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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第四章 バダウィ星系
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58.激励



 しばらく機首を左右に振って追尾の挙動を探り、フォックス2、熱感知のミサイルと判断した私は雲に突入してミサイルアラートを消す。脳内三次元レーダーに映る敵機は三機、雲の手前で真下にターンした。


「キサラギ隊、マンティスシュリンプ撃て」


『了解、キサラギ1、フォックス2』

『キサラギ2、フォックス2』

『キサラギ3、フォックス2』

『キサラギ4、フォローに回ります』


 私と離れた位置の友軍に熱感知ミサイルのお返しを命令。雲から離れるタイミングで撃たれて一瞬でもパニクれ。


『はー、それズリぃ』

『落ち着け、フレア』

『ナイス隊長』


 うん、デコイをまいて回避は敵ながら良い判断。でも想定済み。チーム戦術は追い込み漁みたいなもんよ。


「ウツキ隊」


『ウス、ウツキ1、マーク』

『ウツキ2、マーク』

『ウツキ3、マーク』

『ウツキ4、牽制射撃で援護します』


 敵機がミサイルの行方、ケツを気にした隙に別方向の友軍に接近させる。


『くっそ次から次へと、散開(ブレイク)っ』

『こんなん編隊飛行(フォーメーション)もクソもねぇよ』

『ジリ貧だってぇ』


 思考のリソース割かれていっぱいいっぱいの所を、アフターバーナーで雲を突き破った私が急襲。一機落とすと敵は心折れた。


「ふぅー」


 VR、ヴァーチャルリアリティのヘルメットを脱ぎ、体内に残る闘気を吐き出し力を抜く。シミュレーターの扉を開けて出ると他の面々も別の箱から現れた。


「お疲れ様。連携が様になってきたわね」


 目が合った途端、全員整列して返事をした。


「「「ハッ、ご指導の賜物でありますっ」」」


 背筋も指先もピーンと伸ばして目線はやや頭上、軍のお硬い空気、懐かしー。私は変わり者の類いだからそんなんいらん、と手をヒラヒラ振って休憩室に向かった。一戦終わったあとは振り返り(デブリーフィング)。軍事でもスポーツでもコレが一番大事。

 さっきの模擬戦闘の映像を流し、キラキラ目を輝かせたワンコ状態の軍人たちと良い点悪い点を挙げてIFルートを検討とか話が弾む。成長を実感できる時って楽しいよね。


 セキガハラまで残り三日。私は何故かコマチカットの空軍で教官やってます。

 遡ること六日前、コマチカットの副総理、宰相みたいな立場の人から相談を受けた。御前試合なしに騎士爵を渡す代わりに、軍事顧問になって欲しいと。


 なにかしらの裏があるかと疑うのは当然だけど、聞いてみたら表しかない泣ける話だった。


 繰り返すけどセキガハラにおいて数打ちの国は、一番死にやすい役割を押し付けられる。ベテランが揃わず、新兵だらけになる。一人二人優秀な人材が生まれたって戦争の前では一瞬で散る。現場で指揮を執る希少な貴族も軒並み死んで、上級貴族は敬遠する。ずっと、ずーっと弱いままの悪循環。結果コマチカットは数打ちの状態がそろそろ一世紀に達しそうなんだと。とっくに諦めの境地に腰を下ろし、逃げない代わりに自虐ネタで笑う国民性に育ったとつぶやく副総理は死んだ魚の目をしていた。


 そこへ現れた私。公共電波か私の配信により、前回王者の真打ショージャの女王の前で堂々と、こんな武士道に唾吐くしょーもない国とかディスっちゃう勇者登場。ちなみにコレで女王がキレて処刑とか言っても怖くないから言った。図星を指されてヒスを起こしても余計評判落ちるでしょ。女王がキレる相手はTPO無視の性欲王子と脳筋中将であって私はお門違い。


 副総理の立場で想像すると、なにやら猛者感の漂う他星系から来た傭兵が騎士爵を目当てに御前試合に出てセキガハラに参加するつもりらしい、と知って天の助けと閃いたのかも。急ぎコマチカットに呼んで、ベテランの協力を要請した、というわけ。


 コマチカットの反抗期(クソガキ)だらけの軍人が素直に従うかというとそんなわけはなかったけど、とりあえず不満顔は全員まとめてシミュレーターで徹底的にボコったら壊れた。その上で五分以内に蘇生すれば殺してもセーフルールで決闘してもいいわよ? と挑発したら全員舎弟に豹変した。いや真っ二つにされた中将の動画観て震えんなよしねーよ。

 

