そのままアクセルを踏み込んだ。
「何あれ何あれ!」
「ちょ…あたしは運転してるんだから!」
身体を揺すらないで!
「そんなこと言ったって! 明らかに普通の人じゃなかったよね!?」
「知らないよっ! 危うくひきかけたこっちの身にもなって!」
田舎の片側一車線しかない道。山沿いだからカーブも多く、速度を出してなかったから良かったようなものの…。
速度が出ていたら、ひいていてもおかしくなかった。
「ふぅ〜…。 ごめんねカオリ、ちょっと落ち着かないとね」
「…いいよ。あたしだってまだ心臓バクバクしてるし…。 ユカリは大丈夫?」
「なんとかね。何だったんだろう、あれ…」
「わからない…」
わかったけど言葉にしたくない…。
「まるで映画とかで見るゾンビ…だったよね?」
「……ユカリにもそう見えたんだ」
「カオリにも?」
ステアリングを握り、前を見つめたまま頷く。
緑のような紫のような、とてつもなく悪い顔色。目のある場所は真っ黒に落ちくぼみ何もないように見えた。
腕も片方しかない人型の何かがフラフラと歩いていた…。
アレを例えるのならユカリの言うようにソンビ以外の何者でもない。
「映画とかゲームで見る分には平気だけど、あれ…本物だよね?」
「仮装にでも見えた?」
「ううん…リアルに生々しすぎた」
だよね。あたしにも仮装には見えなかった。何よりハロウィンの仮装をするには少し遅い。
しかもこんな田舎の山道で一人で仮装している意味がわからないし…。
「戻って確認する?」
「絶対にヤダ! もし幽霊とかだったら取り憑かれそうだし」
「それはそれで見てみたいけど…」
ユカリはオカルトやホラーが好きだからね…。何度そういう映画やらゲームに付き合わされたか。
おかげでこんな状況でも多少冷静でいられる。
心霊スポットとかにだけは絶対に行かなかったけど。取り憑かれるとか以前に、女二人でいってタチの悪いのが屯していたら何をされるかわかったものではない。
ユカリもそれはわかっているから、”心霊スポットへ行ってみた“みたいな動画で我慢してる。
結局一番怖いのは生きた人間なのだ。…そう思ってたのだけど、さっきのアレは…。
「あのキャンプ場っていわく因縁とかあった…?ユカリはそういうの詳しいよね?」
「ないよー。管理人もいて、お風呂とかも借りられる安全な場所っていうので選んだじゃない」
だよね…。今はネットで調べれば事故物件やら心霊スポットなんかすぐにわかる。
社会人になって引っ越す時にももちろん調べてから部屋を選んだし…。
「街…というか明るい場所まであと十分くらい?」
「それくらいかな。どこか寄りたい?」
「うん。スーパーか、コンビニでもいいから明るいところに行きたい」
「ん、それにはあたしも同意」
親友のユカリが隣にいるから心強いとはいえ、今は明るくて人のいる場所に行きたい。
十分ほど走り、住宅街へと入ったところで異様な光景が目の前に広がっていた…。
「うそ…でしょ…」
さっき山道で見たようなのが、道を塞ぐようにフラフラと歩いている。
「どうしよう…あれ全部さっきのみたいだよね?!」
「あたしにもそう見えてるね…」
道を塞がれているから進むこともできない。後ろへ下がるべきかとデジタルインナーミラーを確認すると、背後にもごく少数だけど同じようなのが!
囲まれたら不味いのはバカなあたしでもわかる。
地元だし、多少なら裏道にも詳しいけど…そう思い、周りを見渡すも横道にもフラフラと歩くヤツらがいて入れそうにない…。
「ユカリ、掴まってて」
「えっ!」
まだ後ろは少数しかヤツらがいない。ギアをバックに入れて、ミラーの映像を見ながら下がる。
広角カメラの映像のおかげで広い範囲が見えているから助かる!
