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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第四章 バダウィ星系
71/77

68.充実



 ストーンリーフ急襲の報を受けて花鳥風月と雪中松柏は先に帰還した。あっちは船舶も含めて防衛部隊を多く残しているから瞬殺とかは心配していない。


 私たちアタナシア・レミングスの面々はエインヘリヤル上空に移動したグリンカンビにいったん帰還した。グリンカンビは戦闘に巻き込まれないようエリアの端に待機していたけど、こっちは敵が撤退戦の最中だからもう危険は少ないとの判断による。


 みんなはロボットを操り空中のグリンカンビにスルスル乗り込んでいくけど私は戦闘機。最後に相対速度を合わせてオーライオーライと滑走路に吸い込まれるように着陸した。グリンカンビの後ろから着陸できるようにしたら早そう。消防隊の出動シーンをなんとなく思い浮かべつつ、私たちだって一刻を争う場合はありえるし、自室からチューブを滑り降りて格納庫に直通とかイニシエからのロマン、提案してみるか? 滑り降りながら着替えは……、科学の粋を集めれば……、一度のミスで衣服が絡まって首吊り事故とか起こりそうだけど、どうだろ? やっぱ提案はやめよう。


 タラップを伝いマグちゃんから降りて呑気なことを考えながら、一応プー兄さんからストーンリーフの状況は聞いている。


『防衛戦力六万人に対し、ショージャは残存兵力をかき集めて推定二万人もいるかどうか。もとの実働部隊は全滅した上に後方支援部隊と交換した二戦級だから脅威でもなんでもない。母国から追加で派遣された空母と軽巡一隻ずつで事実上の特攻。なにを考えているのか分からないがなにも考えてないのだろう。が、さらに俺の予想を超える愚行に出た。王家専用の宇宙戦艦、サハスラブジャに王子が乗って、主砲の六メートル超えレーザーキャノンをぶっ放した』


「すんご」


 これは思わず唸っちゃうわ。マグちゃんとは違う区画にいる仲間からも呆れの声が次々と通信に混じる。


『レーザーはアリなんスか?』

『ナシだろ。地上でレーザーは威力が激減するとはいっても、アリにしたら大口径遠距離攻撃とそれを防ぐスモークだらけって不毛な戦争になる』

『反射装甲とかもな。無駄に金がかかる』


『他にもサハスラブジャにはレールガンが標準装備というかほぼそれ系統の宇宙仕様だから、アウトな攻撃だらけになると予想できる。今のところは挨拶代わりの光線でコマチカットの重巡一隻を沈めただけで大人しくしているがな。まぁストーンリーフは今スモークを焚きまくっているから当面、レーザーの心配はいらない』


 この期に及んで世間体を気にして連発しない態度と攻撃対象が空母じゃないのが地味にいやらしい。中身の艦載機は雪中松柏の一部として出撃していたから無視とか小賢しい。にしても。


「あの王子、常識の数段階はネジがぶっ飛んでたのね」


 むしろ今までよく王子が務まったな。


『調べてみたら少し裏があった。憶測混じりだか、主犯は妹の第一王女だ』


「あー、兄を貶めて次代の王位をとるとかそういう?」


『ああ、動機なんて知ったことではないから多分だがな。王女が思い描いた本来の筋書きは、ヨイショされて勘違いした王子がお前を口説いて振られてさらされて失脚、程度の見込みだったんじゃね?』


「えー、それだと私が悪いみたいじゃん」


『まぁ瞬発力で小火(ぼや)を煽って大火災にはしたな』

『いやあれはキレて刃傷沙汰にした審判が戦犯だろ』

『王女の想定を超えて王子のデキが酷かったのでは?』


『全部正解にしとけ。目論みが外れて王子どころか王家が失脚して茫然自失の王女もポンコツではあるが、最も奔走すべき女王の火消しがおざなりだったせいで王子はここまで暴走している。失うものがなにもないと開き直った無能は無敵だな。死なばもろとも惑星崩壊とか企んでないだけマシか。いや企んでいるかもだが。いつでも宇宙に転移できる備えはしておく』


「そっかぁ、うん、じゃあ私はスカアハで出撃(で)るね」


 滑走路脇の通路に出て、みんなのいるロボットの格納区画に向かう。立体駐車場的な大型エレベーターの取り付けなど、ロボットが増えたから動線をスムーズにしようと、内部は現在ゆっくり改造中で鉄骨が剥き出しのような区画がちらほらと見える。でも今回稼いだ大金でグリンカンビ二号の建造に着手したから計画の見直しもしなければ。どんぶり勘定の行き当たりばったりだからグダグダ。お気楽極楽な傭兵団っぽくはある。


