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お華の髪飾り  作者: 本隠坊
27/37

㉓梅林坂にさそわれて

 

(1)

 

 真っ青な空の下。

 この日、お華とおみよは、深川から新橋に向けて二人、連れ立って歩いていた。

 まだ昼前である。

 楽しそうに、おしゃべりしながら進んでいく。


 さて、年は明け。天保十五年の春である。

 ただ、この年、暮れに改元があり、弘化元年でもある。

 それはともかく、天保の改革は終わった。

 ようやく江戸は、普通の江戸に落ち着いたのである。

 と言うことで、今日は、二人とも芸者の格好だ。

 お華は、歩きながら、おみよに、

「私たちも、芸者稼業は久しぶりだってのに、先日は伊達様、その前は阿部様にお呼び頂いちゃって、何だが、妙な具合よね」

 おみよも、

「本当ですよ。お座敷はお座敷でも、かなり違いますからね」

 笑って頷く。

「本当よ。まあ、伊達様はともかく、阿部様は、遠山様に連れて行かれて、奥方様とお話ししなきゃいけないんだから、さすがの私も緊張したわよ」

 それには、おみよはまた笑い。

「本当ですか? えらく奥方様と仲良くお話してらっしゃったけど」

 お華は首を振り、

「殿様だけなら、まだ良いけど、奥方様には、嫌われちゃいけないと。これでも随分、気を遣ったのよ」

「そうですね。始めて芸者を見た。なんて仰られると、私なんかどうしていいか分かりませんでした。でも、遠山様が、次々話を振って下さって、本当にあのお方は、お侍とはちょっと違う、不思議なお殿様です」

 すると、お華は片頬を上げ、

「絶対、あの殿様は、ああいう世界にいらしたことがあるのよ。だってまるで、幇間さんみたいなお人だもの」

 それには、二人は大笑いした。

「まあ、阿部様は、なんてったってご老中だし、お気を使われたのかも知れないけどね」

 おみよもそれには、大きく頷き、

「いや、本当に。驚きましたよ。あれだけ苦しめられたご老中の次の方には、もう三味線弾いてるんですもの。この変わり様は、自分の事ながら全く信じられません」

 お華も、笑いながら頷き、

「本当よね。私も信じられないわよ。いきなり、ご老中の奥様の前で踊る事になるとはね」

 さて二人は、そんな話をしながら、今で言う銀座中央通りを進み、

 新橋の遠山の屋敷に向かう。

「姉さん。遠山様は、こんな時刻にお呼び出しですけど、どうすれば良いんでしょうね。三味の用意はいらないという事だし……」

「そうねえ。まあ、軽くお昼をってとこじゃないの? 私は奥方様にお会いしてご挨拶出来るだけでもありがたいし。あなたも一緒にお話してればいいんじゃない。ほら、伊達様も近いし、その辺のご様子とかね」

「はい。そうですね」

 二人とも楽しげに、歩いて行く。

 そこ迄は良かったのだが……。


(2)


