第20話 「姫様たちは『初体験』を経験するようです」
「はふっはふっ!!ちゅーー、ぷはっ、はふはふはふ、ぺろっ!!」
「く、本当に美味そうに食うな……」
「だって本当に美味しい。マヨさいこう。油さいこう」
「てっかてかの唇と顔を見れば、嫌でも分かるのだーー!!」
ぷにぷにに膨らんだほっぺを動かしながら、ライラが煽る。
自分でデザインした『不愛想・不躾キャラ』を意識しつつも、彼女なりにおにぎりディベートバトルの成功を願った結果だ。
ここに居る4人の姫達は、親族や側近以外からは絶対的尊重の対象として見られている。
自国の民はもちろん、他国の王族であっても、礼を失する扱いを受けることは無い。
当然、同年代の貴族子女であっても、文字通りの意味で『お姫様扱い』されるのだ。
だからこそ、ライラは友人を雑に扱う。
偽りの無い本音を見せ、感情のままに振舞う。
それが『友達』だと、信じているから。
「ふん!悔しくなんてないのだぞ。だって、次に出てくる私の料理も美味いに決まっているのだからな!!」
「ん~~、それ、本当?」
「なんだと?」
「シチューに浸すグヤーシュライス、焼いたライスバーガー。銀シャケバターおにぎりは混ぜご飯。もともとあった煮込みスープは除外。他にどんなバリエーションがある?」
これはライラが放った、明確な鎌掛けだ。
ルートルインの言動に疑問がある彼女は、ご飯に対する知識量を試そうと思ったのだ。
ん、大まかに分けたご飯の料理進化先は、あと一つ。
『炒める』
具材と共に炒めて味を付ける料理を伏せているのは確定的。
だけど、残っているのは2品。
……読みが正しければ、僕ですら思いつかない未知の料理法を、ルルは知っている。
「ふっ、③の配膳を始めるのだ、ファナティ。あの美味そうな顔を凍り付かせてやるのだぞ!!」
「かしこまりました、ルートルイン姫様」
「ん。余裕たっぷりの笑み」
「自信があるってことね……。ごくり」
「これ以上に美味しそうな料理ですかぁ、そんな、ウチ、我慢したくないですぅ」
ファナティシアの視線を受けたタナーが、③の配膳車の前に移動。
掛けられていた布を取り除き、大きな土鍋と様々な小鉢、そして、片手サイズの茶碗としゃもじを露わにする。
「では、③の料理名を発表させていただきます。『焼き鯛の炊き込みご飯』。こちらの料理は、炊飯という調理そのものに手を加えた、いわば、ご飯の正統進化系の料理でございます」
3名の姫に激震が走る。
リリカル、レイミスは当然のこと、個別魔法『精解』で炊飯を理解していたライラですら想定外の料理に、目を丸くするしかできない。
「ルートルイン。解説できる?」
「うむ!通常の炊飯は真水で調理するものだが、それをスープに置き換える事も出来る。さらには具材を足すことも!!」
「じゃあ、スープと鯛のウマミを全部ご飯に吸わせたということ?」
「そうだ!!そして、タナーは煮込み料理のスペシャリスト。さぞかし芳醇な鯛の出汁となっているだろうな!!」
むふー!っと満足げなルートルインの笑顔と、米料理のバリエーションの多さに感心する一同。
3名の姫に加え、メイド、MC、そして配信を見ている視聴者に至るまで、米の多様性に驚かざるを得ない。
一方、それを地獄を見るような光景で眺めている者たちがいる。
それは、既に米を手放してしまった者たちだ。
大規模かつ同時多発的に行われた、ハンドルーラー商会による買い付け。
やむを得ない事情があると顔に出している買付人の足元を見た商人たちは、通常の2倍近い値段で売りさばいた。
そして『未熟者め』と笑いながら臨時収入を喜んだ彼らは、自分こそが未熟者だったと顔に出す。
いち早く米の価値に気が付き、5倍以上の相場になると読んだファナティシアの指示により、買付人達は道化を演じ米の最速確保に動いた。
『失態を取り戻そうとする未熟者』を演じる事で、今回の買い付けが商会ぐるみの行動ではないと思わせたのだ。
なお、ファナティシアによる大規模インサイダー取引の動機は、自分とルートルインが食べる一年分の米を確保する為である。
「失礼いたします。こちらが焼き鯛の炊き込みご飯。そして、薬味小鉢でございます」
「……薬味小鉢、だと?」
ルートルインの前に置かれた、小サイズのご飯茶碗。
そして、青ネギ、ワサビ、刻み生姜、ゴマ油……、さわやかな香りの彩りが添えられる。
「炊き込みご飯そのものの味を堪能した後は、お好みに合わせた薬味の投入が可能です。こちらは料理人のみならず、召し上がっていただく方に調理をして頂くメニューでございます」
「ほう!!なんと面白い発想なのだ、私は感動しているぞ!!」
姫に限らず、王族が摂る食事は『完成されている』。
味の調整をする――、いわば、未完成な状態での提供など問題外。
シェフがその時点で持ちうる最高傑作を出すことが、彼らの誇りだからだ。
だからこそ、ルートルイン達の目には新しく見える。
経験がない彼女達であっても、自分で作った料理が特別なのは分かる。
それが僅かな薬味を足すだけであっても、『楽しい初体験』には違いないのだ。




