↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第四章 バダウィ星系
60/78

57.風虎



 太く、短く、ロックに生きる。そう決めたのさ。


 ムサシは湿っぽくていけねぇ。どこもかしこも命のやり取りが多く、お祭り騒ぎで誤魔化しちゃいるけど、身内が殺されたら悲しい。それはしょうがないとしても、俺は死んだら「アイツらしい」と笑われる人生がいい。


 親父は軍を退役まで勤めて叙爵された。成り上がった。これだけでどんなヤツか分かるんじゃねーの? そう、クソつまんねーヤツだ。戦場もプライベートも、長いものに巻かれ、常に安全な立ち位置を探して立ち回る。ギャンブルには極力関わらない。騎士になったオッサンにモテ期がきても誰にも手を出さないチキン野郎。コイツ玉ついてんのか。


 唯一選んだ伴侶には逃げられ手切れ金代わりに産まれた俺を押し付けられて、文句も言わず不器用なりに育ててくれたことには感謝する。でもな、アンタのようにはなりたくねぇ。実際アンタ自身は自分の人生をどう見てんのか、一度聞いてみたかった。流石にノンデリが過ぎるから話題に出したことはねぇ。


 一代限りの騎士爵だとしても貴族は貴族。その娘の俺も庶民専用のファームではなく士官学校に行くことができる。十二歳を間近に控えた冬の夜、俺の進む道(ロード)は星(スター)に任せると決めて伝えた時、親父は隣りの戦友が死んでることに気付いたような顔をした。どんな感情かピンとこないが、そんなにイヤだったか?


 学校は……、想像よりずっとキツかった。肉体面ではない。俺は並みの男より頑強な身体に育って親父から軍式訓練(ブートキャンプ)も受けていたから、ナイフ一本握ってサバイバル演習も、不眠不休の山脈越え行軍も余裕でクリアした。格闘実技も問題ない。むしろ得意分野だ。


 じゃあなにがキツいって、軍は団体行動が絶対視される、この息苦しさときたら。


「エリアK-4、制圧(クリア)」

「ハン学兵、突出するな、足並み揃えろっ」

「てめぇが急げ雑魚」

「演習ストーォップ、ハン学兵ぇ、校庭五十周行ってこぉぉい」


 仲良しごっこする気はないから誰にどんだけ嫌われようと屁でもねぇが、いちいち足引っ張ってくる連中にはうんざりだ。格闘の授業にかこつけて暴力で屈服させようとするヤツは堂々とぶちのめして独房に入れられること一年生の間に五、六回。二年生からは誰にも絡まれなくなった。


 同期たちをひとつだけ褒めてやると、陰湿な手段をとらない点は偉い。貴族ともなればイジメなんてバレたらダサすぎる、そうだな、万引きくらいのセコい犯罪だから、普通はない。格下はイジメられたら下を向く、とはならないしな。数少ない例外は騎士の子息がする。貴族教育をロクに受けてなくて、でもプライドだけは無駄に高くて、実力のある俺に嫉妬する。女の俺に腕っぷしで勝てない劣等感もプラスか、下らねぇ。


 学校は苦痛だらけだったが、楽しいこともあった。もとより戦う術を求めて通っていたわけで、格闘、射撃、戦術、そしてパワードスーツの戦闘訓練の先、ロボットの操縦に夢中になった。雷横、相棒の名は決めた。すぐに手に入れてやるからな。一緒に宇宙(そら)を冒険しようぜ。


 中高六年の教育というか訓練を通して、ファームと関わる機会が多々あり、騎士爵の家の俺たちは隊長経験を積まされた。上級貴族は作戦司令部とか見えない、あるいは安全な場所に配属される。そして当然、ムサシ名物の合戦に俺たちも庶民を率いて参加した。


 俺たちいわゆる三等兵に価値なんてない。卒業試験の合戦を生き延びて初めて一人前扱いされる。それまでは、メシはわざと不味く作っているとしか思えない携帯食糧(レーション)。授業は受けなくても問題ない低レベル。軟弱なヤツは行方不明になっても誰も探さない。


