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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第四章 バダウィ星系
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幕間 推活



 (草稿)アイリス会報一〇三号 女帝合流記念特別企画 親衛隊隊長回顧録


「お嬢様、皆様揃いました」

「分かったわ」


 少し開けた扉の隙間から侍女に声をかけられて、私は仮面をつけて部屋を出ます。上半身のラインは露わで背中が大きく開き、スカートは膝丈で左側に大胆なスリット。藍色から紫のグラデーションが鮮やかなタンゴドレスをなびかせヒールをコツコツ鳴らして向かう先は仮面舞踏会? いいえ。


 エクス王国王都ペテロパレスの第一区画、通称貴族街に居を構えるガーフィールズ侯爵邸。その地下へ階段を下りて、薄暗い廊下を進んだ先、重厚なオーク材の扉が自動で横滑りすると、蝋燭(ろうそく)を模した電灯のシャンデリアの下、骨董価値のありそうな円卓に沿って六人の女性が起立して私を迎え入れました。円卓中央にミニチュアサイズのラティシス・フォン・ウッドストックのホログラムが回転し、全員に微笑みかけてくれています。


 家主の娘である私と同様、六人の女性も露出具合は別として、派手な装いをしています。結婚式で花嫁に舌打ちされるかどうかのギリギリを攻めた参列客がコーディネートのテーマと思われるかも知れません。共通点の仮面を除いて七人アウトですが。


 望むところですわ。私たち七人は自分が主役のオーラを発している。至高の上位存在、ブルーエンプレスに憧れを抱くならば、卑屈は侮辱。心構えは女帝の近衛兵。強く美しく、大丈夫、どんなに自惚れてもあの方より強く美しくはならないから。私も円卓に移動して、アイコンタクトもなく一糸乱れず着席、口を開きます。


「お待たせしました。アイリス定例会議を始めます。順に報告をお願いします。ではルナ様」

「はい。来月予定のニコツィン子爵家の改易をもって第三王子の派閥の解体は終了する方針とのこと。昨日の閣務級会議で陛下の考えがリークされたようです」


 数の多い男爵家は不問に処すと。これ以上潰すと貴族が足りなくて国政が回らなくなるという判断は妥当かも知れませんが、陛下らしく甘い。一罰百戒。やるなら徹底的とか印象操作もできないからナメられるのです。代わりに私たちが重い罰を与えるから結果としては援護射撃になるかもですが。


 特に話すことはありません。批判は、一度口にすると際限がなく、改善や教訓を伴わない批判に時間を割くのは無能の証、ただの恥です。


「次はマーズ様、お願いします」

「はい。マスメディア対策について。キー局GBCの一部、第三王子を過度にプロモーションしていたグループが旧ニドミスタン公国から賄賂を受け取っていた証拠を入手、関係者一同、即日処刑しました。他LNN、EAP、BBQも時流に乗ってエースを含む伯爵家を貶めた事実をもって専務以上の全員解雇、口座凍結、国外追放に処しました」

「次はマーキュリー様、お願いします」

「はい。公安の綱紀粛正について。たかが一警察官が法を歪めて伯爵家を愚弄した上、任意同行と称して強制連行しようとした件を徹底追求、関係者全員の即日処刑、警視総監のエンデバッグ・フォン・ギリャウトを更迭、国家公安委員会の解体、再編を命じました」

「次はジュピター様、お願いします」

「はい。ウッドストック伯爵の元麾下になる、退職願いを出して離散した整備士たちについて。計四三八名、全員所在を確かめ接触、きたる日についての説明を行いました。同行の返答は二二一名、知人家族を合わせて七一五名になる予定。他の軍属については前回報告した通り、変更ありません」

「次はヴィーナス様、お願いします」

「はい。コリアンテ王国、西区イェジュー沿岸防衛航空基地副司令、カール・シルド軍曹に正規の広報ルートでアポを取り付け面会、女帝とどのようなやり取りがあったのか、詳細なお話を伺いました」


 初めて皆様からどよめきが起こり、私も一緒におおぅと唸ってしまいましたはしたない。まぁしょうがないですよね。この仮面も貴族にあるまじき萌顔を晒さないためですし。


「それで、どのような?」

「はい。コホン。シルド軍曹は当初、女帝がテロでも起こすのではないかと疑っていたそうです。突然隣国の有名な軍人が基地の実権を握って出撃しようとするのだから当然の反応ではあります。女帝を知る者からすれば愚かと言わざるをえませんが。そして軍曹は戦闘機に乗り込もうとする女帝に銃を向けました」

「ほう?」


 場が氷点下に凍えます。


「しかし女帝は背を向けたまま毅然と立ち止まり、薄暗い通路に桃源郷(アガルタ)より輝く黄金の髪が光を放ち、目を射抜かれうずくまるシルド軍曹の耄碌した耳朶に天使のラッパを叩きつけながら天界の真理を問いました」


 信仰フィルター? 常態ですがなにか?

