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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第三章 ドグ・カルマ星系
54/54

幕間 日記



 ジュレキ7307 8/24 あつい


 きょうは、もりにきた。ミンミンがしずかになるおもしろいばしょ。タチアナちゃんを、あんないしてあげた。すっごく、すっごくでかい木、ふぇー、言ってた。ここ、けっこんする前にくるんだって。だからきた、って言ったらタチアナちゃん、しゃべりかたがおかしくなった。女の子はわからない。ばあやたち、とおくからわらってないでたすけて。 


 ジュレキ7310 1/16 大雪


 砂漠化がとまらない。今日五回は聞いた。すごく不思議。はじめ、星は岩だけだった。そこに水を運び、水から空気を作り、びせいぶつとエサを土に混ぜて、木をうえて、動物をはなし、ビオトープを作り、水がいろいろ運んで集まる海を作る。そう習った。とうして同じことができないの? みんなでウソついてない? どうして父上が悪いの? 言葉をにごす先生にイライラする。代えてほしいとたのんでみよう。


 樹暦7313 4/8 快晴


 季節感が壊れつつある昨今、早くも初夏を超えた陽射しに辟易するも、森の小径(こみち)を馬車で走ると涼風に汗が引き、自然笑みがこぼれる。ここだけ中世。サスペンションやダンパーがどうとか実際はともかく外見は木造の箱を引く二頭の馬は芦毛。爺やに無理を言って用意してもらった。僕はシルクのチュニックと麻のキャロット。御者台で手綱を握る僕の隣りに彼女、タチアナがシルクのロングドレスのすそを軽くおさえていた。暑くない? て僕のバカ。ハネムーンの予行練習だね、くらい言えよ王子のくせに、王子のくせに、王子のくせにぃぃぃ。


 樹暦7314 12/3 猛暑


 王家所有の森が枯れた。今年は一年中気温が狂っていたからどうにもならなかった、と大人は口々に言う。本当に無理なのか? 氷の塊、彗星を引っ張って惑星にぶつけて海を作るテラフォーミングすらできるんだよね? できないのか、する気がないのか、どっちだ? また思い出がひとつ消えて、タチアナにどう詫びればいい?


 樹暦7316 5/15 雨


 タチアナがこの世を去った。あっけなく。意味が分からない。僕は王族で、彼女は侯爵令嬢で、脳さえ無事で五分以内に処置が間に合えば蘇生すら可能な科学力があって助からないってなに? 彼女の病弱気味な体質を改善できないことすら納得いかないのに。慣例的に少し問題があったらしいけど、王家所有の森に、特別大きな枯れ木があった場所に遺体を埋葬した。


 樹暦7316 12/24 イヴ


 避けてたけど初めて墓参り。もう大丈夫、気持ちの整理はついた。今はもうない、伐採されてしまった、長く王家を見守り支えてくれたセコイアの木。僕はここに、この星に、木を植えるよ。あの大木がなければ、天国の君に再会した時プロポーズしてもカッコがつかないもんね。

 

 樹暦7322 9/12 酷暑


 地下都市の拡張工事を視察した。下水処理、という名目で作っているのは海だった。自慢気にスペックを説明する担当者に愛想笑いを向ける私……、僕のほおは引きつってなかっただろうか、気になる。おっといけない。日記の中でくらいは他所行きの言動は慎まないと、王族たるもの民の模範であれ、なんて誰も見てないとこでまで気にしていたらストレスでハゲるぞハハハ。ハァ、もう地下に逃げることしか考えないのか、誰も。


 樹暦7324 2/8 雷雨


 ゴーストタウンの解体を視察した。数千年の永きに渡る整地によって、濁流に荒れる川以外、地平線の向こうまで凹凸のない大地から都市、コンクリートの建築物が消えていく光景に悪寒を覚えた。命の軌跡がどこにもなく、代わりに灰色の雲から絶え間なくおどす雷鳴。この世の終わりのような。


 樹暦7324 5/1 極暑


 何度考えても結論は同じ。環境崩壊の責任は我々王族にある。無論言い訳が許されるなら言いたいことは山ほどある。レトロブームに乗って木材と石油の生産と消費が度を超えたのは庶民であろう。企業には法を作って命令して重い腰を上げたくせに、「わたしたちは木を植えてます」とかよく恥ずかしげもなく言えるものだ。宿題はしろって言われる前にしろ。結局間に合わなくて廃止してしまったし。だが、甘やかした王侯貴族が悪いのだろう。我が子を叱れないダメ親と言われれば返す言葉もない。


 樹暦7324 11/6 豪雪


 鏡を見た。ワートアーク王国第二王子オセロット・ジキ・ハイ・チェンジロッド、享年二十五歳。僕は、公には死んだ。鏡に写る青年はもう歳をとらない。ここだけは経年劣化を完全には防げない脳も八割機械化(サイボーグ)に変えた。臨床例が少ないから正確には分からないが、数百年は余裕で生きられるはず。くくく、この身体を生きていると言えるのであれば。姿見の向こう、泣いてうずくまる青年が見えた。涙は今日で捨てろ。死人には必要ない。一族の反対を押し切り、父母兄妹を泣かせ、人類から蔑まれる禁忌を犯したのは、君のため、君の痛みを知る民のため。民を導く王族の誇りに懸けて、いつか惑星ファウトゥースに緑を。この誓いは絶対。絶対だ。


