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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第四章 バダウィ星系
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52.理性



 ドグ・カルマ星系の外れ、サファイアブルーが強めの玉虫色に輝く超巨大なソロバンのねがいましてーはー、丸い菱形のアテナがフミョンフミョン飛んでいく。いつの間にか全面反射装甲を貼り付けていた。アレめっちゃ金がかかるのに、大国のDFSSも何年もかけて補強するドリームジャンボなプロジェクトなのに、改めて考えるとアテナってデタラメかも。生産工場を持って宇宙を彷徨(さまよ)って資源をつまみ食いできるってフリーダムがすぎる。まるでバージョンアップしていくテセウスの船。何故どの国も持たないのか? そりゃ一瞬で独立されるかんね。アテナを作ったアビャーナたちの祖国、実はかなりギリギリのギャンブルしてたかも。まぁ察しはついている。犯人はノクちゃんでしょ。


 そんなことよりとりあえずさっさとトンズラしよう。犯罪はバレなきゃセーフの精神で咄嗟にカッコつけた捨て台詞をはいて惑星ファウトゥースを去りつつ、まだ冷や汗が止まらない。心臓がポクポクと半オクターブ高い音を鳴らしているような。


 ゴッズロッド、アレなんなん?


 惑星もろとも死ぬ恐怖にパニクるリスナーに向かって『ウルトセイバーその二』って態度でとぼけて強制スルーして、作戦中は平常心を失わない軍人モードだから乗り切ったものの、ちょっとかつてないほどドン引きしたんですけど。いろいろやらかしてきた自覚はあるけど私史上一位が塗り替わったわ。反応弾とかアウトな兵器以外は自重なしで戦闘いくぞー、じゃねぇよスカアハが丸ごとアウトだったよ。アテナの三倍はある巨大施設が塵芥すらなく突然消えるイリュージョンて、アレ星に当てたらパシュゥンって消し飛びそうな破壊力よね。空に撃ってなお下手すりゃ自転が遅くなったとかヤベェこと起きてね? DFSSと衝突して星が壊れるよりはマシだからそれはいいとして、問題はあの見たことも聞いたこともない威力。


「プー兄さん、どういうこと?」


 アテナの良心シュヴァインことボア兄さんもいるブリッジに呼んでお説教。


「どうとは?」 


 プー兄さんはマッサージチェアに身体を揺らされなから足を組んで笑った。椅子の下がキャタピラになっていて、左右の肘掛けについたレバーで操縦してブリッジに入ってきやがった。くっ、面白そうなおもちゃを。最近ウサニーの部下とつるんでいるらしく、家電と軍事のコラボがポコポコ生まれそう。


「ゴッズロッド、アレ、四次元の新技術でしょ? セコいミサイルにショボいレールガンつけてゴッズロッドとドヤる企業に説教どころじゃないわよコッチが一線越えてんじゃん。ホップステップワープしちゃってんじゃん」


 四次元はヤバい。三次元の人間が手を出していい分野ではない。ロクに危険性が分からなかったころに発見されたワープ技術はありがたく利用するとして、それ以上はどれだけ慎重になっても足りないほど危ない。


 例えば発電機(ジェネレータ)について、現代はほとんど使わない。巨大メロンが使うフリしたのは爆発の言い訳。アテナのような巨大施設は核融合炉を持っているけど、黎明期の核分裂炉のようなメルトダウンは起きない、事故が怖くない仕組みだから使う。しかも、持っているだけで容量は少ない。基本は太陽光発電で足りる。電気を溜めるバッテリーと出力自在の変圧器(コンバーター)が優れていて、ジェネレーターの開発は宇宙に進出したくらいの大昔に止まった。


 何故か? こう言えば分かりやすいかも。かつて地球には原子力空母や原子力潜水艦があった。それってさ、兵器である以上、敵に撃沈される可能性は高いって子供でも分かる予測だけど、その時海が汚染されることなく安全に処分する方法まで考えて作ったと思う? 答えは聞くまでもないよね。なんなら撃沈ではなく耐用年数を過ぎて自国では処分できないから海底に捨てると脅迫して他国に任せる呆れた国もあったろしあん。


