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第8話 「国王様たちは今夜の晩餐に想いを馳せるそうです」


『よし!おにぎりディベートバトル第二部を始めるのだ!!』

『が、がんばりますぅーー!』

『……ライラ、ほっぺにご飯粒ついてるわよ』

『やば。てへぺろり!!』



「始まったか」

「2回に分けたって事はパワーアップするんだろ?何が出てくるか楽しみなんだぜ!!」



 ……そうか、してしまうのかパワーアップ。

 しないで欲しいと本気で思っていたが、どうやら、私のちっぽけな願いなど神には届かないらしい。


 なにせ、目の前の謎料理人メイドがかき回している鍋から、めっちゃいい匂いがする。

 つーか、ここは通信設備があるとはいえ、資料も保管されている執務室だぞ。

 歴代の王族が書き溜めて来た書類に匂いが付いたらどうしれくれるのだ!!



「リージョン法王よ。貴殿の娘は随分と自由奔放なようだな。他の姫の倍は食っているぞ」

「そりゃ、甘やかしてますから。王族教育の他に儀礼や祝詞なども覚えなくてはならないのです、多少の我儘くらい可愛いものです」



 ライラ姫もルートルインと同じ長女だったな。

 分かる、分かるぞ、つい甘やかしたくなるんだよな。

 流石に今回は叱責するがな。


 おにぎり夜会を渋っていた理由の一つとして、今日中にルートルインから話を聞きたかった。

 子供特有の暴走だろうと、問題は問題。

 国王としても親としても叱責は必須、そして、しっかりと誉めてもやりたい。


 アプローチが間違っているとはいえ、ルートルインは国益を考えて情報を持ち帰った。

 結論、魔法だろうが自力で考えたのだろうが、情報が持つ価値は変わらない。

 有益であるのなら、褒章は与えるべきだ。


 そして、今後の対応を考えなくてはならない。

 なにせ、『夢旅行』がもたらす恩恵は、こんなものじゃない筈だ。



「ほう、レイミスがくじ引きを提案したぞ。流石は我が娘だ」

「賢明な判断ですね。ライラは一番美味しそうな料理を譲らないでしょうから」

「何が出てくるか分からないっても面白いんだぜ!!」



 私的には困るんだが。

 料理名を先に聞いておけば、どんな料理かを想像できるのに。


 そして、第2部の一番手はリリカル姫に決まった。

 というか、たぶん、ファナティシアがそれぞれの姫の好みに合う料理に振り分けている気がする。

 11次元の扉を使えば、番号プレートを差し替えるなんて児戯に等しい。



「それにしても、あの大掛かりな料理器具は何だ?」

「鍋が見えますが……、なるほど、付け合わせのスープ的な?」

「セットメニューもあるのか。おにぎりはすげぇぜ!!」



 そうじゃない。

 そうじゃないぞ、王達よ!!


 目の前にいる謎メイドは、あろうことか、ご飯を握らずにティーカップに盛り、その上からお玉で掬った汁をダバー。

 更に5秒考えたのち、スプーンでかき混ぜ始めやがった!!

 何だ、何をしているというのだ!?



『失礼いたします。こちらは『グヤーシュライス』でございます』

『うわぁーー!美味しそうですぅ!!』


「馬鹿な、一皿の上にグヤーシュとご飯だと……」

「なんという事でしょう。素晴らしい発想です」

「リリカルも目を輝かせてるんだぜ!!」



 ……あれ?

 リリカル姫の前にある料理、私の前にあるものと違くない?


 配信に映らない位置に置かれているティーカップの中は、茶色一食。

 ドロッとしたグヤーシュにご飯のつぶつぶが混ざっている、不気味な料理だ。

というか、おにぎりなんだから握れよ!!



「考えたな、ギオンコロニ王よ。出されてみれば納得の料理だが」

「先におにぎりを見せられたことで、ご飯はにぎるものという固定観念が生まれていましたからね」

「にぎるって面倒だしな。適当に皿に盛って食えるこっちの方が親しみやすいと思うぜ!!」



 ……まさかの絶賛なんだが!?