 樹暦7348 4/8 仏滅

 

 カノンハーテナ王国との協定が破棄された。これで三件目か。妙だ。ここ数年、いや、思い返せばもっと前から、世界が歪んでいる。何故誰も環境再生に向けて取り組もうとしない。僕ひとり、裏方に徹して間接的に王家の影響力を使い、国内の気運を盛り上げようと努めてきたが限界だ。星の問題は大多数が賛同してくれないと焼け石に水。賛同しないほうがおかしいのに現状はなんなのだ? 何故こうも無関心でいられる? 最近ため息がクセになってしまった。


 樹暦7373 10/11


 表舞台を去り、多忙な公務を排除して、地上に自然を生き返らせる。ただそのゴールを目指して走り続けてきたが、失敗だった。皮肉にも世情に疎くなったことがあだとなり、なにも気付かなかった。シャンデストリ王国に本社を構えるリュックザイテ社、ここを()()と崇めるネットワークに我が国の軍部が取り込まれた。そう、宗主だ。まさか企業が帝国化していたことが問題の根底だったとは。押し寄せる後悔に胃を吐きそう。


 樹暦7373 12/30


 鏡を見た。外見の変わらないおぞましさに耐えて久し振りに直視した。もうすぐ今年も終わる。なぁお前、そろそろ永眠しても不思議はないくらいに生きてきて、なにかを成せたか? もとより人の一生では足りない大仕事と覚悟して人を辞めたが、一歩も進まないどころか後退ってふざけるな。調べてみたら世界中の企業がしのぎを削っているらしい。止まない砂嵐はチェインストームと呼ばれ、環境再生どころか天気もクソもない。そこで遠慮なく戦争ごっこしましょうって? いいだろう。王侯貴族をいらないと言う民はワタシもいらない。


 樹暦7385 7/5


 ワタシの遠回しな助言に従い、リュックザイテ社の会長、マイクロフト・ゲーリングが引退した。数年以内に逝去するのだろう。そうやって表舞台から静かに消える。ワタシと違って外見ももう老境だが、ワタシのように長く生きる誘惑に勝てなかった。信念に殉ずる王侯貴族と違い、現在ファウトゥースに君臨するコイツら権力者はただの畜生だ。欲望を自制する術も持たない。そんな下等動物に性風俗を教えたらすぐに伝播する。敵味方関係なく全ての権力者が張り合って真似するのだろう。せいぜい堕ちるところまで堕ちろ。


 樹暦7402 7/26


 スキャナー星系にてウーミンインダストリがCPUに生体脳を使用してバレて、こっちの企業全体の信用失墜? こんなに笑ったのは何年振りだろう。テロ、暗殺、口喧嘩、隠せない秘密、足の引っ張り合い。間引き目的ではない地球型の戦争は一度エスカレートして互いに踏み留まったが、再開は時間の問題だな。数十年は距離を置いて置かれていたが、王家に根回ししておくか。あの女王は露骨にワタシを嫌悪しているから関わりたくないんだが。


 樹暦7402 8/1


 テシガワラ重工が発見したとされるモチニウムとはなんだ? データベースにはプフェート・フォン・ウッドストックの論文に合致するとあるが偶然か? そんなわけがない。テシガワラ重工が傭兵を雇うという情報があったが、バダウィ星系の戦闘狂と思い込んでおった。なるほど、スキャナー星系ではまずウーミンインダストリを叩き、三強のバランスを崩すと。暗躍方面ではテシガワラ重工が頭ひとつ抜けていた、アシェムートンとかいう凄腕の暗殺者が返り討ちにされたとか裏社会が騒いでいたのは偽情報(ブラフ)か。となると次に叩く相手はリュックザイテ社で確定。やられる前にやれ、とけしかけて保険もかけておこう。


 樹暦7402 8/5


 驚いたな。ラティシス・フォン……、はなくなっているのか、ウッドストック。リュックザイテ社の宇宙軍をひとりで叩き潰すとはデタラメだろ。前々から宇宙の戦闘は現実的ではないと言われていた。ビルとビルの屋上同士をロープで繋いでクモの巣状に張り、その上で剣を振って戦う。そのくらい危険で誰でも及び腰になる、と。ひとり全速力で飛び跳ねる命知らずがいると全員なにもできずに落下死するのだな。まぁ負けることも想定内だ。この時のために会長と親しくして集めたリュックザイテ社関係のスキャンダル、ぶちまけて潰す良いきっかけになった。


 樹暦7402 8/20


 リュックザイテ社が潰れた。こうも容易く消せるのか。再び王侯貴族の治める世がこようとは。変革の混乱の最中(さなか)、ラティシス・ウッドストックによる宙賊退治の情報を見て苦笑いする。水面下でもいいから和解しないと、ワタシのいるワートアーク王国も含めて旧リュックザイテ帝国は滅びそうだが分かっているのか。もっとも、国の興亡など今さら気にすることでもない。諸行無常、民は王を捨て、王は民を捨て、それなのにヨリを戻す? 面倒見きれんわ、どいつもこいつも。


