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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第四章 バダウィ星系
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59.先制



 AM8:00、殺島近海上空を飛ぶグリンカンビの内部滑走路から、私はトンネルのように一部切り取られた青空を覗いた。コスパを無視して飛ぶ巨大宇宙船の左翼やや上部に空いた穴の奥、出番がなくてお飾りだったマルチロールのΖマグちゃん、ムサシ星人の度肝を抜くまで暴れてやるわよ。


 他のみんなは担当エリアのストーンリーフ、海岸から離れた盆地の、塹壕だらけの防衛線に詰めて侵攻を待ち構えている。あちらに陸からの敵軍が顔を見せるのは早くても三十分後くらい。同じく、海からの進軍もそれくらいはかかる。タイミングを合わせているのだから当たり前だけど、両方お行儀良く待つ必要なくない?


 というわけで海のほうは私から出向いてあげる。ショージャとムカッチャオの艦隊が駐留しているのは隣りの敵陣、リョフマが担当するエリアのクリムゾンリーフ。こちらも永年の敵襲に備えて、航行可能な深度の港周辺、人工浅瀬のいたるところに洋上基地を設置して防衛している。パッと見、石油採掘現場みたいな壁のない鉄筋コンクリートが剥き出しの建物が二十ヶ所くらい。良く見たら対艦対空のトーチカから砲身が生えてるけど。


 つまり海側の敵戦力はざっと四万かける三勢力の十二万ってとこか。リョフマは四万をディフェンスに残し、オフェンスの四万を他所の敵エリアに出撃させるみたい。リョフマも最前線に配置された数打ち。でも強国三つが自陣に駐留して出撃するという絶好の機会に恵まれた。味方にそのつもりがなくてもディフェンスにバフがかかった状態といえる。普通に考えて今攻めてくる敵なんているわけないから、余裕のある時に攻めてひとつでも占領した戦功が欲しい。どこも占領せずに全滅すると、つまり良いところが全くないと数打ち。なにかしらの功があれば偽銘に昇格できる。


 ま、普通に考えてるうちはいいようにやられちゃうのよ。戦術は、そんなバカなを相手に言わせること。


「じゃ、いってきまーす」


 電磁カタパルトによって周囲から見えないゴムでセイヤァァと引っ張られるGに身を任せ、私はグリンカンビのトンネル出口から一瞬で空に飛び出した。


 :え、マジに単騎駆け?

 :あんたカッコよすぎんか

 :抱いておねぇさまー


「あ、忘れてた。コメント消して。通信も切り替えます」


 宙賊退治がなかった分、資金と同接稼ぎに生配信してたの忘れてた。戦闘機のパイロット視点で最前線を生中継は、流石のムサシも前代未聞とのこと。ウケたウケた。報道局は私に客取られて涙目かも。


 沖から回り込むルートで、海上を高度三十メートル以下で飛ぶ。こうすると敵の航空レーダーに捕捉されない。船舶レーダーには引っかかるけど速すぎて船舶ではないと除外される。なんて企んでも配信していてバレバレだろうからいっか。スピード重視に変更。


 機首を上げて水平線のもっと奥まで見て、マッハ五に急加速した。音を置き去りにして私にとっては馴染みのある無音の、斎場のような感情のノイズが視える静音の、死神の空にフィールドが変わる。

 旧式の戦闘機には、マッハ三の壁があった。大気摩擦だか断熱圧縮だかよく分からんなにかによって、速すぎると機体が溶けるレベルの高温に包まれてしまう。それがなくてもパイロットに耐えられる瞬間最大Gは十までだから、マッハ三以下の機動で足りていた。


 今、装甲はスペースデブリに傷ひとつつかない宇宙仕様に変えた。レーザーにも耐性があり、高熱に強い。既存の機銃は噴出孔などピンポイントで弱点をつかれなければ効かない。コクピット回りに重力制御システムを積んで高速の負荷を軽減、今までより速い機動でGが軽い。電磁スラスターも上下左右四ヶ所に仕込んで従来にはない機動が可能。まぁ、対空レールガンだらけになっても全員倒す私専用機ってやつ。

