81.兄妹
最近俺の相棒は、古き良き物を復活させるイナバンバウ商会のヘッドホン、これいいな。イヤホンより高性能かっつったら怪しいけど、ガジェットってやつは雰囲気も大事、分かってるじゃねーか。ちなみにエクステから直接脳内に音楽を流すことも可能だけど普通はしない。無駄に脳に負担をかけるのはバカのすることだし、はたから見ると陽気を通り越してイカレだし。
アテナ居住区には公園代わりなのか、人工林がいくつもあり、害虫がほとんどいないおかげで俺のお気にいりのお昼寝スポットになっている。
今日も俺はロックを子守歌に流しながら、幹に身体を預けて梢越しに天井、青空を見上げた。戦闘部隊は基本暇なんだよ。いや毎日戦場に出て暇っておかしな言い草だけどな。
ここは静かでいい。女ども、特にシーバに見つかるとすぐまとわりつかれる。群れるのは苦手だっつーの。
俺に笑いかけるな。アイツらの顔がチラつく。
こんだけ戦ってりゃとっとと逝くもんだと思ったのに、分からねぇ場所だな。雲が流れて陽射しに目を細める。星から出たことがないから知らなかった。コロニーなんかでも普通らしい、自然を模した疑似環境ってここまで自然なのか。
アイツ、団長はデタラメだ。
ムサシでは東軍全体が親の仇のように狙ってきて、ことごとく返り討ちにした。挙句、ショージャが革命で王家交替の嘘みたいなオチ。
こっちでも先に仕掛けたのはアチラとはいえ、ナメた相手は王家だろうと潰すと啖呵を切る。
そしてホントに潰しやがった。
シュケインとかいう国の第一王子だったか。架空団体を経由して宙賊退治を依頼して、報酬は払わず知らん顔したヤツ。金をケチったのではなく後ろ暗い依頼を隠したかったのだろうけど、俺らからすると契約不履行に変わりはない。
その王子、体調不良により公務を退いて静養、だとよ。大抵の怪我も病気も治せる時代によく真顔で言えるよな。まぁ先天性の病気や障害は本人的には正常だから治せないケースが多く、王侯貴族は地球の時代を筆頭に、遺伝子操作を繰り返したツケで結構な頻度で健康を損なうとは聞いたことがある。古くはハプスブルク家あたりが有名な近親婚とか、権力者もたいがい自爆体質だよな。
アイツ、そのニュースを団員、アビャーナだったか、に聞いて、ほくそ笑みやがった。
「シュケイン王家から一度使った架空団体名義で違約金、法外な額が振り込まれたわ。そして王子の処分。これで水に流せって白旗ね。受け入れましょう。王はまともだったようで重畳」
「王太子ではなく第一王子って肩書きから王家はドロドロしてそうだったけどな」
「あー、そういうことか。だから功を焦ってこんな真似をしたと?」
「多分だけどな」
「怖ぇっス」
「私たち、そこまで追い詰めましたか?」
「確かに、まだ宙賊潰して回ってるだけだよな」
「先を読んだら早めに落とし前をつけなきゃ滅亡だからね。ムサシとか、もっと前を調べたら他にも国を殴る私たちの前科はあると分かるだろうし、私たちが宙賊如きに倒される様子はないし、なにより気軽に反応弾を使用するアウトローなんだし、なんとかなれーって他力本願のギャンブラーがトップじゃ終わりでしょ」
そしてこれで王子が思い描いていたであろう、自国だけ宙賊を平らげたシュケインが頭一つ他国を出し抜いてトップに立つ未来は消えた。むしろ国家予算レベルの金をドブに捨てて、いずれ最貧国もありえる緩やかな下り坂。これザマァと呼ぶにはエグすぎねぇか?
