表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第三章 ドグ・カルマ星系
53/54

51.神杖



 遮蔽(しゃへい)のない戦場、視界は悪いといっても近接は関係なし。リングの上で銃撃戦、そりゃ一瞬で終わる。ま、幼子のような印象を受けても明らかに手練れ。私もコイツも、互いに反応速度が人外だろうから西部劇のような一瞬ではないか。


 ゆっくり、ゆっくりと、鼻から吸った期待は血液に乗って身体を流れ、熱を帯びて筋肉がふくらみ、頭上に上がる指揮棒(タクト)を見つめる弦楽器のように神経が張り詰める。向こうも鏡写しと確信できる。アドラーの時以来の、強敵との一体感。まばたきに続いて呼吸も止めて、意識だけ腰を落としてヒザのバネにチカラを蓄えて、見合って見合って、同時に声にならない烈帛(れっぱく)の気合い。


 無限に引き伸ばした一瞬、どちらがどこまで未来を読み切るか、勝負。


 私は左ステップを選択。敵右手のガトリングガンが一番大きく取り回しが遅そうだから、照準を合わせる隙を与えず、二歩目は空中に磁界の足場を作って斜め上から回り込んだ。ドッグファイトもそうだけど、射線に対して重なる動きはダメ。常に線からズレるように。そのまま上から倒れるように抜刀。


 敵もじっとしていない。キャタピラならではの旋回機動、右後退左前進で回り込む私の正面に合わせながらガトリングガンを上に向ける。撃ちながらだけど当てる気はなく、反動(リコイル)を利用して銃口を速く上げつつ、先日の傭兵隊長と同じく剣閃をいなすつもりか。ヘビーマシンガンを邪魔と判断して使い捨ての受け流し(パリィ)って思い切り良し。盾を使えてないシーバに見習わせたい。


 サーベルと右手の相討ちは悪手だから修正。私は前のめりのまま後背のブースターを噴いてテンポを早めて身体ひとつ前方に移動。敵を通り過ぎてかかとの延長線上に後頭部がきたらパイルバンカーで貫く、つもりだったのだけど、敵も同時にブースターを噴いて前進、私との距離をおいて背を向けたまま右腕裏から生えた腕が握るアサルトライフルを連射してきた。


 生と死を感じる境界線で前に出るか。口調もだけど相対して分かった。コイツ……、このコは幼い。地力も経験も私のほうが上。でも敵にはここで全てを出し尽くす勢いがある。死を恐れない若さがハイ・ソルジャーの伝説の基盤ってとこか。


 私は抜刀の鞘走りを止めずに後方へ上体をひねりながら斬撃。アサルトライフルの初弾と次弾をまとめて切り裂きながら重心(ベクトル)に従い左へスラスターを噴いて回避。一度射線をきったら即座にダッシュ。戦車型は中遠距離火力に適している。離れたら不利だし、この近接距離で一撃でもくらったら、きっとスカアハに嫌われる。とはいえ離れたくないと悟らせるのもしゃくだから、右肩のレールガンを倒していつでも撃ち抜く圧はかけておく。


 左腕の裏にセットしてあるショットガンを警戒していたら、銃口は私から離れて左下へ、そのまま地面にズドン。目眩まし? いや、キャタピラ以外も利用して高速旋回、アサルトライフルとガトリングガンの雑な連射で牽制しながら一瞬で私を正面にとらえた。素早い左手のサブマシンガンが本命の弾幕コンボ、お見事。さらに右肩からグレネードランチャー発射。対人対軽車両のトロい榴弾なんて直撃しなければ脅威にならないのは分かった上で、わざと私の手前の地面に当てて、煙幕代わり。自身も反動で後方に飛び、距離を作り、土埃のカーテン越し、音から察して垂直ミサイルも発射。数撃ちゃ当たるを必殺技まで高めた全力射撃(フルアタック)、美しい。


