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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第四章 バダウィ星系
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61.経過



 PM10:30、日が沈んで以降は夏とは思えないほど肌寒い潮風になぶられるコマチカット担当エリア、ストーンリーフ。最奥の神社の手前のインターチェンジで降りて右折した先の山の裏側とか口で言われても分からない位置、要は比較的安全そうな立地に隠れ家的に宿舎が設営されていて、セキガハラの期間中はここで寝泊まりする。私たちアタナシア・レミングスも一緒。別にグリンカンビで休んでもいいけど、なんかメンバーは修学旅行の空気ではしゃいでいるからこっちが正解らしい。


 一応断っておくと、こういう居住区への攻撃はしてもいいけど誰もしない。貴族にはダサい、セコい、みっともないって口撃が一番効くから。ダサいテロが横行するファウトゥースではアリの扱いしたけどね。


 夏、無人島ときたら虫がヤバいけど、そっちは照明器具に誘蛾灯を兼ねてもらい、運動場というかただの空地にて、風を巻き上げる熱気に包まれ、宿舎前に数万の軍人が集まって酒とバーベキューで盛り上がっている。新兵(ルーキー)が揃いも揃って、中身は転生した犬が嬉ションしてそーなくらい目から脳汁流してる。命日と覚悟したイベント初日が一転、完勝で生き残ったらそりゃしゃーない。ウチのコたちも浮かれた空気にあてられてるわね。


「カンパーイ、くぁー、この一杯のために乱射」

「されたほうは今天国で二度見してそー」

「なんスかあれ、なんなんスか? 鶏肉のケツに缶ビール……?」

「まぁ見た目は悪魔的(デモリッシュ)」


 突然照明近くの羽虫にたかられながら巨人のホログラムが屹立した。


『それではブリーフィングを始める』


 宴の空気を無視して始まるプー兄さん節。ブレなーい。


『の前に、勝利を祝って国歌斉唱』

 

 おや? 珍しい。



     〜 っオイ っオイ っオイ っオイ 〜

     〜 ギボバ ニボエド ヂリヌルボォ 〜

     〜 ガガヨダラズヅネダラムマサラっヴェ゙ 〜

     〜 ゲバっゲバっゲバっゲバっ ギーギーゲバラヴォ゙ー 〜

     ※間奏を挟んで八番まで続く



 デスボイスで全く何言ってるか分からない歌詞。これが正式な国歌だったらコマチカットは永久数打ちで異議なし。喉を潰した声とギョロ目で歌う隠し芸は一生隠して欲しかった。生を噛み締めて情緒崩壊中の軍人どもはギターリフに合わせてヘッドバンギング。軍属全員と身内がジャンキーと実感。


 ドラムの締めに連動して巨人ボーカルがなんでやねんの動作で右腕を振った先に殺島俯瞰図。


『本日の結果ゲホッ、ンッ、ン。俺たちが属する東軍はエリア二つを支配。四つにダメージ与え、三つダメージを与えられ、ひとつ奪われた。圧倒的にウチの手柄だが、東軍優勢で初日は終了だ』


 複数の映像が宙に流れた。スクランブル発進する戦闘機。空に落書きされたような何条ものミサイルの白煙。塹壕をキャタピラでまたぐ歩兵戦車と、塹壕から飛び出しその後ろをダッシュでついていき、また塹壕を掘りまくる機械化歩兵。周囲にCIWSの弾幕を張る重巡。後方に並んで同時に火を吹く自走榴弾砲。林に隠れるスナイパーと観測手(スポッター)。たまに混じる目立ちたがりっぽいロボット。


「一日かけて遅いわね」


『お前が規格外なだけだろ。他の戦場は常識的な戦争していたらしい』


 ハッ、何年もかかる地球型の戦争のこと? あれは市街地とかなにかの施設とか一般人を巻き込むのと、全員ビビって遠距離からチクチク撃ち合ってたから遅いのであって、現代は事情が違うじゃん。国土全体を戦場にはしないし、射撃精度が高いから守ってたって守りきれない。


「まぁプロレスでいうところの、手と手を合わせる序盤はそんなもんか」


『ショージャ八万、ナギシリ四万、ムカッチャオ四万、リョフマ四万。戦闘機一機が生配信で手と手を合わせてこんだけ潰して今お前ムサシ星人からロードスターをスルーされて、急降下爆撃の魔王(ルーデル)認定されてるぞ』


