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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第五章 コボロッド星系
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71.火蓋



 コボロッド星系にきて十日くらい。行く先々で時間のカウントはバラバラだから今が何日とか、いい加減なにも気にならなくなってきた。宇宙あるある、故郷の時間で計算したら誕生日が過ぎてた。時間は普遍ではない。記念日なんてひとつの星の上で一生をすごす人にとってだけ意味のある物差し。エクステがなければ自分の年齢も把握できなくなる。全然いいけどね。


 ISSで情報を仕入れたあとは分析に回し、フラフラとそのへんの彗星から氷のかけらをパクったり、岩石をつまみ食いしたり。言われて気付いたけど金属だけでなく、建築用の石材も集めてたのね。知らなかった。


 のんびり漂い第四惑星エンコ、の資源畑、アステロイドベルトに到着。惑星の輪っかをもっと大きくするイメージ。遠く離れたどこかを中心に公転している小惑星数百万個の行列。エンコの公転周期と重なって、一定間隔で接近するから便利な立地条件らしい。自分でもなに言ってるか分かってない。サイエンスだるぅ。


 とにかく、ここでは各国のSSが縄張りを決めて小惑星群に並走して、せっせと鉱石を採掘して加工したり、エンコに送っている。取り尽くさないのか? 地球の鉄や金は十年百年で消えたの? 小惑星といっても惑星だから、規模がエグいのよ。むしろ人口は控えめだから、宇宙開発などで消費を増やそうとするのがどこの国でも方針に掲げる国是になる。


 つまり、宇宙船のコストは低い。そりゃお値段高めだけど、個人が買えない額ではない。兵器はまた話が違うし、使い途がないから普通は買わないし売られてないだけであって、材料費を見ると安い。

 するってぇと、宙賊はここまで膨らむのか。という映像がアテナの艦橋のモニターに映った。


『今までもいくつか見てきた、直径三十キロメートルクラスのアジト。シュケイン王家の注文(オーダー)の、アレがターゲットだ。赤狼会。シュケイン所有の宙域の隣り、グルコーサ所有の宙域を根城にする、コボロッド星系最大の規模を誇る反社。構成員は推定十五万人、末端をどう判断するかで数が変わる。傘下の組織は六つ。それらの上位組員がそこに住んでいるらしい。ざっと五千人』


 エンコの静止軌道には各国のSSと、宇宙軍が常駐する軍事施設のDFSSがあって危険だから、基本宙賊はアステロイドベルト寄りのどこかにアジトを構える。

 とはいえ、小惑星が丸ごと改造されたような巨大な施設が、アステロイドベルトそのものに混じっていた。艦橋に響くプー兄さんの声に素でツッコんでしまう。


「嘘でしょ。隠れてないの?」


 アジトって隠れ家って意味だよね。


「そういやスラムのマフィアもヨットハーバー経営って表向きは隠してたっスね」

「貴族に向かって堂々と反社を名乗ればいつどう殺されても文句言えないからな」


『どっからでもかかってこいやぁ、という姿勢を見せるのが、この星系では一目置かれる極道、という価値観ってことだな』


「いや普通にバカでしょコイツら」


 このアステロイドベルトに万を超えるアジトが散らばっているとしても、各国が示し合わせて一斉に反応弾でもぶちこんだら一日で始末できるのでは? ああ、巻き込むのか? どうだろ。ベルトといっても小惑星の間隔は惑星数個分くらいは余裕で離れているから影響なさそうだけど。


『増えすぎて調子に乗っているのは確かだが、どの国も手出しできないほど根を張っているのも事実だ。俺たちだけで処理できる規模ではないが、ラッテ、戦略は立ててるのか?』


 艦橋に集まったメンバーが黙って注目する中、私はみんなに親指を立てた。


「私たちがコイツら以上のバカになればいいのよ。誰も攻めてこないと思ってるならバッチーンとぶっ叩いてやる」


『反社同士は抗争していて戦い慣れてはいるぞ?』


 まぁこんなにアジトがひしめいていて位置バレしてるならそうなるか。


「ムサシより?」

「クックック、お前それ言ったらどこも素人になっちまう」

「フーイエ! ラッテ様にお前呼ばわりは許しませんよ」

「いーのよアビャーナ、呼び方なんてどーとでも」


 反社にも教えてあげましょ、本物の強者。

 モニターのデータの一部に民間船が係留されている、と。


「人質ビジネスの船はこれ一隻か。乗員乗客は一緒?」

「通信ログを遡(さかのぼ)るとそうみたいですね」

「じゃあここだけ逃がすよう気をつけて、反応弾クラスの使用は自重して、あとは見えるもの全部破壊ってことで」


 今までの経験から、宙賊は船ごと誘拐して、位置が特定されると困るアジトとは別の、なんの手も加えていない宙域に置いて、身代金と引き換えに解放、という手口だった。アジトをあけっぴろげのここでは全然違うらしい。ほんの一部、アジトに連れ込みクスリで調教だの犯罪者に同調するストックホルム症候群だの、胸糞なパターンもあったけど。アビャーナたちのアレは、例外中の例外でしょ。