 黎明期のジェネレーター、原発は炉心融解(メルトダウン)を起こしただけで大規模水蒸気爆発による汚染拡大などの悲劇になる。大きな力は大きな危険が伴う。じゃあさ、原発より数千数万倍の性能のジェネレーターを開発できたとして、人類に使いこなせるだろうか? その答えが、この数千年の間にいくつか消失した惑星と、そこに住む、少なく見積もっても合計百億は超える死者。なんせあらゆるデータも含めて全て消失したから真相は不明。ただ、定説としては四次元ジェネレーターの研究による事故と考えられている。四次元のなにが怖いって、時空を無視する特性。研究者は惑星上で研究したわけがない。そんな危ない研究、宇宙の孤立したコロニーでも作ってコッソリおこなっていたに決まっている。それでも離れた惑星が巻き込まれて消えた。おそらくは研究者の母星とかそんな繋がりだけで。


 ジェネレーターに関係あるかどうかはさておき、プー兄さんがどれだけ危ない研究をしていたか分かったかしら。ゴッズロッド、あんな威力を出すには三次元の物理法則じゃ不可能でしょ。スカアハに搭載できるコンパクトな惑星破壊兵器って流石にロマンで片付けられないっつーの。こんなん広まったら私どの惑星も出禁じゃん。


「ラッテ……、心配するのそこかよ」


 ボア兄さんが目頭を押さえてうつむいた。は? 出禁よ出禁、由々しき事態でしょーが。プー兄さんが星を巻き込む失敗をするとは思わない。現に成功してるし。周りはそう思わないことが問題よね。一般人からは風船爆弾扱い、国家と研究者からは情報寄越せグヘヘヘって想像しただけでダルい。


「今後はアテナを離れず宇宙から観光しろって? クッ、左脚の封印が疼(うず)く、とか言いながら配信するかもね」

「止めてっ、人類史上最悪のテロリストになるつもりか。要求が爆買いさせろって俺胃がぁぁぁ」


 失礼ね。史上最高の駄々っ子じゃんか。


『自由と引き換えに命の軽いこんな時代、死ぬのが怖くて生きてられるか』


 プー兄さんがゴインゴイン肩を揉まれながらニヤニヤ笑って音声データを再生した。私の声。チッ、覚えているわよ。


「良ーい台詞だなぁー。同感だ。たかが人類滅亡が怖くて新しい道を切り開けるか」

「その道に先はあるの。どれだけ遠い未来だろうと四次元なんて人間に扱えるようになるの?」

「扱えなければ人類はそこまでの生き物だったというだけのことだ。あのなラッテ、文明は進めば進むほどバッドエンドの選択肢だらけになる。誰もが自由に反応弾を撃てるのが高度な文明社会の光景だから。進んだ科学は魔法と同じであり、魔法と違って誰でも再現出来る理が科学だ。主人公だけが時空魔法だのドラゴンを瞬殺だのって目立てるファンタジーと違い、全員同じことが出来ちゃう世界がSF、科学文明の未来だ。ビビってたって早いか遅いかの問題なんだよ」

「だからこそ力を使いこなす心が重要なんでしょ。人間が暴力をコントロール出来る日は遠いしそんな日がくるかどうかも分からない。一万年の停滞は、人が種として成熟するために必要な時期。私はそうとらえているわ」


 おそらくは仏教やキリスト教や儒教あたりがそういう役割だったはず。神がどうこうって目がイッちゃってる話ではなく、心の進化をうながす本質の話。原罪だの百八の煩悩だの仁義礼智信だの、欲望の先にある醜さを解体して、清く正しく生きるとはなんぞや? ってテーマの取り組みがあのテの広域宗教だから、カッコつけたい古代の身分社会と相性が良くて、欲望を全肯定する資本主義に負けて過去の遺物と化した。だからまぁ、成熟は無理じゃね?