「光栄よ」


 おぉー、とかどよめくのやめてよ恥ずかしい。


『お前を除くと今日のハイライトは、単独でひとつのエリアを奪ってみせた、西軍偽銘のピクモンだ』


「どこかで聞いたような。気のせいかしら」


『気のせいだろうが勘が鋭いかもな。ここはテシガワラ重工の取引先だ。つまり使用兵器は』


 回転する戦車のホログラム。砂塵舞うファウトゥースの戦場で相手をしたけど微妙に忘れた。


『Mc-11制圧戦車オルトロスMkIV。フローターによる最高時速およそ500kmの機動力。180mm二連パルスキャノンによる中距離火力特化のメインタンク。どうやらここで使う想定の兵器だったらしい』


 あーハイハイ、いたいた。視界の利かない環境で足を止めて基地を攻撃していたコンセプト不明の欠陥品ね。なるほど、レールガン使用禁止の戦場で役に立ちそうな兵器という注文(オーダー)だったのかな。


 ホログラムの代わりに映ったどこかの放送局の映像は遠くて迫力に欠けていたけど、確かに見た覚えのある放熱フィンだらけのシルエットが、高速で野原や丘陵をスケーターのように曲線移動しながら二、三十キロメートル先に二対の主砲を撃ち込んでいた。車両を相手にほぼ確実に当たる有効射程は数キロメートルだろうけど、遠距離から撃っても命中率は高そう。重い砲弾は偏差が大きいけどコイツはガスの塊だから狙いやすいみたい。なにより機動力が高くて敵の攻撃が当たらない。これは強い。


『攻めるピクミ、ピクモン八万と守るアメボーゼ四万の戦いは、遠距離の撃ち合い、ダメージトレードはピクモンの圧勝。地上がかき回されると空も狙われて不利になり、戦力差が広がると一気に距離を詰めて短期決戦で潰しきった。やられた数打ちのアメボーゼは撤退、お前の相手と違って全滅まではしない。想定内だったから殿が踏ん張って整然と退いた。とはいえ死者は一万人、明日以降は肉壁にされてドンマイ。ケツに火がついたオフェンス四万が、影打のチャッピョイと共同でエリアを奪ったから昇格して来シーズンは明るい、という戦果が不幸中の幸いだな』


「王道戦術で決めきるってやるじゃん。やっぱ最前線に慣れて生き残りも多い偽銘がこの星の強者とみてよさそうね」


『それは否定しないがこのピクモンは少し怪しい。始め四万のオフェンスと見せかけて、詰める際に西軍側から新しい四万がなだれ込んで勝負を決めたわけだが、増援の先陣を切った二百両のロボット、これまたテシガワラ重工製の重量級逆関節が不意打ちを決めたことが決定打になった。これ変だろ』


「拙速を尊ぶなら戦闘機、最低でもフローター戦車を使う。なのに遅いロボットで成功って各種レーダーに反応しなかった?」


『そう、技術はいたちごっこだからステルスやジャマーも日進月歩とはいえ、ニュートリノスキャンまで騙す技術があったら脅威だな。全世界において今後の戦術方針が変わる』


 あるラインを越えたら発見できる、という前提で防衛線を張ってるからね。発見されても移動速度のゴリ押しで急襲が可能な戦闘機が強い理由だし。簡単に言うとアテナやノクちゃんからすると、正面から突撃してくる万を超える宇宙艦隊より、気付かないうちに懐に降りたロボット一両の自爆攻撃のほうが怖い。局地戦闘はともかく防衛戦で発見できないはチートね。


『ただ、まぁ、対策はすでにとったがな』


「謎のくせに新技術を解明したの?」


『いや。なにが効くかの予想がつく。今アテナのほうで新生イナバンバウ商会がフル稼働している』


「あーハイハイそーいうこと? テシガワラ重工が無理してでも吸収しようとした理由。鬼読めだっけ、アレが弱点なん?」


『素粒子の観測をできなくするなにかを開発しても、フェロモンを誤魔化す発想はなかったってことだな』


 おいおい地味にウサニーの株が爆上がりしてる。家電無双。


『ブリーフィングを続ける。東軍真打ウジンクスから指示された、明日のコマチカットの方針は待機だ』


「うーん、エサ?」


『ああ。西軍のどこもウチを攻めない、なんてことは考えられない。真打のショージャが執着しているのは見て分かるし。ただ、盗聴によると明日の侵攻はない。俺はかけひき(ブラフ)とみているが、さてはて』


 西軍側のセオリーで考えると私はいったん無視して周りを叩き、東軍対西軍という大枠で優位に立ってから、戦力を集中してコマチカットに攻める、という手順が最適解になる。仮に今、全戦力でウチを攻めたとしたら、他のエリアががら空きになって勝負が決まる。てかウチの真打はそれを期待してんじゃね?