 どこの国にもある、国境に広がる演習場、という名の戦場。適度に起伏のある平野と雑木林が入り混じる大自然に整列し、俺たち三等兵は動悸を鎮めようと深呼吸を繰り返す。早くもプレッシャーから過呼吸になる者もちらほら。新兵あるあるらしい。勝ち負けに意味はなく、人殺しを経験するという目的以外に目的を与えられない狂気の通過儀礼、合戦。


「ハン隊長、そんなデケェ剣振って疲れないんスか?」

「近付いたら巻き込まれそう」

「隊長についていけば生き残れそう。生き残るぞお前ら」

「ったりめぇだ」


 緊張をまぎらわすための軽口がそこら中で聞こえる。俺はまぁ、特にビビることもなく、殺意の渦巻く空気を吸い込んで武者震いをひとつ、いい感じだ。なんてイキってられるのもここまでだった。


 合戦は……、ただの地獄だった。かつて地球人が行った最も泥臭い殺し合いの追体験。ここを超えたら銃を構えて撃ち合いなんてゲームに感じるほど、全てがヌルくなる。対面に敵が並び、どいつもこいつも俺を殺すと叫びそうなツラ、俺たちも敵からそう見えてるんだろう。


 初めて人を斬り殺した。その感触に思いを馳せる余裕もなく二人目を突き殺し、暴れたシャワーのように返り血を浴びて、視界が閉ざされたら殺される恐怖に錯乱しそうになり、そんな弱味を見せてたまるかと雄叫びを上げて斬り掛かる。


 俺のポジションでは何がどうなってどっちが有利不利とか何も分からなかった。目の前に並んで振り下ろされる刀を防ぎ、突き出される矛先を弾く、隙あらば迷わず攻撃する、それだけしか考えられなかった。


 気付くと敵を押しに押していて、やがて敵は背中を見せて逃げ出し、その背中を斬り捨て、斬り掛かる敵がいなくなってようやく正気に返った。そして視界が開けて周りを見ると、戦友たちはまだ熱に浮かれた顔で敵を追いかけ、後ろを振り返ると倒れた敵味方が散乱していた。そこで血の匂いを感じて吐き気を堪え、寒気とともに大事なことを思い出す。俺は隊長で、俺の後ろには分隊員八名が従っていたはず。どこだ?


 答えは分かりきっている。俺はフラフラと来た道を戻りながら死体の顔を確認して回った。アン・ティーカ、リー・ホフナ、チェン・コネクサ、ホウ・モノレーユ、イェン・クーパ、ジン・カラミティ、サイカ・エンマン、コオ・ダゴン。


 付き合いは五年ほど。始めは身分の差と俺にビビって誰も声をかけてこなくて、俺も馴れ合う気はないから無視してて、分隊行動の訓練を重ねるうちに俺が無駄に手を上げる粗暴なタイプではないと知ったからか、ポツポツと話しかけられるようになり、ここ二年くらいは普通に笑い話もするようになった。


「ふふっ、はは、あははは、お前ら、太く、短く、ロックだなぁ。全員返り血を浴びて、何人殺ったんだぁ?」


 バカ丸出しの十代のまま突撃して死ぬなんて最高にロックじゃねぇか。今頃返り血が入ったのか目が開かねぇ。ああ、悔しいよ。お前らまだやりたいことはいくらでもあったよな。いつ死んでも上等なんて啖呵を切るのは俺だけだったもんな。なんで俺だけ生き残ってんだよ。俺だけ口先だけの腰抜けみたいじゃねーか。


 なにが隊長だよ。隊員を全く気にかけずに戦ってただけの無能がっ。自分の面倒しか見られないお前は一生孤独がお似合いなんだよ。二度と他人とつるむな。


 卒業してすぐ、母国の御前試合にエントリーした。俺と同じくロードスターの生き方を目指すのか、それとも俺を殺したいだけかは知らないが、ずっと絡んできた同期もエントリーしていた。どうでもいいしソイツは第一試合に別のヤツに殺された。


 ほとんどの軍人はサーベルを帯刀する。金に余裕のある貴族は刀も多い。そんな中、俺の大剣は異彩を放つ。これわりとズルい。サーベルも刀も撃ち合うことはない。すぐ刃が折れるかこぼれるから。俺の大剣はなにも気にせずぶった斬る。だからまぁ、試合は一方的だった。圧倒的なフィジカルに勝つには圧倒的な技術が必要になる。たいしたテクニックもないくせに片刃の細剣を握ってもおもちゃでしかない。