 

 変更に伴い透明な風防(キャノピー)もなくして、宇宙仕様の戦闘機と同じくカメラ越しの視界になったのが軽いストレスだけど、ちょっとコレ反則かも。ミサイルじゃなきゃ落ちないし、そんな遅い攻撃は絶対に当たらない。逆にこっちの武装は同じ性能の機体を撃ち抜ける30mmバルカン砲、火薬はプー兄さん特製のヲタッキーとかなんとかフザケたヤツ。他は今まで通り。


 じゃ、どこまで強化したのか、実戦で試しますか。


『警告! 方位165、マッハ五で敵性存在が接近中』

『はぁ? あの配信マジにここ?』

『防空圏侵入まであと六、五、四』

『マズイマズイマズイ、空母ぉ、スクランブル発進急げぇぇー』


 遅い。緊張感が足りないわよ貴方たち。


 視界の奥に海岸線と洋上基地が映り、今から出航しようと列を作る艦隊にやや斜めの角度から機首の照準を合わせ、無誘導のテルミット魚雷、二十四発を思考の連打で投下。さらに一瞬で通り過ぎる艦隊の頭上、空母のはるか手前でオーロラ気化爆弾投下。


『『『そんなバカなぁぁーーー』』』


 内陸に飛び込み雲の切れ間をインメルマンターンするあたりで眼下に一望する港湾が一斉に大爆発。仮想通貨がゼロになったような悲鳴がハモる。仮想は元々ゼロよ夢見んな。


 二度の元寇失敗とか、数年かけて建造して初陣沈没RTAされた戦艦大和とか、ドローンに手も足も出ないロシア艦隊とか、真珠湾攻撃でボコられたアメリカ艦隊とか、久し振りに思い出すシーバと出会った夜の単騎駆けもそう。船って場が整ってないと絶望的に弱い。具体的には艦載機が無数に飛んで制空権を確保して、空母の回りを駆逐艦が護衛して潜水艦の警戒にあたり、軽巡や重巡がCIWSでミサイルなどを撃ち落とす布陣を組んでやっと戦える。先手を取られた時点でわりと沈むだけのカカシに成り下がる。まだ自分は駒を並べてないのに「先手、2六歩」とかって敵の都合で将棋が始まるくらい詰む。海上、遮蔽のない殴り合いの艦隊って一番練度が試されるかもね。


 上空から真下の無事な空母にオーロラ気化爆弾二発投下。発進しかけた艦載機もろとも甲板が虹色に輝いて蒸発した。

 あとは陸地から次々とスクランブル発進する戦闘機が見える。リョフマの防衛戦力か。少しくらいはドッグファイトもしたいからちょうどいい。ただ、旧式を凌駕した私についてこれるかしら。


 艦隊は一瞬で全滅。あとは無数の黒煙を遮蔽にできるうちに、洋上基地と多数残ったフリゲート艦を叩く。我に返った基地から狂ったように対空砲火を浴びるけど、まるで当たる気がしない。カミカゼ特攻がなんの効果もなかったように、正面から突っ込むと簡単に蜂の巣にされる。だから射線に対して常に横に避ける。基本よ基本。


『なんだあの機動?』

『照準が追いつかねぇよ』

『目の錯覚か、平行移動したような』


 私は基地群をぬうように旋回して横なぶりの豪雨のような弾幕をかわしながら射線の途切れる角度を見つけて降下、高度を基地と合わせると同士討ちを恐れてさらに弾幕が薄くなるルート選択で突撃、マッハ一の音速で接近して残り百メートルほどの距離でオーロラ気化爆弾をリリースして急上昇。爆弾は慣性に流され宙を直進して、基地内にスポっと入って建物を丸ごと消し飛ばした。


