終末の喧嘩
ーユカリSideー
つい、カオリにキツい言い方をしちゃった。
あの子はやる前から無駄だと諦めてしまう事が多い。いつも無難な選択を選ぶ。
何もそれがすべて悪いとは言わないけど、チャレンジしたり乗り越えたりするのも大切だと私は思ってる。
だから…こんな時だからこそ、私がカオリを引っ張って行かなきゃって思ってたのに…。
校舎へ向かう私に、カオリは本当についてきてくれなかった。
そう…一人にするんだ?約束したのに。
確かに無駄かもしれないし、危険だってあるかもしれない。でも何もしないままだったら変わるものも変わらずに終わってしまう。
それこそ前の私とカオリの関係のように…。
関係が壊れるのが怖くて、何時までも勇気が出せずにいたせいでカオリに彼氏ができてしまい、一晩泣き続けるほど後悔して。
それでも離れるのはつらすぎて側にいた。親友という立場で。
なのに、付き合いだして一月も立たずに浮気された…とボロボロに落ち込んだ姿でうちにカオリが来た時は、相手の男に殺意さえ湧いた。
後日、問い詰めに行った相手の男は、ただ飲みに行っただけで浮気のつもりなんてなかったとのたまったけど、心配するカオリヘ連絡も返さず、相手と一夜を過ごしておいて信じれるわけがない。
二度とカオリに近づくな、と脅しもした。
あの日、傷心のカオリの弱みに漬け込む形で、酔った勢いのまま手を出したのは卑怯だったかもしれないけど、どれだけ勇気を出したと思ってるの?
今回だってそう。一度断られてるからもう一度言う勇気なんて出せなくて…。
カオリに、次彼氏ができたら本当に諦めるつもりだった。でも一向に彼氏を作る気配もなく。
自己肯定感の低いカオリは、自分が結構モテている事にすら気がついていなくて。口癖みたいに”あたしはユカリみたいに美人じゃないし、モテないから…”って。
私から言わせたらバカ言うなって話。高校、大学時代だって声をかけていた男は少なくないのに。鈍いからなぁカオリ。幼可愛くてグラマーなカオリはモテるんだよ?
それで私がどれだけやきもきしてたか、知りもしないんだよね。
校舎へ入ったところで振り返ると、その場に座り込んで…泣いてる!?
え…どうしてカオリが泣くの?私なにか悪いこと言ったっけ…。むしろ泣きたいのは私の方なんだけど。
思い返しても泣かせるようなセリフを言った覚えもない。
…もしかして、一人にしたから?律儀に言われた通り本当に追わずに泣いてるの?
引き返そうかとも思ったけど、いっそ、カオリを巻き込まずにすむなら一人のがいいかと思い直し、そのまま進む。
正面玄関から入ったから、来客用の校舎内の間取り図をみつけた。
確認すると、例の燃えていたのはやっぱり家庭科室。ガスか何かが漏れてたのかもしれない。
幸い、こちらへは煙が来ていないから目的は果たせそう。
職員室と、放送室の場所を確認してすすむ。
どちらも正面玄関から左へ行って直ぐと近いから、あまりカオリを待たせずに済むね。
まずは職員室。
開けっぱなしになっている引き戸の影から中を覗き込むも、動くものもないし外からの陽射しで室内は明るい。
「ここじゃないか…」
独り言をつぶやき、職員室の向こうにある放送室へと進む。
こっちは防音のされたドアで、ぐっと押すと当たり前に開いてくれた。
鍵がかかってなくてよかった…。
こっちも中に人影はなく、安心して室内へ入る。
へぇー、結構しっかりとした設備があるじゃない。まるでラジオの収録部屋みたい。
ガラス張りの奥の部屋が収録部屋なのか、そちらにマイクやらの機材があって、こちら側には何かわからないレバーとかごちゃごちゃとした機材がわんさか。
ガラス越しに奥を覗くと、マイクがオンになっていて、USBから電源をとったICレコーダーらしきものが置かれてる。
確認だけしようと思い、防音扉を開けると、ラジオで聞こえてきたのと同じ音声が流れてた。
やっぱりここか…。よくラジオを流す設備があったね。それとも誰かがイジったんだろうか。
詳しくないからわからないけど、発信元の確認は取れたし、ここに誰もいないのもわかった。
あの体育館や、燃えてる家庭科室の様子を見る限り、絶望的だろうな。
カオリの言うように、本当に無駄足。
でも、この目で見ておかなきゃ納得できないものもあるでしょ。実は誰かが必死に助けを求めてるのかもしれないし…。
…身勝手だったかな。こんな結果になると、そんな後悔が押し寄せてくる。
カオリと口論してまで来る必要があったのか?と。
結果論でしかないのだけど、来た意味なんてなかったわけだし。
はやくカオリのところに戻ろう。
泣かせたのを謝って、仲直りして…。まだまだこれから先も二人で生きていかなきゃいけないんだから。
やっと叶った恋を手放すわけにはいかない。
急く気持ちに走らされるように外へ出たところにカオリの姿はなく。
「車に戻ってるのかな」
待っててほしかったけど、戻ってるように言ったのは私だからね。
一人にしてごめん…。
急いでカオリの車へ戻ったのに、そこにカオリの姿はなかった。
「え…。うそでしょ、待って待って。カオリ!? どこに行ったの!?」
周りを見渡しても見えるのは放置された何台もの車と、未だ燃えている校舎の煙だけ。
さすがに迷子にはならないよね…?
カオリって結構方向音痴だから…。いや、さすがにないって。
校舎からこの車は見えるような位置だよ?そういう場所に車を止めてくれたんだし。
まさか…。
嘘だよね。嘘だと言ってよ!
一人にしたから?カオリは奴らに襲われて…。
そんなの…そんなの耐えられない。
もう一度カオリと別れた場所へと戻るも、やっぱりいない。
体育館の方にも、校舎の側にも。
大声で名前を呼びたいけど、音に反応する奴らに聞こえたらどうなるかわからない。下手をしたらどこかに一人でいるかもしれないカオリにまで危険が及ぶ可能性だってある。
「どうしたらいいの…。カオリ。 一人にしないでよ…」
奇しくもカオリが泣いていたのと同じ場所で立っていられなくて座り込んだ。
カオリ…カオリ…。ヤダよ。一人にしないって言ったじゃん…。
…置いていったのは私か…。
カオリ…。