「流石に全戦力でウチを攻めるとかないし、戦力の小出しはもっとない。警戒はするけど他所の観戦しながらすごしますか」

「ウチはオフェンスしないんスか?」


 物怖じしないシーバの質問は、どうやら戦勝に浮かれた軍人も抱えているっぽい。BBQ会場全体が微かにうなずく空気に笑いながら私は答えた。


「コマチカットが連日エリアを奪って戦功一位で真打になったとして、私抜きの来シーズン、上手く戦えるの?」


 あぁ、てため息のような納得の合唱。戦略はともかく政略は勝ちゃいいってものでもないのよ。今後十数年は偽銘を維持、人材と新型に変えた兵器が充実してきたら影打を目指す、てな筋道がコマチカットにとっての快適チャートでしょ。


「あとまぁ現時点で私はやりすぎたようだし、ディフェンスによる返り討ちはどうにもならないとして、オフェンスでこれ以上殺すとコマチカットも不要に恨みを買うことになる」

「恨みっスか」

「そう。誇りを懸けた戦いとかどうカッコつけても殺し合いは負の感情を生む。私からは見えないし見ないし気にしないだけで、私を憎む人は大勢いる。分かった上でそう立ち回ってもいる。ショージャ、ナギシリ、ムカッチャオ、リョフマ。今日この国の人から私は相当な恨みを買ったはず。真打や影打は経歴が美味しくなるからと貴族もそれなりに加わっていただろうし」


『いつもの鴨ネギゴチを説明するまでもないが、コマチカットの完勝なんて百年に一度の九蓮宝燈(ちゅうれんぽうとう)・天和(てんほう)で和了(あが)って俺たちはウハウハ、全財産溶けてハァハァ息切れを起こしてる連中も大量にいる』


 人聞き悪い。ショージャが全力でコマチカットを叩き潰すってよ、て聞いた人がなににいくら賭けるかはその人の自由でしょ。


『ラッテ、今回は大金の使い道を考えとけ。国家予算超えてるから持ち逃げするとこの星の経済が壊れる』


「えーと、じゃあ……、コマチカットのSSに造船所を作ってグリンカンビ二号を作らせましょ。金は好きなだけ使って急げ、て。用が済んだら施設は国に贈呈って言えば法律は即答で忖度するでしょ」


 鉱物資源はアステロイドベルトで採るから工場は宇宙に作ったほうが早い。アテナで作れないこともないけど人が少ないから時間がかかる。実に合理的。


「「「器でっけぇー」」」


『オーケー打診した。予め王家にはほのめかしておいたから話は通った。モニターの向こうでクイーンが読モブ一位に選ばれたイキり顔してる』


 拳にキスして天に突き上げるネーちゃんとか想像しちゃったじゃないやめてよ。読モブがなにかは謎。


「「「話早ぇー」」」


 王が治める世界の一番のメリットよね。有能な人材さえ揃っていれば全てが早い。


「私は恨みを買っても長居しないから平気。好きなように暴れてかき回して旅する気楽な立場よ。でも貴方たち国に属する者はせいぜい敵より仲間を増やしなさい。今後のセキガハラでいうと、肉壁にされるアメボーゼと協力できるなら優先する戦略でいきます」

「突撃の援護?」

「いいえアドラー、肉壁はディフェンス専門よ」

「そうなのか」

「ああ、貴族のナハシュが分からないのはしょうがないか。故郷のアレは、死を覚悟していながら一人でも多くの敵を倒そうと戦っていたものね。こんな実例が分かりやすいかしら。カミカゼ特攻は何故戦果がなかったのか。例えば三機編成(スリーマンセル)で一隻を狙い、対空砲火を旋回で避けながら近付き衝突、という作戦だったら少しは戦果があったはず。まぁ敵の戦闘機がひしめく空で勝ち目はないだろうけど、弾幕に正面から突っ込むただの自殺よりはずっとマシ。そうならなかったのは、燃料をケチってロクな機動をとる余裕もなかったのと、パイロットが死に呑まれてなにも考えられなくなってたから。合戦を経験したみんなは分かるでしょ? 死兵、死を背負ってオフェンスは全員頭が真っ白になって使い物にならないのよ」


「「「……」」」


 むしろ総戦力が減るだけの作戦だから有害とすら言える。上官が特攻を命じたら、私だったら躊躇なく首を刎ねる。


「死は背負うものではなく目の前に見据えて立ち向かうもの。強さとは、頭を使い続ける意思に宿る」


「「「カッケぇー」」」


「だからエリアをとられた他国の兵の有効な使い途はディフェンス。あちらから迫る死を前に、生き残るために考え続けた者が生き残るチャンスをつかみ、強者になりうる。助けて損はないでしょ? 来シーズン、偽銘に昇格する国同士、今からコネ作っときなさい」


「「「イエス・マイ・フェアレディ!」」」


 いつの間に伝わったのよっ。コイツら途中から例のスタンプに似てるなとは思ったけど。



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