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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第三章 ドグ・カルマ星系
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40.前轍



 マモちゃんを飛ばして第二宇宙速度。遠距離からぼちぼち射程に入り、これからどこかへお出かけの途中らしき宙賊の乗る小型戦闘機九機の集団に向けて、結局スキャナー星系でもほとんど使う機会のなかった針千本ロケットを発射した。


 『え、なんで?』

 『はめられたぁ』

 『あぁー、さ、散か……』


 近距離レーダーに映ってから理解しても遅い。映っても理解してない人もいたっぽいけど。あと嵌めてはねぇよ。「宙賊のみなさん、リュックザイテ社の支配下にある宙域は安全ですよ」なんて一言も言ってねぇわ。サクッと花火。


 [片付いたわ。帰投します]


 『おう、こっちも回収作業だ』


 ホント宙賊相手じゃ戦闘にもならなくてただの作業ね。こんなチンピラに泣かされる人が減ると思えばやりがいはあるけど。


 グリンカンビに帰り、私抜きでアジトを制圧した仲間を(ねぎら)い、いつものように小惑星ごと反応弾で吹き飛ばしてカメラに一言。


 「惑星ファウトゥース標準時八月二十六日17:12、センシュビク=マチャ王国宙域に拠点を持つ宙賊を殲滅しました。これにて現在把握済みの宙賊は全て討伐完了。予想より募金が多かったからついでよついで。まだ活動する宙賊がいたら一報お願いします」


 今度こそ当分のんびりしましょ。食堂に集まり乾杯。フリーズドライをモイチンした野菜と生野菜の違いは分からないけど、サラダが瑞々(みずみず)しい気はする。最近アテナ内の農場から収穫が始まり、加工や保存、調理の担当者も決まって働いている。小さいけどまるで国、いや都市運営をしている気分。多分ノクちゃんあたりが。全員の適性をデータ化しているのなんてこのコくらいだろうし。私は全然分からないからノータッチ。


 「実際アテナは国扱いされましたね」


 人間側の文官トップはアビャーナ。ノクちゃんと相性が悪いというか、AIを信用していないフシがあるからストレスは溜まってそう。そんな彼女に水を向けると人材配置の苦労話をひとしきり語ったあと、感慨深くこぼした。


 「そういう意味も込めて反応弾使う動画を流したんだしね」

 「えっと、国扱いって?」

 「アドラー、また難しい話っスよ。ナハシュ教官おなしゃーす」

 「戦闘の話以外は私にふるな」


 あれ、そんなに難しいか? 私も戦闘特化だっつーの。


 「簡単だって。配信の時、具体的にどんなコメントだったかは見てないけど、暴言かなにかを書いて本名さらされた人たちがいたじゃん? あれ、国の違いは関係なくほぼ全員処刑された」

 「うえ、マジっスか」

 「マジ。私たちに向けて処刑しましたとは言わないけどニュースにはなった。それで十分こっちには伝わる。公式非公式はどうでも良くて、ドグ・カルマ星系は一国の宇宙軍を殲滅して反応弾を撃ちまくれるアテナを事実上の国家と認定した。そのトップの私は王であり、戦争状態にもない他国の王に暴言を吐いたらもれなく死罪は全星系の法だから」


 詳しくは外患誘致罪といって、大昔から情状酌量なしの死罪になる。外国と共謀は当然として、そんなつもりじゃなかったとしても一国民が外国(アテナ)との戦争の火種を作るとかふざけんな、という意味。今までに私が他国の貴族に暴言を吐いたこともあるけど、その国からすると不敬罪。その国が私を裁けなければ意味がない。


 「ちゃんと警告したのにねー。未だにネットと上手く付き合えない人がいるって呆れる。まだ処刑されてない人もいるけど、捕まってはいるらしい。当然リュックザイテ社に関わる国ね。今日で片付いた退治の動画をまとめて流すから、きっとそのあと小さくネットニュースにでも追加されると思う。副音声は、これで粗相は水に流してくれ、てとこ」


 シャンデストリ王国に関しては、民間人の暴言どころかそれこそあの報道官を通して国がアテナに喧嘩を売ったわけだけど、国にはメンツがあって、公に声に出して謝罪はできない。遠くから手刀を切って『ウチの企業(バカ)がご迷惑おかけしました』って口パクする感じ。シーバがテーブルに両肘をついてあごを乗せて訊ねた。分からないと言いつつ理解力は高い。ちょっと動作が大袈裟なのは可愛いフリフリワンピを着せられて照れているのはイジらないであげる。


 「水に流すんスか?」

 「ええ、ゆーて特に遺恨はないし。エスキモアにちょっかい出した件で企業には軒並み痛い思いをしてもらうつもりだけど、国といつまでも敵対するのは不毛でしょ。仲良く付き合う気もないけど、出すもん出して筋を通して敵意なしを示したなら手打ちでいい」


 スポーツ化した戦争と同じく、ドライに勝ち負けの線引きは意識したほうがいい。憎んで殺し合うようになったら地球人を笑えない。


 「あ、ニュースに出た。マジに反応早いのな。貴族が優秀って納得」


 アドラーが端末をつついて感嘆した。まぁうん、エスキモアの貴族はビミョーだったか。あっちと比べると優秀って言い方は遠回しにナハシュの煽りになるからほどほどにしとけ。


 「アテナと戦争手前って相当危険な橋は渡ったからね。私が開幕ブッパで惑星に反応弾を落とすならず者ではないと分析くらいはしてたと思うけど、神経使ってこっちの動向チェックしてたんじゃない」

