第26話 「姫様たちは欲望を隠そうともしないようです」
「――全部」
「「「え」」」
「全部食べたいに決まってる。だから僕のリクエストは全部。食の聖女様として、料理の究明を軽んじる行いは看過できない」
むふー!と語るライラが、悪びれもなく言い切った。
その当たり前のような開き直りに、流石の姫達も声を潜める。
「……。今日はいつにも増して聖女押しが強いわね」
「……。先週は衣装の聖女様だったですぅ」
「……。たぶん、賢そうな言葉をよく考えずに喋っているだけなのだ」
「僕はか弱き声さえも拾い上げる聖女。なのですごく耳が良い。むぅぅぅ!!」
『企画の趣旨を理解していないのかしら?この子』という、三人の視線。
流石のライラも友達からアホの子扱いされることには文句がある。
なお、彼女は既に16歳までの義務教育課程を終え、趣味で受けた高等学院の入学試験に余裕を持って合格している。
「むぅ、じゃあみんなは食べたくないというの?この神の宿る聖櫃の数々を」
いくら勉強ができようとも、欲求が減る訳ではない。
むしろ、好奇心旺盛だからこそ勉強にも手を出したというのが真実。
だからこそ、ライラは『我慢は身体に毒、国策にも反する』という飛躍した信条を掲げている。
「どうなの年長代表レイミス、答えて」
「ちょ、こんなときだけ年上扱い!?」
「さぁ!」
「……食べたいけど。食べたいに決まってるけど!!食べる量には限界があるでしょうが!!だから一番を決めなさいって言ってるのよー!!」
ライラの平均的な凄みに怯みながらも……、レイミスは負けなかった。
この子たち(ルートルイン・ライラ)の暴走を止められるのは、わたくしだけ!!
それを知っている彼女のツッコミは、窮地に立たされるほど真価を発揮する。
「ほらさっさと決めなさい。進行が滞るでしょ!!」
「じゃあ食べる順番を選ぶ。10カウントの後でみんな同時に発表。じゅー、きゅー、はーち」
「え、ちょま、早い早い!!」
唐突に始まった10カウント。
あまりの急展開で慌てるレイミス、そして、この切り返しを予想していたルートルインとリリカルはタイミングを見計らう。
「いーち、せーの!!」
「ライスバーガー!」
「ライスバーガー!」
「鯛の炊き込みご飯!」
「鯛の炊き込みご飯!」
綺麗に重なった2種類の声。
ルートルインとリリカルが選んだ、ライスバーガー。
ライラとレイミスが選んだ、鯛の炊き込みご飯。
こうして、ディベート②はツートップという結果に終わった。
「ふはっ、キレイに真っ二つだな!!」
「選ばれなかったのは悔しいけれど……、納得の結果よね!」
「苦渋の決断すぎる。人生で一番悩んだかもしれない」
「10秒しかなかったですぅー」
存在感アピールの為にツッコミを入れるリリカルと、吹き出すルートルインとレイミス。
意図的なボケを拾って貰えたライラも笑いだし、場の空気が一気に温まる。
「うむ、これで獲得ポイントが決まった。レイミスの優勝なのだ!!」
ルートルインの獲得ポイント 『2』
アスパラペッパーベーコン0、鯛の炊き込みご飯2
レイミスの獲得ポイント 『3』
オーロラエビマヨ3、オムライス0
ライラの獲得ポイント 『2』
豚肉の生姜焼き0、ライスバーガー2
リリカルの獲得ポイント 『1』
銀シャケバター1、グヤーシュライス0
「どうやら、わたくしの逃げ切り勝ちのようね!!」
「うぅ、悔しいですぅ。ウチにもっとコミュ力があれば……」
露骨にがっかりするリリカル、だが、三人の姫達は互角のディベート力だったと思っている。
勝敗を分けた要因は、担当した料理の差。
これが『食べたいもの投票』である以上、味が想像しやすいグヤーシュの担当は圧倒的に不利だ。
「でも、わたくしはグヤーシュライスも食べたいわよ!!」
「え?そ、そうなんですかぁ……?」
「ビックリするくらい辛いグヤーシュなんて聞いたことが無い。どんな感じなのかとても気になっている」
「確かにな……、うむ……」
ごくり。と4人の喉が鳴った。
考えていることはただ一つ、『全部食べたいんだけど!!』。
だが、レイミスが指摘した通り、三種類もの料理を食べる胃のスペースも時間もない。
どうしたものかと一同が悩む中、恐る恐る手を挙げたのはリリカルだ。
「あのぅ……、もしもご迷惑でなければなんですけどぉ……、ウチのアフタヌーンティーはドリンクだけの提供にして、そのぅ、ルートルインさんのおにぎりをお茶請けにするというのは……」
3人の姫に激震が走る。
普段は大人しいリリカルのとんでもない提案に、二重の意味で驚いた。
「ん!名案過ぎる。流石はリリカル、常識人の皮を被ったド天然」
「えへ、えへへ、褒めて……、褒めてますぅ?」
「この流れなら言える。僕はディナー提供を辞退する。だから夜も食べさせて」
リリカルの提案に乗っかる形で、ライラもディナー提供の中止を宣言。
現在進行形で準備をしているリージョン法国陣営が絶句する中、思案顔のレイミスが呟いた。
「確かに願ってもないことだけれど……、大丈夫なの?ルートルイン」
「んー、ファナティ。率直に聞くぞ、可能か?」
これが無茶振りであることなど、ルートルインは百も承知。
だからこそ、論理的に判断できるファナティシアに確認を取った。
「可能でございます。ですよね?タナー」
そしてファナティシアは、発言を許されていないタナーに確認を取った。
手元にメモ用紙を届けるという、事前通告も済ませている。
『料理人を続けたければ、頷きなさい』
これは、紛れもない脅迫。
男爵家の令嬢であるタナーは、ハンドルーラー公爵派閥に属している。
その第三子女であるファナティシアに逆らえるはずが無い。
「ファナティの許可も出たことだし、ただいまより、おにぎりディベートバトル改め、ご飯フェスティバルを開催するのだ!!」
「あ、ついに握ってないと認めた」
「こら、ライラ。そういう野暮なこと言わないの!!」
「みんなで仲良く、ご飯を堪能しまくるですぅ~~!!」