 滑走路は左翼中層でみんながいるのは上層。数の多いナハシュ隊は右翼側に配置されている。おっさんだらけだから隔離しているわけではない、はず。ロボットの発着場はただの広場と変わらない。カタパルトはぶっちゃけ気分を上げるための舞台装置であって、普通は翼の後ろの出入り口から落ちる。パラシュート部隊が輸送機後方から飛び降りる絵面と同じ。ロボットに揚力関係ないし。


 各自、一度ガレージに収まり武装変更や弾薬補給を受けた機体から広場に移動して待機姿勢をとる。標準二足以外は自然体だけど、その二足の片膝立ちがカッコいい。とはいえシーバ隊、久し振りに近くで見ると全員デコりまくってるわね。全機鏡面装甲の、紫がかった玉虫色だからパッと見分からないだけで、膝のプロテクターがモンブランとか、草摺(くさずり)と呼ぶ鎧のスカートが生八つ橋とか絶対悪ノリでしょ。あ、ショルダーはショートケーキの断面か、くそっ、探してしまう。盾と武器もコーティングされてない代わりにマカロンチックなパステルカラーとか怪しげな熟語とか。天上天下唯我独尊と血文字で書かれた珍走族を彷彿とさせる盾って意図はなに? そしてジャガイモのスティック菓子をタバコのように指に挟み、巨人のつま先にガラの悪いうんこ座りして私を見るシーバのシリアス顔はなに?


「!!!!? 姐さん、オレら、もうキ(・)マ(・)ってっから」

「あー、ヤンキー漫画でも読んだと。ハイハイ特攻(ぶっこみ)はほどほどにね。あと手を洗ってからスーツを着ないとヌメりがキモすぎて死ぬほど後悔するか死ぬわよ」


 炎天下で野球やってそうな健全オーラ出してるくせに似合わねぇ。こんなんアレよ。いつかタンスの引出しに好きでもないアイドルのステッカーを貼った子供のころの自分に首をかしげる日がくるのと同じ。常識とデザインセンスが育った数年後にイジってやろ。


 更衣室に向かって歩きながら機体を鑑賞していく。次に見るのはアドラーの機体。フォルケは武器腕がレギュレーションに合わせて火薬タイプという点を除けば改造はされてなさそう。シーバたちより頭ひとつ高いヒョロガリの逆関節。空母に搭載するタイプを小型化した広域レーダーとジャマーを背負い、情報処理に特化したT字型の頭部は影の参謀っぽく、遠距離から敵に見つからずに敵を見つけて狙撃するヒットマンスタイル。本人も弾道計算はFCSが担うとはいえ、重力下の風向きや空気抵抗のある戦場にも慣れて、初めて会ったころより腕は上がっている。巨人の足元でサービスエリアに降りた運ちゃんのように屈伸運動をするアドラーが、私の視線を追って訊ねた。


「? ボス、なにか?」

「……なんでもない」


 肩にペイントされた4以外は文句なし。眼差し鋭く茶金の瞳を輝かせて不審な顔をするアドラー。その観察力でいつか気付け。


 隣りはナハシュの機体。上半身は丸みを帯びた軽鎧、ウロコが連なるスケイルメイルを着た女騎士のようなフォルム。頭部が前後に細長い葉巻き型で少しエイリアンっぽく、下半身は前衛的なスポーツカーのような流線型がややあざとい。男の子が一番喜びそうな見た目。ほっそりした腕が握るサブマシンガンとアサルトライフルは黒光りする旧式のデザインで無骨。機体名ヴリトラはフローターの高速機動を活かすために盾も持たない。部下たちは装備する機体もあるけどナハシュは強気。まぁ私と斬り合える反応速度の持ち主だから簡単には被弾しないか。火薬タイプの火器は威力、携行数ともにレールガンに劣るけど、ナパームやスモークの搦手(からめて)で立ち回っている。あとは下部の車体にグレネードランチャーが仕込んであるようだけど、使っているところは見たことがない。奥の手だし当然か。みんなと同じく小休憩中のナハシュはタブレットをつつく手を止め顔を上げて話しかけてきた。


「殿、46ersも補給完了、いつでも出れる」

「はいご苦労さま」


 銀髪に白い肌、深紅の瞳が宝石のように表情を変える。シーバの小麦色、アドラーの褐色ときてからのナハシュのアルビノは彼女の故国で見た新雪くらい目がチカっとする。インナースーツにヘルメットを脱いだ姿は普段のポニーテールではなくて新鮮。私と同じくがさつな軍人のくせに、時々妙に色気を感じるのはなんだろう? 女的になにかが負けている気がする。彼氏持ちか? 彼氏がいるせいなのか? ちなみにフォーティーシクサーズはナハシュだけが呼んでいる。ナハシュ隊以外だとオッサンズとかOSNフォーティーシックスとかみんなのおもちゃにされがち。私の一存でアテナは女系というか女子校系だから諦めろ。


