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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第四章 バダウィ星系
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64.空戦



 AM8:00、セキガハラ四日目。Ζマグちゃんで十分ほど飛ばすと高地のエリアが見えてきた。まるで水墨画のような絶景。地上は濃い森に覆われて、川や泉が縦横無尽に配置されて光を反射している。高層ビルのような直角の山が林立し、白い崖からねじれた松の木が強引に生えている。そんな直方体の山に混じって点在するもっと広い台地からは宙に放水するかの勢いで滝が飛び出し、そのせいかどうかは分からないけどエリア全体に霞がかかっている。他のエリアにも当てはまることだけどコレ、天然に見せた人工の造形かな? なんか映画のセットのような出来すぎ感が。


 エリア名、英雄の墓標(エインヘリヤル)。視界と地形の悪さから特に航空機はまともに飛べない。それでも戦闘機乗りが出撃しないという選択はないから、別名エース殺し。ここなら私もビビって来ないか来ても倒せるって? ふふっ、上等。速度を落として眺め、すでに頭に入れてある地形データと実際に見た感覚を照合しつつ、昨日のブリーフィングを反芻する。


『本日終了時点の累計結果。我が東軍はエリア三つを取り、三つ取られた。結果だけ見れば互角だが、戦力差が大きく開いた。ざっと東軍一四九万人に対して西軍一二五万人。数字上の考え方でいえば西軍はもう敗北ラインを越えた』


「一割以上開いたら厳しいでしょうね。打開策はありそう?」


『西軍は大敗した初日に全体に指示を出していたようだ。今夜、殺島西海岸に秘密裏に西側各国の戦闘部隊が上陸する』


「はぁ? それは卑怯というかダサすぎるでしょ。今夜暴露したらもう終わるじゃん」


『それがそうでもない。惨めなのは自覚があるようだからコソコソ動いているが、ルール上は問題ないんだな。怪我人も含めるとかセコい部分もありそうだが簡単にいうと、後方支援部隊と入れ替えるつもりらしい』


「ああ、そういう。あー、賢いといえば賢い、のか?」


『苦肉の策ではあるが、このままズルズル負け確ルートを進むよりは勝算がある。レギュレーションは一国につき最大十万人。本当に十万人揃えるところはあまりなく、だから例えばコマチカットは空いている人員枠にアタナシア・レミングスを、後方支援も含めて五百名ほど登録していて、グリンカンビもレールガン以外はルール上は戦争に使っていいわけだが、とりあえず空中司令機(A W A C S)として使うくらいで、俺たちはそこまで目立つ気はない』


「えーと十万人のうち、実働が八万の後方支援が二万として、西軍が実働十万に変えるとすると……」


 東軍の実働は一四九ひく二かける十六いこーる……、……、……、一一七と、西軍はなんだっけ?


『エクステに頼らない点は褒めてやるがお前の頭で無理に算数するな。戦力は拮抗した、これで十分だろ。まぁ背水どころではない構えだが』


「そうね。今日が終わってあと四日、水食糧医療品に弾薬全部捨て(パージし)たようなもんだもんね。軽くなって戦闘力アップ? 最終日までに撃たれなくても飢えて全滅が確定した。狂気と呼んでいい覚悟じゃない」


 私は戦闘機を乗り回せるけど、ミサイルの積み方ひとつ知らない。どうして私がグリンカンビをゲットするやいなやアビャーナたちを求めたのかって話よ。実働なんて後方支援がいなければただのゴロツキ。整備不良の戦闘機も輸送車もただのスクラップ。縁の下の力持ちを消した西軍がまともに戦えるのは明日だけ。それすら怪しいけど。


『横長の殺島を三十二のエリアに分けて、両軍ともに四かける四のエリア、ひとつにつき半径約二百キロメートルのエリアを奪い合うわけだが、前線二列は大体数打ちが守る。繰り返すが現在三対三。ここを先に八つとかそれくらい潰したあと、自分たちより多く潰されないよう最終日まで全力で守る、というのが西軍の戦略らしい』


「あっちの真打と影打は沈んだけど、せめて大局としての勝ちは取ろうってか。勝ち筋を見つけて足掻く姿勢は立派ね。そう上手くいくとは思わないけど」


『そりゃあな。どのエリアの守りが強いか弱いか情報戦次第で悲惨な展開になるし、東軍も全体の方針はオフェンスに切り替えるようだし、こっちが先に八どころか十六エリアを取る公算が大きい。ただし、俺たちはディフェンス要員だから』


