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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第四章 バダウィ星系
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56.口火



 青年は私と同い年くらい。栗色の髪は前も上も横も遊ばせて、鳥の巣か爆発した博士。眉目秀麗って類いのおべっかは使われてそうなくらいはギリイケメン。目つきは自信に満ち溢れた、簡単に言うとさっき私に隙間から刺されたDQNソックリ。


 まぁ確実に王子よね。これでただのチャラいノンデリ警備兵だったら逆に好きになるかもだけど、そういう規格外(イレギュラー)ではなさそう。てか王子ならフィアンセいるでしょ。生中継で王族がナンパとか頭おかしい。そして私の嘔吐エモートにキョトン顔って頭おかしい。ナンパの成功を疑ってないってか? 人生において今まで失敗したことのない、そう思わされてる子供かよ。


 ないな。ない寄りのぶちかまし押し切り場外だな。

 おさらい。私の立場はある意味『王』になる。厳密には違うし私もアテナは国家であーるなどと宣言するつもりもなく、宇宙を自由に旅するアウトロー上等のつもり。大体王なら他国の王から騎士爵もらうとかデタラメだし。お前プライドないんか、もしくは、最低でも公爵位を寄越せや宣戦布告してんのかアぁ゙ん? てなる。


 それでも他者からすると私の立場は軽んじていいはずのものではなくて、だから私はこれからまあまあ危険な真似をする予定だった。騎士爵をもらうにあたり、女王に跪(ひざまず)かない、という反骨的な態度をとるつもり。ここでキレるならそれも結構。国を相手に大戦争、やってやんよ。ただし、そもそもエントリーした時点でショージャの者はそこまで読めてなきゃ無能なわけで、エントリーを許可したからにはその先に起こることについては問題なしと判断したことになる。問題ありと思うなら許可しなければいい。まぁそうさせないために配信で人気取りしたんだけど。


 以上を踏まえて、たかが王子風情が私に向かって所有物になれだと? 今からショージャに反応弾の雨を降らせても文句の言えない無礼を働いているって自覚なし? なければ許されるってもんでもないのに。とはいえこの程度でブチギレるのも品がない。敗北の味を知らない王子様にお貴族様の流儀で地面を舐めさせてやるか。


「どなたか存じませんが御免遊ばせ。会場の熱気にあてられて上手く聞き取れませんでしたわ。なんと仰って?」


 と、王子は無視して御簾を冷たく見ながら言った。一度だけ言い直すチャンスをやる。お前の息子だろうが。コイツ今ショージャを滅亡の危機にさらしてんだけどさっさと回収して廃嫡しろや。という副音声、聞こえませんは通じないぞよ?


「おお、それは無理もない。見事な戦いであった。では改めて、私、ショージャ第一王子オキャムトー・エル・デン・ザ=セッツ・セキロウがお前を娶ろう」

「来世でお待ちしております」


 今世はもうすぐ終わりだからな、お前が。てか御簾ぅ、めくれて顔出せや、なにしてんの? このリアル死にゲーゾンビ、撃っても向かって来るんですけどぉ。


「貴様ぁ、殿下の寵愛を無下にするとは何様のつもりだ、そこへなおれっ」


 服パッツンパッツンの審判が横から怒鳴った。いきなり第三者がキレるなよヤクザの三文芝居か。咄嗟に王様ですけどなにか? て応えそうになる衝動を抑える。そっかそっか、コイツら全員私の立場を理解してない無能だったか。じゃーしゃーない。犬猫にテストして赤点にキレるのは不毛。こういう輩といつまでも口問答は私が疲れる確実に。だから手っ取り早く分からせよう。


「そちらこそ何様のつもりか知らないけどどうでもいい。吐いたツバは飲めないと知れ」

「私はショージャ陸軍王都防衛軍ナラキンキ中将、今さら撤回不可能はこちらの台詞だ」

「ハイハイ名乗りはいいからおいで、てストレートに言わせるな脳筋中将」


 巨漢は従者からサーベルを奪うようにもぎ取ると、鞘を捨てて斬り掛かってきた。その袈裟斬りはバックステップで数ミリかわす。すかさず逆袈裟、なんちゃって燕返しを当たらない距離で見送り、一歩前に出て薙(な)ごう、とする前に直感に従ってバックステップ。目の前をブゥンと馴染みのある音が通り過ぎる。


「チッ」


 高周波ブレード、オンで使ったな? これは試合ではないからレギュレーションは関係ないと? ふふ、卑怯とかダセェとか何も言わない。殺し合いにしゃべるヤツは三流。代わりに私もナックルカバーの下に隠れたトリガーを引いて、ニタリと笑った。


「え?」


 口喧嘩するつもりだったの? 驚いて硬直した隙をつき、私は軍靴で振り下ろされたサーベルの峰を踏みつけ前進、高周波のせいで刃先が石畳に沈み、無造作に右から水平に斬撃を放った。巨漢はサーベルを握る右腕と綱引きするような挙動で腰を引き、私の斬撃は胸を数ミリ程度かすめ、右腕を斬り飛ばした。