『こっちの航空部隊はなにやってんだ』

『たった一機になんだよこのありさまはよぉ』

『ミサイル撃ったら基地をかすめてなすりつけとか頭オカシイよ』


 同じ要領で基地四つを潰すと武装はバルカン砲のみの身軽になった。常識や教科書に従うならここで帰投が正解といえる。いや単騎駆けが非常識だけど。

 バルカン砲なんてサムライの脇差し、軍人のピストルくらいのサブウェポンになる。後ろをとって適切な距離で撃てば高確率で当たるミサイルと数は少ない必殺技的な特殊兵装を使い切ったら帰る。それが戦闘機の上手な運用法になる。お互いレシプロ機を操り機銃のみでドッグファイトは第二次大戦で終わった。


 その非常識を平気で行い撃墜数を稼ぐからエースなんだけどね。空戦は機銃のみになってからが本番みたいなもんよ。


『味方機、フリゲート艦に撃墜されたっ』

『フレンドリーファイアすんなバカ野郎っ!』

『したくてするわけねぇだろっ、敵が速すぎてワンテンポ遅れるからっ、遅れてついていく戦闘機に弾が吸い込まれるんだよっ!』


 最もゲームと違う過酷な現実の仕様はフレンドリーファイアでしょうね。味方殺しは最悪生き残っても軍法会議で有罪だし、不慮の事故と許されてもトラウマ級に精神がやられるだろうし。

 私は強気に撃てなくなったフリゲート艦の密集する海上へ、コンマ数秒トリガーを引いた。連射力が高すぎて、これだけで百発近い硬性徹甲弾がばらまかれて無数の水柱が立ち、船体が穴だらけになって火薬に引火して爆散する。

 

 基地が被ったヘルメットのようなトーチカも同じ。鋼鉄の壁で守っていても紙装甲でしかなく、チョロっとトリガーを引いたら貫通して内部を跳弾でかき混ぜて爆散する。現代戦は悲しいほどディフェンスが無意味よねー。


『いつまでも調子に乗ってんじゃねえぞ。俺が相手だブルーエンプレスぅ』


 正面から機銃を乱射しながら突っ込んできた戦闘機をバレルロールでかわす。追突するつもりで進路を合わせるとかいい感じに狂ってんじゃん。いったん無視して正面にとらえたフリゲート艦を撃ち抜いて上昇したころには、敵機はターンして私の後方につけていた。


『俺だってリョフマのエースを張る男、イーダ少佐だ。お前を落として名を上げてやる』


[心の折れた弱兵よりずっと素敵よ。もっと楽しませなさい修羅の星ぃー]


 海上すれすれ、フリゲート艦を駄賃に撃ち抜きながらマッハ一から三の間で揺れ動き、洋上基地の中を一瞬で通り過ぎた。内部構造は何度も観察して把握した。クレーンなどの重機が散らかっていてぶつからないルートは限られているけど、そんな微調整もスラスターがあれば余裕余裕。


『ブルーエ━━』


 ま、スラスターもなく最高速度で低空飛行はそうなるよね。敵機は爆弾抱えてフォックス4、基地内部から爆発した。

 エースとやらの無様な自爆に言葉を失った僚機をすかさず撃墜。あらかた片付いて通信を入れる。


[コマチカット航空部隊全機、さっさと来ないと手番なしよ]


『こちらシワスコマンダー、待機解除、二十秒で現着』


 言葉通りすぐに水平線の向こうから大量の戦闘機が高速接近してきた。低予算に泣き暮らすコマチカットの花形部隊、四機編成かける十二小隊のマルチロール、花鳥風月。


 その四十八機は雁行陣を組んで海岸に突入、そこら中に黒煙が立ち上り、ほぼ抵抗を失った洋上から内陸のスクランブル基地にかけて、それぞれ八発の戦術級気化爆弾を連続投下。絨毯爆撃によって見渡す限りを更地に変えた。


[良し、作戦目標クリア。みんな、帰るわよ。次の獲物が待ってる]


『俺初めて敵に同情したかも』

『こんなセキガハラ見たことねぇよ』

『完全勝利ってこういうこと? ヤベェ』


 まだ始まったばかりよ。次は不意打ちによる戦闘機の排除は無理だから、大規模な空戦になる。みんなは帰投して武装の積み直し。私もいったんグリンカンビに降りて、今度は電子戦仕様のマグちゃん百式デビュー、張り切っちゃうんだから。




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