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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第四章 バダウィ星系
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53.戦国



 ドグ・カルマ星系の外れ、飲み込まれそうな巨星の圧にビビりながらお別れ。未見のISS職員たちの『うわっ、これが噂のアテナ、まじデケェ』的な雰囲気に気付かないフリをしてサクっとワープ。もうそういうのええて。何故か閑散とした施設は暇を持て余していたらしく、ちょっとしつこかった。喜べすぐに母星がピンチからのギリセーフってビッグニュースが飛び込んでくるわよ。


 そして例の、ブリッジの大画面全方位モニターに映るオーロラが流れるみたいな疾走感と脱力系サウンド、プァァン、フミョーン、ヒュロヒュロヒュロ……。


「ふあ」

「え、ブラックホール! これ絶対ブラックホール行っちゃったやっぱホワイトなんて宇宙のどこにもないのよイヒヒヒ」

「ああ、なにかで見た、なんか、ここまで出てる、ここまでぇ」


 ファウトゥース組からお約束のリアクションをもらって満足したらゲート隣りのISS近くに停留。宇宙ステーションってどこ行ってもデザインが似ているせいもあってホントにワープしたか一瞬疑ってしまう。もう少し独自色でも出せばいいのにね、意味がなくてもメタリックシルバー以外の色も塗れよ。


 停まったのは精神的な休憩目的。夜逃げのようなバタバタ感をリセットしたい。ISSのメタバースにログインして情報収集は前回こりたから今回はナシ。楽しむクルーもいるだろうからインしたい人は好きにすれば。多少更新が遅れてネタが旧くても普通にネットサーフィンしたほうが安心して調べられる。


 というわけで自室にて、私は缶コーヒーをテンプラーで温めてベッドに寝転び、タブレットをつついた。テンプラー? 温度を変える家電。天麩羅もテンプレも関係ない。仕組みは知らん。


 はいはい、バダウィ星系は聞いた時からイメージした通り、日本の戦国時代ね。というかここの歴史オモロ。なんでも元々、古き良き和の文化で盛り上がる日本史ヲタクの惑星があって、文系と体育会系に枝分かれして、血の気の多いタイプが作ったのがここらしい。わざわざ日本に来て忍者道場に入門する外国人、みたいなガチ勢だけど熱量がアンダーグラウンドなヤツ。ちなみに文系とも違う和の文化(サブカル)で盛り上がる別の日本史ヲタクの惑星もあるらしい。都市伝説ではなかったとはビックリ。


 バダウィ星系の主星は第五惑星ムサシ。もうこれだけで笑える。ツウ気取りの私に言わせると日本最強の剣士は塚原卜伝だけどネームバリューはそっちが上か、まぁいいんじゃない、宮本武蔵(謎の上から目線)。あ、関東の旧名のほうか、どっちでもいいや。


 えーとそんで? あぁ、合戦ってやつ、ホントにやってるのか。馬も盾もなし。全員歩兵というか足軽と呼んだほうがいのかな。剣道の防具くらいの装備に刀と槍と弓だけ使うレギュレーション。大将、っと、中将少将もいる軍制も混じるから紛らわしい、指揮官と部隊長クラスはベテランだけど、末端は全員新兵が参加する。数が足りない場合は経験者も強制。ふむ、合戦とやらは新兵のふるい落としなわけね。故国の感覚に置き換えると、合戦で生き残ってからが二等兵と呼ばれる軍人扱い。これって……。


「男、死にまくるのでは?」

「ね、私も気になって掘り下げてみたの」


 一通り調べたあとは気になる配信探しとか道草もくう。このISSって他文化でヒットしそうなコンテンツを求める山師が必ず立ち寄って商売するから、鮮度以外の情報量がハンパない。コンテンポラリーダンスを観て何その名称フリースタイルでいいじゃんとか感じる類いの文化アタックに飽きたら一休み。食堂でご飯にするとどこからともなく常連がワラワラと。ま、情報の持ち寄りトークって大事よね。私と同じ感想を持ったアビャーナにうんうんうなずく。


「兵士の割合は圧倒的に若い男が多く、大量に殺し合っていたら人口比は女が多くなる。そりゃそうよね。当然一夫多妻が普通になるんだけど、ふふ、まぁ嫌な顔しないで聞きなさい。地球の一夫多妻も男が死にすぎて発生するのともう一つ、女は男に養ってもらう以外の選択肢がほとんどないという環境が原因なわけ。現代はンなわけないじゃん? つまり」

「つまり?」

「ストレートに言うとこの星の働く女にとって、男は財布を持って歩く精子バンク。自分と相性の良さそうな男がいたら一発ヤらせてやるから種を寄越せ、赤ちゃんできたらとりあえず籍は入れとくから毎月いくら、あと軍属は戦死したら養育費代わりに遺族年金寄越せ、ってな付き合い方らしい」

