終末の地図と
雨の中、車を走らせて到着したのは大きなカー用品店。
一階にはタイヤやアルミホイールなどの大きなものが沢山並んでいる。いずれタイヤもこういうお店から借りるしかなくなるのかな、雪とか降ったらスタッドレスが必要になるし。
「カオリ?」
階段を上りかけているユカリに呼ばれて慌てて追いかける。
二階へ続く階段を二人で上り、ぐるっと見渡したユカリは、案内表示を見つけるとナビやオーディオ機器のある方へと向かうからついていく。
「ユカリはこういうお店詳しいの?」
「多少ね。ほら、うちはひろ兄が車好きで色々とイジってたから。ここにもついてきた事あるし」
そういえば…。ユカリのお兄さんってはじめはスポーツカーに乗ってて、結婚してからは大きなワゴン車に乗り換えてたっけ。外で車を触っている姿を何度も見た記憶がある。
「ねえ、カオリ。気が付かない?」
「うん?」
ナビコーナーを見て回っていたらキョロキョロとしながらユカリがそんなセリフ。
なんのことがわからず、あたしも同じように見渡してみても何が何やら。
「いなくない?」
「え?」
そこまで言われて初めてユカリの言葉の意図がわかり、改めて見渡してみるも例の人影がない。
棚の影に隠れてるだけかも?と二人でさほど広くない店の中を歩き回ったけど一人もいない。
「もしかしてさ、階段を登れないとか?」
「あり得るね、エレベーターはあったけど、スイッチ押して乗り込むとか出来ないのかも」
仮説でしかないから完全に気を抜いてはいけないのだろうけど、少しホッとしてしまう。
手分けしてしばらく店内を見て回り、自販機とソファがあったから二人で座った。多分いろいろな作業を依頼したときに終わるのを待つスペースなんだろう。
隣に座るユカリの手には一つの箱。いつの間に…
「それ何?」
「ポータブルナビ。SDカードは店舗に置かないっぽいね。通販だけみたい。丁寧に説明が書いてあるやつがあったから」
「そっか。よくこの短時間でそこまで把握したね」
「まぁね」
あたしへ返事をしながらも、ユカリは箱を開けて中身を出していく。
「最近はカフェとかでもだいたいテーブルにUSBの電源あるのは便利だよね」
そう言いながらナビの電源コードをテーブルについているUSBへと差し込み、電源オン。
気になったからあたしも画面を覗き込む。
「……やっぱりテレビはどこも映らないか」
平日の昼間、こちらの世界のナビについているテレビがうつらないという事は、つまりそういう意味なのだろう。
「ま、わかってたからいいや。本題は地図だよ」
ユカリはラジオで聞いたという場所を検索。直ぐにいくつも候補が出てきて、その中から目的の場所を目的地へと設定。
「……遠くない?」
目的地はあたし達の住んでいるマンションのある街を越えて更に向こうの他県なのだから無理もないけど。私も数回しか行ったことのない街…。
「行くのやめる?」
正直そんな遠くまで行って無駄足だったらと考えると気は進まない。でも誰かいるかもしれないのなら、行かない選択肢はないと思う。
「行くよ。休憩をはさみながらでもね」
「だね。疲れたら運転代わってもいいし」
「その時はよろしく」
カー用品店では他に必要なものもないから、すぐに店を出て出発。
ナビはユカリが抱えたまま。
先ずは私達がここ数年住んでいる街へと戻る。
まだ明るいから、前回みたいに街が奴らで詰めつくされてるってことはないと思うけど、気は重い。
「もしまた道が塞がってたら遠回りする可能性もあるし、余裕を持って動こう」
「うん。ユカリは隣町に行った事ある?」
「あんまりないかな。カオリは?」
「あたしも頻繁には…。でも、この車を買ったのはそっちだから何度かは行ったよ」
「そうなんだ? というか一緒に見に行きたかったなー」
「ユカリを驚かせたかったからね。こっそり進めてた」
そのせいで何度かユカリからの誘いを断る結果になり拗ねられたっけ。
”彼氏でもできた?”ってしつこく聞かれたのも、今となっては理由がハッキリしたわけで。
ナビの案内に従い、来るときにも使った山沿いの道を走り、今住んでいる方の街へと戻ってきた。
「どうしよう、カオリは家に寄りたい?」
「…気にはなるけど、自分の家じゃない可能性があるから怖くて行きたくない」
「確かに…」
実家とかでさえそうだったんだから。
一人暮らしで大した荷物もないからあまり行く意味もないもの。
「ユカリはいいの?」
「私も気になるけど、もし行ってさ…自分じゃない誰かが出てきたら嫌じゃない?」
だよね。しかも奴らみたいにゾンビとして出てきたらトラウマ物だよ。
そんな訳でこちらは素通りすることにして、ナビに従って走る。
ただ、要所要所で車やら瓦礫で道が塞がれてて遠回りするはめになり…。
「これ、ナビなかったら迷ってたかもね」
「そんとそれ。 あ、次の信号で右ね」
ナビの音声案内よりユカリの案内のが安心できるよ。
何度も何度もまわり道を強いられた結果、予定よりかなりの長時間走って、ようやく街の外れへと出られた。
道沿いにあったスタンドで充電もできたから一安心。
「ここからまた結構走るみたいだけど、途中で休もうか。カオリも疲れたでしょ」
「うん、それにまた夜になったら…ね」
「だよね。適当な場所に止めて休もう」
「そういえば、途中に温泉のある道の駅あったな」
「じゃあそこに行こ」
使えるかはわからないけど…という続きの言葉は飲み込んだ。あたしだって使えてほしいし。




