終末の一歩
涙で霞む視線の先には校舎の中へと消えていくユカリ。
どうして本当に置いていくの?
…あたしがいつも肝心なところで二の足を踏むせいか…。
今回だって初めからちゃんとついていけばよかったんだ。
あの日も…。ユカリと初めて大人な意味で一夜を共にした日、どうしていいかわからず…。ユカリからの告白に”ごめん”って返事をして逃げた。
本当はユカリの気持ちが嬉しかったのに。
その後もあたしからは一切の行動を起こすこともできず待ち続けた結果、こんな世界へと迷い込み…。
そのおかげでやっと本当の意味で結ばれたのに。それだってユカリから言ってくれたからなのに。
あたしは何をしてるんだろう。危ないところへ一人で行くユカリを追うこともできず、泣くだけなんて。
「行かなきゃ…」
またここで待ち続けた結果、最悪の結末になったら?そんなの自分を許せない。
なにより、一人にしないって約束したんだから。
立ち上がって校舎へと向かい、正面玄関から入ると、そこにはもうユカリの姿はなく。
ユカリは何を確認したかったのだろう?ラジオを聞いて生存者が居るかもとか言ってた、なら人の痕跡を追うよね。
てことは…まさか燃えているところ!?
ここに誰もいない、何もしていないのに突然昨夜みたいな爆発が起きて火事になる訳がない。
生存者が居たのならそこのはず。
もしかして今も救助活動とかしてたり…?有り得なくもない。だってもう緊急車両でさえ動いていないんだから自分の身は自分で守るしかないのは誰だって同じ。
方向的には燃えてたのって正面玄関から右の方だったはず。
ここには煙も来てないからわからないけど、多分合ってる!
走りたいけど、下手に音を出したら奴らに見つかるし、ユカリにまで迷惑がかかりかねない。
ゆっくり、ゆっくり…慎重に進むと、やがて焦げ臭い匂いが。
ハンカチを出して口と鼻を押さえて進む。
幸いにも校舎の窓はどこも開いてるから、煙が充満してて巻かれる程ではないけど、進むにつれて黒煙がひどくなってきた。
ユカリ…まさか無茶してこの先へ行ったの?
口に当てていたハンカチを手持ちのペットボトルの水で濡らしてから、姿勢を低くして進み続けた。
しばらくしてガツンっと何かを蹴ってしまい、廊下に転がっている物が目についた。
これって、扉…?
小窓があったであろう所には何もなく、すごい力が加わったかのように全体がひしゃげている。
爆発で吹き飛んだんだろうか?
ジャリジャリと自身が歩く時に何かを踏む音が廊下に響き、後は燃えているパチパチとかゴゥっていう音が交じる。
ある程度進んだところで、しゃがんでいてもひどい煙で目が痛くなり、熱も酷くてさすがに進むのを躊躇する。
この先にユカリはいるの?
いくらなんでもそんな無茶しないよね…。
それでもユカリを失う怖さのが勝り、もしこの先にいたら…って思いで進む。
目も痛いし、ハンカチでももう防ぎきれなくなってきてるけど…ユカリ、どこにいるの?
ジャリっとあたしではない、誰かが床を踏みしめる音。
「ユカリ…?」
声をかけたらジャリジャリと歩く音が近づいてくる。よかった…無事だったんだ。
ホッとしてしゃがんだ姿勢のまま見上げたら、煙の中から出てきたのは、ユカリとは似ても似つかないモノ。
あまりの恐怖に声も出せず、その場で尻もちをついて動けなくなった。
「伏せて!」
背後から聞こえたのはよく知ってる、大好きな人の声。
同時にゴシャっとものすごく気味の悪い音が響き…。
「立って走って!」
腕を掴まれ、引きずるように引っ張られて無理矢理立たされる。
なんとか立ち上がり追いかけると、目の前にいる人は窓枠を飛び越えて行く。
「早く! 高くないから飛び越えて!」
言われるまま、窓枠に手をかけて飛び越えるあたしに手を貸してくれるのは当然ユカリ。
「車まで走って! 絶対に止まらないで!」
校舎の方へ棒を構えてるユカリは、有無を言わせない声色でそう言う。
「う、うん」
振り返ると、ユカリもこちらへ走り出していた。
「後ろにいるから! 振り返らずに走って!」
車まで大した距離でもないけど、久しぶりに全力疾走したせいで息が…
「はぁ…はぁ…。カオリ…大丈夫?」
ユカリの問いかけに答える代わりに思いっきり抱きついた。
良かった…良かったよ。無事だった。
「カオリ!? え、ちょ…」
驚いてるらしいユカリはあたふたしてて、普段の余裕もないのか軽口も出てこないみたい。
「ユカリ、無事で良かった…」
「それはこっちのセリフ! 何であんなところにいたの!?あやうく襲われるところだったんだよ?」
そうだった…。無事なユカリをみて他のことを忘れてたけど、さっきあたしは…。
「助けてくれてありがとう…」
「それはいいんだけど、なんであんなところにいたのって聞いてるんだけど!?」
「ユカリがいるんじゃないかって…」
「あのね…、いくら私でも煙の中に行くわけ無いでしょう?もしあちら側を確認したいなら外から行くよ!」
言われたらそう。なにも中から煙に突っ込む必要なんてなかった。
実際、ユカリは外からあたしを見つけて、窓を飛び越えて助けてくれたって。
「カオリ、煙臭い。離れて」
「…ヤダ」
「……また、シャワー浴びに戻る?」
「うん…」
車に乗る前に服だけ着替えて、それでもまた煙たいけど多少はマシになった。
髪だけはしっかり洗わないと匂いが取れないなこれ。
車に乗り込むと、ホッとするのと同時に、罪悪感やさっきの恐怖を思い出して手が震える。
煙の中から出てきたのは、いつも見るゾンビみたいなやつが更に焼け焦げたような見るに耐えないモノで。
思い出すと気持ち悪くなるから、違うことを考えないと。
…そうだ、温泉のあった道の駅にはコインランドリーもあった。使えるといいのに。
……はぁ…。
よかった…ユカリが無事で。またこうして一緒に車へと戻ってこられた。
それ以上何を望む必要がある?もう絶対に離れないんだから…。