 みんなから少し離れた位置にルーブの機体。ハイド&シークが脱力ポーズで佇んでいる。クモのような細く角張った四脚をおっぴろげ、ハンドガンを握る右手は腹に、無手の左手は五指を開いて垂らし、やや仰け反って天を仰ぐ角度の首なし餅頭はまるで公園のベンチでコンビニ弁当を食べ終えてほんの三分ボケーっと雲を眺めるリーマン。お前なんでそんなに哀愁が似合うの? コイツどこを切り取ってもネタにしか見えなくなってきた。


「(プシュッ、ゴキュ、ゴキュ、プハァ)」


 機体に隠れて見えないどこかから何かが聞こえたけどスルー。エナジーをまき散らす匂いが鼻孔をくすぐったけどスルーったらスルー。写真だけを見るとしたら近所のおっとりお姉さん風なのにギャップが凄い。残念な方向の。


 みんなの背後、控えめに待機しているのはカウリーンの機体。名前は確か、アルデバラン。元の戦車(タンク)型は踏襲しつつフルモデルチェンジを果たした。彼女はそもそものコンセプトがデタラメだった。重武装の複数同時使用による瞬間最大火力(D P S)を上げて切り込む、ってあからさまな使い捨て前提の立ち回り。確かに一対一は私とやり合える凄腕だけど、遅い機体で最前線に突撃して包囲射撃されたら避けられない。私はそんな役回りはさせない。火力優先のための巨体化と四腕は廃止。足場が安定するキャタピラの強みは活かし、遠距離火力支援専門と定めて、右腕は命中率より弾幕を張ることに意味があるヘビーマシンガン、左腕に半身が隠れる面積の方形(ヒーター)シールド。右肩に曲射榴弾砲、左後背に弾薬。正面の敵に対して横移動で回避しながら範囲攻撃というコンセプトで新造した。弾数が心許ないけど後方のポジションだから補給支援はしやすい。ついでのメリットとして、カウリーンの思考のリソースが大幅に改善されたから、戦術的な立ち回りは地味にヤバい。広い視野で戦況を読んで的確に致命傷を与える判断力たるや、私を超えるかも。


 そんな彼女もすっかり打ち解けてきた。戦友は同じ釜の飯を食うどころではない連帯感だからね。コマチカット軍から私が受け入れられたように、強い味方はそれだけで好感度が上がる。アテナの妹ポジにいるカウリーンは今、見るもの聞くもの全てが楽しいらしい。おチビちゃんたちと同じ。見た目はオリエンタルスーパーモデルがおもちゃっぽい片眼鏡をかけてキョロキョロなにかを観察する姿はこれまたギャップがヒド……、凄い。外国のイケメン俳優が近所の山でカブトムシ獲ってる姿くらい目を逸らしたい。


「お姉ちゃんみ、見て、ウサニーお姉ちゃんにも、も、もらったの。じょ、女子力? いちい、お姉ちゃん、に、にい、バスティンおじちゃん」

「へぇ、強者発見装置、優秀すぎてコワ」


 テシガワラ重工もよく気付いたな。もう名前は忘れたウサニーの故郷、現状を知ったら発狂すんじゃない? 低レベルな敵と同じ土俵に降りるザマァの追跡や深堀りは興味ないけど。


 更衣室に入ると、着替えたフーイエが出るところだった。汗をかくのは緊張や動きに無駄が多い証拠。まだロボットの操縦には慣れていないか。本人はすこぶる上機嫌なようだけど。高身長で短く刈った金髪に日焼けしたゴリマッチョ。男性ホルモン分泌(で)すぎて性別どっちか分からない総合格闘家が控え室を出てリングに向かうような雰囲気。


「よお、アンタもドレスアームズ乗るのか。楽しみにしてるぜ」

「多分一瞬で片付くかな。貴女の専用機はもう少し待ってね」

 

 あ、コイツの機体にこそ辞世の句とかペイントしてやろうか?