 屋敷に着くと、今は、遠山家用人の加藤が出迎えてくれた。

「これはこれは、加藤のお殿様。本日はお呼び頂き、誠にありがとう存じます」

 お華・おみよは並んで、深く頭を下げる。

 加藤は笑顔で、

「おう、待っておったぞ」

 と笑いながら、二人を居間へと招く。

 そして、部屋の前の廊下で、膝をつく。その後ろでお華・おみよも一端座る。

「殿! お華達、参りました」

「おお! 来たな! 入れ入れ」

 との言葉で、お華達は再び立ち上がり、部屋に入って直ぐに平伏し、

「遠山のお殿様。本日はお呼び頂きましてありがとうございます。お言葉に甘えまして、おみよと二人、やって参りました」

「おお、よく来た」

 の言葉を受けて、二人は一緒に身体を起こしたのだが、その予想外の光景に、一斉に瞳が大きく開いた。

「あっ、あっ」

 おみよは手を上げて声を上げる。

 お華は、多分彼女の生涯、最大の苦笑で、斜めに首を捻る。


 そう、正面の遠山の横には、手を振って嬉しそうに「お華ちゃん!」と喜ぶ女と、ムスっとした顔の男の横顔が見えたからだ。

 全てを察したお華は、立ち上がり。

 俯きながら、進んで遠山の正面に座り、

「え~、あの、この妙に明るい(おな)()はともかく。こちらの何とも野暮な二本差しは、一体なんでございましょう?」

 苦情とも文句とも言える言葉を遠山に訴える。

 遠山と加藤は、俯いて大笑いする。

「旦那様、奥様」とおみよも、ささっとお華の隣に座る。

「一体、どういうことでございます?」

 お華の、不満げな顔を見ながら、そこに奥方のけい、がやってきた。

「これはこれは、奥方様」

 と、おさよが、深く頭を下げると、お華たちもこちらには笑顔で平伏する。

 けいは、面白そうに、

「我が家に来た途端、何を喧嘩してるのですお華」

 それにはお華も、

「奥方様~」

と、下げた頭を上げながら、

「ですけど奥方様。せっかく芸者として呼ばれたと思ったのに……」

 横の夫婦を指差し、

「いきなりこの二人ですよ。そりゃ驚きますよ」

 すると、当然の如く、浩太郎が、

「お華! 殿様と奥方様になんという無礼な申し様じゃ! お詫び申せ!」

 と、一喝が入る。

 口を尖らせたお華も、それには渋々頭を下げる。

 浩太郎は続けて、正面の遠山に向かって、

「殿様。お華はどうでも良いですが、私だけで無く。我が妻や、おみよまでお呼び出しとは、一体どういう事にございましょう」

 遠山は和やかに頷き、

「すまんな、お華。こういう風にしておかないとならんのじゃ。内密の事じゃからの」

 それには、お華も少し頷いて、

「御用でしたら良いんですけどね」

 と、眉を上げ、諦め納得した様子だ。

 すると、遠山は、

「浩太郎。近頃、奉行所や、町の方はどうじゃ様子は」

 浩太郎は、一度、頭を下げ、

「はい。奉行所の方は落ち着いております。南の方も、近頃は何やらおとなしゅうございます」

水野をギリギリで裏切り、我が身の危険を辛うじて回避した様に見えた、

妖怪・鳥居だったが、さすがに城中の評判は最悪である。

 何しろ、この男には、先の南町奉行矢部を死に追いやったという事実がある。

 いくら、立場を変えても、旗本内からは単なる悪党としか目に映らないだろう。

 無言の圧迫を受けている鳥居は、今はとりあえずおとなしくしているしかないと言うことに違いない。


 それはともかく、お華が、

「私が言うのも何ですが、この前、本所に行きましたら、夕刻、長屋から次々、芸者が出てくるのを見ました。どこから沸いてきたんだ。てなもんですよ。あれは、恐らく柳橋に行くんでしょうけどね。それと、髪結いのおばちゃんらしい人も、道具箱持って、チャカチャカ忙しそうでしたし。ねえ、おみよちゃん」