 樹暦7402 9/1


 テシガワラ重工がショキープ王国を攻めた。その戦闘中にラティシス・ウッドストックと、ショキープ王国所属の企業のトップの問答がオープン回線に流れて世界中が傾聴した。なんだこの寸劇は。ワタシは戦場に疎いがこういうものだったか? そしてこの女、(かん)に障るな。王侯貴族はカッコつけてなんぼ? 先頭に立つ? 民の理想を背負う? 現実は、ワタシは、カッコつける相手もなく、愚民の欲望に殺されてこの世の裏側から呪詛する怨霊だ。貴族たるもの有言実行。命を懸けてカッコつけてみせろ。ほう、単騎で星に降りるか。悔しいが天晴。というかテシガワラ重工とこの女は組んでないのか?


 樹暦7402 9/5


 テシガワラ重工が傘下の国々に攻められた。クーデターは読めたこと。それを防げずグループの分裂を招くとか、まんま帝国の終わり方だな。セネナゼーデンの王と側近、要職の貴族たちへは我が国への避難ルートを伝えておいて正解だった。宇宙へ、SS伝えが安全と教えただけだが。アテナといったか、例の女の要塞が近寄っているからSSは危険とみなされ閑散としている。宙賊のアジトとはいえ反応弾を平気で使う暴君だから無理もない。やりたい放題、ちょっと羨ましいではないか。


 樹暦7402 9/12


 例の女を使うよう指示した。ついでにずっと気になっていたモチニウムについても探らせた。結果は空振り。誰がなにを企んでいる? 世に陰謀論者が多いのも納得だ。疑いだしたらキリがない。傭兵団だけでセネナゼーデン王都を解放すると啖呵を切るとは剛毅な。それはいいが作戦中、よりによって不老長寿の禁忌を犯した者がたくさん紛れていると世間に暴露しやがった。慌てて自国のSSへ移動した。間違いなく近日中に怪物狩りが始まる。もうこの星にワタシの居場所はない。自分でなってみて分かったが、人は変わる生き物であり、自己正当化したがる生き物だ。誰もが老いて死ぬ、当たり前の理から逃げて生に執着する意地汚い生き物に成り下がった時、どうやって正当化できる? 退いても進んでも狂うしかあるまいて。



 “ファウトゥース星人、聞いてた? お前たちポンコツどもの被害者が、それでもお前たちの死を望まない、だとさ。我先に逃げるそのへんの王侯貴族じゃ足元にも及ばない、このコの高潔な精神に一生感謝しなさい”


 

 笑笑笑笑笑笑。笑いが止まらない。そうか、ウーミンインダストリの闇だから十中八九、人造人間の強化兵士。作られて数年の、こんな幼そうな女児がワタシの対極か。笑笑笑笑笑笑。笑いすぎて捨てたはずの涙も止まらない。たどたどしくも真っ直ぐ口にした純情な想いが、地下も地上もない世界。ワタシが失った願いと同じなのか。笑笑笑笑笑笑。死人の嗚咽(おえつ)が滑稽と笑いたければ笑え。もういい。姿見はとっくに殴り割った。



 “これが本物の空。ファウトゥースのみんなも、配信を通して見えてる? 地上から目を逸らして、地下に偽物の自然を模して、悪いことは王侯貴族の、企業の、他人のせいにして、楽しい? 地球人は一から十まで頭が悪かったけど、前に進むことは止めなかった。おかげで私たちは今こうして立っている。私たちはそろそろ他星系に旅立つけど、いつか顔を出した時、宇宙から見たファウトゥースが緑の惑星に戻っていることを願います”


 

 最初からこの星にワタシの居場所はなかった。それだけのこと。彼女を(うしな)った時に泣いて諦めて、只人の生を進めば良かった。ワタシもさっさと旅立とう。二度と帰らない。もしも緑のファウトゥースを見たら、見てしまったら、きっと、ちゃんと壊れる。不老長寿に手を出して人が変わって破壊衝動に取り憑かれた先人たちのように。確かに神罰だな。今ワタシほど神を呪う者はいない。


 気になることなんてモチニウムくらいか。テシガワラ重工はハズレだったし、そうだな、ウッドストックの故郷を訪ねてみるか。




 

制作日記

とあるスレッド 

風吹けば名無し1 みんな、あの配信観てるか

名無し2     親方ぁ、空からDFSSがっ

名無し3     三秒待ってやる、滅びの呪文だ。せーの

名無し4     パンツ

名無し5     ギャルズ

風吹けは名無し1 ラティシス・ウ なにこれ?

名無し6     バカンス

名無し7     目がぁー、目の保養がぁー

名無し3     息合わねぇ、合ってんのか

名無し4     こんな時でも俺ってヤツぁ

名無し2     え、蝕はじまった?

※四章は八月中に投稿……、したいですっ。遅れたらごめんなさい。


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