「おっとこまえー」

「もちろん建前と本音は使い分けているわよ。男からすると女の権利を声高に主張して男を攻撃する女は金を積まれても関わりたくないだろうし。強い男はカッコいいよねー、とヨイショするサービスくらいはしてあげる。軍属ではない男もたくさんいるけど肩身は狭い。軍属でも新兵はバイト以下だからモテたきゃ必死で生き残れ。そうやってエンタメ化した戦争を盛り上げつつ、裏側は男を掌で転がす母系社会らしい。三十二の国があり、うち二十六人が女王。惑星ムサシは女が二刀流とは実に面白い」


 地球ではありえない形ね。強いていうなら奈良時代に似ている。女性が天皇に即位できて、男は複数の女の家に住む通い婚って風習があった時代。それでも惑星ムサシほど転がしてはいない。地球の戦争は滅亡のかかった本気だから。ついでに日本史でいうと女流作家が活躍できた環境が平安時代で終わり、武士が主役の鎌倉時代に儒教が広まったように、男尊女卑は戦争から生まれる。兵士の男をヨイショしないと全員死ぬ危機感を共有し、男上位の思想を後押しする宗教が作られるか作り替えられて定着する。そんな危機感も宗教も生まれない現代は男尊女卑にはならないと。


「そういや姐さんにしっつもん。オレもチビたちと一緒に地球の歴史をベンキョーしてて、国の数、多すぎないっスか? あんなん覚えられるかっつーの」

「今は国の定義が軍事力と採掘コロニーを持って自給自足だからね。ほぼ国力とイコールの人口で小国大国と分けてるだけで、どこの国も最低限の実力を備えていて、そんな条件だと必然的に絞られるのよ。支援が必要な勢力は属国であって国じゃない。助け合わないとご飯も食べられないくせに数百の国に分かれて対等とかお花畑な理想論を語りながら感情論に開き直って戦争やってた地球がデタラメってこと」


 好き放題に言える今となってはそんな歴史も面白いけどね。


「ご飯はなにより大事っス」

「さらに面白いのが合戦の先。兵器を使用する普通って言い方は変だけど普通の戦争に移行して、隣国と互いにやりすぎないよう注意しながら、つまり戦力を減らさず鍛える目的の軽い戦争で練兵していき、四年に一度の血なまぐさい祭典に備える。その名も国生み神楽、俗称のセキガハラってほうが一般名称ぽい」


 日本史を知ってると苦笑いする名がちらほら出てくる。ちなみにムサシ星人は姓が先の東アジア風。でもざっと検索してみた外見の印象は北欧系だからやっぱ私と同じニワカ臭はする。混血が進んで純粋なナントカ人なんてもういないのに、文化と見た目にも相性はあるらしい。


「三十二の国を半々の東西に分けて、大陸といっていい広さの無人島を舞台に、三十二のエリアに分けて各国が担当し、西軍東軍どちらが勝つかの世界大戦。毎回三百万人は参加して百万人前後が死ぬ狂気のお祭り、だとさ」

「私も過去の動画を観ました。敵も味方も機械化歩兵の隊列がヘビーマシンガンを乱射して戦場の密林が平地に変わるダイナミック映像でしたわ」

「修羅の星、か。たぎるな」

「このセキガハラによって全ての国が四年間格付けされる。片方の十六ヶ国のうち、最も戦果の高い国は真打(しんうち)と呼ばれ、他は変動するけどおおよそ、次席の二国が影打(かげうち)、五国が偽銘(ぎめい)、末席の八国が数打ちと呼ばれて嘲笑われる」


 格付けなんて下らない? それはそうだけど、結果を以て叙せられる伯爵や侯爵だって同じ意味だしね。人と人の間と同じく、国と国の間にも序列が存在する。下に見られて悔しければ結果を以て覆(くつがえ)せ、て分かりやすくて気持ちいい。


「両軍、真打が総司令となり采配を振るう。まずは配置の問題。エリアは危険度が違う。当たり前だけど前列が狙われやすく、後列の守りが堅い。前列は結果を出せといわれても毎回グチャグチャに潰される。もちろん数打ちがそういう不利なエリアに配置され、格上は美味しいところを狙える配置と作戦になるから序列はそうそう変わらない」

「卑怯でもなんでもなく妥当とは思うが、数打ちの国々は不貞腐(ふてくさ)れるとか戦力の出し惜しみとかないのか?」

「全ての国民がドライとまでは言わないけど、不人気な国は捨てられるからね。権力者も命懸けで結果を出そうと頑張るわけ。数打ちと偽銘が入れ替わるくらいは珍しくないし、負けても次があるスポーツほど甘くない」


 なんてゆーか、今のところの感想であってきっと欠点もたくさんあるんだろうけど、一番マシな星に見える。ワクワ━━。


『ワクワクしてんだろうが残念なお知らせだ。傭兵はお呼びじゃないってさ』


 子馬(ポニー)の下半身だけ、みたいなロボットが近寄りプー兄さんの声を発した。そこにロマンを感じるの? サザエの苦いトコが美味いという意見くらい分からない。


「まぁ国を背負ったスポーツの祭典に外国人は参加できないし、そりゃそうか。でも……、テシガワラ重工がこっちの軍人を傭兵として使っていたような抜け道くらいあるでしょ?」

