第9話 「国王様たちは神話に出会うようです」
「次はライラの番ですね、何が出てくるのでしょうか?」
「先ほども工夫はされていたが、グヤーシュ自体は親しみ深い料理だった。さて……」
慣れ親しんだと思って舐めてかかると死に掛けるぞ。
気を付けろ。
それはさておき、次に出てくる料理が怖すぎる。
目の前の謎料理人メイドも大掛かりな準備をし……。
「ちょっと待てぇ!!」
「ッ!!どうしたギオンコロニ王ッ!?」
思わず叫んでしまったが、これはしょうがない!!
貴重な資料が保管されている棚の前でコンロなんか使われたら、流石にブチ切れていい!!
「……すまぬ、執事のセイヴァースが盛大に転んで配信用魔道具に茶をぶっかけた」
「さっきから貴殿たちは何をしているのだ?」
「不甲斐なくて申し訳ない。1分だけ配信を停止する」
不審に思われるだろうが、仕方がない。
制限時間は1分。
この短時間で謎料理人メイドをコントロール下に置かなければならない。
「貴様、この部屋は火気厳禁だ。今後、一切の調理を禁ずる」
「~~!?」
「それと、1分間だけ喋ってよい」
「ぷは!すみませんでしたっす!!」
「それで、貴様の身元引受人は誰だ?ルートルインの料理人と言えど、高位貴族の後ろ盾もなしに王城に入ることなどできぬ」
当たり前だが、王城は国で最も警備が厳重だ。
伯爵位以上の推薦が無ければ、門番が通しはしない。
だからこそ、コイツに身元を白状させることで心理的な圧を掛ける。
もしも言い淀んだりしたら、即座に投獄してやるからな。
ほら、あと40秒だ!!
「自分は平民で、ルル様の料り……」
「へいっ……。娘では不可能だ。未成年は貴族として扱わないからな。書類を書かせた大貴族がいるはずだ」
「え……、フリッカ様っす」
ほう、フリッカ……、ルートルインの母親か。
東方辺境伯爵の妹であり、様々な所にとてつもない影響力を持つ大貴族。
王にすら歯に物を着せぬ言葉を発する、絶対に侮ってはならぬ人物だ。
……私の妻じゃねぇか!!
「おい待て、なんで妻が出てくる?」
「お料理友達っすよ?何か困ったら相談してって言われてるっす!」
「そうか。料理の提供はいいから、大至急、妻を連れて来てくれるか?今は1番サロンにいるから」
「了解っす!」
カマを掛けても問題なし。
満面の笑顔で快諾されてしまった。
いや、ここに来て謎が増えるか、普通!?
平民って言ってたよなあの娘、なんで王妃と友達なんだよ!?!?
「あーすまぬ。接続を繋ぎ直していた」
「疲れた顔をしているが、大丈夫か?」
「あぁ、問題ない。……なんとかなるさ」
一応、問題を退室させたし、妻が来れば状況を立て直せる。
だから『問題ない』で合ってるはずだ。
味見が出来なくなった点と妻の友好関係の謎という、別の問題が増えたが。
『では、②の料理名を発表させていただきます。『ライスバーガー』。こちらの料理はパンに見立てたご飯に具材パティを挟む、その名の通り、バーガータイプの料理です』
ちょっと目を離した隙に、次の料理の配膳が始まった。
……で、おにぎりの欠片も見当たらないが、アレは何を作っているのだ?
『ふ、ふぇぇぇ!?ご、ご飯を、焼いてますぅ……ッ!?』
『うそでしょ、そんなことしたら……、せっかくのモチモチが無くなっちゃうじゃないの!!』
「なに!?ご飯は焼いても良いのか!?」
「アレも夜会に出てくるよな!?楽しみなんだぜ!!」
「な、なんという革新的な方法を……」
腹黒眼鏡が目を見開いているが、なんだろうな、アレ。
とりあえず分かるのは、あの料理が本気で美味そうだということだ。
料理人を外に出したのは失敗だったかもしれない。
『ご飯バンズの上に、厚さ5㎜程のミニッツステーキを5枚。その上にレタス。そして……』
『おい、ちょっと待つのだファナティ。その白いクリームは……!?』
『いけない。この世ならざるものが生まれてしまう。どんな修行を積んだ聖女でも、対抗手段は絶無』
「この世ならざるもの、か。ライラ姫がはしゃぐのも納得の光景だな」
「見ろよあの汁。あんなニクニクしい料理、美味いに決まってるんだぜ!!」
「ご飯に、肉に、葉野菜……、それに白いクリームは……」
マヨ……、か……?
だとすると、マヨは肉料理にも合うということ。
ますます、雑に出して良い調味料じゃなさ過ぎる。
『……おぉ、神よ。僕らに御身の祝福を与え給え~~』
『……。』
『……。』
『……!』
『ほんにゃら~、ほんにゃり~~、ぺこぺこ~~、うぇ~~い』
「ん?なんだライラ姫が踊り――!!」
「馬鹿な……、あれはッ!!」
腕を上にあげたくねくね踊り、どこかで見たことがあるな。
ん-、そうだ、リージョン法国の神事か?