 普通は誰でも慎重な試合運びを心掛けるらしく、開始と同時に突っ込みぶった斬る俺のファイトスタイルは野獣、ビーストの二つ名がついた。

 世間の評価なんてどうでもいい。目的は優勝賞金だ。平均的な生涯収入の十数倍とかって聞いたことがある、まぁまぁな大金が手に入る。敗者は死ぬ試合のファイトマネーとして高額かどうかは怪しいけど。


 男の騎士は、一生遊んで暮らせる金が入って、一生遊んで暮らすかというとそんなことはない。まずモテる。この誘惑に勝てる男はほぼいない。そもそも注目されたくて御前試合に出るわけで、チヤホヤされたらコロッと堕ちる。で、ハーレムを作ったら有り金根こそぎ奪われる。金目当ての女から財産を守れるわけもなく。すると、また手っ取り早く稼ぐために御前試合にエントリーして、所詮は脳みその代わりに睾丸が入ってるような生き物だから二度も成功はしない。


 ほんの一部の例外、剣の道に死ぬが本望でござる系ヲタクと俺のような女が金をロボットに変えて新たな戦場を目指す。ドラグーンも同じだな。アイツは名とロボットを受け継いでいるからまた違うパターンかも。


 金はいくらかかるのか計算したくもない。王都内にマンションを建設するよりは高い、確実に。さらにロボットをメンテナンスする整備施設のついた、キャリアーと呼ばれる移動手段も必要になる。トラックやヘリなど形や性能は様々。さらにさらにロボットを載せて他星系に旅立つ宇宙船とかいくらになるのか。


 ……ああ、分かってる。俺はもう全部叶うとは思ってない。どこかで死ぬまで死合いを続けるだけだ。

 一度戦場を経験すれば人が変わる。良く言われることだが我が身に降り掛かって実感した。塚原卜伝や宮本武蔵がどうして末永く剣聖と呼ばれるのか? そんな無双しまくるヤツ、現実には数えるほどしかいないからだ。我こそは最強と頼む者が殺し合い、数百万人の蠱毒を制した化物に与えられる称号が剣聖だ。俺はそっち側ではない。無名のしかばね、数百万人のひとりだ。


 太く、短く、ロックに生きる。そう決めて目についた御前試合に出続けて、なんとなく、そう、なんとなく竜騎士に倒されるのが一番熱いと感じてショージャに向かい、竜騎士よりファンタジーな物語に出会っちまった。

 ひと目であっち側と分かった。佇まいに隙がないとか格の違いとか話に聞く達人の雰囲気がレインボー気味に放射してやがる。まだ何も始まってないのにガチャ大当たりの演出が背後に見える。


 当て馬がババァと悪態をついたが、言った本人も他に適当な悪口が思い浮かばなくてスベった感じになってた。マウントとれそうな点が若さだけって惨めだな。こんなのと戦う羽目になって情緒不安定は分かるけど、剣聖の言う通り黙ってればよかったのに。


 そして剣聖は俺をスカウトしてきた。ムカつく。自分(てめえ)の優勝はもう決まってるってか。俺は確かにアンタら化物には届かないかも知れないけど、そうやってナメてるなら刺し違えてやる。


「ナメんなぁぁ!!」


 俺もっ、アイツらもっ、持たなくて、何者にもなれなくてもっ、確かに、生きてたんだよっ! 持てる者の、その余裕のツラ、いつまでもナメてんじゃねぇぞゴラぁぁ。


「私と一緒に暴れたければ瞬(まばた)きしなさい。嫌ならサヨナラ」


 ああ、ちくしょう。紫がかった深い深い碧眼で俺の魂を見通すように覗き込み、悩む暇も与えない取り引きを持ち掛けてきやがった。なにやってんだ俺のあご、閉じるな。噛みつけよ。くそ、くそ、くそ。


 起きたらショージャ率いる西軍と戦争してぶっ潰すとか盛り上がってた。女王に面と向かって宣戦布告ってなんだここ? ワールドワイドなロックがすぎんか。悪ぃ、みんな、少し待たせるかも。この寄り道、短いか遠いかも分かんねぇ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。