83.任侠
囮にされたらしい哀れなアジトへの攻撃は休止する。
『ラッテ様、いいのですか?』
[ここはアステロイドベルト、コイツらのアジトも含めて遮蔽に使いましょ]
『うわっ、エグぅ』
『スケールの大きい肉壁と思え』
『余計エグいわ』
[プー兄さん、位置と数、お願い]
『ほらよ』
ヘルメットのシールドに映る広域マップと赤点の帯。ふむふむ、連合軍とやらの数は六千。バレたと知ってステルスモードを解除して、全方位から接近中。すべてコルベットより下の小型戦闘機。戦艦などのあからさまな軍用機は投入してこなかったか。傍観はできないし、かといって大火傷もまっぴら。軍にも多く混じっている反社の影響と、これ以上権力者の失態を晒すわけにはいかない危機感の板挟みを感じる。
ま、要するにコイツらは捨て駒ね。どうせ有志は名乗れとか裏で布告して集まった軍のゴミ掃除を私たちに押し付けて、あわよくば私が宙賊に報復とか言って、自国宙域のアジト殲滅に連鎖して欲しいと。シュケインの思惑を読んで出し抜こうとする各国もなかなか考えてはいるのか。ノってやる義理はないけど。
[いい機会だから配信もしちゃいましょ。編集動画はボチボチ投稿してるけど、生のチンピラの声も聞かせちゃえ。あっちの回線も繋いで流しちゃって]
『了解。接続完了』
[アロー、コボロッドのみなさん、ご機嫌いかが。ただいま宙賊のアジトを殲滅していましたが、複数の宙賊が手を組んで襲ってくるようなので迎撃します。数はおよそ戦闘機六千。小バエの群れに殺虫スプレーを噴射するような地味な絵面だけど、日頃反社に不快感を持つまともな人はスカッとするかもね。弱い者イジメするしか能のないクズの断末魔をお楽しみ下さい]
アテナはアジトの裏側に隠れ、他にも小惑星がポツポツ並ぶから背後も含めて射線は防いでいる。まぁアステロイドベルトといっても間隔は星数個分くらい開いているけど。宇宙はスケールがデタラメだからいつも感覚がおかしい。
[グリンカンビ、ノーチラスはコンテナ投下してアテナの近くで援護。みんなは地表で弾薬補給して散開、迎撃を整えて。ランサー、宙域をアルファ(A)からホテル(H)まで、エリアを八つに区切って挟んで追い込み漁、イケる?]
『愚問だ』
[じゃあみんなはエリア中央に敵が集まったら一斉射撃で片付けて]
『『『了解』』』
[作戦開始、まずはアルファから。基点設定、私は方位125、ゴー]
グリンカンビとノーチラスからマイクロミサイルが全方位に飛び、おびただしい数の小型ミサイルに分裂して、エリア八つの境界を中心に爆発、スモークで遮蔽を作った。風で煙が吹き飛ばない宇宙はこれだけで多対一がやりやすくなる。
全方位から迫る群れに対し、私は地表から射線の通るエリアへ急加速。前方からカメラフラッシュのような点滅が見えた瞬間旋回、横移動で弾幕をかわす。こんなもの、まず当たりようがない。
そのまま進んで逆旋回からの斜め後ろからレーザーキャノン。当たらないけど目的はアピールだから構わない。私は後ろよ気をつけて、の煽り。ただし光る射線を見せた次の瞬間には向きを変えて敵機頭上から急襲。まずどこに私がいるのか探させる間に群れの端から削っていく。
『鉄血のぉ、こっちひと寄越せ、狙われとるんじゃあ』
『船頭ぉ、自分のケツはてめぇで拭けや』
『ァ゙あ?』
『こっちはコロニー居座っとるヤツ追ってんだよ』
[相変わらずガラ悪。アロー、宙賊のみなさん。殺し合いの最中におしゃべりするヤツは三流、が私の信条なんだけどね、あなたたち、弱すぎて殺し合いではなくなぶり殺しだし、今日は大勢のリスナーに観られているし、少しは付き合ってあげる。そっちも少しは言葉遣いに気をつけて……、て無理か]
『てっめ今それどころ(ドッ)』
[あ、今潰したのあなただった? なんかゴメン。素人が無理するから]
『てめこのアマざけんな、素人ちゃうわ。こっちはぐ……』
[ふーん、ぐ、なに? ぐんじん? まさかね。まぁ弱いくせに命を捨てて向かってくる姿勢だけは褒めてあげる]
お、かわした。コイツ軍人ね。もしかして数人、エースが混じってないか。
敵機体が右に傾いた瞬間、私も電磁スラスターで向きを変えてトリガー。地上の戦闘機の機動のクセが抜けてないから無駄が多かったわね。
『命ぐらいいくらでも懸けたるわっ。極道ナメんなクソアマぁ』
[プッ、ククク、出た。極道、アホワード]
『ァ゙?』
[極道、任侠、ヤクザ、まだあったっけ? 見た目をいかつく整えて群れなきゃ一般人を相手に喧嘩も売れないただの犯罪者のくせに、いちいちカッコつけなきゃ名乗れもしないその習性、ダッサ。どーもワタクシ変なオジサンです、て春先に単騎駆けしがちな変態のほうが潔いよねー]
シールドにプー兄さんからメッセージ。“コメント爆笑”ていらんわその情報。
[私の中で任侠っていったら水滸伝かな。語源は後漢の時代くらいらしいけどそこまでは知らない。水滸伝は梁山泊に豪傑が集まって国軍を退けるも、最後は腐敗した官吏に丸め込まれて瓦解する悲劇なんだけど、主人公はもとよりハッピーエンドなんて目指していない。国に喧嘩を売った以上は全員死んで当たり前。目的は国家転覆ではなく、泣き寝入りする庶民の代わりに声をあげて国中に広く不正を訴えることだから、主人公的には満足な展開なの。これが強きを挫き弱きを助ける任侠。カッコいいよねー。あなたたちと違って。ねぇ、あなたは何故ここにいるの?]