 

『あなた、なんのために軍人やってるの? 上の命令に従うのが楽だから? 庶民に生まれたら貴族に従うしかないから? 違うから今こうやって反抗してるんでしょ? あんなゲスにも従ったくせに。あんな小悪党は放っといてもたいした害にならないけど、私を止めなかったら魚雷二十四発をどこかに撃ってとんでもないことをしでかしそうって不安なんでしょ? それ、守りたい誰かがこの国にいるからじゃないの?』


「核心です。核心をクリティカルヒットです。汚職軍人もこれ聞いたらスクワットを始めそうなプライドをくすぐる至言です。そして不安を覚えたシルド軍曹もたいしたものです。しがらみを捨てた女帝は一日一国潰すと後日実行してみせました」


『そりゃいますよっ! 自分、三十六歳、アイツのせいで勤務時間がブラックだけど、家に帰れば妻と、今年二歳になる世界一カワイイ天使がいるんですよ。コイツらのためなら命は惜しくない。アイツにも頭を下げてきたし、貴女にも噛みつきますよっ!』


「女帝を前にして世界一カワイイ天使とは親バカスキルカンストですねと私が呆れると軍曹に、あの人はカワイイ天使とかそんなワタアメみたいな存在ではないでしょう? と返されました。ぐうの音も出ません」


 ほう、その者、分かってますね。


『そう、それがあなたの原点ってやつね。そこを見失わなければあなたは軍人でいられる。でもね……、これから数時間以内にその原点を見失った軍人失格の害虫が暴走するの。自分がなんのために軍人をやっているのかを忘れ、上官の命令にただ従い、あなたが想像する最悪なことをする思考停止の無能。私が攻撃するのはコイツらよ。だから━━』


「ここで女帝は一回溜めて、歩き出したそうです。神演出っ! もう背後から神がプロデュースしているとしかっ。そして決め台詞がこれ」


『安心して見送りなさい』


「はいカーット! 映画化希望です。どなたか伝手はありませんか? クランクインが待てないぃぃ」


 この後ひとりで海上基地を沈めた結果を知っていると震える展開ですわね。


「ヴィーナス様、気持ちは同じですが落ち着いて。映画は無理ですが先日、漫画家のベルバランヌが同志に加わりました。彼女に頼んでみます」

「え、まさかあの『どうするわたし、トラックにひかれそうなところをお相撲さんに助けられた。わたしの好みは細マッチョでデブは無理っ、なのにこの包容力、ウソよっ、断じてこれは恋なんかじゃない』略してどす恋のベルバランヌ先生ですか?」

「ええ、よくタイトル言えますね」

「ファンですから。まさかソレイユ様とお知り合いだったとは」

「彼女、一山当てたから完結したらさっさと引退して趣味に生きたいと。会員だけに見せるブルーエンプレスの漫画を書くことが夢だったらしいの」

「あ、では、では、最後に執筆意欲が湧きそうな情報をひとつ、シルド軍曹から特ダネです。女帝はやけに薄いGスーツを着ていて、現在基地勤務の男全員がGスーツを購入してこれじゃないと改造に明け暮れるくらいにエロかった、とのことです」


 華やかな矯声(きょうせい)があがり、秘密結社から同人サークルに雰囲気が変わってしまったので、私はひとつ咳払いをしました。


「では次、サターン様、お願いします」

「はい。先行偵察からの報告です」

「あら、随分早くないですか、もうスキャナー星系と往復したと?」

「いえ、星系外のワープゲートを擁するISS、国際宇宙ステーションにて、女帝からの伝言を持った弁護士が待機していたそうです」


 場全体がゾワっと鳥肌が立った。これです。あの方は常に未来が視えている。特に女帝に侍っていたわけでもない、遠くから歓声をあげるだけの私たちのことまで考えてくれている。私たちが追いかけると知っての布石。でも、来るなと命じられたら……、不安に襲われます。


