第14話 「国王様たちは尻に敷かれるようです」
「米の価格は4か国協議の上で一律とし、輸出入・国内売買ともに、それぞれの国での価格改定を行わない。異論はないな?」
画面越しに頷く王達を見て、山場を越えたことを実感する。
ルートルインの独断専行もバレてなさそう……、ではあるが、何かの落ち度が私にある事は理解しているだろう。
だからこそ、炊飯技術の無償提供という露骨な賄賂を受け入れたと見るべきだ。
「ん。……どうした、フリッカ」
まるでタイミングを見計らっていたかのように、というか、十中八九見計らっていただろうフリッカが入室してきた。
通常ならば声を掛けることなど無いが、今はどうしても必要なことだ。
なぜなら……、その胸には数十ページの希望が抱かれている。
「こちらの資料が必要かと思いまして。ふふ、おっちょこちょいですね」
「あぁ!助かる。本当におっちょこちょいで困ったものだな!!」
まるでやらかした娘を嗜める母親の様に、というか、まんまそれなんだが、ともかくフリッカは笑っている。
この余裕ある笑みが大変に心強い。
私なんか、心の中で散々に叫び散らしたからな。
「フリッカ妃よ、しばらくぶりであるな」
「トップメシア王、並びに、リージョン法王、アルアグレン王帥。皆々様もご健勝のことと存じ上げます」
「うむ、せっかく来たのだ。少し話に混ざらぬか?」
例え王妃であっても、国王会談に映るにはバッドマナー。
後で情報共有されると分かってはいても、責任者でない人物が国王会議を聞いている姿を見せるのは良くないからだ。
だからこそ、トップメシア王の提案は歪なもの。
何かしらの意図があるはずだ。
「そうだぜ!!大事な所は終わったしな。だろ、リージョン法王!!」
「ですね。炊飯理論については後で良いですし。それに、フリッカ妃のご飯の印象をお聞きしたいですから」
まさか、こいつら、私が料理の監修せずに出したこと――、ルートルインのやらかしに気が付いている!?
くそう、いったん安堵させておいて詰めてくるとは、これが大国のやり方かッ!!
「そうですね……、あの、モチモチ触感は癖になりますね。他色品には無い噛み応えで、ふふ、思い出すだけで口の中が美味しくなってしまいます」
……え?
なんだその、食べたことがあるみたいな食レポは??
もしや……、してきたというのか、味見を……!!
「俺からも聞きたいぜ!!ベーコンペッパーとグヤーシュライスはどれくらい辛いんだぜ!?」
「ピリッとする刺激が口の中に残る程度、心地良い辛さですね」
いや、それはどうかな!?
思わず口から吹き出して吐血扱いされる辛さだったが!?
「その程度か?結構、辛そうに見えたんだぜ」
「グヤーシュライスは配信で提供した中辛と、辛党の人向けの激辛がありますよ。そちらも頂いてみましたが、ふふ、とても震える味わいでした」
じゃあ、私が食ったのは激辛じゃねぇか!!
なんでそっちの劇物なんぞを持ってきやがった、あの謎料理人メイド!!
もはや暗殺者認定してもいいだろ、そのせいで国王どもから死に掛け扱いされてるんだぞ!!
「フリッカも配信を見ていたのだろう?どの食レポに注目したのだ?」
「ライスバーガーですね。個人的にも、マヨとお肉の組み合わせが最高で……、ライラ姫が万能不老霊薬と認定されたのも納得ですね」
食ったのか……!!
まだ私すら食べていない、ライスバーガーを……!!
「配信を見ていた我がトップメシア王国の官僚も興味深々の様でな、特に、姫と同じ女性は食い入るように配信を見ておるようだ」
「ふふ、分かりますよ。その気持ち」
「今宵の夜会後に我の初見を出すから待てというのに。気を揉んでも仕方が無かろう」
「それでしたら……、王妃の皆様も夜会にご招待するのはいかがでしょう?私も語らう相手がいた方が楽しいですから」
えっ、っと思わず視線を上げる。
そこに居たのは、照明を背後にした黒い笑みの女。私の妻だ。
そして、なぜか配信画面の奥から、ガタッ!!って音がした。
……いるんだな、貴殿らの後ろにも、妻が。
「良いのか!?」
「そのつもりで歓待の準備を進めていましたから。だって、これだけの美味を先に味わってしまうなんて、私だったら嫉妬しちゃいますから」
そうだな。
ライスバーガーの件は後悔しかない。
謎料理人メイドを追い出さなければ、私も試食できたのに。
「そうだぜ!!後が怖……、いや、とにかく、俺もかみさんを連れて行きたいんだぜ!!」
「ありがたい申し出ですね。ですが、どこまでを参加させましょう?」
トップメシア王とアルアグレン王帥には複数の妻がいる。
そして、『妻の序列はタヌキすら食わない』と言われるように、そんな面倒事を持ち込まれるのは困る。
「妻でしたら幾人でも大丈夫ですよ。ただ、子供の参加は見送って頂きたいです」
「ふむぅ、王位継承権を持つ王子もダメであろうか?」
「夜遅いですから。それに、そうなるとルートルインも出席させなければなりません。長時間配信の後ですから、それはご遠慮いただきたく申し上げます」
確かに、ルートルインを出席させるのはいろいろと不都合がある。
打ち合わせの時間は殆ど取れないし、なにより、時間が問題だ。
ルートルインの就寝時間は午後10時。
いつもは夜会が始まる時間に寝ているのだから、どうしたって無理をさせることになる。
「確かに姫達の負担になるか。従者はどうする、対象外か?」
「護衛を含め10名までにしましょう。その方に料理の提供はございませんが、ささやかなお弁当をご用意していますよ」
「うむ、素晴らしい配慮だ。フリッカ妃のお心遣いに感謝する」
お弁当……、なるほど、おにぎり弁当か。
つくづくご飯は拡張性が高いな。
それはそうと、出席人数が多くなればなるほど、ボロが出やすくなる。
考える頭が増えるのだから当然だ。
ルートルインのやらかしに気が付いているフリッカがそれに気づかぬはずは……、ん?