 脳内に浮かぶ一秒後の進行方向は詰み。射線から逃げられるルートなし。私は前のめり、榴弾の破片をいなすために中空にスラスターを噴かせて上昇中。シルエットが教える、ガトリングガンとサブマシンガンの銃口が放電のマズルフラッシュを点滅させながら外から私のいる内に絞られてくる。上空からミサイルの白煙。まぁ避けられないこともない。ミサイルの軌道は遅いから上に逃げて体勢を整えて仕切り直し、も可能ではある。でも、命を乗せたストレートパンチを撃たれて、逃げの姿勢は美学に反する。


 フルアタック。一秒より早く近付き正面から打ち砕いてやろうじゃん。


 中空にかけた一歩目でフルスロットル、音の壁を押しながら突撃。そしてほぼ同時に高周波オンからの袈裟斬り。目の前の土のカーテンが震え、ブースター音が見えた。また前に出るならこのタイミングでジャストヒット、のはずが空振り。敵は、真上に飛んでいた。私とミサイルの間に入るとか最高にイカれてる。そのまま下に回転しながらグレネードランチャーをスカアハの脳天に……、させるかっ。


 サーベルを振り下ろす途中で失敗に気付き、頭上に気配を感じた直感に従って勢いのまま前転。射線をきりながら上空へ踵落としからの、パイルバンカー、ズッドーン。ついでに慣性のまま離れながら仰向けで空にレールガンを数発連射、ミサイルを撃ち落とした。


 スカアハは両手を地面に当てる受け身をとって背中で着地。視界のてっぺんで敵は無様に背中から落下。まぁ頭を吹き飛ばしたから戦闘不能。パイロットは生きてるかな?


『ひ、左、つかわなかった、どうして』


 生きてたか。良かった。スーツの通信を使って聞くのそれ? ふふ。


[あれは反応弾みたいなもんよ。使う相手は選べ、ってやーつ]


 振り回すと分かっているバカに刃物を持たすな。凶器を使う戦士には理性が求められる。


『ま、まいり、ました。と、とどめを』


[イヤよ。手加減無しの殺すつもりで戦ったけど、生きてるんだから連れて帰るわよ]


 こんなに強くてバイオレンスなコを手放したらアリエンティーノ監督が怒るっぞっぞぞぞ、わーわーわん。


『あ、あだじはっ、ぼう、いぎだくない』


[どうして?]


『な、なか、ま、みんな、死んだ。あ、あたし、つくったやつ、み、みんな、ころした。もう、なにも、ない』


[そっかー、でも本当になにもないの? 私は今の戦い、楽しかった。もっといろんな人と戦いたい。貴女は、て、そういや名前を聞いてないわね。知ってるようだけど私はラティシス・ウッドストック、貴女の名前は?]


『じ、Jけー、とぅ』


[うっわまさかと思えばウーミンインダストリってホントにベタなクズどもかよ。んじゃ貴女は今日からー、カウリーン、うん、響き良し、カウリーン・ミルヒシュタイン、憶えた?]


『か、かか、カウリーン・ミルヒシュタイン。あ、あた、あたしの名?』


[はい良く言えました]


 どもったのは動揺したからであって、名前は一発で憶えて言えた。元の番号は言いたくなくて口ごもった反応を比べると喜んでくれたかな。うん、やっぱこのコ、普通に賢いわね。私も小脳が発達して舌が回るから噛まないだけであって、思考速度が異常なのは自覚している。でなきゃ高速戦闘は不可能だし。このコは脳内の言葉が百生まれる間に口から出せる言葉は十もなくて渋滞しちゃう、てな感じだと思う。


[さーてそろそろ帰りますか。みんな、カウリーンの機体運んでちょうだい]

 

『ウス、シェファー、コリー、オレたちで持とうぜ』

『はいはい』

『腕一本で無理しなくても』

『妹分には世話焼くのクセになってるね』

『カウリーン、オレはシーバ、今日からお前のお姉ちゃんだ。ヨロシク』

『私はシェファー、足というか右側持つね。シーバは左、コリーは肩持って』

『ち、ちが、お、お、お、おちて、くる』

 

[そうね、あと二十分くらいかな]