アルファは一瞬に集中させた弾幕で撃破。もちろんアルファの敵が一機残らず消えたわけではないけど、実質全滅状態だから次にいく。次はブラボー。現代戦は個人の連携を多用するけど、基本的な戦術の考え方は古代から変わらない。分断と各個撃破。騎兵は陣形の端から削るか、陣形を割って、少しずつ潰していく。六千対私たち百機未満、ではない。ひとつのエリアに敵が千未満。他のエリアを仲間が牽制射撃している間、私とコンティノで端の百くらいを翻弄し、中央に寄せて、寄ったら秒間合わせて数千発の集中砲火。数のチカラは弾の数。
[任侠? ヤクザ? 極道? あなたたちは、どれでもないでしょ。強きに媚びて弱きを殴る。国に依存しておきながら反社とか、親のスネかじって反抗期ってしょーもないお子様が本物の戦場に出たって場違いなのよ。しかも軍属隠して極道だと? あなたたち最低限のプライドもないの? マジダッサ]
『軍属では……、ない』
[はいはい、ペスダートのエース、ノコスのエース、ゲティングのエースがもう死んだわよ。名乗りもできず、宙賊の一員として、惨めなもんね。プライドを捨てたザぁコ。私の前に立つのは百年早い]
『じゃあお前に語れる高尚な信念でもあるのかよっ!』
[んなもんないわよ]
『けっ、ならなにを……』
[私は正当性を認めて欲しいとか一言も言った覚えはないし、言う気もない。承認欲求なんてどうでもいいわ。どこにも属さず、誰にも媚びず、ムカつくヤツはどこの何様だろうとぶっ飛ばす。仲間とお気楽ご気楽傭兵稼業で宇宙をさすらうアウトロー。あなたたち常に誰かに脅されて周りの顔色うかがってビクビク生きてるハンパもんとは覚悟が違うっつってんのよ]
『だっ、黙れ黙れ黙れ、こっちだって特攻以外にできることないって命懸けてんだよ』
[それ、命をドブに捨てるっつーのよしょーもな]
『だから黙れぇ、無駄死にかどうかはこれで判断しやがれクソがぁぁ』
敵全機、一斉にアジトの裏側に回ろうとした。目標をアテナに変えての特攻ね。最初から読んで備えている。
『『『はぁぁぁ?』』』
アテナ、グリンカンビ、ノーチラスが同時に消えた。そして次に現れた場所は、敵機の外周。圧倒的数の暴力クロスファイア開始。普段影は薄いけど、ナハシュの元従士を筆頭に、防衛戦力の軍人もたくさんいるからね。アテナに近付けば蜂の巣よ。
『新発明ってのは、よりコンパクトに、小型化にするのが大変でな。エネルギーの問題さえ解決できれば、大抵の物は大型化は簡単なんだよ。アテナとノーチラスにも短距離転移の装置はとっくに積んどるわモブ死に乙』
[いやプー兄さん、コイツら短距離転移そのものも知らないんじゃない]
『そうか? 情弱は哀れだな』
[さ、状況終了。可哀想な絵面だったでしょ? みなさんの国の軍人ってこの程度なのよ。実戦経験足りなくて、反社如きに利用されて、志すら低くて。能力も精神も弱すぎて論外。そろそろ鍛えたほうがいいわよ、と忠告しておきます。ゲートで繋がる隣りの星系、もうヤバいんじゃない、ノクちゃん?]
ノクちゃん、こっちに来てからなにも言わなくなった。なにか掴んでるんでしょ。
『イエス、マスター。現在アシュクロフト星系のワープゲートに隣接するISSは情報封鎖されています。三ヶ月前、最後にこのコボロッド星系に流れた情報から推察すると、世界大戦勃発、連邦と称する実質帝国が誕生しています。間に合わず、申し訳ありません』
[クックック、なに謝ってるの? 間に合ったじゃん]
『え?』
[統一国家なんてものは絶対に成立しないの。必ず綻びがある。そっちについてひっくり返してやろうじゃない、ちゃぶ台]
『おぉ、急展開についていけてないんスけど、もう次っスか?』
[ええ、コボロッド星系ってつまらないし、観光はいらないでしょ。ここで訓練してもらったのは次からが本番だからよ。そろそろ全力で暴れましょ]
『えぇ……、今まで全力じゃない?』
いやいつも全力だけど察してよ。じゃあねコボロッド星系。待っててアシュクロフト星系。




