第12話 「国王様たちは感情が高ぶるようです」
「ようやくレイミスの番か。最後を飾るにふさわしい料理が出てくると思って相違ないな?ギオンコロニ王よ」
夜会で食いまくって、この国王共のド肝を抜いてやる。
酒だって浴びるほど飲んでやるぞ!!
そんな秘かな目標を立てていると、レイミス姫の順番となった。
提供される料理は、おそらく、彼女の好みに近いもの。
空気の読めるファナティシアの仕込みであるならば、何の心配もいらないはずだ。
「勿論だ。是非とも楽しみにし……」
『レイミス姫様。こちらの料理は『冷えたご飯』を調理する為、少しだけお時間を頂きます』
……は?
いや、冷えたご飯を調理するってなんだ?
さっきから散々、香りだ、匂いだ、蒸気だとまくし立てていたんだぞ?
どう考えても不適格だろ。
だってほら、真っ赤なメロンが梅干しになって塩い顔をしているッ!!
「おい、ギオンコロニ王よ。これはどういう事だ?一国を優遇することはないが、虐げはする。そういう話でよいのだな?」
「そんな訳なかろう」
「じゃあなぜ、レイミスにだけ冷めた飯を食わせようとするッ!!最大級の侮辱であろうがッ!!」
そんなん私が聞きてぇよッ!?
イカれた料理人たちが勝手にやったことだぞッ!!
つーか、自分は残飯を食おうとしてたじゃねぇかッ!!
だったらちょっと冷めてるくらいで文句を言うなーッ!!
『構わないわ!!待った分だけ美味しくなるんでしょ!!』
『勿論でございます。こちらの④の料理名は『オムライス』。炒めたご飯の上に特別なオムレツを乗せた、最後を飾るにふさわしい一品です』
「ほらね。落ち着いてくださいよ、ギオンコロニ王。レイミス姫の方がよっぽど大人の対応してますから」
「くっ……、では、ライラ姫が同じ扱いを受けても、貴殿は平気だというのだな?リージョン法王」
「ライラは食べず嫌いはしませんので。それに、冷やすことに意味があるとしたら?」
「なに?」
「これほどの料理を作った料理人が、提供時間を見誤るはずがありません。ですから、これはワザと冷やしていると見るべき。そうでしょう、ギオンコロニ王」
うむ。是非ともそうであって欲しい。
温かいご飯を冷やすと米に元に戻ってしまう気もするが、なんらかの有意義な意味があるのだと信じて配信を見る。
『ルートルイン、何なのよあれは!?』
『……チャーハン、なのだ』
『ちゃー、はぁん?』
『炒めたご飯のことだ。直接油に晒すことで究極の甘さを引き出す、ご飯料理の究極進化系の一つ……、なのだ?』
「炒める……、だと?だがなぜ一度冷やす?ふっくらしたご飯をそのまま炒めれば良いではないか」
「普通はそう思うであろう。私とてそうだ。初めてこの手法を知った時には、料理人たちがイカれたのではないかと笑ったものだ。だが、理知あるリージョン法王ならば、こんな浅慮はせずに済んだであろう?」
「えぇ。冷ますというか、乾かしているのでしょうね」
「乾かす?蒸気を飛ばすってことだぜ??」
リージョン法王以外はよく分かっていないようだが……、私もそっち側なので、意味ありげな深い笑みを浮かべて誤魔化す。
とりあえずレイミス姫は喜んでいるようだし、ここは静観が正しいはずだ。
『ケチャップで味付けするのね!?いいじゃない!!』
『あ~、これはズルいですぅ~。もう食べたいですぅ~』
「何が起こっている!?なぜ、レイミスはあんなにも楽しみな顔をしているのだ!?」
「香りですよ。そして、それがご飯をわざと冷ました答えです」
「なんだと!?」
「水と油の相性はご存じですよね。炊いたばかりのご飯は水分が多く、油を弾いてしまいます。だからこそ、炒め物には根本的に向いていない」
「……ワザと冷やし蒸気を飛ばした。そうだな?」
「そうして炒め物に最適な状態にした。ですよね、ギオンコロニ王」
へぇ~~、そうなんだ~~。
流石はリージョン法王だな。
不甲斐ない私に変わりに、完璧な解説をありがとう。
「炒めたご飯、略して炒飯だ。今回は身近なケチャップでの味付けだが、これも様々な料理へ派生できる。各国での研究成果を聞くのが今から楽しみだ」
「アレンジし放題という訳か。すまぬ、我が短慮だったようだ」
「香辛料と相性が良さそうだな。……み、見えるんだぜ、真っ赤な炒飯を食うかみさんの姿が」
「もう一つ素晴らしいことがありますよ。冷やしたということは、冷えてしまっても良いということ。この意味が分かりますね?」
冷えても良い……!?
いや、そういうことか!!
