第3話 「国王様たちは見栄とハッタリをかますようです」
『それでどうだ。とても吃驚したであろう!?』
『確かにとーっても吃驚したわ。ほくほくのお米がこんなに甘くて美味しいなんてね』
現状を打破するには、ルートルインの言動に注視して、情報を得るしかない。
ないんだが……、大した情報が出てこない。
当たり前のことではあるんだが、ロイヤルディッシュでは詳細を発表しない。
裏で行われている国王会談……、つまり、ここで発表するものだからな。
だから、手に入る情報は姫達のリアクションのみ。
くそう、せめて現物があれば、どうにかできるのに!!
「食感はホクホクで甘いと。通常の米からは想像も出来ぬな」
「芋を茹でたような物でしょうか?崩れてしまいそうですが」
「だぜ!」
トップメシア王とリージョン法王が考察しているのは、正解を言い当てることで安く買い叩く為だ。
少し考えただけで分かるのだから大した価値はない、という理屈だな。
普段はそんなことはさせまいとするのだが……、正直、今日はさっさと正解を言い当てて欲しい。
よし、そっちの方向に話を振ってみるか?
「先んじて言ったが、米の炊飯は大規模な変革を伴うものだ。だがしかし、手順は大して複雑ではない。それこそ、方法を聞いた料理人ならば、2時間もあれば完成させられる程度にな」
現時点で私だけが持っているアドバンテージ、それは、この情報の出所がルートルインの夢だと知っていることだ。
つまり、起床6時~ロイヤルディッシュ開始の10時までの4時間で、料理人に炊飯理論を伝え、提供可能なレベルの成功をさせたということ。
ルートルインの準備や調理時間を除けば、説明の時間は30分くらいだろう。
だからこそ、炊飯は知っていれば誰でもできる程に、簡単。
それを伝えるだけで、理知深いリージョン法王なら答えを導き出してくれるかもしれない。
「おや、そんな短時間で出来るのですか?素晴らしい」
「……どう素晴らしいと思うのだ」
「米の調理は時間が掛かるものです。煮潰し、布で漉し、ベーススープを作ってから味付け。慣れた料理人でも2時間は掛かるでしょう」
「うむ、そうであろうな」
「ですが、ギオンコロニ王の言が確かならば、初見の料理人ですら2時間も掛からない。従来の米の調理とは根本的なアプローチが違うんでしょう。考察しようと思いましたが、いやはや、お手上げですね」
諦めないでくれ、リージョン法王!!
貴殿以外に誰が答えを導き出せるというのだ!?
ブチ切れてるメロンと、「だぜ!」しか言わない残念勇者しかいないんだぞ!!
『うむ、御飯の甘さも香りも特別なのだ!!』
『だけれど……、料理と呼ぶには素朴過ぎないかしら?』
「娘の言う通り、まさかこのまま終わる訳ではあるまいな?ギオンコロニ王」
「野暮なことを聞いてくれるな、トップメシア王。ロイヤルディッシュに相応しいコース料理を用意しているに決まっているだろう」
幸いにして、ご飯とやらはパンと同じ役割に見える。
ならば、豆祭りで出す予定だった料理と共に配膳し、食べ合わせを楽しむという方向性になるはず。
そうすれば、知っている料理をダシに使って解説でき……、
『ふっふっふ、本命はここからなのだ。今日は塩おにぎりの他に8種類も用意しているのだぞ!!』
『食べたいものを選ぶビュッフェ形式かしら?それとも全て出すコース料理?』
ふっふっふ……、じゃないんだが!?!?
何がどうしてそうなった!?普通に皿に盛って出せばいいだろ!!
『うむ、問題解決も踏まえ、ちょっとした余興をしたいと思っているのだ』
『……なによそれ?』
『題して『おにぎりディベートバトル!』 それぞれが食したおにぎりを食レポして一番美味そうだと思わせた人が勝ちの、仁義しかない戦いなのだ!!』
だから何なんだよ、それはッ!?