 おみよも深く頷き、

「はい。深川じゃ、三味線の音があちこちで流れておりまして。あれは習い事のお師匠だと思いますが、何と申しますか、余りの変わり様に驚いてしまいました」

 それを聞くと、さすがの遠山も、

「もう、元に戻ったか!」

と、驚きというより感心の様子だ。

 すると浩太郎が、

「ただ殿。例の組合の件はそのままなのに、価格を抑える取り締まりが無くなってしまいましたので、どんどん高くなっておる様にございます」

 遠山は、自分自身。その件には拘わっていたので、

「そういう事になるだろうな。貨幣を悪くしちゃ、それが自然というもんだ」

 と首を捻りながら、下を向く。

 命令とは言え、携わった以上、多少の責任を感じているのだろう。

「そうだ!」

 その時突然、お華が声を上げた。

「ねえ、兄上。この前お願いした、お屋敷をうろついていた奴ら。どうなりました?」

 それには、けいが驚き、

「本当なの?」

「そうなんですよ奥方様。一応、蔵前の親分達に調べるよう、お願いしていたんです」

 遠山は、それには感心し、

「ほう、よく気が付いたなお華」

 すると、浩太郎が、

「実は……」

 と頭を掻く。

 その様子に、お華が、

「どうしたの? もう判明したんでしょ?」

「いやな。御家人の連中、二人だって事で子細は分かったんだが、昨年末、突然、八王子に御役替えになっちまったんだ」

「え? 八王子? 二人とも一遍に?」

「そうなんだよ。あの殿様。これはもしや?」

 遠山は苦笑して、

「そうだろうな。無かった事にしようという腹じゃ」

 体よく左遷されたという意味だ。


 八王子、または甲府の勤めは、旗本、御家人の中では、島流しならぬ陸流しの場所として有名なところだ。

 大抵の場合、何かお咎めを受けた侍が、懲罰がてら行かされるところ。

 しかし、今回の場合はまだ、何も咎められてはいないのだが、早めに向こうに追いやり、もう、あとは何を言っても聞く耳を持たない。ということなのだろう。

 また、そういう連中が多いから、下手に殺すより都合が良い。

 しかし、そうそう思い通りにいくかどうか……。


「まあ、分かった。実はな、それより本日。みんなに集まって貰ったのは頼みがあっての事じゃ」

「頼みにございますか?」

 遠山は頷き、

「そうじゃ。あのな。お前たち女三人で、お城に登って貰いたいのじゃ」

 その言葉にはさすがに、おさよ、お華は驚愕した。

 ただ、おみよにはまだ、どういう事か理解出来ない様だ。

「そうじゃ。加藤。みんなに説明してやってくれ」

 右端に座っていた加藤が、

「はっ、かしこまりました」

 と、若干前に進む。そして、

「良いか。事は内密じゃ。実は先日。大奥の姉小路様のお部屋で、毒薬騒ぎがあっての」

「毒薬?」

 女四人が、一斉に声を上げた。

 つまり、大奥三の間。姉小路の部屋において、毒薬事件があったと言っている。

「どうもな、各方から受け取った菓子などどれかに、毒が仕込まれていたようなのじゃ」

 おさよが、厳しい顔で眉を寄せ、

「で、まさか姉小路様は?」

 それには加藤も首を振り、

「姉小路様には何事も無かった。ただ、部屋子たちの数名が、激しい腹痛に見舞われてしまった。幸い、早急に奥医師に手当てを願って、吐かせたりした様で、命には別状無かった様じゃが、しかしこれがもし、間に合わなければ危ない事じゃ」

 皆が溜息を付く。

 そして加藤が続けて、

「姉小路様は、この事を重く見ておられ、そなた達を護衛として来て欲しいと、お知らせを頂いたのじゃ」

 しかし、お華は不思議そうに、

「加藤様? それは大変な事と分かりますが、何故、私たちなのです?」

 それはそうだ。役柄が違うのでは? と言いたいのだろう。

 加藤も大きく頷き、

「お前が言いたい事はよくわかる。ただ、姉小路様は、それでは済まぬのではと、お考えの様なのじゃ」

「済まぬとは、何か襲ってくると?」

「そうじゃ」

 すると、おさよが、

「ただ加藤様、お聞きしたところによりますと、大奥には、(べつ)(しき)と言う者もおるそうで、実際、以前その一人とお話した事がございます」

 おさよは、感応寺の折の件の事を言っている。

 そう、別式は奥向きで警護などに当たる女武芸者である。

 別式女・刀腰婦・帯剣女とも言われる。

「その様な者も居るのに、私たちがわざわざ行くのはご迷惑にならないでしょうか?」

 これには、遠山も加藤も大笑いした。

 遠山は笑顔で頷き、

「確かにその通りじゃ。我々も疑問に思ったのじゃが、何でも、そなた達を是非と仰るのでな。な、加藤」

 加藤は、頭を下げながら、

「左様にございます。何故とお聞きしたところ、お局の綾瀬さまが、城の者では信用ならんと仰るのでなぁ……まあ、せいぜい十日あまり様子を見たいと言う事じゃ」

「十日ですか……」

 お華が呟く。

 けいと、おさよは微かに笑みを浮かべる。

 それならばと、お華は、

「そこまで、ご信用頂けるのならば、喜んで参りましょう! え~大奥か~!」

 嬉しそうに声を上げる。

 すると、おさよが、

「あの……おみよ、この子はどうなるのでしょう?」

 加藤が頷き、

「あのな、今のところ。毒の方は、おさよとおみよに徹底的に確認して貰って、普段の姉小路様の護衛はお華にやって貰おうと考えている。そして大奥は、そう簡単に出入り出来る所ではない。おみよには毎日、平川門までその日の報告をして欲しいのじゃ。そこに係の者を頼んで置くので、そこにな」

