第4話 「国王様たちはリアクションにときめくようです」
「ギオンコロニ王。だからなんなのだ、その顔は。主張があるのならば言えばよかろう」
娘のやらかしに加担した身元不詳の謎女が入室し、目の前で持参した荷物を物色し始めた。
……なんて言える訳ないだろうがッ!!
国の威信よりも先に、私の正気が疑われるぞ!!
「いや何、娘たちが選んでいる様を見て、初めておにぎりを見た時のことを思い出してな。驚愕で目を見開き、背筋は凍り付き、滝のように吹き出す汗を必死に隠しながら王としての威厳ある姿を取り繕う。それくらいの感動だった」
「そんなに衝撃的だったのですか。それはそれは」
「未確認生物でも見つけた顔だったぜ!!」
未確認生物か、おおよそ合ってるような気もするな。
メイドの格好をした料理人が、こともあろうに王族専用執務室で、何かの道具を広げている理由が見当もつかん。
今すぐ衛兵を呼んだ方が良いだろうか。
いや待て、一応、彼女は味方であるはずだ。
あのファナティシアが寄越した人物だぞ。
「それぞれの姫がおにぎりを選び終えたようだ。ルートルインはアスパラペッパーベーコンか」
「ライラは豚の生姜焼き」
「リリカルは銀シャケバターソース」
「そしてレイミスがオーロラエビマヨとやらか。さて……、」
一応、エビマヨ以外は味の想像ができる。
今日出す予定だったメニューが一つもないのが気がかりだが……、頼むぞ、姫達!!
出来るだけ分かりやすい食レポを頼む!!切実に!!
『では、みんなでおにぎりを手に持ってーー、いただきます!!』
『『『いただきまーす!!』』』
「……食べたぞ。なッ!?」
「何が起こった!?」
「これは、うん。堪能してますねぇ」
「みんな笑顔なんだぜ!!」
姫達のリアクションに共通するもの。
それは、全員が目を閉じて、しっかりとおにぎりを味わっていることだろう。
私自身も経験しているが、本当に好みに合う美食に出会った時、自然と目を閉じてしまうものだ。
視覚をシャットアウトし、舌に全神経をそそぐ。
そんな光景が今、麗しき姫×4という凄まじい付加価値と一緒に全国放送されている。
色んな意味で心配だ。
「本当に美味しそうですね。ライラのあんな顔、久しぶりに見ましたよ」
「失礼を承知で申し上げるが、貴殿の娘は子リスか何かか?」
「一応は聖女ってことになってますねぇ」
リージョン法国のライラ姫の頬はパンパンに膨らませている。
一口目は様子見をしていたようだが、二口目は思いっきりいった。
そのリアクションだけで相当な美味というのが伺える。
「馬鹿な……、我のレイミスが、あんなにも幸せそうな顔を……」
そして何故か、トップメシア王がダメージを受けている。
自分が関与してない所で娘が楽しそうにしていることに、思う所があるらしい。
『……ねぇ、ルートルイン?』
『何なのだ?』
『何なのだ?はこっちのセリフ!!マジで何なのよこれはッ!?』
『エビマヨおにぎりであろう?もしかして、口に合わなかった……、のか?』
『んな訳ないでしょ、逆よ逆!! 美味しすぎるっつってんのよー!!』
アオリにも聞こえるが、ルートルイン的にはそのままの意味で聞いただけだろう。
たぶん、試食すらしていないに違いない。
それにしても、落ち着いた令嬢であるレイミス姫が取り乱すほどか。
マジでどんな料理だよ、オーロラエビ迷。
「ギオンコロニ王よ。マヨについては」
「もちろん言えぬな。姫達のリアクションを見るが良い」
ぐぬぬ……。って顔をするな、トップメシア王。
マヨを知りたいのは貴殿だけではない。
「ご飯レポのトップバッターはレイミス姫から。楽しみですね、トップメシ王?」
「うむ、教養深き我が姫なるぞ。無論、ディベートにも長けておる」
……極寒の親父ギャグが聞こえなかったか?
だが、今はそれどころではない。
謎メイドが給仕の支度を始めた。
見ないようにしていた奇行の正体は、私に茶を入れる行為だったらしい……、え。
『初めに言っておくわね。……このエビマヨおにぎりは、サラダなんかじゃないわ!!』
4つの画面越しに、驚愕の声が上がっている。
私自身、サラダっぽいなと思っていたし、各国の王もそう思っていたようだ。
だから問題は画面の中ではなく……、すっと差し出されたティーカップとメイドが掲げている紙の方だ。
《ミニエビマヨおにぎりっす!めちゃウマっすよ!!》
白い陶磁器の中に鎮座する、一口サイズのご飯ボール。
それが私には、神の与えし恵みに見えた。