『ざっと時速六百キロメートルまで減速してあと二十六分。お前たちのバトルは一瞬だったからまだ猶予はある』


[おー、濃密な時間だったわねー。満腹満腹]


『ちなみに回線も満腹リバースしそうだからコメントは閉じた』


[私になにを期待してるのやら]


『モブは予定調和の反応しかできないからモブという。こんな時でも大喜利やってるスレを見習え』


[あらあら、そっちはあとで見せて]

 

『カウリーン、お姉ちゃんイベントスキップは傷つくっス』

『はいはい今は察しとけって。そっち持つ』

『あ、あたし、のこ、らなきゃ』


[どうして?]


『え? だって、あ、あたし、たち、が、おと』


[うん、だからなに? 今からファウトゥース星人みんな死ぬ。ザマァって言えばいい]


『え?』


[あのさ、積極的に民間人を殺すのは主義に反するけど、今から起こるこれは自業自得じゃん]

 

 地球の悲劇の原因なんて無数にあるけど、ひとつは病名のせいといえる。発達障害だの境界知能だの、カッコつけてAHDHと言い換えてみたり、知能の低い言葉が次々生まれ、健常者が知的障害者に格下げされていった。格が上とか下とか明確な差別と分かったうえで言っている。心理学者や精神科医を名乗る裸の王様が在りもしない透明な線を引いた。最終的に二十五パーセント、人類は四人にひとりは異常者とされた。そんなに多かったら『普通』やないかーい。


 例えば社会問題の解決策を提案するとか、ありきたりな哲学の命題に変わった視点を示すとか、新発明でも未解決事件の名推理でもいい。ヒット曲でもバズるギャグでもいい。大勢を感心させるなにかを成すことが『優秀』ってことでしょ。知能指数の高さだけが自慢の人って賢いの? それと凡庸な人を凡人と呼ぶのだから、新しいなにかを生む人って凡人とは違う、言い換えれば異常者で当たり前だよね。


 地球人は知能と賢さの意味をはき違えて無駄にコンプレックスを抱え、キャパオーバーの遺伝子操作による、優秀になれるかも知れない人間の創造に抵抗がなくなった。

 そういうしくじりの歴史から学ばないから、カウリーンのようなコが生まれる。研究者も兵士も、人材全般、才能と環境の両方そろわないと育たないってまだ分からないのか。鉄の巨大メロンを作った天才気取りの科学者をウルトセイバーで輪切りにしても役不足だったなぁ。


[禁忌とされるいきすぎた遺伝子操作で生まれた人間は、なんせ知能が高いから境遇を理解する。自分を利用しようとする低俗な連中に殺意を覚える。カウリーンと仲間たちのその怒りは実に正当なもの。私だってキレる。犯人は欲望の権化の企業、ひいては企業の天下を後押しした民衆。だから星を滅ぼすって妥当だよね。カウリーンはなにを遠慮してるの?]


『わ、分から、ないよ。あ、あたし、なにも。地面の上、生まれた、あたし、地面の下、生まれた、みんな、なにが、ちがう? みんな、たたかえ、いう、なかま、おこる、あたし、たね、うめた、たくさん、うめた、なにも、はえない、どうして? なかま、いたみ、おしえる、いった。そう、あたしも、おしえる、あれ、おちて、みんな、しる、なにか、はえる、かも?』


[世界も他人も関係ない]


『え?』


[ジコチュー上等。周りの顔色うかがって怯えなさんな]


『でも』


[カウリーンの望みはなに?]