 こんな連中にブリーフィングもなにもない。奇襲と言っていいのかどうかも怪しい、アテナから望遠レンズで観測できちゃう近距離まで接近して、特に前口上もなく出撃する。


 宇宙用戦闘機のマモちゃんは全二十機ある。コルベット級といって、地上の戦闘機よりふたまわりは大きい。三十メートルのモモンガが滑空しているようなデザイン。でもポッチャリしているからマーモット。


 今までは私しか乗る人がいないから、大半はアテナのほうにしまって整備士たちのおもちゃにされていた。メンバーが暇をみて練習しているようだけど、ロボットと違って簡単に使えるものではない。小型とはいえ戦闘機に乗る宙賊はどうか? 連中は車に乗って時速百キロメートルで煽り運転するのが限界の一般人。元・正規の軍人ナメんな。こっちは常時マッハ、時速千三百キロメートルを超える環境で戦う。相手にならない。


 だからまぁ、戦闘機は私専用だったんだけど、先日加入したコンティノはいいパイロットだったから乗せてみた。元・空軍で訓練もしっかり積んでるそうな。なんでロボットに乗ってたのやら。聞かないけど。


『いや宇宙は初めてだからお手柔らかに、団長』


[シミュレーターの動きは問題なかったわよ、自信もって]


 マモちゃん二機で先行してアジトを強襲する。

 まずは挨拶代わりに下腹部についた、240mmレーザーキャノンをなんらかの搬入口っぽい穴へ発射。土煙だらけになると威力が消えるから、始めに使っておくのがセオリー。


 気圧ゼロの宇宙空間で高熱攻撃はエグい。土も金属も簡単に貫き蒸発し、充分な空気が周りにあると気化爆発を起こす。さらに外は真空だから、衝撃波は空気のある内部に進んでから外に向かう。さらにさらに昔から変わらない水筒と同じ仕組み、真空は熱を通さないから保温効果が高いってやつ、宇宙船はまんまコレになるのよね。緊急冷却などの対策が甘いと一瞬で焼却炉の中状態になる。


『て、敵襲ぅー』

『ァ゙? カチコミか?』

『おいコラどこのシマのモンじゃい名乗らんかいボケぇぁ』

『おいヤスぅ、てめどこ目ぇつけんだなに襲われてから報告してんだぁ』

『宇宙船二機で鉄砲玉とか分かるかトリぃ、噛みついてくんなっすぞぉ?』

『ケジメつけろっつってんだろーがっしたろかゴラ』

『テメこれ片付いたら覚えてろよ指詰めさせたる』

『そっちは今詰めろっつってんだろが』

『はぁぁあ? っぞコラ』

『ってみろボケ』

『ガリヤスにミジャートリっ! どっちも詰めて迎撃いかんかいタコぉ』

『ソウゴぉ、てめいつからっだぁっぞ¥〒〆━━』


『ラッテ様、専用回線に切り替えました』


[ありがと。こっちの語彙力まで壊れそうな連中なのね]


 コイツらは指詰めないとなにも始められないのか? イマドキ再生医療で簡単に生える指を? あとヤスとトリの名が予想外でちょっと驚いたとか、ゴチャゴチャした思考は捨てて攻撃続行。当たり前だけどコイツらが無駄なおしゃべりをしている間もレーザーキャノンを撃ち込んでいる。星に撃っても微々たるダメージだけどね。


 私とコンティノで撹乱。後続のみんなには民間船の誘導と、無数の滑走路に配置して制圧を頼んでいる。


 脳内三次元レーダーに反応多数。別口から次々と戦闘機が出撃してきた。コンティノにコールサインで通信を入れる。謎のテレパシーはできなくなった。てかアレって気になる敵の場合かも。


[ランサー、基地攻撃は任せた。戦闘機は私がやる]


『了解、宇宙の戦い方、見せてもらおう』


 いやハエたたきみたいなもんよ?

 一機見すえて機動を読んで前か後ろに並んだ瞬間トリガー。あまりにも簡単に読めるヤツは射線がズレても予測の連射で撃破。


 宇宙は目印がない中の全方位機動だから、身体にかかるGで位置を感じながら敵を先回りして潰していく。上下左右の概念を消して、私を中心に宇宙が回れ、とでも思うのがコツ。


 大勢出てきたから逆に当てやすくて一瞬で大量に潰し、怯えて逃げ回る敵機を散発的に片付けながら地上、アジト表面を観察する。


 民間船の周囲にシーバたちの機体が降下。隠れて先行するルーブの偵察により、対空兵器などの優先目標をターゲティングして一斉破壊。安全を確保したらナハシュたちフローターの高速機動部隊が扇状に散開しながら制圧。大口の発着場にはフーイエが勝手に潜って暴れてるわね。ってあ、危な……、アドラー、ナイス援護。カウリーンはー……、言いつけを守って安全な後方からグレネードランチャーを撃ち込んでいる。ナハシュたちの前方、連装機関砲の射界と連携を断つような位置に。上手い。