『これだけの美味な食事ですから、同席なさった妃の方も、大変に興奮なさるでしょう』
……んん?
『8種もあるのですから、食べるだけで相応の時間が掛かります。そして、ルートルイン達と同じように歓談をなさるでしょう。各国の王達は妻の口約束を押さえるのに必死になるかと』
んんーー??
『最低限の資料はここに揃っていますが、解説を求められる所ではないと思いますよ。深夜2時にはお開きにしますし』
気になって仕方がなかった炊飯資料の最初のページ。
そこに書かれていたのは、フリッカが立てた、これからの予定。
何を隠そう私の妻は美しく、可愛らしく、真面目で、腹黒い。
基本的におっとり口調で柔らかい物言いをするが、考えていることは支配者のソレ。
ギオンコロニ帝国のラスボスとは、私の妻のことだ!!
「レイミスたちも美味そうに食っておる。ほう?」
「え!?」
「これは……、なんというか……」
「リリカルがトンデモナイこと言っちゃってるぜ!?」
余裕ある気持ちで配信を見ていると、リリカル姫がアフタヌーンティーの変更を申し出ていた。
それにしても、他国のおにぎりを茶請けにティータイムか。
困った顔のアルアグレン王帥が平謝りしているが、リリカル姫の気持ちもわかる。
私だって、お気に入りの茶を片手に、ゆったりしながらおにぎりを食いたいからな!!
「なんか、予定外なことを言っちゃってすまんだぜ……」
「いやいや、気にすることは無いぞ、アルアグレン王帥。子供らしくて良いじゃないか」
「レイミスが楽しそうにしているならそれでよい。提供しなかった菓子や料理は後日で構わぬ。であろう?リージョン法王」
「ライラなんかディナーを丸ごとぶん投げちゃってますね。リリカル姫に乗っかった形ですが、そもそも、そうなるように誘導した節があります。ホント、食欲優先ですみません」
いつの間にか、3時と6時にもご飯料理を提供することになった。
そして、王夫妻を招く夜会の開催が10時、料理のついでに弁当を最低44個。
これは、料理人共の尋問……、もとい重要参考人聴取は明日だな。
「それにしても、これだけ系統の違う料理ですから、国民の反応が気になりますね」
「リージョン法国は、やはり万能不老霊薬の反響が怖いか?」
「えぇ、注目が集まっているでしょう。ただ、鯛の炊き込みご飯と票を分けた1位だったことで、ライスバーガーに一点集中はしないかと」
「炊き込みご飯は再現しやすい。極論、米さえあれば作れる訳だからな」
ロイヤルディッシュの料理提供が無くなったことで、今日はずっとご飯の話題が続くだろう。
既に資料は手元にあるし、追加される情報もない。
よし、国民の好みの統計が出る前に、食材の流通を――?
『さてと、ここらでいったん休憩を入れようと思うのだが……、食べてみたいご飯投票ーー!!』
『……またもや、妙なことを言い出したわよ、この子』
『誰かこの破壊姫止めて』
『あ、もしかして、国民のみんなにも投票して貰うんですかぁ?』
うん?
おい待て。それは不味いぞ。
『そうなのだ!テンプレートの⑤~⑨番に、それぞれご飯メニューを振り分けて投票して貰うぞ!』
『なるほど。じゃあ最初は、⑤オーロラエビマヨ ⑥アスパラペッパーベーコン ⑦豚肉の生姜焼き ⑧銀シャケバターにした方が良いわね』
『おにぎり決選投票。僕たちはそれを見ながらティータイム?優雅過ぎて草も生えない』
『なるほどぉ、純粋なおにぎりの人気を決めるんですね。面白そうですぅ』
「「「「やめろーーッ!!」」」」
心を一つにした国王の叫びが執務室に響いた。
娘に振り回される父親同士、仲良くやっていけそうだ。




