54.和風
やってきました惑星ムサシ。宇宙から見た星は似たりよったりだからこれといった感想はない。雲に覆われたファウトゥースと違うなって思ったくらい。ファウトゥース組は少なからず衝撃を受けたようだけど。
とりあえず観光はあと。衛星軌道のやや外れにアテナを待機させて、戦闘部隊とおチビちゃんたちの乗るグリンカンビで降下。目指すはショージャ。この星はどの国も国名に王国をつけないらしい。まぁどこも王国だから必要ないと言われればそうだけど、ミソやシオってラーメンつけずに言ってたら文脈によっては誤解が生まれるんちゃうんかいってツッコミたくはなる。
ISSは今までと違い星系の中間寄りにあった。ワープゲートは巨星の近くが良くて、巨星が星系のどこに位置するかは法則はないっぽい。ここは地球のあった太陽系に似てるってこと。えーと、木星あたりか。
でもそこから第五惑星ムサシまでは六日かかった。宇宙の距離感ってデタラメで混乱する。星系によっては天文単位の数十倍とか異常な移動距離があるから今回はツいてる、のかな。重力ブースターは始めゆっくり、次第に加速していき、アテナは第四宇宙速度を軽く超えて最高時速六百万キロメートルでぶっ飛ばせるけど、それでも中心の恒星から系外まで一年以上かかる。まぁ母星とワープゲートが離れすぎって不便な立地条件でテラフォーミングはしないけど。
ムサシまで一直線に移動したわけではない。御前試合が開催されるまで時間の余裕があるからいつものようにあっちへフラフラこっちへフラフラ、そのへんに漂っている資源の塊を回収しつつ、ボア兄さんたち後方支援組は整備や改修、なんならスカアハの実戦データから改良点を洗って他の機体にも流用って楽しそうに働いている。雰囲気はスクラップ工場で単車を組み上げるリーゼント。外から見るだけの私はちょっと羨ましい。
私は暇かというと頑張った。アステロイドベルトに群がる各国のコロニーとムサシの間に中継基地を並べて通信環境は良好らしく、タイムラグはあっても電波は届くようだから配信開始。流石に今回は国家が名指しで挑んでくるとかじゃないから知名度はゼロからのスタートだったけど、宇宙を彷徨うアテナは珍しく、女子率高めの傭兵団それどこのギャルゲーってなもんだから勝算しかねーわ。
「この区画では初心者ファーマーが野菜と穀物を育てています。そんな彼らの強い味方、こちらはノルマの重圧より解放されしイナバンバウ商会の新商品、プラ妻です」
『やはりプラズマ、プラズマは全てを解決する』
「稲妻の由来をご存知ですか? 水田に雷が落ちると稲は良く育つと古来より知られており、この端末に似たボディを畑の畝に当ててポチっと押すと、高圧電流をぶちかまして土中の窒素が増えて、作物の品質アップ間違いなしなのです」
『スタンガンと何が違うのか、あちらは非殺傷兵器、こちらは農業用家電。殺傷力? 包丁やチェーンソーは兵器ですかアぁ゙ん?』
「農場を見てお分かりのように、ウチの食堂ではなんとフリーズドライを解凍しただけのモイチンではない、専属シェフのわがまま気ままな料理が食べられるのです」
『わがままな専属とは一体?』
「それでは食べてみたいと思います」
『思うだけなら勝手に思え、食べるなら頂きますでしょーが貴方たち食レポ要員の語彙の貧しさは永遠に向上しないのね』
「オートメーションが物々しいこの工場は、対消滅弾……、を作っているのかしら?」
『おやおやラティシスダンチョー、そこのドクロマークのスイッチは押しちゃダメですよ。絶対ダメですからね』
「ウフフ、分かっているわよ。フリってやつでしょ。それでは今から押してみたいと思います」
『思うだけでもラメぇ』
(ヴイーンヨゥ、ヴイーンヨゥ)[ジバク マデ アト サンプン Death]
リーダーの私がカメラ目線でヤラセ感だらけの散歩番組パクって船内を案内したら再生回数下三ケタがスロットマシーンで読めねぇ。天の声はカメラマンも兼ねたマーサ、協力はノクちゃん。リスナーのヤローからはURモンスターゲット、女からは歌劇団並みにウケた。狙い通り。最強の呼び声高い竜騎士が女と聞いてピンときたわよ。この星の女、強い女が一番好きでしょ? 男は強い男が一番好きだしどの星もそうだけど。そうだけどそうじゃない。この星の女からすると男を引き寄せ持ち上げ搾り取るってヤリ手のキャバ嬢みたいな転がし方をしていて、それで男は鼻の下を伸ばすチョロい生き物ではあるけれど、男のドヤ顔がウザいことに変わりはない。内心ストレスは溜まっていて、男の得意分野の暴力で男を叩き潰す女、大好物なんでしょ? 癖をくすぐってやる。