 不摂生 祟る上等 オリゴ糖 振り子かえりみ 血肉に染みる


 おどろおどろしい文体でよく見たら健康ヲタクやないかーい、とか。


 心の中でクスクス笑いながらロボット用のスーツに着替える。薄い強化外骨格に覆われるだけだけど、ロボットは戦闘機より遅くても全方向に揺れるから安全のために絶対必要になる。生身で乗ったらヘッドバンギングは身体に悪いですどころではない障害を負う。


 スカアハの格納庫へ行き、急遽暖機運転してくれていた整備士に礼を言って乗り込む。気まぐれでゴメン。でもこっちが早そうだから。にしても薄暗いガレージに輝くフルーテッドメイルの巨人、いつ見てもアガるわぁ。


 さて行きますか。ヘルメットに映る情報では、グリンカンビは作戦エリア、ストーンリーフに到着した。現在高度二十キロメートル、地上まで自然落下で十分二十分はかかるかな。加速するからすぐだけど。


 起動シークエンスを終えて、分厚そうなシャッターが上がった正面を進んでみんなのいる広場へ。そのまま出口がゆっくりと開く後方へ向かい、声をかけた。


「私ひとりで勝つつもりだけど、来たい人は自由にどうぞ、じゃ、お先に」


 スキューバダイビングのように背中から空へダイブした。


『ドレスアームズ? 戦闘機はまだか、ラティシス・ウッドストック、出てこいっ』


 レーダーで気付いているのは分かってたけど反応早っ。せっかちね。


[そのロボットが私よ。どちら様?]


『そうかお前がラティシス・ウッドストックか。よくも私を虚仮にしてくれたなっ』


[だから誰よ?]


『ショージャ第一王子オキャムトー・エル・デン・ザ=セッツ・セキロウだっ、この無礼者』


[はいはい自滅が趣味の王子様ですね。ついに殺されに戦場に出てきたと。流石でございます。ヨッ、芸人のかがみっ]


『まだ愚弄するかっ。死ぬのは貴様だぁ!』


 宇宙戦艦ナントカが真下にくるよう調整しながら落下していると、雲海が震えたからすかさず電磁スラスターで横移動したら、正確ではなかったけど近くを条痕が通り過ぎた。正確ではないほうが避けるほうも運任せになって怖い。加速するかとブースターを噴かせて、透明な螺旋を滑り降りるように操縦した。

 

[ふふっ、全裸で街に繰り出すくらい堂々とルールを破っておいて自滅の自覚なし? まだ恥の上塗りムサシレコードを更新し続けるとは、配信観ているショージャのみなさん、心中お察しします]


『黙れっ、王族自ら戦場に立つ以上、サハスラブジャのスペックを使ってなにが悪い』


 いや普通に意味分からんわ。どこにセーフの余地があるのよ。王族は優遇されて然るべきとか選民思想に染まっているのかな。じゃあ話が通じなくて会話するだけダルいよね。青空に螺旋を描いて目標まであと六秒。無数の条痕がヒステリックに通り過ぎるけど、宇宙と同じくレーザーだろうとレールガンだろうと予測が当たらなければ命中しない。どこの何様だろうと私の未来を読めるものなら読んでみなさい。左腕にチャージ。雲海に潜り一秒、開けた視界になんか真下の大海を背負って鮮やかに浮き上がる、直径三百メートルはありそうな黄金テントウムシ、あらカワイイ。


[戦場に身分は関係ないですよ。生き残る者と死ぬ者がいるだけ、さようなら]


 グリンカンビから送られた情報分析結果のマーカーがヘッドアップディスプレイに映る。近すぎてCIWSの乱射も消えた空、羽は見えないけどブブブと聞こえそうなテントウムシの眉間? になりそうな艦橋を中心に横一文字のウルトセイバー。左腕を振り抜いた。


 ザン


『『『ファーーーー?』』』


 透明な斬撃にゴッソリ抉られたテントウムシを見て、何故か友軍から引き悲鳴。


 そしてどこがどうなったのかは不明だけど、引かれたテントウムシ自身は数秒の沈黙のあと、なにかに引火して爆発が爆発を起こす連続音からの反応弾級大爆発で雲を吹き飛ばした。仲間がすぐ降りてこなくて良かったアッブネ。


[ね、だから自重って大事だと思わない?]


 赤く余韻の残る空から背中を押されながら、右肩の12mmバルカン式“レールガン”をセレクト。残りは海に浮かぶアメンボ二匹と空を舞う無数のトンボ。


[ま、そっちから掟破りしておいて許す気はないけど。貴方たちも軍人を名乗るなら、今さら降参とかもう恥の上塗りはしないでね]


 こうして自重なしの殲滅をフィナーレに、東軍による全エリアの占領をもってセキガハラは閉幕。世間が名場面を振り返ったり勇敢な死者に黙祷を捧げる中、同日夜半、ショージャで革命が起きて王宮が火災に見舞われ、王族全員不(・)幸(・)に(・)も(・)焼(・)死(・)と小さなニュースになった。国民が王族を気安く殺したらあとがないから誤魔化すわな。


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