第4話 ルイーゼの願い
(そんな…)
予想以上に重い内容に、ルイーゼは言葉が出なかった。
アーサーにとっては、ご両親と乳兄弟をプロイセン帝国に殺されたのも同然だ。
その皇女である自分を憎むのも無理もない。
「あの様なことを仰ったのは、そんな理由があったのですね」
愛するつもりはない。
ルイーゼは、そう言ったアーサーの言葉を思い出した。
セバスは頷き、続けた。
「その通りでございます。戦争は綺麗事を言っても、所詮は殺し合い。プロイセン帝国にも、我が軍に大切な人を殺された人がいて、お互い様なのは旦那様も承知しています。頭では分かっていても、心が追い付かないのでしょう」
「そうですか…」
「ですが、奥様に不自由なく過ごしていただくよう、申し遣っております。何か御要望がございましたら、遠慮なく仰ってください」
セバスの優しい口調に、ルイーゼは以前から思っていたことを頼んでみた。
「では、勉強をさせてくださいませんでしょうか?」
予想外の頼みに、セバスは眉を上げた。
「…勉強を?」
「はい。嫁いできたからには、私もグレートブリテイン王国の民。この国の歴史や礼儀作法を学びたいんです。それに、公爵様の幻肢痛を治す方法が分かるかもしれません」
ルイーゼがまともに勉強したのは、嫁ぐ前の1カ月ほどだ。
短い間だったが、ルイーゼは学ぶことの楽しさを感じていたし、何よりアーサーの苦しみを少しでも和らげたかった。
セバスとマリーは顔を見合わせて驚いたが、ふっと微笑んだ。
「奥様はお優しいのですね」
セバスに褒められ、ルイーゼは顔を赤くした。
そのように褒められたのは、生まれて初めてだ。
「そ、そうでしょうか?」
「分かりました。旦那様にご相談し、追ってご連絡いたします」
「ありがとうございます!よろしくお願いします」
そこで、マリーがすっと手を挙げた。
「では、僭越ながら、私が教師を務めさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「マリーさんが?」
彼女の申し出にルイーゼは驚いたが、セバスは頷いた。
「ああ。マリーならば適任ですね。彼女は訳あって公爵家で侍女をしておりますが、元々は伯爵家の出なのですよ。上級貴族に必要な教養は、一通り身に付けております」
「そうなのですね。マリーさんさえ良ければ、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いいたします。では、早速。私ども使用人に対しては、敬語をお使いにならないように。名前も呼び捨てにしてください。貴女様は、公爵夫人なのですから」
「はい、分かりま…分かったわ」
ルイーゼは慌てて言い直した。