『そ、そんなの、言っても、か、かなう、わけ、ない』


[いいから、ハッピーエンドを言ってごらん]


『…………スゥ。きっ、きらいでもない人をたくさんたくさん殺すのはヤダぁー。この砂もっ、この風もっ、大っきらい。地面の下、地面の上にあがれぇー。上と下、分かつ線、消えろーーー』


[はい良く言えました]


『うぅ、ごめんなさい、ごめんなさい、仲間、止めなきゃ、いけなかった』


[本心が分かるっていいことだから泣かないの。ファウトゥース星人、聞いてた? お前たちポンコツどもの被害者が、それでもお前たちの死を望まない、だとさ。我先に逃げるそのへんの王侯貴族じゃ足元にも及ばない、このコの高潔な精神に一生感謝しなさい]


『なにを?』

  

[お姉ちゃんにお任せ]


『オレっスか』


 ちげーよ。スカアハを駆って上へ、上へ、亜音速で飛ぶ。


[プー兄さん、イケるよね]


『余裕だ』


 余裕なのか。ヤベぇな。そして声優に起用されそうなくらい渋くキメてる声が過去最高にドヤっててキモいな。

 スカアハの左脚にも右脚と同じくパイルバンカーを仕込んであるけど、こっちには秘密が隠れている。もとよりあのプー兄さんがメガ粒子砲なんて他人の発明品だけで満足するはずがなく、もっと強力なロマン兵器の試作品を仕上げてある。


 グリンカンビのレーダーを受け取り飛ぶこと十分弱、直径三十キロメートルを優に超える巨大施設、DFSSが濃い影を落とした。直線から不規則な機動に変えると、早速近くを光線がかすめる。レーザーはほぼ効かないけど油断してると実弾もありそう。CIWSってホント厄介。でも見えた以上はすぐ接触だからやりますか。

  

 左脚、チャージ開始。コクピットにまで響くキュイーンってSFなSE。絶対音を出してるだけで意味はない。平常心でスルーしよう。

 一応仕組みは聞いたけど当然理解できなかった。メガ粒子砲は重粒子を亜光速まで加速させる。じゃあ、おおよそ直径一センチメートル、長さ一メートルのウルトラ激ヤバタングステン合金をセットしたらなにが起こる? 粒子加速器にはセットできないだろうし説明が頭悪そうで不安しかないけど、凄い威力になるのは想像できる。確か野球のボールが光速で撃てたら惑星がパンって弾けるとか。秒速三十万キロメートルの光速はただの思考実験だけどね。ないよね。ないない。


 CIWSが反応しなくなるほど接近すると、頭から落下する体勢で相対速度を合わせ、戦闘機の空中給油のようにゆっくり近付いた。化石燃料は廃れたから空中給油、やったことないけど。あれ、賢いのかおバカなのか分からない絵面で好き。じゃあそろそろ発射、ファイアー。

 

 これが本物の神の杖(ゴッズロッド)


 それはまさに惑星サイズの巨人、神がバットを握ってフルスイング。

 真芯でくらってホームランな白球は、一瞬で視界から消えた。


『あ、あああ……、そらが……』


 ついでにその他諸々も。大気圏に向けて神が息を吹いたように衝撃波が踊り狂ってなにかしらがどうにかなった。いや私は雲のずっと上にいるから宇宙に近い深みのある青天しか見えてなくて、なにも変化はないのだけど、熱に浮かされたようなカウリーンの声に下界を見下ろすと、遥か彼方まで雲が押しやられて円形というか円柱状に透明な穴が空いていた。地上の荒地まで見える。私を起点に上から回り込んで下に吹き下ろされて、キノコ雲の透明バージョンでも発生したのか、な? 知らんけど。


『青い空、本物、本物、本物』


[そうね、これが本物の空。ファウトゥースのみんなも、配信を通して見えてる? 地上から目を逸らして、地下に偽物の自然を模して、悪いことは王侯貴族の、企業の、他人のせいにして、楽しい? 地球人は一から十まで頭が悪かったけど、前に進むことは止めなかった。おかげで私たちは今こうして立っている。私たちはそろそろ他星系に旅立つけど、いつか顔を出した時、宇宙から見たファウトゥースが緑の惑星に戻っていることを願います]


『そ、そ、それ、ハッピーエンド』


[だよねー。さ、帰りましょ]


『はい、お姉ちゃん』

『えぇ……、オレが先っス』

『シーバステイ』


 最後にいい観光ができた。じゃあねドグ・カルマ星系。次は、バダウィ星系、だっけ。修羅の星。行ってやろうじゃない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