「伝言はここに、私もまだ見てません」

 

 そう言ってサターン様は自身の前の卓上にコースターのような円盤を置くと、中央のミニチュアより小さい女帝が現れて話しかけてくれました。


『これを見てるってことは、コッペリア・フォン・ガーフィールズ侯爵令嬢に届いたのね。貴女たちが追いかけてくるのは分かっているので、弁護士を通して私に関連する動画収益を全額貴女に移譲します。ワープした先のISSにも同様の手配をしておくからチェックするように。先立つものさえあれば、指示とかいらないよね? 貴女たちも折角の星団旅行なんだから、好きなだけ楽しんで見識を深めて合流を目指すように。グッドラック』


 気付けば滂沱の涙、私も皆様も卓上に両手を組んで拝んでいました。震える涙声でサターン様が言います。


「追加情報があります。そのISSにいた行商の話では、現在スキャナー星系は宙賊が一掃されて、中小企業の輸送船でも安全だとか」


 急遽入口前に控えているじいやを呼んで飲み物を手配しました。このままでは皆様ミイラになってしまう。

 感動が治まるまでたっぷり待ち、私は口を開きました。


「では私から報告を。DFSS、エクス軍事防衛宇宙ステーションにて、私所有の戦艦の建造が始まりました。中型が限界でしたが、戦闘能力は軍用に匹敵し、乗員は最大五千名まで搭乗可能です」

「ソレイユ様、無理をしたのでは?」

「問題ありません。次期侯爵の私が家督を譲る条件にしたので弟も快く応援してくれました」

「改めて聞くと重大な決断ですわね。私はとうに覚悟を決めていますが、皆様はよろしいのですか?」

「ふふふ、ペルネーテ・フォン・クォーツオーブ伯爵令嬢、ご自分だけ迷いがないマウントははしたなくてよ。私たち全員、“家”からもらった名は世を忍ぶ仮初の姿。自分で選んだ名に命を吹き込むのです。違って、マーキュリー様?」

「ふふふ、ごめんあそばせ。軽く捨てるとそれはそれで貴族の責務を投げ出すみたいに受け取られかねませんからね。立つ鳥跡を濁さず。腐敗の温床を一掃して、身内を処された者の恨みを引き受けて旅立ちましょう」


 あらあら、女帝を貶められた復讐と言いつつ派手に粛清を重ねる真意がバレてましたか。王家に民意はなく、代わりもおらず、普通の手段ではエクス王国はゆっくりと衰退して終わりです。王族も貴族も滅ぶなら勝手に滅べばよいが、貴族に生まれた以上、民を巻き込む不幸を見て見ぬふりは女帝にあわせる顔がありません。

 

 こうして女帝が出奔してからおよそ四月、汚れ仕事と身辺整理を終えた私たちは他星系へ飛びました。


 旅の途中、振り込まれた動画収益の桁がおかしいと騒ぐ税務署と対決したり、軍縮がブーム?らしいエスキモア各国から格安で軍用宇宙船を横流ししてもらったり、故国よりイエス・マイ・フェアレディが流行ってて当惑したり、生活力皆無な女帝のために農家や養殖など一次産業を多めにスカウトしたり、知る人ぞ知る女帝の卒論に出てくるモチニウムを求めるマニアックな青年と議論したり、推し活すればするほど信者が乗り込んできたり。


 女帝と合流するまでに無数の出会いと冒険がありましたが、その話はいずれ別の機会に。


 ひとまず皆様ごきげんよう。

 



制作推活

その一、ACかエスコンのMAD動画を観てから書くことが多い。オススメは閃光と名前のない怪物。でも最近のお気に入り動画は打首獄門同好会の猫の惑星。

その二、念のためにどす恋を検索したらまさかの複数ヒット。不勉強でした。

その三、AI不使用なので、誤字や算数間違いをやらかします。きっとAIの暗躍です。

その四、BBQは創立者の名からとった報道局の設定ですが、バーベキューでも構いません。

その五、小ネタ。結局ウッドストック家は廃爵されていないので、彼女たちはフォンをつけて呼んでいる。

その六、小ネタ。カール・シルド一等兵が正式に副官の軍曹に出世しているヨカッタネ。

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