『クックック、鋭いな。外国籍が問題ならその国の肩書きを入手すればいい。星どころか国によって有無や扱いが違う、騎士爵というものがあってだな、この星では比較的簡単にもらえるのさ。お前が騎士になれば傭兵団は騎士団と言えなくもない』


 ああ、元々ナイトの称号は一代限りで栄誉を称(たた)える安上がりで外国人にも配れる賞だしね。特に権利もない代わりに義務もない。現代は重みがピンからキリまであるっぽいけど。


『入手方法は二種類、ひとつは万人が納得する活躍をすること。社会貢献がどうとかもあるが、惑星ムサシで一番分かりやすい活躍は戦果だな。庶民の軍人はどれだけ優秀でも軍曹止まり、という上限はここでも同じだが、四十五歳の定年まで生き残れば退役する際に騎士爵を授かる』

「へぇ、四十五は早いわね。アスリートと同じく第一線は長くは続かないって厳しさが見て取れる」


 しかもお手軽といっても爵位がもらえるって、そんくらい生き残るのが珍しいってことでしょ。


『俺たちの場合は宙賊退治で活躍、と言いたいところだが、バダウィ星系は宙賊がいない』

「あら、それは凄い。治安がいいと人が増えて欲が出てコロニーが独立運動を起こしたら大変だ、て問題がないくらい軍人に変えて消費しているってことよね?」

『そうだ。戦争がありすぎて裏で手を回す必要がない。問題児は進んで入隊して死んでくれるし』


 スンゴ。原型はともかくとして中世以前にヤクザもマフィアもないのは国家権力に叩き潰されるからね。王に従わないと主張する庶民はそりゃ殺される。必要悪とか言って国から守ってもらわないと反社は存続できない。始めから宙賊がいないって新鮮。


『もうひとつが、決闘だ』

「へぇ」

「うっわ出たその笑顔怖いから抑えてくんない?」

「痺れるっス」

『これは貴族家の三男とか将来が暗めの連中が一発逆転を狙う仕組みらしい。スペックが違うから庶民はいない。王が観戦する御前試合がどこの国でも頻繁に開催されていて、大抵は四人か八人のトーナメント。当たり前だが優勝者以外は全員死ぬ真剣勝負だ。武装は飛び道具とパワードスーツはナシ、生身で刃物か鈍器、鎧なんかも自由らしいがまずいない。高周波ブレードありのルールもあるらしいから。このへんは俺も精査が済んでないからもう少し過去例を調べてみる』

「まぁ大体察しはつくかな」


 リアルガチな天下一武道会ってまんま塚原卜伝や上泉信綱が死合いやってた戦国時代初期じゃん。


『この試合に勝つと騎士爵がもらえる。士官学校を卒業しても一応下士官スタートの将校コースというだけで、家から爵位を分けられることもない、パッとしない連中はコイツでハクをつけようと夢を見る。くく、テイの良い間引きだな。貴族も数が増えると邪魔でしかない。そういうカラクリも分からないコイツらはただの噛ませ犬だ。優勝する可能性は万にひとつくらい』


 ゼロではないから夢見ちゃうかぁ。実戦の多い軍は実力で成り上がれる。庶民の軍曹だって上からも下からも慕われる存在だしね。爵位は関係ない、むしろ伯爵だからと大佐を任されてポンコツだったら全方位から白い目で見られる針のむしろよ。ホラ、酒場で呑んだくれてたハゲみたいに歪むのがオチ。家柄しか自慢することがない無能はそういう現実も分からず爵位マウントにすがっちゃうんでしょうね。確かに噛ませ犬のロールプレイしかできないか。あらヤダ思い出しついでに久し振りに地面に叩きつけられたカエルみたいな元婚約者のKO顔を思い出しちゃった。名は忘れた。後ろに殿下(笑)をつけることしか意識してなかったから。


『ただし、同じ貴族の傍系でもそういう連中に混じって優勝する強者がいる。すでに騎士爵をもらってなお試合に参加し続けるお前みたいなタイプだ。優勝すると景気良く大金ももらえるし、スポンサーがつく場合もあるらしいが、そうやって稼ぎながら自分のロボットを調達して、国生み神楽に参戦する武芸者も数える程度だがいるらしい。仕官もせず我が道を行く者という意味を込めて、自由騎士(ロードスター)と呼ばれている』


 馬の下半身からホログラムが浮かぶ。女? ダークエルフ? 何とは言わないけどなんかいろいろ惜しい。


『十一代目竜騎士(ドラグーン)ドレイク・ハインド、現在ムサシ最強の一角に名が上がるロードスターだ。こっちではエースは戦闘機乗り専門の呼び名らしい。強いロボット乗りはロードスターが定番ってな。戦争には滅多に顔を出さないが、御前試合は六回出たビッグネームだ。まだ二十代前半と若く経験は少ないのに評価が高い理由は襲名のせい。この星では竜騎士ドレイク・ハインドという名が最強の看板みたいなもんか。伝統芸能と混じってないか』

「いいわねぇ、いつどこの試合に出るか分かる?」

「うっわやる気だよこの人」

『西軍真打ショージャで二週間後、そして国生み神楽は約三週間後』


 行くか? て聞くまでもないこと聞かないのが兄さんらしい。

 



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