 そこからは話が早い。実戦が身近な軍は実力主義だしね。実力さえ認めたら従う。自分の生存率に直結するのだから当たり前。

 基本は今更教える必要はないから、実戦で使える連携、常に仲間を使い使われる動きを意識させた。戦闘機乗りは敵と一対一の勝負に夢中になりがちだから、数的優位で勝つ選択を成功体験として刷り込ませた。


 ちなみに陸軍戦車隊のほうはナハシュとルーブとアドラーが対ロボット戦術を仕込むつもりで遊んでいる。優秀な貴族の軍人がほとんど後方待機の逃げ腰だから、じゃあ前線は全部寄越せと指揮権を奪った。自分が責任を取ると明言できない責任者は失せろ。セキガハラにおけるコマチカット総司令を名乗る侯爵家のオッサンにそう言って親指で首を切るジェスチャー。表向きのトップはもっと素直な身代わりを立てつつ、作戦司令部はグリンカンビと決めた。命令系統はシンプルな一本化がベスト。


 デブリーフィングのあとは自由時間。私は自分用にあてられた教官室に向かい、航空部隊の武装の最終チェックをしてから帰るつもり。廊下に知り合いの声が響いて立ち止まり、また歩き出す。今日も一通りの訓練を終えて各々グループを作っておしゃべりしてるんでしょうね。


『セキガハラに参加する者全員、第二グラウンドに集合しろ。ブリーフィングを兼ねた壮行会を行う』


 基地内にプー兄さんの命令が放送された。沖合のグリンカンビから動いてないと思うけど、全軍にコンタクトをとるのは初めて。明日は関係者の多くは無人島に船で移動するため、軍港のある基地に全員集まっている。

 参加者は一国につき十万人弱。実働八万の後方支援二万ってとこ。当たり前だけど、軍人全員参加ではない。セキガハラは軍人が腑抜けにならないよう命懸けの緊張感を刻むとかって意義があるとしても、あくまでお祭り。軍が国防をおろそかにして遊んでいたら本末転倒。


 セキガハラのレギュレーションは、使用兵器はやりすぎないようにってフワっとしている。スポーツと違って病的に細かくない。スポーツは重箱の隅をつつくようにルールの抜け穴を利用するとかあるけどさ、そんなことやってる連中全員まとめてしょーもない三流じゃん? 訴えられてグレーゾーンを違法じゃないと主張するヤツって詐欺師じゃん? 王者は正面から勝つ。セコい真似する時点で王者とは認められない。そして貴族の世界はそんな裁判的正しさより王者を演じるほうが大事。だから細かいルールは必要ない。セーフとアウトの線くらい自分で引け、分かるだろ? てな行間が読めなきゃ貴族ではない。


 レーザーは埃っぽい地上は役に立たないから鏡面装甲の必要はなし。パルス弾は一部使用する勢力もありそうかな。テシガワラ重工が推していて誰も使わなかったら少し可哀想。

 結局レールガンを使うかどうかが境界線よね。使わなければ火薬使用になる。速度と威力が落ちるから装甲の厚い戦車が主力になりえる。いや、その戦車を圧倒できる空が主戦場になる。


 セキガハラは広大な無人島を三十二のエリアに分けて、陣取り合戦に興じる。各エリアの深部にシンボルとしての神社が建っていて、そこに自国の千社札と呼ばれる御札を貼ると占領したとみなす。占領された側は全軍撤退したのち、総大将の命令に従って他国の援軍に回る。ありていに言うと肉壁にされる。このせいで数打ちは次回に人材を持ち越せない。


 期間は最長一週間。両軍どちらかの全エリアが占拠されたら終了。そこまで進まなかった場合、一週間後に占拠数で勝敗を決める。

 戦闘時間は惑星標準時のAM0:00からAM6:00までを休戦として、それ以外。ただ、ここも分単位で細かく攻防するのではなく、大体PM10:00からAM8:00まで、前後二時間多めに休む。


 昼下がり、まだ陽は高く、蒸し暑さに私は胸元を緩めて風を送った。グラウンドは多目的コートがごちゃっとくっついている。サッカーが四試合できるスペースに数万人が整列するのは立派。どこが前とか誰が判断してるんだろ。軍人相手にもプー兄さんはマイペース。何分後までに集合とか指定もしないしノリの説明もない。突然グラウンドに響く和太鼓。


 ドゥン、ドゥン、ドゥンカラッカ、ポポポポ……。


 ツツミ連打からショウとコトの音で和風BGMをともない巨大プー兄さんのホログラムが屹立して、軍人たちの目線は上へ。


『ブリーフィングを始める』


 巨大プー兄さんが少し奥に引っ込みワールドマップの縮尺が調整された。兄さん、見やすさを気にしなくても大丈夫。軍人は知らないブリーフィングに困惑中だから。

 舞台となる無人島は北半球に浮かぶ、オーストラリアをもっと小さくしたようなサイズ感。おそらく元は国生み神話のオノゴロ島だと思うけど、殺島(ころしま)と呼ばれている。まんますぎでしょ。この島を東西に二分して、中央ほど激戦になる。