「狂気の特攻を食らう可能性大? 上等。死兵に倒されるほどヤワじゃない」


『上からのコマチカットへの指示は変わらず待機。西軍が全力オフェンスなら東軍は全力ディフェンス、なんて合わせる気はなく、手薄なエリアを取ってしまうつもりだ。コマチカットには出来れば他所の応援をして欲しいが、お前が活躍しすぎるのも困る、といった複雑な乙女心らしい』


 汗臭い軍に乙女要素ねぇよ。


『明日の予想展開は、西軍がここを攻める可能性は低い。情報分析上はウチが最前線南海岸に対し、西軍は北海岸から先に進み、二列目を二つ取り、さらに隣り、ウチから見て斜め後ろのエリアを中心に大攻勢をかけるようだ。今日サナキーユが守る、ウチからひとつとばしたお隣のエリア、ラストバレーを取れなかったのが痛い。が、サナキーユも相当弱っているから後一押しで取れる。だからお前を避けながら他の前線二列を一気に飲み込むつもりだ。つまり』


「敵が大軍にまとまるまで待機するのは間抜けね。隣りのエリアならすぐ自陣に戻れるし、ディフェンスの応援に向かいましょ。エリア情報お願い」


『エインヘリヤル、通称エース殺し。霧に包まれた市街地のようなマップだ。航空機は対地攻撃が難しく、空戦はもっと難しい。味方のエリアだから対空兵器の多くは敵に向けられているのが好材料くらいか。集中的に狙われやすいから敵は上空は避ける。空の戦場は対空兵器の射程外の成層圏近くか、低空のどちらかになる。低空は遮蔽が多いのと湿度が高すぎてミサイルの脅威度が低い。常に蛇行しながらバルカン砲で倒せって常識的には無理ゲーだ。ドッグファイトの勝敗より追突(クラッシュ)が多い。腕に自信のあるパイロットは低空で戦おうとして死ぬ。エース殺しの所以だな』


 いつぞやのトンネルだの先日の洋上基地通過もそうだけど、特殊(ネタ)マップはシミュレーターでやり込んでいるからむしろ得意だったりする。ホログラムの回転する地形は初見なのに懐かしさすら覚える戦場だわ。というか必然かコレ? プー兄さん、各地の戦場のデータをシミュレータに落とし込んでいたのかも。


『担当国はパシファン、援軍は偽銘タフール、肉壁派遣の数打ちアメボーゼ、同じく数打ちコンホシャハイ、総数は十五万。西軍は偽銘ニルアナを核として、偽銘ヨウクヒト、数打ちボセイダンマ、数打ちカラ=エル・デクソトナ、数打ちメコネッティの総数二三万だ。敵の数はあくまで推定だが、航空戦力は少なめ、まぁ少ないといってもこちらより多い。地上軍が多く、数の勢いで飲み込むつもりだな。オフェンスのほうはもう様子見なしに決めにくるぞ』


 KO狙いの第七ラウンド、くらいかな。大軍同士のぶつかり合い、ワクワクすっぞ。


「じゃあ援軍はアタナシア・レミングス、花鳥風月と雪中松柏、あとは戦車隊一万人前後で編成。艦隊などの残りは留守番ね。私の出撃を見てストーンリーフを狙う可能性も考えられるから気をつけて。明日が山場。全員、勝って生き残るわよ」


 コマチカット軍駐留地に号声が轟いた。


 AM8:04、エインヘリヤルの深山幽谷な景観を楽しみながらの回想終了。レーダーを意識すると敵航空部隊は成層圏手前、高度五千から一万メートルに展開中、数はざっと八百機。味方航空部隊は私たちを含めて七百機弱。柱状の山や台地の上空で迎撃の布陣を見せている。まぁ互角、ただし時間を気にしたほうがいいかも。おそらく地上軍が一定ラインまで進めば全機急降下爆撃による短期決戦、という戦術だろうから。なるべく被害を抑えて勝つには低空に近付く一回で決めようとするはず。


 その一回もさせないけどね。アフターバーナー、急上昇。


[ハロー東軍、こちらコマチカット軍、航空部隊と戦車隊が参戦します。遊軍として動くからお構いなく]


『こちらコマチカット所属グリンカンビ、IFFデータリンク完了、パシファン司令部にも送ります』


『援軍はありがたいが単機で突っ込むとかイカれてるのか』

『いや、あれ噂のブルーエンプレスだよ』


[花鳥風月、雪中松柏はついて来なさい。ただし、外側のポジションを意識して。中は私がかき回します]


『了解、シワスコマンダーより各隊へ、広く散開して削れ』


『おいおいどんだけ調子に乗ってくれちゃってんの』

『ああ、いくらなんでもナメすぎだろ』

『全機、囲んで圧倒しろ』


 沸点低いボーヤたちだこと。空は比較的逃げやすい。つまりベテランや貴族がそれなりに混じっているから、強者と勘違いしちゃってるのね。私相手に数で囲んで勝てるつもりとか調子に乗ってナメてるのはそっち。本物のエースを教えてあげる。