「今、停滞してんのか?」

「だからホップステップワープっつってんの。進むのはいいとして進みすぎ。とりあえず冗談抜きにアレは封印ね。一応奥の手として隠し持ちはするけど、もう使う機会はないでしょ」

「しゃーねーな。コロニー関係者が闇堕ちすればSS落とすか」

「機会を作ろうとすな」


 分かってはいたけど説教にならない。


「配信で見せちゃったのがミスったわね。拡散しなければいいのだけれど」

「今ファウトゥース星人がどうなってるか想像つかないな」

「数年は荒れるだろ。こうなる前に情報をばらまく星間行商は他所へ逃げたし、俺らの心配はいらねーよ」


 あー、くっそ。


『ちょっ待て、それってつまり』

『ああ、休戦協定は終わりだ。始まるぞ』

『うへぇ、どうする、他星系へ逃げるか?』

『だな、リスクがデカすぎる。火中の栗どころじゃねーよ』


 今は星雲が映る程度のブリッジのモニター。以前そこに拡大された巨星のシルエットに淡い光、深夜のコンビニのようなISS、国際宇宙ステーションと隣りのワープゲートを思い浮かべて、ここへ来た時のことを思い出した。プー兄さん、最初からここまでのシナリオを書いてたの? まさかね。いや、ノクちゃんと組めば流動的な未来をある程度は修正できるのか。


「逃げた王侯貴族って帰れるのか?」

「俺らの常識では無理だけど、ファウトゥースはいろいろ終わってたからな、どうだろ」

「逃げなかった人を中心に建て直すんじゃない? 逃げなかったというか戦況を見守るために逃げられなかったナントカ女王あたりが星の盟主になるかもね」


 環境も政治も経済もボロボロってまんま地球だったなぁ。ギリッギリ終末エンドの展開は防げた感じか。物騒だけど一番問題児だらけっぽいウーミンインダストリ周りを消したカウリーンの仲間たちグッジョブ。


 そんなこんなでワープゲートまで全速力で十日ほど。まず追いつかれることはなくて安心というか終わったこととして忘れたころ、何度見ても錯視を疑うような巨星が見えてきた。


「ああそうそう、カウリーンとウサニー、ルーブたちファウトゥース組をブリッジに呼びましょ」


 ワープするならアレ見せなきゃ。なんだかんだみんなも楽しんでるみたいだし。


「お疲れ様。もうワープゲート? なんか早くないか?」

「えっと、ワープって見えるものですか?」

「アレ興奮するっス。今から冒険始まる感ってヤツ?」

「あぁ、まだ信じてる人もいるのか」

「ワ、ワープ、は、は、は、はじめて」

「あ、カウリーン可愛いーピンクで攻めちゃってコーデ誰?」

「モデル体型でガーリーとか私に喧嘩売ってます?」

「アビャーナさん誤解ですよ、眼鏡を外して鬼読めつけてみます?」

「はいはーいオレつけてみたいっス。うお、姐さんの女子力五十三万?」

「それナニ測ってんの?」

「女子力とは洞察力のこと。アラビアンナイトにも書かれています」

「オッスおらアリババとか言う同人誌だろ」


 呼んだら呼んだで他のコもついてきてブリッジは化粧室に変わる。ほぼ全員返事は待たない疑問形。ボア兄さんは虚無顔でモニターの奥を見つめ、プー兄さんはみんなが到着する前に去った。


 カウリーンは早速馴染んでるわね。やや長身な百七十くらい、肌は素じゃなく日焼けの浅黒さか。ストレートロングの前髪パッツンだったら絶対あだ名はクレオパトラ。軍人カットのベリーショートが残念。伸ばすようにみんなで誘導しよう。見た目は十代半ばだけど実年齢は一桁でしょうね。人馴れしていないか、もしくは心無い言葉でも浴びせられていたのか、目を見て話すことができなくて軽くうつむいている。そのへんは時間が解決するかも知れないししなくてもいっか。


「女子力とは戦闘力のことでしょ。ネクロノミコンに書いてあったわ」

「おぉー、じゃオレらの女子力サイキョーじゃん」

「それ読んじゃダメなヤツー」

「女子ってなんだっけ?」

「そんなことよりワープゲート到着。手続き済んだら跳ぶわよ」

「はーい」


 成熟かどうかはさておき私たちは種として良い感じ。言葉の壁さえなければ星系の違いなんか関係なくすぐ仲良くなる。これが女子力? 多分本来の宗教って女性的なんだよね。地球は男社会が行き過ぎて宗教すら理屈をこねる男性的だったから失敗した。仲良くなりましょ、イヤならシカト、でいいのよ。


 よし、気持ちを新たに行くかバダウィ星系。てかファウトゥースの滅亡未遂ニュースがこのISSに届いたら足止めくらいそうだからとにかく急ぎましょ。

 


 

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