『東軍である我々コマチカットの担当は前列南海岸、列柱岩礁(ストーンリーフ)だ。毎回同じだから諸君に説明するまでもない』


 いやしろよ、てハモった幻聴に揺られて宙に浮く映像はオーシャンビュー。遠浅の沖近くまで岩礁が点在するのは人工物、敵の上陸を遅らせる精一杯の抵抗の歴史らしい。例年、敵艦隊が海岸まで接近するころにはコマチカット軍は陸側から攻められて全滅していて、足留めは機能してないっぽい。一国で複数の敵国から複数のルートで攻められるって無理ゲーではある。数打ちの悲哀。今回はさらに。


『影打のナギシリとムカッチャオ、真打のショージャが来る』


 グラウンドがどよめく。敗訴、死刑宣告、みたいな愁嘆場。ちなみにどの国がどこを攻めるとか公表はない。攻守の方針も秘密。情報戦もまたひとつの戦争だから、自分で調べろ、となる。


『おいなんだそのモブヅラは、いっそ敵のほうが悲壮感がヤバいって理解できんのか』


「王者の余裕なんてまるで感じない特攻よねー。初日守りきったら実質終わるんじゃね?」


 あ、予想してたけど、私の声が何故かスピーカーに繋がってる。プー兄さんかもしくは、グリンカンビを中継してノクちゃんが操作できるのかしら。


『戦力はショージャが陸からMT-3fストライダーを軸にした戦車隊三万強、マルチロールのヘッジホッグ百五十機からなる航空支援隊、ナギシリがルークアッパーを軸にした戦車隊三万強、攻撃機の紅電改八十機で足並み揃えて進軍予定。海からは、ショージャが空母一隻、軽巡二隻、駆逐艦十二隻、揚陸艇九十艘を内蔵した輸送艦一隻、空母の艦載機はソニックンロール八十機。ムカッチャオが空母一隻、重巡二隻、軽巡四隻、揚陸も兼ねたフリゲート艦四十八隻、艦載機は鵺(ぬえ)IV百二十機。ざっくりと数は、ショージャが陸と海に四万ずつの八万、ナギシリが陸に四万、ムカッチャオが海に四万の編成だ』


 八万で守るコマチカットに倍でくるか。てか使える戦力八万を、普通はオフェンスとディフェンスに分けて運用すると思うんだけど、ショージャは攻撃に全ブッパか。自陣の守りナシって背水の陣どころじゃない。


「なんかショージャ、狂っちゃってない?」


『この星はちゃんと命より誇りが重い。もう挽回は無理と判断したらしいな。先日の醜態が度を超えた。国民からは見捨てられたし、一応格下のはずの西軍各国からも見下されてる。今回完勝したところで権威の回復はない。が、座して死ぬのは我慢ならんからお前とお前を受け入れたコマチカットや他の東軍をできるだけ多く道連れに、という怨念らしい』


「クックック、クックック、アーハッハ、傑作ね」


 なんつーダッセェ国。こういう情けない貴族をぶちのめすのは大好きだから腕が鳴る。でもグラウンドはお通夜みたいな暗さが立ち昇っているから発破をかけてやるか。


「ちょっとちょっと貴方たち、なにシケたツラしてるの? たかが倍の戦力にビビってる?」


 足元から一瞬光が全身をスキャンして、巨大な私のホログラムが私の背後に仁王立ちした。そしてグラウンドを拡大した私の怒声が切り裂く。


「ゼロにいくつかけてもゼロ。エースに数の暴力なんて無意味。雑魚が何万何百万集まろうと雑魚は雑魚。私を殺したければ私より強い化物を用意しなさいっ! 貴方たちもっ、この私が鍛えてあげたんだから少しは自信を持ちなさい。ひとりひとりがたった二人殺して生きてるだけで完勝なのよ。楽勝って思えないとか頭打った?」


 お、おお? みたいな騙される手前のどよめきが起こる。あと一押しね。


「みんな、百年近くも良く耐えました。セキガハラが近付く度にコマチカットに生まれて下を向く屈辱はもう終わり。宇宙で一番強い私がてっぺんの景色を見せてあげる。なんなら今から上げても全然いいのよ、勝ち鬨?」


 おお揺れる揺れる、マグニチュード3くらいいったなウシシ。

 



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