無邪気な子供ほど怖いものは無いなんていうが、それにしたってやり過ぎだろ!!
どう考えても王家の危機、超絶ピンチだぞ、私!!
『――つまり、みんなで違うおにぎりを食べて、感想を言い合おうってことね?』
『ん、理解した。でも、ルートルインは『仁義』という言葉を使った。仁義とは『人として正しい行い』。おにぎりの食レポは人として当然の通すべき筋道ということ?」
『うむ、ライラの言うとおりだ。おにぎりを食べたら食レポしなければならない。絶対必須のマナーなのだぞ!!』
『そ、そうなんですかー?それは大変ですぅー』
「仁義ですか。なるほどなるほど……、ギオンコロニ王の本気度が伺えますね。ご飯に対する情報を伏せることで、歪みの無い意見を求めているのでしょう」
「そうだ。虚偽の資料を用意したのも、姫達の感想を予備知識なしで見て貰う為。それが、今後の国民が得るものであるからだ」
上手い!!
我ながら上手い返しだ!!
「おにぎりの具として、ベーコン、シャケ、豚肉……、獣と魚の差はあれど、ご飯は肉と合わせるもののようですね?」
「味の濃い具とご飯の相性は、この上なく高いものだ」
「おや……?4品目は聞き覚えの無い料理名でしたね。オーロラエビ、マヨ?」
……マヨ?
マヨってなんだ?
迷ってことか??
『マヨは新しい調味料なのだ。甘くて、酸っぱくて、しょっぱくて、濃厚で、まろやかで、香りも良い。これも炊飯に負けない革命なのだぞ!!』
『……果実を加えたグレービーソースかしら?』
『全く違うぞ!!だが美味しいのは確実なのだ!!』
だから何なんだよ、それはッ!?
未知の調味料なんて、10億エドロは毟り取れる超一級品の文化発明だぞ!!
どんな判断をしたら、こんな雑に出して良いって思うんだよ!!
つーか、絶対、私を迷わせるために、マヨって名付けただろ!?
子供の悪戯にしたって酷すぎる、そんなもんの解説をどうしろと!?
味見どころか、見たことすらないんだぞッ!!
もはや混乱しすぎて、取り繕えているか不安になって来た。
ここは一息ついた方が良いな、執事のセイヴァースに茶でも入れて貰……え?
私が向けた視線の先にいるのは、白い手紙を読むセイヴァース。
王族専用執務室であるこの部屋には、特定の人物しか入室できない。
だからこそ、緊急時には手紙をドアの下から差し込んで連絡するのだが……、私以上に緊急事態な者など居るものか。
「ごほんごほん……、すまぬ、失礼した。最近は乾燥が酷いな」
そんな手紙など無視してしまえ!という意味を込めて、セイヴァースの気を引く。
ついでにお茶の催促もしつつ……、ちょっと待て、どこに行く気だ、セイヴァース!!
私の咳ばらいを聞いたセイヴァースは頷いて一礼し、さっさと部屋から出て行った。
行かないでくれ!!
こんな状況で一人にしないでくれ、お茶すら飲めなくなるのは嫌だーー!!
「どうした、ギオンコロニ王。物言いたげな顔をしおってからに」
「大したことではない。それよりも、姫達の食レポが始まる様だ」
実際は大したことあるんだよ!!
セイヴァースと入れ替わりで、良く知らないメイド?が入って来たんだからな!!
時系列的に考えて、さっきの手紙は入室許可申請だったんだろうなとは思う。
だが、こんなメイドは私の側近には居な……、いや、顔は見たことあるな。
王宮内に勤めているのは間違いな――!!
そして、私の目に、紙に書かれたトンデモナイ文字が飛び込んできた。
《ルル様の料理人っす!! ファナティシア様に言われて来ました!!》
実行犯じゃねぇか!!
よくも、そんな平気な顔で出てこれたものだなッ!?