さらに体育館を模した床をキュキュッと鳴らし、意味なくひとりバスケで遊びながら雑談なんかも。ドキュメンタリーのインタビュー風。タイムラグがあるから会話というよりほぼ独り言になっちゃうけど。スリーポイントシュートを放って結果を見ずに後ろを向いて右手を上げる。外れても勝ち誇るメンタルが大事。
「観光もしたいけどなんといっても国生み神楽、セキガハラ? に参加するつもりでさ、とりあえず御前試合とかいうものに勝って騎士爵ゲットするところから始めなきゃいけないらしいの。間違ってないよね?」
てな内容を話してショージャに降下許可をもらった。これが配信の目的。普通に考えて攻撃力高そうなグリンカンビが惑星に降りるのを認めるってどこの国も難しい政治判断になるけど、法律がどうとかどうでもいい。例えば地球では、地震などの災害時に他国から救助隊が駆けつけても、救助犬の検疫がどうとか言って足留めをくうケースがあったらしいけど、現代は法律がどうとか前例慣例がどうとか寝言をほざくと無能判定を受ける。いや組織の歯車はルールに従って当然だけど、王のようなルールを作る責任者のくせに判断力の欠けた無能の居場所はない。
要するに、降下許可を出さないイコール私にビビってんのヘイヘイヘイ? て煽られてる、とショージャの女王かその周辺が感じちゃえば許可するしかないのよ。配信を通して国民からもどうして許可しないの? て不審な目で見られちゃうと想像がつくし。貴族社会はナメられたら終わり。みっともないトップが許されるほどヌルくない。
無事降りちゃえばこっちのもの。周囲に迷惑をかけなさそうな沖に停泊して、いつ誰の仕業か可動式プロペラとエアブースターをつけて水陸両用に魔改造された輸送機で空飛んで王都へゴー。同行者はナハシュとマーサと念のための医療班からひとり、エノコという娘のみ。お貴族様との絡みがありそうだから元貴族の面子に絞った。
身の安全は特に気にしない。情報が筒抜けのイマドキ、権力者って下手に汚い真似はできないのよね。すんげー下らない自滅になる。なにしゃべっても言質はとられるし、どこかから誰かに撮られているって想定は常識。それでも汚い真似をする下衆はいるとして、必死に上手く隠してもエスプリ文書のようなオチに一生怯える小悪党って脅威じゃない。忍者の闇討ちが怖くて侍を名乗れるか、てな心意気よ。
シーバたちは懐かしのウッドストック家所有の潜水艇で海中遊泳を楽しむらしい。ナハシュのとこの元領民組と、ウサニーの社員の子供も加わって五十人近くに膨らんだおチビちゃんズとカウリーンはずっとソワソワしてたから良いアクティビティね。
さて、空港に降り立ち、外交官や他国の王族のように入国審査もなくスルっとゲートイン。ショージャは豪華な和風建築が目立つなんちゃって平安京みたいな印象を受ける。ああ、大正ロマンって感じかも。あくまで雰囲気であって外からは木造に見える楼閣とでもいうのか、二十メートル前後のやや高層ビルが建ち並ぶとか普通に車が走ってるとか全然徹底してないけど、費用は考えず都市全体が無駄に凝ってる感じがレトロっぽい。
道行く人々のファッションチェック。赤、茶、金の髪と日焼けした肌色が目立つ彫りの深い北欧系の顔にカジュアル、あまりお洒落さんは見ない。むしろダサいかも。和風はなくて少しガッカリ。ヲタクが祖にしてはロールプレイを貫いてないのねぇ。いっそキャラTシャツにジーパンくらい攻めたら微笑ましいのに。
空から見た都市以外の景色は自然が濃厚に残っている。熱帯雨林の涼しい時期くらいの気候に緑が鮮やか。ファウトゥースのあとだと残酷なくらい対比が際立つ。一日が二十四時間で計れるよう、一年が三百六十日前後に収まるよう、極力地球基準になる条件で住む惑星を選ぶとはいえ、星によって暦が違うから他星の常識で季節感を推し量ることに意味はない。時差ボケのような言葉がありそう。
