47.暴露
メタバースをログアウトして一息ついたあと、ホームページをチェック。仕事を依頼してきたワートアーク王国に打ち合わせの返信をすると、高官っぽい肩書きの人からアドレスと私専用パスコードと時間指定が送られた。こっちの秘匿回線はネット内の使い捨てっぽい。アテナは絶対ではないけどノクちゃんのおかげで安全性は高い。そんな心強いセキュリティもなく秘密の多い連中は盗聴対策が大変そう。あー、この星は他星系にはほとんどない諜報戦もバチバチにやってるんだろうねウゲー。
指定された約一時間後、再び自室の机に向かい、ホットラインを繋ぐ。このスピード感は合格。フットワークの重いトップは役に立たない。
モニターは二分割、二人の男女がバストアップで映った。えーと確か、六十代くらいの壮年女性がワートアークの女王チェンジロッド、そこに亡命中というか逃げてきた、成人したてくらいの青年がセネナゼーデンの王カスケイニア。さっきちょびっと調べて顔は憶えた。フルネームは憶える気がない。ちなみにアンチエイジングは進んでいるから六十代をババア呼ばわりは厳禁。実際国家の威信を背負って美容に気を遣っているのか美魔女ではある。
「挨拶は省いて始めましょう。カスケイニア王にお訊きします。セネナゼーデンは例えば反応弾を積んだミサイルを大量に保持とか、今すぐ世界を滅ぼせる可能性のある手段を用意していますか?」
『いいや、一応最悪に備えて地上も核兵器を多少は持っているが、仮に他国に使っても迎撃される程度だ。世界を相手に無差別に戦争をするような、いわゆる世間が不安に感じている世界大戦に至るシナリオは、我々は想定していない』
なるほど、それなりに高価な奥の手であったはずのアスモデウスに細工して特攻なんて無駄遣いをさせたくらいだから大丈夫か。そしてその情報をこの人たちは口にはしない、と。
「では時間の猶予はあると。そちらに作戦はあるのでしょうがこちらの決定を伝えます。セネナゼーデン王都上層のパチカスセントラル基地は私の率いるアタナシア・レミングスだけで落とします。そちらはその後どうとでもご自由に」
『無茶だ。先日は無血開城したが二度は通じんぞ』
「時間の無駄は省きましょう。決定と言いました。返答は乗るか反るかでお願いします」
『乗ります』
『女王! 足並みをそろ━━』
「では成功報酬はチェンジロッド女王、ワートアーク王国にて地上の緑化に取り組む省庁を起ち上げると今ここで言質を頂きたい」
『……ほう、いいでしょう』
「では打ち合わせを終わります」
『その前にひとつ聞きたいことが。モチニウムをご存知ですか?』
「えっと……、郷土料理かなにか? 存じません。一時間以内に決行予定です。ごきげんよう」
そういやそんなガセネタもあったなぁとか思いつつ、まだなにか言いたそうな王は無視して回線を切った。まだ振り回されてたのかよ。お作法として肩を回して伸びをひとつ。全校集会の校長のように無能は無駄話が多くて付き合いきれない。
そもそも先日セネナゼーデンに対し、一ヶ月の対外軍事行動を禁じたのは、セネナゼーデン王家に対し、外がダメなら内に軍事行動を起こすからその前にエスプリ文書のようななにかしらの手段で王権を回復しろ、というメッセージだった。それなのに分かりきってたクーデターを起こされ他国、それも先日までライバルだったリュックザイテ社の勢力圏に避難とか、テシガワラ重工の勢力圏は敵だからしょうがないとはいえ情けない。自力で足掻いたナハシュの辺境伯勢と比べてどうよ? さらに作戦について、傭兵団だけで王都奪還は無理だし、できたとしても傭兵にだけ手柄を取られたらメンツが潰れる? お前らにはとっくに潰れていて、守るメンツなんてねーよ。なんで王が他国に逃げてニュースにもならないのよ。自国民にすら意識されていないユーレイじゃん。報酬について。ぶっちゃけ金はもういらないから、長い目で見ると大金を有効活用させる方向でからかってみた。ファウトゥースの環境破壊が王侯貴族のせいと民に見下されて今日に至る。本当に貴族が悪かったのかどうかは関係なく、ナメられているなら環境を再生して汚名返上しろよ。コストが割に会わないとしても不可能な話ではないのに何やってんの? て皮肉を込めた要求をしたら女王は一応理解して了承。王は理解できず、か。プライドがあるならセネナゼーデンも起ち上げると即答しろよ。