そして多分、アイツはWESTとかいう中小国家連合の宙域を中心に平らげていて、弱小がトップにくる展開に誘導している。WESTの宙域だけではなく、WESTにちょっかいを出す宙賊の拠点がある宙域だから分かりにくいけどな。依然として宙賊は数え切れないほど溢れているけど、WESTだけが平和な宙域で経済強者になった時、他国は傍観からの諦観でもするのか? なわけねぇ。どこの国も面倒だの無理だの御託は捨てて、自国の反社狩りに全力を出す。一度俺たちが呼び水になっちまえば、後は全体が勝手に動く。俺たちだけで全ての反社を潰すなんて絶対不可能なはずなのに、全ての反社が潰れる可能性が見えてきた。焼け石に水に思えた日々の宙賊退治に意図が隠れている。
莫大な違約金も手に入れて、敵どころかウチに喧嘩を売ってない勢力からすらも攻めてこないでと、献上金とか笑える泣きを入れられて、また使い途に困るわねぇとつぶやくアイツに鳥肌が立った。これが優秀な貴族の戦い方か。散々地球人をバカにするお前らはどうなんだ? て俺もずっと貴族に疑問はあったけど、頭の悪いはずの暴力の使い方がスマートってヤベェな。
コボロッドの大半の連中はまだこういう先は見えてない。というか俺たちに関心のない人も多い。
当たり前っちゃ当たり前だけどな。テキトーに一国あたり人口一千万程度として、反社なんてせいぜい二、三万もいるかどうか。巨大勢力といわれるところでも十万前後。
どこかの国と国が戦争してたって、第三国の子供は学校に通うし、コンビニも劇場も開いているし、なんなら戦争でギャンブルする。アイツは大暴れしているが、アイツ自身も言っているように、ひとりに振り回されるほど世界は狭くない。
とはいえ、先日の奴隷解放は特大級の爆弾にはなった。たったひとつの反社によって数万、今までの被害を想像すればその数十、数百倍の犠牲者がいて、明日は自分が行方不明になるかも知れないと、ようやく他人事ではなくなったコボロッド星系の人々は、軽いパニックを起こしているっぽい。
俺の故国というかムサシだったら革命が起きる不祥事だな。反社如きに荒らされて気付きもしなかった無能が座れる玉座なんてない。でもこっちは、不用意に革命を起こすとチンピラが玉座に座るおそれがある。大衆は不満はあるけど行動を起こせない、てストレスだろうな。
もとより大声で貴族の批判をできる世の中じゃないけど、メディアまで反社に支配されてるこっちは余計に八方塞がりっぽい。
だからアイツの行動が刺さる。誰にも遠慮なく、反社が泣こうが喚こうが鼻で笑って殲滅する。少し前までホラーチックな扱いだった俺たちが、最近英雄呼ばわりされ始めている。ひとり殺せば犯罪者、百万人殺せば英雄とはよく言ったもんだ。個人が生で発信できる配信って改めて強い。配信サービスが生まれてから芸能界やマスコミの化けの皮が剥がれたことは有名なように、真実、ありのままを見せるって凶器になる。
だからま、学のない俺にも見え始めてるんだ、他の連中が強制変革のビッグウェーブに気付いて騒ぐのも時間の問題だ。
アイツの言った通り、この星系は訓練を兼ねて暴れるだけの寄り道。俺は暴れられたらそれで満足な自由騎士、ロードスターだ。相棒と戦場を用意してくれれば文句ねぇ。
そう、相棒。俺の専用機体がついに開発に着手した。名前は軍人だったころから決めてある。雷横、早く会いてぇ。
人には向き不向き、才能ってもんがある。ドレスアームズの操縦にも求められる資質があるらしい。
方向性は二つ。車やバイクなどの無機的な機動と、馬やヘリコプターなどの有機的な機動と。
車酔いするヤツはレーサーに向いてねぇし、レーサーは乗馬が上手いかっていうとンなわけねぇ。本人も気付けない微妙な才能の問題だが、戦場ではその理解度で生死の差が分かれる。
俺は……、戦闘機にまったく乗れねぇ。車やバイクも高速は無理らしい。ファームでは重機の訓練しかしたことがなかったから知らなかった。単車を乗り回すのは少し夢だったからガッカリした。
そしてドレスアームズは半々だ。人の身体を延長したパワードスーツの延長のような兵器だから有機的な機動であり、ブースターで空や宇宙を飛び回る機動は無機的でもある。
要するに、俺、ついでにシーバなんかも遅い二足歩行のドレスアームズが最適なんだと。まだシミュレーターでしかまともに見たことがないけど、スカアハとかいうアイツの機体の、冗談みたいに速い機動は俺には真似できないと診断された。言われなくてもできる気はしねぇが。
ただし、有機的な機動には才能がある。動体視力も高い。タイマンの切り合いに生き残ってきたんだから当然だけど。でも遅い機体で前線を張るのは無理がある。もっと遅い車両相手には無双できても、同格以上がいたら詰む。前線組のナハシュ隊のフローターについていくことすらできねぇ。だからシーバと同じく中列から援護射撃が俺の仕事? まっぴらだ。そこでアイツの兄、これまたアイツに輪をかけて変な男に言われた。
「才能のないことを頑張るのは時間の無駄だ」
「じゃあ諦めろってか? フザケロ」
「その負けモブの結論が下らん。才能のある角度から頑張れ」
ホログラムの設計図を見せられた。データがどうとかまったく意味は分からない。ただ、そのフォルム。
「ルーブの四脚をクモ型とするなら、ケンタウロス型の四脚を研究していたんだがな、お前に合わせてネコ型に組み直してみた」
「なんっ……、つー異形。見たことねぇ」
「誰も作ってないからな。実に作り甲斐がある。特に尻尾型のLMG、軽機関銃がチャームポイントだ」
「可愛くはねぇ。使い方が凶悪だろコレ」
「ああ、直線的な最高速度は全然だか、電磁スラスターの見えない壁でも天井でも使って超高速三次元機動で接近して斬撃、外れてもすれ違いざまに背後から引き撃ち。狙った獲物は逃がさない狩猟スタイルだ」
「こんなん乗って足並み揃うのか」
「どうでもいい」
「は?」
「お前、ここが規則正しい軍とでも思っているのか? 俺もラッテもナメんな。全員バラバラで上等。モブがいなくて大いに結構。どんな個性だろうとないよりゃマシだ」
ああ、ここはヤベェ。暖かい言葉を尽くして諦めさせてくる偽善者は知ってるが、素っ気ない言い草で完璧なサポートをしてくるコイツら兄妹は規格外だ。
お、招集がかかった。じゃ、今日もひと暴れすっか。




