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第5話 「国王様たちはマヨに恐れおののくようです」

 

「米は広義でいえば野菜でしょうか。それでエビを包んだ料理がサラダではない?不思議ですね」

「レイミスがそう言ったのならそうなのだ。なにせ、我が娘は神の舌を持っている」



 レイミス姫と親馬鹿のリアクションに耳を傾けつつ、各国の王に悟られぬようにティーカップへ視線を注ぐ。

 何事もありませんよ?ただ喉を潤すだけですよ?

 そんな顔で優雅にティーカップを持ち上げ、唇の前で傾ける。


 ……これが、おにぎり。

 ひとくちで口に含めるように丸めてあるものの、白い粒々は映像と瓜二つ。

 蒸気からはレモン系の爽やかな香り。

 どう考えてもサラダのようにしか思えぬが……、いざ、実食!!



『そうなのか?柑橘の爽やかな香りがするのに?』

『えぇ、レモンにオレンジピール、ハーブまで混ぜてる念の入れようね』


『なのにサラダじゃないと?』

『全っ然っっ、違うわよ!!甘くて、酸っぱくて……、エビに野菜に果実に、色んな味の油が私の舌に絡みつくの!!溺れるの!!』



 こ、これは……、な、なんという濃密な旨味!!

 プリッと弾けたエビの甘みは分かる、だが、この油はなんだ!?

 それに、このご飯の食感だ!!

 もっちもちな触感と歯切れのよいエビ、そして、舌に絡む油!!

 うまい、うますぎるっ!!



「ふむ、レイミス姫のリアクションを見る限り、どうやら、マヨとやらが味の決め手のようですね」

「手元のおにぎりの内部は薄ピンク、若干色が薄いがケチャップか?」

「当たらずとも遠からずだ、トップメシア王」



 現物を実食した今の私ならば、完全武装した魔導騎士団を弁論で圧倒できる。

 いや待て、軍人を言いくるめてもしょうがないな。落ち着け私。



「あれはマヨだ。ケチャップを加えて味を整えてあるがな」

「ほう?」


「レイミス姫の言う通り、マヨは甘く、酸っぱく、しょっぱく、多彩な味を併せ持つ複合調味料。間違いなく、新時代の調味料であると宣言しよう」



 王同士の会談では、どれだけハッキリ言い切るかが大事だ。

 多少の不安など、無視。

 目の前のメイドは本当に料理人か?私のおぼろげな記憶では確証にはならないぞ?とか思いつつも、顔に出す訳にはいかぬのだ。



『マヨ。そうよ、このマヨがいけないのよ。何らかの法に触れていてもおかしくないわね!』

『犯罪的美味しさ? うける』

『そ、そのようなものがロイヤルディッシュに……』


『例え話よ。でもね、甘いのとしょっぱいの。酸っぱいのと苦いの。とろけるのと香ばしいの。色んな味覚要素が全部入ってるなんて、法律で規制されてもおかしくないわ。だって、美味し過ぎるもの!!』



 ……たとえ、危ない薬のような扱いをされそうになっていても、表情を変えてはならない。

 不安で押し潰された胃がキュグオッ!って鳴っても、表情を変えてはならぬのだ。



「聞くまでも無い事だが……、マヨは安全なのであろうな?」

「私と料理人の誇りに掛けて、そのような懸念は不要であると強く言わせていただこう」



 これはハッタリではない。

 ルートルインの口に入る可能性があるものを、ファナティシアが確認していない訳がない。

 それに、おにぎりを作ったであろう料理人『破壊の美食学者』は、ルートルイン(とファナティシア)にのみ絶対的な忠誠を捧げている料理狂集団。


 王貴族の身分、何それ?

 んなもん犬ですら食わねーよ。生ゴミ以下だぜ!!


 と平気で言うような奴らだからこそ、高位貴族から受ける影響の心配がない。

 そして、彼らは料理の実力を認められた超有能集団でもある。

 そこに悪意がない以上、問題なんて起こりようがない。



「うぅむ……、レイミスがあれほど気に入るか。ギオンコロニ王よ、もちろんマヨの製法も売ってくれるのであろうな?」

「正直に言えば、悩んでいる所ではある」


「なんだと!?」

「今回のメインは、あくまでも米と炊飯なのだ。ロイヤルディッシュで売買を結ぶ文化発明は、一か国一つと決まっているではないか」



 これは体の良い断り文句。

 ぶっちゃけ、来週のロイヤルディッシュでマヨを使った料理を出し、万全の状態で利権の売買を行いたい……というのが、私の本音だ。



「いやはや、ギオンコロニ王も人が悪い」

「だぜ!その為に子芝居を打ったんだから、勿体ぶるのは無しだぜ!!」



 ……なに?

 何の話……、あっ。


『私には、この『ご飯』に秘められた途方もない価値が計り知れぬ。それ故に通常とは異なる方法を用いさせて貰った』

『形式に則っていないのならば、後に無効とすることが出来る。そうは思わないか?』



「ふっ、痛い所を突いてくるではないか。流石はリージョン法王とアルアグレン王だ」

「駆け引きぐらいしか得意分野がないものですから」

「俺はリリカルが食べたそうだから確保したいだけだぜ!!」



 ぐぅ、仕方がない。

 マヨの価値については、内務・外務大臣と相談して決めたか……、あ。

 というか、私、マヨの作り方を知らない。

 それでどうやって売れというのだ?



「……だが、私の意図を掴みあぐねているようだな」

「何のことでしょう?」


「おにぎりはまだ7種類も残っている。姫達のリアクションを楽しみ、それぞれが深く考え、そうしてようやく食べたいおにぎりを手に入れようとする。そんな国民の行動を貴殿らにも味わって貰いたいからこそ、このように策を弄したと言っているのだ」



 王である私たちは、基本的に、望んだ物品は何でも手に入る。

 注文してから届くまで待つことはあっても、買えるかどうか分からないという経験は無いに等しい。

 だからこそ、目的のものを手に入れる時の苦労と葛藤、それは得難い経験であると言わせて貰おう。


 って感じの意見で時間を稼ぐ。

 外に出て行ったセイヴァースは資料を抱えて帰って来るはず、その時までは絶対にYesともNoとも言わないんだからな!!

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