「なるほど」

 おさよが頷くと、加藤は浩太郎に顔を向け、

「浩太郎。そなたには悪いが毎日、夕刻、おみよの連絡を確認して欲しい。何も無しならともかく、一大事発生なら、我らに連絡が欲しい」

 浩太郎は、平伏し、

「全て、承知致しました」

「一応、北町のお奉行様にも、申し上げてある。内容によって、佐久間殿と相談してな。そして済まんな、妻を借りてしまって」

「いえいえ、お上の御用にございます。全く、構いませぬ」

 と笑った後、

「委細承知致しました」

 二人に平伏する。

 ここまで聞くと、三人の女達も、その気になったようだが、おみよは心配そうに、

「私なんぞで、よろしいのでしょうか?」

 彼女は、身分の事を言っている。

 それには遠山が、

「その事は心配いらぬ。三人とも、我が家の遠縁の者と言うことで乗り込んで貰う。もし、何か問題があったなら、おけいに至急連絡を寄越す様にしてくれれば大丈夫じゃ」

 けいも、優しい顔で微笑む。

「では、明日、午後、行って貰う。着物などはもう用意して頂いているので、お華とおさよは例の物の用意だけしてくれ、良いな」

 おさよは、既に皆の代表の様な顔で、

「何もかもお任せ下さいませ。きっと守り切りますゆえ」

 と、三人、深く平服する。

 遠山は、嬉しそうな顔で、けいに、

「では、昼を用意せよ。芸者もいるから、酒もな」

「はい。承知致しました」 


(3)