すでにアテナからショージャの役人とは話をつけていて、御前試合にはエントリー済み。王都内にある、会場となる和風コロッセオというか四方を神社に囲まれた境内みたいな施設を下見したら近くのホテルに一泊。生配信でムサシ星人に感想を伝える。
「そうそう、竜騎士さんは辞退らしいわね。楽しみにしていたのに残念」
コメントの流れが早すぎていちいち反応しないけど、大多数の意見は似ているからテキトーに返す。リスナーも竜騎士登場を期待していたってさ。なんでも預けた機体のチューンナップに手間取っているのだとか。竜騎士に限らずどこも兵器のアップグレードにてんてこ舞いらしい。
基本どの星も他星系に深く関わらないけど、プー兄さんによるFCS向上案件のように、軍事力の変化だけは別。どの国もいつかはくる星間戦争を最大の脅威と想定していて、宇宙仕様の開発を最優先というほど全力ではないにしても、他所が更新すれば即応は急務になる。ただ、これからの戦場がどうなるのか、予想は難しいわね。攻撃力が上がりすぎた文明は想像力の豊かな人ほど生き辛い。とある古代中国人が、明日天が落ちたらどうしようと不安がって笑い者になる様子から生まれた杞憂の故事は、現代は普通にありえちゃう。天が落ちるわけないだろハハハがフラグになっちゃう。SSが落ちてきたりそれをワンパンというかワン蹴りするロボットがいたり、コッワ。
「てかよくよく聞いたらセキガハラも予定が一年繰り上がったって? どこも大変ねぇ」
あっちの企業勢がやたら時間に追われていた理由もピンときた。こっちの星も取引相手で新型装備に買い替えるビッグバンセールだったのねご愁傷さま。
(元凶がぬけぬけと)
ラウンジのソファにくつろぐ私の近くでカメラモニターを見ているマーサがマイクに入らない小声でつぶやいた。天の声は今はやめろ。私のせいで戦闘水準を引き上げたとか、そんな情報までは星系を越えて伝わらないんだから知らん顔してりゃいいのよ。ちなみに御前試合のせいか観光シーズンなのか、どこのホテルも予約済みでエコノミーしか取れなかったから公共スペースでしゃべっている。ただでさえ狭いのに、キャタピラつき医療ポッドとかいう荷物を持ってきたから部屋は寝るだけの場所。
「今回のセキガハラは旧式兵器の在庫処分と、新型の実地テストみたいな役割がありそうね。対空を筆頭に実弾系はレールガンが標準になるのかしら? ほぼ全員カカシ状態でヤられると思うけど。ムサシならありえそうで凄い絵面になりそうね。R30くらいのスプラッタ?」
お、事情通が投げ銭コメントで教えてくれた。とりあえずレールガンは今回は見送ると。まぁ広大な宇宙はともかく局地戦闘区域であんなもんを乱射できたら、的の小さい歩兵以外は一瞬で全滅するだろうからね。先日スカアハのレールガン撃って車両群を瞬殺とか私も引いてたし。あんなの虐殺であって戦争にならないって、禁止の反応弾を使うことと結果は同じと言っても過言ではないからそりゃ規制するか。
リスナーに礼を言うと他にもレギュレーションを教えるコメントが続く。ホントは知っててスカアハを除く使用予定の全機体は換装中なんだけど、話題を振ったからには初耳のフリをするのがマナーです。ファウトゥースは合理的というか、損得勘定で戦争してたから安易に新型投入しちゃったけど、ムサシはカタナで肉弾戦するくらいだからね。金では計れない美学というものを大事にしているってコメントから感じて笑みが浮かぶ。
「ふふ、いいよねそういう配慮。敵に塩を送るの由来となった上杉武田の関係とか、勝つために何でもやるのではなく誇り高く戦う姿勢、大好き。この星、気に入っちゃった」
おぉー、コメント欄爆速。やっぱ日本史の食いつきスゴ。人口の大半を占める庶民の好感度をゲットしとけば大抵の無理はゴリ押しできるって下心あり。私が注目されればされるほど、どこかにいるかも知れない敵はちょっかいを出せなくなる。
「明日は公式っていうの? 大々的に放送するらしいから応援よろしく」
敗者は死ぬ死合いを生放送って割とヤバい星ではある。私、暴れるつもりだけど視聴者は耐えられるかしら? ちょっと心配。




