終末を生きていたもの
「「ごめん」」
落ち着いてからお互いに初めて相手へ言ったセリフがそれだった。
「なんでユカリが謝るの?ついていかなかったのも、迷惑かけて助けられたのもあたしなのに」
「置いていったのは私だし、身勝手なワガママにカオリを巻き込んだから…」
「そんなこと無い。あたしも同意してここへ来たじゃない。 ねぇ…ユカリはここに来て何を確認したかったの?」
「ラジオの発信元。そんなことができる場所なんて学校の中だと限られるでしょ?」
「そう…なの…? あたしそういうの全然わならないから、てっきり生存者を探しに行ったのだとばかり…」
「だったらなおさらどうして煙の方へなんていったの!」
「それは…」
あたしの考えてたことを伝えたら、大きなため息をつくユカリ。
「あんな煙が出てたら生きてる人は近づかないって。危なすぎるんだから。それにさ、徘徊してる奴らだって爆発の原因にはなりうるでしょ?」
「うろうろしてるだけなのに?」
「例えばよ? ガスが漏れてるところをウロウロして、金属の鍋とかにぶつかって落としたら?」
「あっ…火花で?」
「ありえなくもないでしょう? 確かにカオリの言うように生存者がいて何かあった可能性もあるかもだけど、あの規模の爆発音と火災で火元にいたら、私達が到着するまでもたないから」
そっか、爆発があってからあたしたちが到着するまで軽く見積もっても一時間以上は経過してる。
その間に緊急車両とかの救援がなかったら…。考えたくもないね……。
「それにね、これ…見て」
ユカリが手渡してきたのは少し焼け焦げた小さなポケット手帳。
「カオリを探してた時に窓の外に落ちてたのを拾ったんだよ。雨に濡れてもいないから多分爆発で外に飛んできたんだと思う」
雨の降った日もあったものね…。ずっと外にあったなら濡れてクシャクシャになってるはず。
しかも焦げてるってことは…。
ペラペラとめくり、読めそうなページで止める。内容は日付とその日にあった事、後は生存者の数。
ページをめくる度に生存者の数は減っていき、ついには体育館の中にもゾンビみたいな人が入ってきてしまい、危なくなって居られなくなり校舎側へ避難したけど、そっちにもうろうろしてるから隠れるしかなくなった…と。
ラジオに流していたものを止めたかったけどそれすら叶わなかったのね…。
…なにこれ…。誰が書いたの?
「食べるものや飲み物を求めて、最後の生き残り数人で家庭科室にいったみたいね…。そこで終わってる。日付は7月の末日」
生々しすぎるよ…。ここで実際に生きてきた人たちのことを知ってしまったら…。
今まではどこか他人事というか絵空事みたいなものだったのに。こちらの世界で生きている人なんて見てもいないから、まるであのゾンビみたいなのしか初めからいなかったかのようにさえ感じてた。なのに…。
「じゃあさ…あの煙の中から出て来た人ってこのメモを書いた人…?」
「流石にそこまではわからないけどね…。校舎の中にも沢山いたって書いてあるし」
「ごめん、ユカリ…」
「うん?なにか謝ることがあった?」
「あたしが浅はかな考えであんなところに行ったせいでユカリに…」
もしものためって言ってた武器を使わせてしまった……。
「ああ…。私はカオリを守るって約束したよね? 私も今回の事は反省してるんだよ。カオリを危険に晒して、一つ間違ったら失ってたかもしれない…。そう考えたら怖くて怖くて仕方がないの…。どうしてこんなところへ来たんだろうってね。だってカオリの言ったとおり無駄足で結局なんの収穫もなかったんだら」
「違うよユカリ。ここで、この世界で、確かに生きていた人たちがいた…。それをちゃんと知れたから。なによりあたしもユカリを失うかもしれない怖さを身を持って感じたから。もう一人にしない。どこにだってついていくよ。たとえその先に危険があっても、もう二度と離れない」
「カオリ…」
それに、もし助けられる人がまだいるのなら助けたい。
例えそれが微かな希望でしかなかったとしても…。
もちろん無茶な事はしないし、最優先はユカリだけど。
ここにいてももうできることは無いから戻ることになり、道の駅まではユカリが運転してくれて、また一緒にシャワーを浴びた。
煙たかったのとか、怖かった体験も少し流れ落ちたような気がする。
「これからどうしよっか」
湯船で背伸びをしながらユカリはそんなセリフ。
「あたしね、ずーっと気になってたんだけど…」
「うん?」
「いつ、どこであたしたちは世界を越えたのかな?って」
「ホントだよ! いつだ!?」
ザバーっと立ち上がるユカリ。羞恥心ないのかしら…。こっちか恥ずかしくなる。
「とりあえず座って」
「触ってって言った!?」
「座って!」
「はーい…。それで?」
二人で浸かるには狭い湯船、ザブンっと座ったユカリのせいでお湯かぶったんだけど…。
「初めはあたしたちの世界がこうなったんだって思ってたじゃない?」
「だねぇ。おかしいと思ったのは実家の名前が違った時かな」
「本当にそう?」
「え?」
「ほら、キャンプ場…」
「ああ! たしかに何もなかった」
「でしょ?」
「じゃああそこに異世界への扉が!」
「だったとして、明確にどこなんだろう…って」
「んー…。キャンプした時は普通だったよね」
「チェックアウトした時もまだキャンプ場だった」
あっ…
「「途中の道!」」
だよね、そこしか考えられない。山道を下って街へと帰る途中に初めて変なものを見たわけだし。
「でもさ、もう一度行ったけど何も起きなかったよね」
それもそうなんだよね…。山へ登ったらキャンプ場も何もないただの広場みたいな場所へ出て、その帰りにも何もなかったし、ゾンビのあふれる世界のままだった。
「他になにか見落としてないかな」
「うーーん………」
ずっと考えてるんだけど、キャンプの帰りの山道では何も変わったことはなかったはず。
大きな通りに出て、道をフラフラ歩いてたのを見かけたのが初めて遭遇した異常な出来事。
逆に言えば、キャンプ場をでて道へと出るまでの何もなかった山道のどこか?
「もう一度戻ってみようか」
「そうだね…。最悪、あのキャンプ場だった場所で過ごすしかないかもしれない」
「ユカリはそれでいいの? 他に行きたいところは…」
「ないよ。もうヤダ。カオリを危険に晒すのも、怖い思いをするのももう嫌」
「ユカリらしくない…」
「私らしいって何?」
「気になるから見に行く、もし無駄になったとしてもやれるだけやってみる。それがユカリでしょ?やりたいことをやっていいんだよ?あたしはどこまでもついていくから」
「…カオリこそどうしたの?いつもならそんなセリフ言わないよね?前に心霊スポットに行きたいって言った私を必死に止めたのもカオリなのに」
「ユカリの隣にいたいから。離れずにいたいから! だから…」
「無理しないで…」
ユカリはそう言ってあたしを抱きしめた。
「カオリが私を探そうとあんな危ないことをした、私がせてしまった。そんなのはもう嫌なの。お願い…」
「うん…」
今はそれでいいか…。
ユカリがまた何かしたいって言い出したときは迷わず頷いてついていこう。
その行く先に危険があっても二人なら…最期も二人なら怖くない。一人よりずっと怖くない。