他所よりマシなだけでコイツらも王侯貴族を名乗るには足らない。足並みそろえてとかまっぴら。政治は三流でも軍事は天才だった棹立ち白馬の言葉だっけ、無能な味方は有能な敵より脅威、ホントそう。補足すると負けて無能な味方のせいにする指揮官が一番の無能だけど。
「ノクちゃん、スピーカー」
[イエス、マスター]
『業務連絡ー、さっきのブリーフィング通り、作戦決行します。第一第二戦闘部隊、配置につけってもうついてる? エライっ』
打ち合わせ前の時間を使ってこちらは作戦を決めて伝えていた。この展開は最初から折り込み済みだし。
私もちゃちゃっと着替えて移動、戦闘部隊のみが搭乗するグリンカンビがアテナから発進。ファウトゥースはすぐ近くに見えてまぁまぁ時間のかかる降下作業に入った。宇宙と惑星上はこの距離感の違いが難しい。
スカアハに乗り込み起動シークエンスをこなし、配置について全体進行度と時計を見る。グリンカンビは始めは減速しながら、そして途中からは加速しながら機体に優しく降下していて、地上まであと二十分ほど。じゃあ始めますか。
[ファウトゥースのみなさんごきげんよう。今日も今日とてゲリラライブ、はっじまっるよー]
連日観光の様子を流していたからもう慣れたもんよ。かなりの人が仕事か学校か就寝のはずなのに視聴数の桁がバグってる点ももうスルーする。
[今日はオフではなくこれからお仕事行ってきます。ご覧の映像は私の乗るロボット、スカアハの視点で戦艦の格納庫です。ミリヲタしか喜ばんか。現在この戦艦グリンカンビは宇宙から大気圏突入中、フワ王国の領空侵犯しちゃってやすイッケネ。でもでもフワ王国さん? 正当な権利を主張するだろうし確かに正当だけど、対空兵器で撃ち落とそうなんて真似は止めてね。文句は言わないしこちらからフワ王国に攻撃する気はないけれど、攻撃されたらこっちも死にたくないから撃ち返すわよ。地上の基地を狙って地下都市というか地殻まで貫く主砲。その後大穴に爆弾落ちるまでは流れ弾でセーフなんでしょ? そちらが使った手口をそっくりそのまま真似るのだからまさかまさか、文句なんて言わないわよねぇ]
貴族に睨まれたか企業が鼻薬を嗅がせたか自主規制かは知らないけど、マスコミが黙るなら私が暴露してやる。配信サービスも規制がかかっているようだけどプー兄さんとノクちゃんコンビには通じない。知る権利がどうとか知らんが知っとけ、今世界でなにが起きているのか。
[いやー、ビックリよねー。テラミタス王国、エニグ・マター王国、フワ王国がセネナゼーデン王国に侵攻して、対空の備えが貧しいこの星の特徴に甘えて要衝の基地を狙って他星系だったら正気を疑うミサイル攻撃、基地の下に広がる都市まで破壊した。やられたセネナゼーデン王国も巨大メロンみたいなヘリをそれぞれの王都上層の防衛基地に飛ばし、どんな理屈かは不明だけど大爆発、同じく地下に広がる王都を破壊した。あれっ、セネナゼーデン王国はしばらく国外で軍事行動したらダメなのになんで、て思うよね? 私も不思議に思って調べたら、革命が起きてセネナゼーデン王国はなくなったんだとさ。だから約束を破ってもノーカンってか。へぇー、いい性格してるぅ。この星では会社が莫大な借金を抱えても社長が辞めて社名を変えたらチャラになるのね大国じゃなく天国じゃんウヤラマーそのまま天に昇ってもろて]
HUDにプー兄さんのメッセージ。配信に先日のフェイク映像、自爆メロンを差し込んだ、と。息ピッタリ。鼻で笑って煽ってやる。
[数万か、数十万か、あるいはもっとか。民間人は四ヶ国合わせてどれくらい死んだんだろうね。一応ファウトゥースにはまだ正気を保っている人間が少しはいると信じて、貴方たちには現状がどれだけ狂っているのか理解できるよね。最悪、もう近日中にファウトゥースが消える展開も視えてきた。こんな悪夢のような現実がありえる理由が分かるかしら]
チェンジロッド女王にカスケイニア王、お前ら、私に、最終的には国民に打ち明けなきゃいけない秘密を隠しただろ。つまり、身内にもいるとか、探られると痛い腹があるんでしょう? 宗教団体の歴史が分かりやすいけど、長く続く組織は腐敗と綱紀粛正か分裂を繰り返す。粛清のターンに情けは無用。トップが無能は悪。腐った無能は粛清されろ。