 おにぎりなんだから握れよ!!と思った私が子供みたいじゃないか!!


 まぁ、あっちのグヤーシュライスのことは良い。

 問題は私の手の中にある、このグヤーシュ沼だ。



『リリカル様、補足の説明をしてもよろしいでしょうか』

『あ、はい、お願いしますぅ』


『こちらは様々な種類があるグヤーシュの中でも、とろみを持つビーフシチューのような味わいの料理です』

『色んな具材が入っていて……、あっ、ニンジンが星型になってますぅ!?』


『煮込みに適した部位のお肉は、噛むまでもなくトロトロ。逆に、野菜は食感を残す火入れです』

『よく見たらジャガイモはハート型ですぅ!』


『そして、10種以上のスパイスが溶け出したスープと、爽やかな青のりご飯。こちらをお好みに合わせて匙に乗せて頂くことで、グヤーシュライスは完成いたします』



 ……私の料理、説明と一致していないのだが?

 ニンジンもジャガイモも砕けて、識別不可能なんだが?



『それではいただきますぅーー。はむっ!!』



 これで本当に良いのかと料理人を睨みつけるも、親指を立てたジェスチャーで、『大丈夫っす!!』って返された。

 色んな意味で大丈夫じゃないだろ、私、これでも国王だぞ。


 だが、食うしかない。

 夜会が決定してウキウキな国王共から、味の説明を求められるだろうし。

 あーもう、すっごいドロっとしてる。

 一口サイズで提供できないのは分かるが、もっとこう――ガフッ!!



「げほ、ゲホゲホ!!」

「どうした、ギオンコロニ王!!」

「血が!!まさか吐血を!?」

「緊急事態だぜ!!」


「ちが……、これは喉に良い薬草茶でな。粘度が高く、油断するとむせてしまうのだ」



 や、やらかした!!

 あまりの辛さにせき込み、口からグヤーシュが漏れてしまった!!

 心情的には吐血しそうだが、流石に30代で病に伏したくはない!!



「……後で相談に乗りますよ。ギオンコロニ王。研究を続けている良い薬があるのです」

「うむ、そうさせて貰おう」



 うわ!!これが薬草茶じゃない事を見抜かれたァァ!!

 だが、流石のリージョン法王もグヤーシュだとは思うまい。

 ティーカップに入れてるとか、意味不明過ぎるしな!!


 というか、普通に吐血したと思われたっぽい。

 だとすると、死に掛けている私が最期の仕事として、ご飯の布教を推し進めたってことに……?

 誤解だ、リージョン法王!!

 確かに胃は傷ついていると思うが、血を吐くほどではないぞ!!まだ!!



『どんな味だリリカル!?普通のグヤーシュと違うのか!?』

『ぜんぜん違います。このグヤーシュは匙を口に入れた瞬間、ビックリしちゃう辛さなんですぅ』


『え、か、辛いのか?グヤーシュなのに!?』

『でも、ただ辛いだけじゃないんですぅ。だってそれは、ご飯があるから』


『ご飯がどう作用するの?詳しく』

『率直に言いますと……、味が完全に変わったんですぅ』



 ……うん。すっげぇビックリしたぞ。

 次からは姫のリアクションを見てから食おう。


 つーか、この辛さを食べても平気なのか?リリカル姫。

 油断無しで食っても、うん、相当辛いぞ、このグヤーシュ。



「アルアグレン王帥、一つ聞きたいのだが……、リリカル姫は辛いものは大丈夫なのか?」

「俺のかみさんが超辛党なんだぜ。ちなみに、リリカルが平気な顔して食ってる料理を摘まみ食いしたら、10分くらい悶絶したぜ」



 残念勇者を倒すほどだと……?

 何だその料理。魔王か何かか?