 化石燃料のジェットエンジンからエアブースターに変わっても、基本の構造は変わらない。圧縮空気の噴出孔に添えられたスパークロッドによってプラズマ燃焼が加わり爆発に等しい推進力を得る。アフターバーナー、フルスロットルでマッハ五を超えて、まずはヘッドオン。


『はや━━』

『え?』

『マイセン2、3、ロスト』


 武装はバルカン砲のみ、六千四百発の撃ち放題。本当にトリガー引きっぱなしにしたら一分ちょっとでカラだけど、一機につきコンマ一秒、十発も撃てば足りる。秒速二千八百メートル、レギュレーションに則り火薬使用の旧式といっても自重なしだから、初期のレールガンより速いという。一発でも当たれば爆散。


 対面の二機を撃破して通り過ぎるとエアブレーキをかけながら機首を上向けて、下に電磁スラスター、ほんの一瞬だけコブラ機動、一秒未満で時速四百キロメートルまで落とすとすぐさま加速に転じて横旋回、私のケツにつこうとする敵機に向き直ってヘッドオン、からのトリガー。


『ピース1、ロスト』

『な、んだよその機動』

『宇宙仕様の重力制御か、追いつけねーよ』


 一機撃破と同時に急上昇、からの降下、インメルマンターン途中で横旋回など直線は避けて囲もうとする大群を翻弄し、脳内の三次元レーダーをチェックする。タイミングは……、このあたりか?


『フォックス1』

『速すぎてケツから撃っても届かないって』

『減速する時もあるだろ』


 直線機動でアラートが鳴る時に減速するわけないじゃん。それと、もっとひどい悪夢を見せてあげる。私のケツにつこうと宙返り中の敵機をかすめるように通過。コンマ数秒後、その敵機にミサイル命中。


『ラーク3、ロスト』

『フレンドリーファイアぁ?』

『ちっ、違うっ。俺警告のフォックス1って言ったよな』


 後方三つ、前方五つの小隊。そのうち一機を上から撃ち抜き、爆煙に隠れるように通り過ぎた。角度的に視界が隠されてなくて、私を目で追いながら旋回する小隊と、ケツにつけて煙で視界が塞がれても私だけを追いかける小隊と、その爆煙手前でクラッシュ。


『キャメル2、キャメル4、セッタ1、セッタ2、ロスト』

『なに、なに、なにやってんのぉ?』

『味方にフォックス4かよざっけんなぁぁ!』


 次は。脳内レーダーで各機を見ながらルートを微調整。まだロックオンしない射程外の米粒に対面からの射線が重なった瞬間トリガー。即座に急旋回。一緒に白煙の弧を描く複数のミサイルを引き連れ敵小隊とクロスオーバー。そのうち一機に命中。


『エコー1、つぅ……、エコー小隊、ロス……、キャビン3、ロスト』

『なんだよコレ、なにが起きてんだよ』

『音速超えた空戦でこんなに事故ったりラッキーヒットがあってたまるかぁ』


 なかば狂乱して闇雲にミサイルを撃つようになったわね。無数の白煙が幼子の落書きのように空を塗り潰し、遮蔽が増えてどんどんイージーになるドッジボール。私は高速で蛇行しながらほんの一瞬遅れて私の後ろを敵機がかすめるルートを選択。


『キャスター4、ロスト』

『アイツ……、戦場が全部視えてる? 未来すら?』

『ブルーエンプレス、これが、他星系のネームドエース?』


 八百機もうろちょろしてて、いい感じに私だけに意識が持ってかれてるわね。じゃあそろそろ。声はかけない。鍛えたんだから分かるでしょ?

 AWACSのグリンカンビが別回線で指示、アビャーナがタイミングを図って花鳥風月と雪中松柏を動かした。


『ケント小隊、ラッスト小隊、フィリップス小隊、ワカバ小隊、シンセー小隊、ロスト』

『チッ、外周やられた。レーダーをよく見……、あ?』

『下、下ぁ、全隊回避しろぉ』


 そう、雲の下から戦況をうかがい戦力を遊ばせてるだけの友軍航空部隊。こんなに美味しいシチュエーションを見逃したら無能すぎるよねー。


 雲海から突如無数に生えたミサイルの剣山は横縞(ボーダー)の空をチェックに変えて、見えない巨人が赤黒い絵の具をたっぷり含んだ筆を振り抜いた。


 空の勢力図は東軍七百弱に、西軍六百弱。早くも盤面ひっくり返ったわよ。敵さんどう動く?




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