 懸念は私の戦死だった。


 死ぬ気はないけど誰でもあっさり死んじゃうのが戦場。最終的には覚悟していて、しょーがないと割り切るしかないとはいえ、私の死をきっかけに仲間が全滅する展開は避けたかった。

 戦場のドタバタ以外に関しては、ボア兄さんが艦長として頼りになるし、プー兄さんが知略で支えるから心配はない。


 だから少しは命を大事に戦ってきたけれど。


 みんなの戦いぶりを見て肩の荷が下りた感じ。空も相棒(バディ)ができたし、シーバたちもいっぱしの戦士に育った。可哀想だけど、反社と宙賊なんて私たちの訓練用のおもちゃでしかない。


 ナハシュたちが無数の出入り口に張り付いた。これ、ガサ入れされてもワラワラ逃げ出す用かな。

 ともあれ民間船の離脱も終わって準備完了。アジトの構造解析は済んで攻撃ポイント確定。そこに撃ち込むのは横に太ったイルカみたいな流線型がイカしてるグリンカンビ二番艦、ノーチラス。


 グリンカンビは王家の避難用が隠し前提のせいで、居住環境や高級感、ラグジュアリー優先とか戦争ナメてんのかって仕様ではあった。それはそれで個性があって気に入ってはいるけど、二番艦はガッツリ火力最優先の戦艦仕様で作った。


 基本はナハシュ隊を格納して、私たちも作戦に応じて利用はできる。想定するメインは、グリンカンビに私たち、ノーチラスとナハシュ隊は遊撃というかサポートを任せるつもり。数が増えたし、二つに分けたほうが運用しやすい。


 戦闘力を潰されて沈黙気味のアジトに近付いたノーチラスから、大量の大口径レールガンが撃ち込まれる。えーと、なんだっけ?


『28cmレオポルドが288門っ、熱い、これは熱いぞ永久保存だぁー』


 そうそれ。バカよねー。もっと小さい口径でも当たれば戦艦撃破くらいできるのだからそれでいいのに、無駄の極み。楽しく傭兵稼業がモットーだからいいけど。


『ラッテ様、赤狼会の会長から通信入りました。繋ぎますか?』


[いいわよ、お願い]


『よお、負けだ負け。降参だ』


[まさか命乞い?]


『いいや、悪党は悪党らしくここで死ぬさ。ただ、死ぬ前にひとつだけ聞いておきたくてな』


[なぁに?]


『ワシらみたいなクズでも必要悪っつってな、無法にはならねぇよう悪党をひとつにまとめる役割はあったんだがな、赤狼会(ウチ)が潰れたらこの先必ず荒れる』


[でしょうね]


『ほぉ? 知ってたか。で、嬢ちゃん、どう落とし前つけるつもりだ?』


[なにも]


『あん?』


[なにも気にしないわよ]


『ほお?』


[もしかして、私が正義の味方を気取っているとでも思ってるの? バカバカしい]


『違うのかい?』


[赤狼会が潰れてこの先荒れる? 荒らすのはあなたたち反社のクズであって私じゃない。何故、私があなたたちの汚い尻を拭かなきゃいけない理屈になるの? 寝言は寝て言え]


『あぁ、そういう思考か。面白れぇ。クックック、そういうことか。どこのどいつがウチを潰すようお前さんに依頼したのか、敵が多すぎて見当もつかねぇが、へっ、バカなことをしたねぇ』


[そうね。損得で動く人と正義を語る人は次になにをするのか簡単に先が読める。だから利用しやすい。私を利用しようとした連中には、こんなはずではって絶対言わせてみせるわよ。それと……、自分が世界の治安を守ってるとか大言壮語は、せめて警察官になってから言え]


『違ぇねぇ。見苦しい言い訳しちまって悪かったな。聞きたいことは聞けた。思い残すことは……、あるけどしょーがねぇや。悪党が大往生は申し訳ねぇ』


[数え切れないほと宙賊を潰してきたけれど、今のところ、必要悪が必要だったと思ったことはないわね。安心して地獄に堕ちなさい]


『お前さんがムサシで暴れた動画はこっちでも有名でな。これからなにをやらかすのか、あの世から応援してるよ』


 おや。アタナシア・レミングスと気付いていたのか。


『クックック、主砲も喰らっとけ。ドイツが悪の道を突っ走って最もイカレてた時代の象徴、80cm列車砲、グスタフっ! これがロマンだぁー』


 空気を読んで大気汚染する兄がぶっ放してアジトに巨大な亀裂が走った。てかコイツ、今ノーチラスのほうに遊びに行ってるわね。


 ま、私たちらしいっちゃらしい。ここから荒れる? 上等。




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