 というか、この料理はルートルインには辛すぎるだろ。

 現時点でかなりの罪を背負っている料理人だが、どう処すべきだろうか。



「先ほどのアスパラペッパーベーコンも辛いと言っていたな。うむ、合わせる酒はやはりビールだろうか」



 おい、飲んだくれメロン。

 夜会の前に、娘の心配をした方が良いぞ。

 侍女が言っていただろ。

「レイミス様にはペッパーベーコンは辛すぎる」って。

 多分、グヤーシュライスを食ったら泣くぞ。



「アレはかなり辛い。従来のグヤーシュに近い甘口の方が、子供受けは良いかもしれぬな」

「なんだと!?」

「ランダムとはいえ、そんなものを娘に食べさせようとしたのですか!?」

「リリカルが汗をかいてる。かなりの筈だぜ……」



 実際は、ファナティシアが抽選に細工をしたと思うが……、確かに正気の沙汰ではないな。

 いくらルートルインに無茶ぶりされて時間が無かったとはいえ、子供が食えないレベルを出すなよ、料理人。



『でも、ただ辛いだけじゃないんですぅ。だってそれは、ご飯があるから』

『ご飯がどう作用するの?詳しく』


『率直に言いますと……、味が完全に変わったんですぅ』

『味覚はそんな簡単に変化しない。それこそ、大量のドリンクで流し……!!』



 だが、風向きが変わった。

 どうやら、ご飯の量を調整することで、辛さを抑制できるらしい。



『そうです。噛みしめたご飯の甘みがグヤーシュと結びついた瞬間、限界を超えて煮詰まっていた旨味が緩和されます』

『な、なにそれ……、そのグヤーシュ、どんだけ濃いっていうのよ!?』


『誰も食べたことがないくらいですぅ。少なくともウチは、こんな濃すぎるグヤーシュは知らないですし、これが普通の食事で出てきたら違う意味でびっくりして、匙が止まりますぅ』

『食べられない程に濃いっていうの!?嘘でしょ!?』


『バターやマーガリン、サワークリームだけを食べるのと一緒ですぅ。美味しい、けど、二口目はいらない。そんなあり得ない濃さのグヤーシュなんです』


『う、む……、それでその、美味しいのか?』



「美味そうに聞こえないぞ、ギオンコロニ王よ」

「いえ、もしや……」



 私と同意見なトップメシア王と、何かに気が付いたリージョン法王。

 そして、アルアグレン王帥は黙っている。



『美味しいかって?……美味しいに決まってますぅ!!』

『ぇ』


『グヤーシュが濃すぎるから、ご飯や野菜、お肉の味が鮮明に際立つんですぅ!!』

『ご飯やお肉の……、そうか、ガーリックステーキと同じ原理か!!』


『この味わいはパンじゃ絶対に無理ですぅ!!ご飯だからできる味付けなんですぅ!!このグヤーシュには凄いトロミがあります。多分、このグヤーシュそのものにお米が使われていますぅ』


『なん……、だと……?』

『それだけじゃないですぅ。おそらく、具材のお肉や野菜もペースト状にして混ぜ込んでいるんだと思います。だから、お皿の上のどんな食材の組み合わせでも、違和感なく溶け込むんですぅ』


『馬鹿な……、そんなの、美味いに決まってる……』

『ビックリするくらい辛く、信じられないくらいに濃厚なのに、ご飯や具材の味が優先される新しい料理。こんなに美味しい料理がバズらないなら、何がバズるんだって話ですぅ!!!!!!』



「……驚きを隠し切れぬな。同じ料理で大人から子供まで満足できる工夫までしてあるとは」

「適度な辛さは食欲を刺激し、消化吸収を促進させます。端的に言って、体に良いのです」


「今夜は期待できるな」

「えぇ、最高のディナーになりそうですね」



 おぉ、ルートルインよ。

 まず、そのよだれを拭きなさい。

 そして、グヤーシュライスをリクエストするのは止めておきなさい。


 青ざめた顔で目が泳いでいるアルアグレン王帥の反応を見る限り、リリカル姫もかなり辛いと思っているっぽい。

 大人が悶絶する料理を平気な顔して食う少女がだぞ。

 というか、料理人に国家内乱罪を適用した方が良いかもしれない。


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