「リージョン法王よ、あれは大霊公神事の神卸しの儀式舞であろう。こんな所で出して良いのか?」
「……よくありません。最上位祈祷は3年に一度、限られた人にのみ見せる事で霊威を高めるもの。それを5000万人が目撃している場所で披露するなど……」
どうやら、ライラ姫もやらかしたらしい。
賢い子ってイメージがあったが、年相応な所もあるようだ。
「しかし、なぜでしょう。あの子が理解していない筈が……」
「あまりにも美味そうなので、テンションが上がってしまったのではないか?」
「そんな直情的な失態をするはずが無いでしょう。貴方じゃあるまいし」
「ほぉう?我みたいな馬鹿ではないと?」
私も言えた義理じゃないが、トップメシア王が直情的なのは公然の事実。
今も熟れ過ぎて膨らんだメロンみたいな顔をしている。
『……ふーふー』
『美味そうだな』
『美味しそうね』
『匂いは美味しいですぅ』
『ふーふー、ぱくっ!!』
ライラ姫が、ライスバーガーをナイフとフォークで切り分けて口に運んだ。
わざと崩している可愛さ優先のテーブルマナー。
こういう小技を見てしまうと、さっきの舞いにも意図がある気がしてくる。
『おいし……っ。流石、万能不老霊薬』
「馬鹿な、えぇ、万能不老霊薬……、ですって……!?」
エリクサー?
確かそれは、リージョン法国の悲願。
数百年もの長き間に渡り研究が行われている、神話上の薬だ。
「ギオンコロニ王。貴国は万能不老霊薬の開発に成功したのですか……?」
「ふっ、初耳だな。アレはライスバーガー、それ以上でも以下でもない」
そんな大層なものだって知ってたら、こんな雑に出さねぇだろ。
というかそれだと、貴国が数百年を掛けても出来ない薬を、ウチの謎料理人集団が1時間足らずで開発したってことになるぞ。
「万能不老霊薬か。かのような薬があってなお、貴殿は喉を痛めているのか」
「本当に知らんのだ。確かにライスバーガーは優れた料理だが、別名があるなど想像すらしておらぬ」
リージョン法国が万能不老霊薬を完成させたという報告はされていない。
腹黒眼鏡が調理中に反応していなかったことを見ても、万能不老霊薬認定は想定外のようだ。
『なぁなぁ、どう美味いのだ!?私にも分かる説明で頼むぞ!!」
『僕は、ライスバーガーを完璧な栄養素を持つ、優れた食べ物として見ていた」
「リージョン法王よ、ライラ姫が言う通り、万能不老霊薬は高い栄養価の料理という認識で良いのか?」
「いえ、記録に残っているのは、豆のような形状の丸薬です」
「野暮なことを言うが、全く違うようだが?」
「ですが、ライラがそう言っている以上は……」
前々から思っていたが、ライラ姫は情報拾得系の個別魔法を持っているだろうな。
リージョン法王の焦りようから察するに、かなりの異常事態なのが見える。
「一応確認しておきたい。この配信は貴国でも放映されているか?」
「流してますよ。リアルタイムで」
「……万能不老霊薬の名が出たことで、どんな影響が起こる?」
「想像しても、その通りにはならないでしょう。本来、万能不老霊薬は秘匿すべき超常の代物とされています。そのせいで製造方法が途絶したのですよ」
「そんなヤバそうなものが、あろうことか、私の国に?」
「あったんですね。あ、開発者にお話を聞かせてくださいね。拒否は許しませんよ」
ご飯に肉と葉っぱを挟んだだけで、どうしてそうなる!?
マヨか、マヨがいけないのか!?
ほんとマヨって奴は、どれだけ私を迷わせれば気が済むのだ!?
なお、国王同士の許さない=戦争だ。
これはもう間違いようがない暗黙のルール。
『解き放たれた『もっとも濃い旨味』。グレービーソースを得た香ばしいご飯のウマミは、さながら魔法のように、食べた人を健康にする』
『ん。ちゅーー。ぷは!オレンジジュースとの相性もばっちり。控えめに言って、神』
「おい、ついに神だとか言い出したぞ」
「ちなみに、リージョン法国での神とはどんな感じだ?」
「この場合は、命と食事を司る獣神・アルカディアでしょうね。最高神直属の配下が宿る料理だと言いたいのでしょう」
「マジか。俺の小遣いでレシピを買うのは厳しそうだぜ。おーい、財務大臣を呼んでくれー」
度肝を抜く料理を出したいと思ってはいたが……、魂を粉砕するレベルの料理を出すんじゃない!!
値段の付けようがないだろ、味見すらしてねぇんだぞ!!