[知ってる人は多いと思うけど、知らない人のために昔話。秦の始皇帝が徐福を蓬莱探索の冒険者に任命した話が有名なように、不老不死は人間の、特に失うものが多い権力者の夢だった。そして不死はともかくとして、不老長寿は地球にいたころに実現した。テロメアとかいったか、細胞分裂の回数を決める染色体の末端に、回数無限のチートツールを持つガン細胞の特性を付与することで、人類は老いを克服した]
もうこの時点で察したファウトゥース星人は多いだろうなぁ。コメントなんてひとつも見えなくしてあるけど、オチを理解してパニックか激怒している人だらけだと思う。
[夢の実現に浮かれる人多数。でも……、そんな人たちが年をとり、数十年後に悪夢だったと知った。これは結局未だに原因不明だし、そもそも科学的にはなにも異常なしの異常な話。新陳代謝しない脳だけは、耐用年数を超えられないのだろうとか、立証不可能なボケという意味で二律背反認知症と説明される、一般的には神罰と呼ばれる現象。実年齢が百数十を超えたあたりから、その人の中身が変わる。本人に自覚はない。記憶が間違っているということもない。どこにも異常は見当たらない。でも……、その人の縁者友人は断言する。コイツは偽物だ、と]
だから不老長寿の肉体改造はほぼ聞かない。これを長生きって言える? 自分が他人に乗っ取られているかもって、死ぬよりひどくない? 自分じゃなくなっているかも知れないのに、社会的には自分のまま。その自分の身体を持った他人はなにをやらかすか分かったものじゃないのに、自分が築き上げた自分の歴史をぶち壊すかも知れないのに、誰かの、なにかのせいにできない。そのくせその他人は、自分はなにも変わっていないと嘘をつく。なんなら憶測でしかないけれど、どうもまともなころの自分がなりたくないと思う言動に変わるっぽい。まさに神罰。神の摂理に手を出した報い。
ついでに副次的な評判として、見た目が若いまま、という夢も悪夢だったと理解された。美魔女やイケオジやボディビルダーのおじいちゃんは、若さを保つ努力が見えるから敬意を払えるのであって、見た目が十代二十代の中身ジジイババアはシンプルにキモい。地球では現実にそういうイタい人だらけになった時期があって、その光景を見た若者たちの生理的嫌悪感たるや。母乳を吸う赤ちゃんが実は転生したオッサンと知ったママは正気でいられる?
[ほとんどのファウトゥース星人には理解できない選択だよね。定年退職が消えた不老長寿にクラスアップした社畜って終身刑より辛いじゃん。そう、地球と同じくそんな選択をするのは社畜を使う側。もういい年しているくせに長生きしたいと望んだ連中。ところで地球はそいつら富豪や権力者の中身が変わった数十年後、西暦二千百年代からディストピアに突入する。ファウトゥースってさー、百年前から環境が激変して、三十年前から企業が台頭して、ここ十年くらいから戦争の代わりにテロとか物騒なことが続いてるんじゃないの? そして今回の件。地球の轍を踏んでいるってそろそろ自覚できた?]
あとは勝手にしなさい。ここまで教えて地球と同じオチならそれもしゃーなし。
[じゃ、おしゃべりはここまで。作戦開始するからリアルな戦場を楽しんでね]
フワ王国領空からセネナゼーデン王国領空へグリンカンビは滑り落ち、国境を大きく越えて上空一万メートル、各自電磁カタパルトで吹っ飛ぶように発進。砂嵐でロクに前が見えない中、十分もブースターを噴かせて宙を飛びながら降下していると、眼下に復旧作業が始まったばかりらしい大穴が見えた。ちゃんと掟破りの攻撃の跡はみんなに見せておかないとね。
その穴も通り過ぎ、全機地上に降りた地点は王都まで六十キロメートルほど。そして高高度から司令部の役割を担うグリンカンビからの赤外線レーダーによると、前方数キロメートルに多数の熱源反応がこちらに接近中。ま、配信を観ていたのかグリンカンビに撃ってこなかったのは良かった。口ではああ言っても民間人を巻き込むのは勘弁してほしい。
[早速おでましか、出し惜しみなし、サクっと片付けるわよ]
『『『了解っ』』』
反応弾や対消滅弾といった民間人を巻き込む高威力は除いて、全機自重なし。みんなで初めての地上戦、張り切っちゃお。