 翌日、遠山の命を受けた三人と浩太郎、佐助は北町奉行所に向かった。

そこで、加藤と落ち合い、城の方に向かった。

 おさよは、羽織のお華に、

「お華ちゃん、あれ、全部持ってきたの?」

「ええ姉上」

 と、羽織の内を開いて見せる。二十ぐらい、内側にならんでいる。

「姉様は?」

「ほらここ」

 と、背中に手をやる。

 小太刀が二本刺さっている。

「これで大丈夫よね?」

 少し、心配そうにお華が言うと、おさよは、

「なあに、足りなきゃ、石でも何でも投げりゃいいのよ」

 と笑い、

「でも、それ以上必要じゃ私たちの手に負える物じゃないから、姉小路様が何かお考えになるでしょ」

「そうですよねぇ……」


 銭蔵橋を過ぎ、武家屋敷を曲がる。

 おさよは、浩太郎に、

「しばらく留守にしますけど、母上にも言って置いたので、何かありましたら……」

 浩太郎は、頷き、

「まあ、でも佐助と隣の先生で、夜は飲んでるから、心配いらないさ」

 一方お華は、佐助に、

「佐助さん。聞いてるとは思うけど、野菜その他の調達お願いね」

 と、済まなそうに言うと、

「はい、大丈夫にございます。すべて手配致しました。親分にもお願いして、魚なんかも」

「よろしくね~」

 と頭を下げたその時、お華とおさよは、妙な殺気がはらんだ攻撃的な気配を感じ、思わず二人とも構えた。一瞬の風が、二人を突き抜けていった。

 丁度、正面が大手門になる位置だ。

 しかし、加藤と浩太郎は、二人とも苦笑して、盆の窪に、同じ様に手を当てる。

 お華が、少々慌てて、

「い、今のは何!」

 浩太郎に聞く。

 しかし、浩太郎は笑って答えない。

 仕方無く、加藤が苦笑いで、

「見えなかったか? 御駕籠だよ」

「駕籠!」

 お華、おさよは、声を上げる。おみよに至っては、固まってしまっている。

「あのな……」

 加藤は説明を始めた。

 実は、江戸城大手門下馬では、城での儀式などが終わると、現在で言う、

「モナコGP」ならぬ「江戸城GP」が行われていたのだ。

 今なら午後二時。御三家の家来が、日の丸の扇を開いて城門から出てきた時が、エンジン始動の時だ。

 そして、自分の所の殿様が、駕籠に載った時が、グリーンライトである。

 御三家など位の高い大名は別だが、一般の大名達の駕籠は、猛スピードで駆けだし、競争が始まるのだ。

「下馬の崩れ」と言うそうだが、理由は全く分からず、早かったらどうということでもない。結局、六尺、陸尺(駕籠を持つ者)のプライドだけである。

「そんな事の為に?」

 と三人の女は訳が分からず、驚いた顔だが、浩太郎や佐助は良く知っているから、大笑いだ。

「ほら来た!」

 と、また二つの駕籠が、ドドドと駆け抜けていった。

 当然だが、車ではないから、走り出すとブレーキは利かない。

カーブなど曲がりきれず、事故続出である。

 当たり前だが、家臣達は、毎度止めるように言う。

 しかし、全く効く耳を持たない。

 殿様自身も、勿論注意するのだが、全く効かない。

 自領から、連れてきた駕籠の者なら、その様な事はしないが、経営の苦しい家の場合は、どうしても譜代ではなく、出変わり奉公人を雇わなければならない。

 それらは、忠義より、男のプライドである。

 実際、殿様の転倒被害者は、宇都宮藩主の戸田越前守や、ドラマや、

「甲子夜話」の随筆でも有名な、平戸藩主の松浦静山などが、落とされたらしい。

 そんなことしたら、本来、命は無いと思うのだが、領主達は、(本人達の前では)決して怒らなかったらしい。怒ると辞められてしまい。今後が大変な事になるのもあるが、心の広い殿様という演出も必要だったらしい。


「ということだ」

 おさよは、

「なんと申し上げてよろしいのかわかりませぬ」

「まあ、そうじゃ。これだけは相変わらずじゃ」

 昔から変わらないということらしい。


 そんな、驚きの光景を見た後、皆は、ようやく平川門までやって来た。

 加藤、浩太郎、おみよと佐助は、門番責任者と連絡中継をしてくれる担当者に挨拶をしている。

 お華とおさよは、橋の上で二人、堀の水を眺めている。

 さて、挨拶の済んだ者達と一緒に、とうとう城内に足を踏み入れた。

 大奥に行くには、途中、門を潜り、梅林坂と呼ばれる坂を上っていかなければならない。

 残念ながら、梅の時期は些か過ぎてしまっているが、気の早い桜が咲き始めている。

 お華は、坂の途中、ふと背中を振り返り、おさよに言った。

「綺麗な眺めですねぇ~姉上。お江戸がみんな見える」

 そう、ここは江戸の中心で、さらに高い位置から見下ろす事が出来る、数少ない場所だ。

 おさよも、振り返り、

「私も、生きてる内に、ここに来ることが出来るなんて夢の様よ」

 と、頷いて微笑む。

「さあ、これからどうなるか楽しみね。姉上」

 おさよは頷き、

「父上や母上に喜んで貰えるように頑張りましょ」

「はい」

 二人は、みんなの背中を追った。


 大奥の玄関口、七の口に到着すると、加藤が、切手係の女中に話し、姉小路のお局、綾瀬に到着を伝える様、頼んだ。

 既に、連絡済みなので、話は直ぐ通った。

 やがて、時を置かず、綾瀬が、七の口玄関先に姿を現せた。

「これはこれは」

 と、綾瀬は、加藤に手を着き、挨拶した。

 そして、おさよたちに目をやり、笑顔で、

「お待ちしてましたよ」

 と言葉を掛ける。

 三人の女は深く頭を下げ、おさよが、

「どうか、よろしゅうお願い申し上げます」

 早速、加藤と三人は、綾瀬に導かれ、大奥に上がった。

 浩太郎と佐助達はここまでだ。しばらく門脇の腰掛けで、待つ事になる。

 浩太郎は、三人に、

「しっかりやってこいよ」

 と、声をかけるのだが……。

浩太郎にしても、始めての江戸城。

 回りには、警護や、五菜銀(大奥女中の男の家来)なのだろう、見るからに商人の連中などもかなりいる。

 あまりの場違いで、いささか緊張の様で、顔が強ばっている。

 それに、お華とおさよ、おみよは、少し微笑みを残し、三人は、大奥の中に入って行った。


~つづく~


 あの大手門先、F1シティレース(笑)は、おまけです。

 しかし、事実であった様で、妙な所で、日本人は凄い事やってます。

 思うに、あれは賞品はないが、賭けの対象になっていたのかも知れません。

 松浦静山は、駕籠の者に直接文句を言うことは無かった様ですが、家老以下にはチクチク文句を言っていたみたい。

 まあ、いくら駕籠とは言っても、全速力で落っことされれば、さぞ痛かったでしょうからね。

 ところで、江戸城跡。

 まだ行ったことが無い方は一度、訪れると良いのでは?。

 東京の中心でありながら、一番空が広く見えるところ。

 ご先祖がどなたであったとしても……

 色んな意味で喜ばれるかも知れません。


 さて、とうとう。お華は江戸城大奥に上がることになりました。

 そして、いよいよCat's-eyeの様になって参りました(笑)

 女ばかりの中で、どうなるのか私も楽しみです。


 今回もありがとうございました。

 また、よろしくお願い致します。


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