第3話 アーサーとの対面と彼の過去
「旦那様、失礼いたします」
セバスがノックをしてアーサーの執務室に入ると、アーサーは執務椅子に座って書類に目を通しているところだった。
「セバスか。どうした?」
アーサーが書類から顔を上げると、あからさまに眉をひそめた。
「皇女殿下とは会わないと言っただろう」
「申し訳ございません。ご挨拶させていただきたいと仰いましたので…」
しかし、ルイーゼは衝撃で2人の会話は聞こえていなかった。
グレートブリテイン王家特有の金髪碧眼に、整った顔立ち。だからこそ、余計に左頬の大きな傷跡が目立った。
そして、左腕の肘から下なかった。
ルイーゼが絶句していると、アーサーが口を開いた。
「どうした?挨拶をしに来たのではなかっなのか?それとも、隻腕で醜い傷がある者には、挨拶をする価値もないか?」
彼の圧倒的な威圧感に、ルイーゼは慌てて頭を下げた。
「申し訳ございません。ルイーゼ•プロイセンと申します。よろしくお願いいたします」
ルイーゼがそのまま動けずにいると、アーサーは冷たい声で告げだ。
「これは契約結婚だ。貴女を愛するつもりはない。常識の範囲内で好きに過ごしてくれ」
言い終わるると、アーサーは再び書類に目を戻そうとしたが、不意に顔を歪め、右手で左腕を押さえた。
「こ、公爵様?」
ただ事ではないアーサーの様子に、驚いたルイーゼ声をかけると、アーサーは半ば叫ぶように言った。
「貴女の顔を見ると、腕が痛くなる!用がないなら下がれ!」
「…はい。失礼しました」
ルイーゼは震える声で返事をすると、セバスに促され部屋を出た。
応接室に戻ると、マリーが紅茶を入れてくれた。
(温かくて、いい香り)
それを飲んでいるうちに、ルイーゼは次第に落ち着いてきた。
「落ち着かれましたか?」
セバスの問いに、ルイーゼは何とか微笑んだ。
「はい、ありがとうございます」
しばらくの間、部屋に沈黙が落ちた。
それを破るように、ルイーゼは思い切ってセバスに尋ねた。
「…あの、公爵様はまだ腕の傷が痛むのですか?」
セバスは首を横にふって答えた。
「いいえ。お怪我は完治しております。しかし、医師の話によりますと、幻視痛といって、事故や病気で腕や足を切断した後に、実際には存在しないはずの手足に痛みを感じる症状が出ることがあるのです。旦那様は時折、それに苦しんでおられるのです」
「そんな…」
怪我が治った後も痛むなど、ルイーゼには耐えられそうにない。
「お怪我は戦争で?」
「はい。ですが、お聞きにならない方が…」
セバスの言葉に、ルイーゼは意を決して頼んだ。
「教えてください!形式だけでも、私は公爵様の妻です。彼のことを知りたいんです!」
ルイーゼの決意に、セバスは心を動かされた。
(この方は…)
「分かりました。重い話になりますが、聞いてくださいますか?」
「はい、ありがとうございます!」
ルイーゼの返事を聞いて、セバスは話し始めた。
家督を継いだ旦那様は、見事な采配で公爵領を治められていました。しかし、隠居された先代夫妻がプロイセン帝国に旅行に行かれた際に暴漢に襲われ、命を落としてしまいます。それをきっかけに、両国で戦争が始まりました。
旦那様にとっては、ご両親の敵討ちでもあります。乳兄弟で副官のエドワード様と共に自ら前線に立ち、指揮をとっておられました。
最後の戦いに勝利し、後は講和条約を結ぶだけという時でした。
敵の砲弾による攻撃で脆くなっていたのでしょう。砦の一部が崩れ、旦那様とエドワード様の頭上に瓦礫が落ちてきたのです。
旦那様をかばってエドワード様は亡くなりました。旦那様も命は助かったものの、顔に大きな傷を負い、瓦礫で長時間圧迫されたことで左腕が壊死し、切断せざるを得なくなりました。
自分だけ助かり、剣を持てなくなったことを恥じた旦那様は、怪我が治った後も人前に姿を見せなくなったのです。