「ちょっ…うそでしょ!?大丈夫?」
「逃げ道塞がれるから!」
「そんなのクラクション鳴らして追払えばいいじゃない!」
何となくそれはやっちゃいけないような気が…
助手席から手を伸ばしたユカリがステアリングのクラクションボタンを押す。
甲高い”ファーーン!“って音があたりに響く。
あたしはその間にもなんとかヤツらの隙間を縫って囲みから抜けだのだけど、ふと視線をミラーからはずし前を見ると、ヘッドライトに照らされる先。そこにいた奴らが全員こっちを見て向かってきてない!?
「あ、これヤバ…」
更にアクセルを踏み込みバック。少し道幅の広いところで方向転換してる間にもどんどんこっちに向かってくる!
「カオリ、早く! 早く!」
「やってるから!」
来た道へと戻るためにやっと車の向きを変えられそう。そう思った時、”バンッ“”バンッ“っと運転席側のドアや窓を叩かれて手形がっ!
「ひっ…」
「ぎゃーー!」
車を急発進させて、また山への道へと向かう。
こっちは見かけたのなんてはじめの一人だけだし、街へ行くよかマシよね。
「ごめん! まさか音に反応するなんて! エンジンの音とかには反応しないのに…」
「これ、電気自動車だからね?」
「電池なくなったら止まる…?」
「当然。 ただ、こうやって走っていればオルタネーターからバッテリーへ充電されているから、それを走行の方へ回せば走れなくもないよ。切り替えスイッチも手元にあるからね」
今はまだ車の充電は八十%くらいあるから、当分大丈夫。
普通は電気自動車にオルタネーターはついていない。ただ、この車は軽自動車とはいえ、フルカスタムされたキャンピングカーだ。車内で必要になる電力を賄うために、大型のオルタネーターが搭載されている。
屋根にはソーラーパネルも搭載されているから昼間ならそちらでの充電も可能。
色々と説明してくれたメーカーの人が笑いながら言ってたっけ。”終末世界でインフラが止まっても生き残れる様なキャンピングカーをうちは作ってますから!“と…。
雨水をためて浄水するものもついているし、なんなら外にはなるけどシャワーもついてる。
普段の用途としては靴とかキャンプ用品を洗うためのものだけど、簡易テントを広げたら中でシャワーを浴びることも可能。
メーカーさんのそんな冗談が本当になるなんて。こんなのユカリが大好物なポストアポカリプスってやつじゃない。
しばらく真っ暗な山沿いの道を走り、チラチラとミラーを見ていたけど、追いかけてきている様子はない。
「ごめん、勝手なことして…」
「本当にね、助手席から手を出すのはユカリも危ないからやめてね」
「はい…。 あれって音に反応したんだよね?」
「多分…。ヘッドライトの明りには反応無かったのに、クラクションにだけは反応したから…」
「窓のそれ、洗うなりしない?」
ユカリの指差す先には、運転席側の窓に泥のついた手で触られたような、くっきりとした手形が…。
「洗うって言っても…どこで? 街には行けないし…」
「あっ、ナビのテレビつけていい?」
「いいよ、ってニュースか!」
「そうそう!」
ユカリがナビの画面を切り替えてテレビにするも、どのチャンネルも映らない。
「…なんなの?ナビからまで受信料取るとかいってた癖に、ちゃんと映せよ!」
「変な方向へケンカ売らないの…」
「これって元々映らなかったとか?」
「あたしがテレビ見ないの知ってるでしょ。 でも、メーカーさんが設定したからーって一通り見せてくれた時には映ってたよ」
元々車に詳しくない私にもわかるよう、車内の設備をぜーんぶ覚えるまで説明してくれたもの。とっても親切な人だった。
「…私さ、今、最悪な結論に辿り着いたんだけど言ってもいい?」
「…あたしも多分同じ事考えた」
「テレビ局もやられてる…?」
「ユカリ、ラジオは?」
「待ってね…」
ラジオへとユカリが切り替えるも、どの周波数からも”ピー…ガー…“っという雑音かノイズ音みたいなのしか聞こえなかった。
というわけで、今回は現代の終末のお話です。
不定期更新になりますので続きが気になった方はブクマなどして頂けると嬉しいです。