「リージョン法王の言う通り、炒飯という手法によって、ご飯の廃棄率は他食品に比べ低い数値となるだろう。各国とも、パンの廃棄率には頭を悩ませているのではないか?」
主食であるパンの廃棄率は、店舗で10~30%。
購入後の家庭でも5~10%は捨ててしまっているというデータがある。
この問題は消費者の身分が上がるにつれて上昇し、王宮では調理した料理の40%を捨てる日すらある。
私は先ほど、王の癖に残飯なんぞを食おうとするな!と思っていた。
貴族同士で立場の奪い合いがある以上、貧しさや卑しさは分かりやすいデメリットであり、施政に悪影響を及ぼすからだ。
だが……、炒飯。
食べごろを過ぎたご飯を美味しく、そして、無駄なく食べるという思想が広がれば、この状況に一石を投じることが出来るかもしれない。
「震えますね。美味しさや栄養学のみならず、食品自給率にまで思想を向け、国民の意識改革を狙うとは」
「見栄は無駄で贅沢だ、なんて言葉がトップメシア王国の諺にある。貿易で成り上がった我が国としても、炒飯による影響は無視などできない」
「食料の枯渇=死だ。それは戦いの歴史を持つアルアグレンが一番よく分かっている。腹を空かせた民なんて、一人でも少ない方が良いんだぜ」
これはパンと同等、いや、それ以上の価値がご飯にあると見ていいだろう。
『美味いから食べる』という娯楽消費は貴族向け。
そして、『健康な生活を送る為に食べる』という必要消費は市民向け。
それらが複雑に絡み合う、神のごとき食物。
それが 『ご飯』 だ。
『レイミス姫様、失礼いたします。こちらがオムライスでございます』
『な、なんて可愛らしい料理なのかしら!?って、あれ……、何か書いてあるわ』
『『夢の世界へようこそ』?すごくお洒落ですぅ』
『こちらのオムライスは、最初にオムレツにナイフを入れて頂くと、より一層、美味しくいただけます』
『こ、こうかしら……?うわぁぁーー!!』
『……なんてこと。ふわふわの卵を割ったらデミグラスソースが出て来たわ。ぷるっぷるな卵から、トロットロなデミグラスが!!なによこれ!?』
「……。それはそうと、凄く美味そうであるな?オムライス」
「見栄えもいいですね。茶色いデミグラス、黄色い卵、赤い炒飯。これをまとめてオムライスと呼ぶと」
「仕事終わりにガッツリ食いたいぜ!それか朝だな、いや、時間がない昼にかき込むのも、それはそれでアリなんだぜ!!」
ほら。料理が完成すれば、もうこんな感じ。
さっきまでの理知ある王の欠片もない。
『まずは外見の美しさを褒めるべきかしら?ナイフを入れた瞬間に卵が蕾みたいに花開く光景。そして、朝露のようなデミグラスソース。もはや芸術ね』
「うむ!流石レイミスだ。花に例えるとは秀逸な食レポであるぞ!!」
『面白いのが、薄焼きにした卵のおかげでケチャップご飯にソースが染みこんでいない所。ご飯そのものの味も楽しめるようになっているのね』
「なるほど、せっかく炒めた香ばしい炒飯をふやけさせない為の卵なんですね。素晴らしい」
『いただきます……。って、思わず目を閉じてじっくり味わっちゃったじゃないの!?』
「分かるぜその気持ち。俺だってそうなると思うしな!!」
レイミス姫の食レポは分かりやすく可愛らしい、非常に配信映えするものだ。
親がブチ切れメロンだなんて思えない愛らしさ。
『お姫様はかくあるべき』というのを地で行く……、流石はルートルインがライバル認定するだけはある。
『それでどうなのだ!?美味いのであろう!?!?』
『ホクホクするとか、卵の舌触りが良いとか、そういうのを忘れちゃうくらいに……、味わい深い美味しさよ。完熟トマトは美味しいけれど、ソースにすると独特の雑味が残る時があるわよね』
『うむ、だがしょうがないのではないか?だってケチャップだぞ』
『それが全然ないのよ。代わりにあるのは、焼けたゴマとネギの香り。食欲を掻き立てる匂いのせいで、身体が料理を欲する。そして、そこにチキンライスが入り込むの』
『……じゅるり』
こっちまでよだれが出てきた。じゅるり。
というか、私の好み的にオムライスが一番かもしれない。
好きなんだよ、ケチャップと卵の組み合わせ!!
『という事で、次はデミグラスソースと一緒に食べてみようかしら……、つぅ!?』
『どうしたのだ!?舌でも噛んだのか!!』
『えぇ、じゅわーってよだれが……、って舌を噛んだせいじゃないわよ、お肉のうまみが凄いの!!このソースだけで十分なご馳走になってるの!!』
『……なのに?』
『ご飯との相性もばっちりよ!!』
やはり相性が良いのか!!
見るからに美味そうだしな、一度食べたら、ずっと匙が止まらぬだろうな!!
『あのぅ、卵はどんな感じですか?』
『逆に、卵自体には味が殆どついてないわね。でも、それがいいの』
『というと……?』
『この卵は薄焼きでしょ。そこに濃い味付けをしてしまうと、そっちに引っ張られて卵の味が分からなくなっちゃうわ』
『なるほど、確かにそうですぅ』
『デミグラスソース、卵、チキンライス。口の中で三段階に変化する味。それぞれ方向性の違う美味しさがひと匙の上に乗っている。あぁ、なんて素晴らしい料理なのかしら』
卵にはあえて味を付けていない、だと……?
素材の味を際立たせる為に、そんな手法を用いるとはな。
すごい、凄いぞ、オムライス!!
正直、状況のせいで受け入れ難かっただけだが……、ルートルインを含めた一派の功績は計り知れない。
発案者のルートルイン。
開発者のキザラ、以下、破壊の美食学者。
そして、配信という舞台を使い、我々視聴者との繋がりを仕込んだであろう、ファナティシア。
正直な話、どれだけの恩賞を与えればいいか分からない。
世界の在り方を変えたのは間違いなく、このアイデアによって、多くの民の生活が豊かになるだろう。
……それはそれとして、言葉での叱責はするがな。
娘に振り回されて苦労を背負った父親として、言いたいことがいっぱいあるぞ!!