「ま、まて」

「そこまでぇー」


 無視して唐竹割り。脳と臓物ぶちまけて左右に分かれた。これは蘇生は無理ね。なにが待てよ。フーイエとの対比が酷すぎてこの星嫌いになりそう。


「何故止めなかった!」


 王子様が顔を真っ赤にして怒鳴った。アホですか? て言えたらスッキリするのに。


「試したのでしょう? 性格が悪いですわよ」

「……? なにを言っている」

「バレーボールやテニスのラリー中に客席や敵陣からアウトの声が聞こえて立ち止まる選手、クビでしょう」

「しかし彼は侯爵家の者で……、こんな、どうしたら……」

「侯爵家だからなんですか?」

「え?」

「侯爵家の者だから、自分から決闘を挑んで負けそうになっても命は取らないのがムサシの作法とでも言うつもりですか?」


 やっと黙った。これでゴネたら修羅じゃなくヌルいごっこ遊びの星になる、くらいの理解力はあったか。


「ここへはセキガハラの参戦権と言える騎士爵が目当てで来たんですけどね、興醒めしました。勝者の栄誉を称える格(・)も持たず身柄を寄越せなどとのたまう貧しい国からもらう物など何もいらない」


 ざわつく会場。計画とは違うけど爆弾を落とすつもりではあったから別にいいや。


「殿下(笑)、ひとつ賭けをしませんか?」

「……なにを?」

「次のセキガハラにて、私は東軍につきます。前回の勝者でもある貴方がた西軍が勝ったら私は潔く貴方のもとへ嫁ぎましょう。欲しいものは実力でもぎ取れ、この星らしくて良いのでは?」


 これで尻込みしたら腰抜け呼ばわり確定。それなのにざわめきに興奮の色が足される中、王子は口ごもった。


「しかし、そんな勝負を国民にどう説明すれば……」

「あら、そんな心配は杞憂でしょうに」

「え?」

「国民どころか今ほとんどのムサシ星人が私たちを視聴しているのだから説明不要でしょう」

「えっと、それは……」


 やっぱりね。巨漢が高周波ブレードオンで不審だった。どう言い繕ってもアレ武人としてダッセぇじゃん? 衆人環視の中、できるか? 来場者は面が割れてるから脅迫(おはなし)すればいいとして、視聴者対策はどうするか。

 王都や王の周囲となると電波妨害の手段は無数に備えてある。それでも盗聴はされるもの、という現代はなにかと大変なんだけどおいといて、王が臨席するこういう場では咄嗟に通信遮断くらいはありえる。

 だから当然妨害の無効化くらいしてやるわよ、プー兄さんが。言わないけどね。とぼけておこう。


「あとは東軍の中に御前試合があって飛び入り参加可能な国があればいいのだけれど。セキガハラまでは十日くらいだっけ、都合のいい国は……」


『こちらグリンカンビ、ラッテ様、他に条件はありますか?』


 何故か会場に響き渡る外部からの通信に関係者一同そんなバカなと目を剥き、私は気にせず返す。


「できれば数打ちがいいわね」


『それはまた、どうしてですか?』


「こんな武士道に唾吐くしょーもない国、真打に属して叩き潰してもつまらないじゃん?」


『ふふっ、了解です。……ああハイ、コマチカットという国から受け入れ可能の返信をもらいました』


「ご苦労さま、今から帰還するね」


 こうして私はもう会場は全員無視して控室を経由して出国した。去り際に御簾が凄い勢いでめくれた気がするけど知らん。醜態の重ね掛け(ミルフィーユ)は自分で食え。オゥエ。


「狙い通り、今ショージャは荒れてますよ」

「あんなのただの自滅じゃん」

「ひとが悪いですわ。最初からハメるつもりだったのでしょう?」


 グリンカンビをコマチカット近海に停泊させて一休み。チビちゃんズが描いた海中の絵を眺めながらみんなでオヤツタイムしてたらアビャーナから鋭いツッコミが。私はモンブランを一口食べて間を置く。うんま。


「テシガワラ重工と繋がっていたっぽいから探りを入れるつもりだっただけよ。あの傭兵団はたいして強くもないくせに妙にプライドが高かったのはこういう国だったからね。真打って激戦を他国に押し付けて自分は美味しいとこを取る戦い方になるから世間の評価ほど強くはない。あの分裂軍人のような小物が中将だっけ、になれるとか平和ボケしちゃってんじゃん」


 まぁ王都防衛ってどうせ名ばかりの閑職なんだろうけど。王の御前だからイキっちゃった、てか?


「分裂したくてしたんじゃないだろうに、ひどいネーミング」

「痺れるっス」

「その分裂さんの情けない一部始終から実家の侯爵家に飛び火して別のスキャンダルが」

「あー、どうせ部下が我慢していた不正の暴露とかありがちの展開でしょ」


 綺麗な組織なんてあるわけないもんね。


「あの王子の言動も、身分が身分だから控え目ですが問題視はされてます」

「問題しかねーじゃん。試合と関係ないナンパを始めてぶち壊すとか世界中から失笑されろ」

「わりとそうなってるな。もうアイツ廃嫡は確定だろ。恥を晒して許される王族なんていない」

「いや、そうならないルートがひとつある。セキガハラに完全勝利してラティシス殿を娶ること、だ」

「ああ、二人がくっつけば強引にハッピーエンドに持っていけるのか」

「それがラッテ様の狙いでもある。違いますか?」


 みんなも政治的な思考に慣れてきたわねぇ。


「ショージャは全力で勝ちにくる。負けたら王族全員病死くらいありえる崖っぷち。少なくとも今本人たちはそれくらい悲壮感を背負ってそうね。そこを私たちが叩き潰す。燃えるでしょ」


 久し振りの空。装備は旧式でも機体性能は新型にチューンナップした戦闘機。


 誰にも負ける気がしない。全員ぶっとばす。おっとその前に御前試合やり直さなきゃ。

 



 

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