第25話 「姫様たちはおにぎり?ディベート②の総評をするようです」
「レイミスに聞きたい。チキンライスだけを食べた場合はどんな感じ?」
レイミスがオムライスを半分ほど食べ進めた段階で、ライラが質問を飛ばした。
いつもの平均的な真顔、だが、その瞳には『興味津々』と書かれている。
「もちろん美味しいわよ!さっきも言ったけど、香ばしさがすごくってね。でも、ゴマ油って食材の引き立て役じゃない?」
「サラダは当然として、ステーキも味が良い霜降りお肉を使う。世界の常識」
「でも、ご飯って甘み以外の味が無いっていうか、だから、ごま油の味が分かるようになるっていうか……、とにかく新感覚なのよ!!」
「食感は?硬くない?」
「むしろ、クッキーみたいに崩れるけど、もぐもぐ……、お米の食感もあるわよ。これも新感覚ね!!」
ライラが気にしているのは、焼き固められたライスバーガーとの違い。
スプーンで掬われたオムライスが零れ落ちる光景から察するに、全く別系統の料理っぽい。
そんな考察から出た質問、そして、口を開いたついでにダメ押しの『ご飯プロパガンダ』を仕掛けに行く。
「ご飯は凄い。もはや、ご飯=神様なのではと思うほど」
「私が提供しておいていうのも何だが、そこまでか?」
「絶対に言い過ぎではない。ルートルインとレイミスの料理を見て確信を得た」
「え、わたくし達の?」
「炊いたお米は時間経過共に固くなる。ようするに、美味しく食べられなくなる……、と思った」
「確かに、冷たくなったらお米に戻っちゃいそうですぅ」
「でも油で炒めたり、スープに浸したり。手軽にアレンジができるなら、廃棄される量が減るのは当たり前。それに、ご飯はパンを焼くよりも簡単っぽい。家庭内で必要な分だけ炊飯すれば、パンみたいに余ってしまう事もない」
4人の姫の中で唯一、ライラだけは市井の暮らしを経験している。
何らかの事情があった訳ではなく、彼女自身が市民の暮らしに興味を抱いた。
そして、博士号を持つメイドと一緒にこっそり王宮から抜け出し――、2泊3日の街暮らしの後、法王から5日間の説法を貰っている。
「ルートルイン、ご飯の調理方法は誰が考えたの?」
「レシピではなく、炊飯とか炒飯とかの話だよな?」
「そう。誰?」
「それは……、私……なのだ?」
「「「!!!!!!」」」
ルートルインが最初に口にした『夢で見ただけなのだ!!』。
それを三人は『研究・開発した』という意味で受け取っている。
だがそれは、ルートルインの研究者が開発したという認識であり、彼女自身はお飾りの責任者、もしくは味見役だと思っていたのだ。
「え、本当にルートルインが開発したの?誰かに作って貰ったんじゃなくて?」
「うむ、開発というか……、アイデアだけ出したというか……、とにかく、こういう方法で料理をして欲しいと伝えて作って貰ったのが、今回のご飯であり、炊飯なのだ」
知識の出所を詳しく聞くのは、ロイヤルディッシュでのバッドマナー。
ここに国益が掛かっている以上、不特定多数の人物が見ている場所で語るべきではない。
故に、一般の視聴者には、ルートルインが誤魔化したように見える。
だが、付き合いが長い姫達は……、「雑に出したアイデアが大成功しちゃって、自分でも持て余してるわね、この子!?」と真実を見抜いた。
「へぇー、それでも凄いじゃない!!炊飯は間違いなく料理界の革命よ。だってこんなに美味しいんだもの!!」
「今から僕と一緒に聖女を名乗った方が良い。祈祷も教える」
「本当に素晴らしいですぅ。あの、よろしかったら、後で一緒に料理をしてみたいですぅ」
それぞれが尊敬のまなざしを向ける中、ルートルインは笑顔を取り繕うので精いっぱいだ。
彼女達が向ける視線に含まれている『努力への賞賛』。
それがそのままの意味で、『寝て夢を見ただけ』であることなど、口が裂けても言えるはずも無い。
褒められるのは嬉しいのだ。
だけど、なんと言うか……、すっごく後ろめたい気持ちになる!!
寝るのに努力なんて必要ないし、日本に辿り着いたのは運だし!!
一応、生活インフラを手に入れようと頑張ったものの、それだって、イナトが優しい常識人だったから成功しただけだ!!
というか、むしろ怒られる案件な気しかしないぞ……。
日本に出会えた興奮のあまりヤッチマッタ訳だが……、ご飯について何も知らないまま会談をしている国王の顔を見るのが怖すぎる。
母上も怒ってそうだなぁ。
あ、ヤバい。
執事のセイヴァースが、柱の陰で悪鬼羅刹と化してる。
か弱い姫の私ではどうしようもない。
頼むぞファナティ、出番だぞ!!
「と、とりあえず、ご飯を気に入って貰ったようで何よりなのだ!!」
「もちろんよ、調理方法の公開が待ち遠しいわね!!」
「国民の皆さん。もうすぐ万能不老霊薬が食べられるようになる。待ってて」
「えっと、農家の皆さんもそうじゃない方も、お米の生産への協力をお願いしますですぅ!!」
それにしても、思ったより大事になっている気がするのだーー!?
ライラの万能不老霊薬とかいう謎の存在から、ヤバそうな気配がプンプンするし!!
……。
もし、後で怒られるのだとしても、最終的には私の利益になる……はず。
みんなも褒めてくれているし、それぞれの国にとっても主食が増える事は良いことだ。
そもそも、本当に危険なことはファナティが止めてくれる。
だから、こっ酷く怒られて涙目になるくらいで済む……はず……。
ごめんなさい国王!!
お小遣い減俸は勘弁して欲しいのだーー!!
「あのぅ、ルートルイン。とりあえず、次に食べる料理を選びませんか?」
「え、あ、そうだな!!国民のみんなもディベートの結果が気になっているだろうしな!!」
戦々恐々としつつも気を取り成し、ルートルインは配信用魔道具に笑顔を向ける。
そして、「もう、どうにでもなれー!」と諦めつつ、目の前の配信業務に真摯に取り組む。
「ということで、4人のディベートが終了。だったら次は投票の時間なのだ!!」
先ほど食べた鯛の炊き込みご飯は絶品だった。
だが、他の料理も気になる。いや、気になり過ぎている。
レイミス、ライラ、リリカルに目配せし、視線を交わして頷き合う。
そして、平均的な真顔をしたライラが真っすぐ上に手を挙げた。
「ほう、ライラからか。さぁ、食べたい料理を発表するがいい!!」
「僕が食べたいのは――」