 「姐さんと初めて会った日に開幕ブッパで艦隊と港を沈めた勇姿は一生忘れねえっス」

 「私が初めて会った日も開幕ブッパで航空戦力瞬殺だったな」

 「ボスは大体開幕ブッパじゃん」

 「……すんごい神経使ってこっちの動向チェックしてたんじゃない。知らんけどっ! リュックザイテ社の支配地域の国は王政優位に戻りそうな展開に見える。まだ確定ではないけど替えがないから時間の問題かな。確かに優秀な人材が多くて、私のようなきっかけを待ってたのかも」

 「企業を抑えるって自力では無理だったのでしょうか」

 「無理でしょ。志のない力はただの暴力、力のない理想はただの夢想。軍事力を味方につけなきゃ王とは認められない。そのためには貴族頼もしくてツエー、て民衆に思わせる演出が必要なんだけど、空が封じられた砂漠の戦場は個人が活躍することが難しかったんでしょうね」

 「エースの看板にはそういう意味もあるのか」


 幕末の動乱は、天皇トップの回帰を主張する武士と幕府側の武士との衝突だけど、この騒動に皇族がノータッチだったわけないじゃん? 暗躍こそが政治の本質になる。だから陰謀論が絶えないんだけど。

 クロワッサンをちぎってビーフシチューの残りをすくってパクリ。お行儀が悪くてもシメの美学は譲らない。余ったパンで余韻をリセットしながら端末をチェック。


 時事関係の動画のタイトルを流し読む。中身は見ない。戦争の影響だの誰それの思惑だの解説する輩は無数にいるけど、自称専門家やナントカ評論家に限らず全部感想なんだから、いちいち見て信じるほうがおかしい。結果論で語れる歴史ですら諸説なのに、未来を読み解けるほど世界は狭くない。だから戦争の勝敗すら賭け事になるんだし。三角関係のラブコメ数話読んでオチを言い当てから三勢力の行く末語ってみろっつーの。


 私の目的はさしずめ世論調査。タイトルの方向性から一般的な見方をうかがうことができる。どの企業が人気とか、関心事とか。


 『警告! 九月が終わりの始まり』

 『99%が気付いていない。例の動画のココがヤバい』

 『知らなかったは通じない、サイレント修正』

 『エスプリ文書の真の闇』

 『親衛隊を含めると大国の人口なんじゃが』

 『三巨頭の黄昏』

 … 

 …


 ふむふむ、私関連もまだ盛り上がっているのはスルーして、リュックザイテ社の解体を悲観する感じはなしか。世間的に悪、ナチスみたいなポジションにされたっぽい。ナチスとドイツ人がイコールにはならないように、シャンデストリ王国はリュックザイテ社のトップ層を処して末端を吸収、軍事方面の責任者を改めて貴族に配置している、のかな。貴族関係は個人名出しにくいからぼかしてある。複数のタイトルにつくサイレント修正って表現がオモロイ。ネトゲかよ。どの国も自給自足だから輸出入がどうとかって不安はなし、と。むしろ宙賊が消えて輸送のリスクが激減したから先物取引が熱いとか、景気の良さそうな話が多そう。この辺りは情報操作っぽい。てか━━。


 「ルーブいる? いないか。ノクちゃん分かる?」


 [イエス、マスター。ルーブ・グルーイッグは現在居住区美容室にて、慢性睡眠不足が解消して艶の出た髪と向き合い奇声を発しています]


 「美容室を出たら食堂に呼んでちょうだい」


 乗組員の動向をノクちゃんに聞くのは控えよう。

 

 「三竦みの一角が消えて混沌としていますね」

 「全然分かんねっス」

 「グループって無理があるよな。国力の大小はあっても、どの国も世界を滅ぼしうるのに、傘下に入れって今までどうやって成立したのやら」

 「クッキー、ポテチ、プリンの市場からポテチは消えた。デザートじゃなく主食にしよーぜ論が勝った。そしてクッキーとプリンがラストバトルに備えている、とでも思えば」

 「お、おお、なにかつかめそうっス。いや、ジャガイモを主食と考えるなら、小麦粉のクッキーと卵のプリンは……?」

 「そうだよ、全部主食でいいじゃん、と世間が気付きそうなのが今ってことだ。デザートは美味しいですよー、と世間を騙した企業の立場が連鎖的に崩れそうってわけ」

 「崩れてもいいだろ。美味いことに変わりはないんだから」

 「あああ、それが真理。主食もデザートもしゃらくせぇ。美味いこそ正義」

 「シーバがなにか悟った」

 「大丈夫、国も企業もどっかいった」


 多分中身のない話を聞きながらネットサーフィン。女子トークはラリー中にラケットがしゃもじやサーベルに変わるのしゃーなしよねー。


 『ウマレディ今バグひどいニダ』

 『ウマヅラケンタウロスのこと? あれマジニダ』

 『十連ガチャがオスケンタウロスってトラウマセヨー』


 噂、企業で検索かけたらトップのスレがこれって庶民はたくましいというか、リュックザイテ社が哀れというか。それと古今東西関係なくネットミームうぜぇ。もう少し身のありそうなのはえーと。


 『おかたく見えたLがエスプリならイーアルサンスー終わってね?』

 『改造マシマシSFなサイボーグとか鉄板』

 『自爆が怖くて軍人辞めてんだろ? 次に潰れるのここじゃん』

 『他所と戦争しようとしたらできなかったって笑えねー』


 もともと評判の悪いウーミンインダストリは放っといても自滅しそう。


 『女帝の瞬殺劇もう百回は観たね』

 『他星系こわすぎなんですけどー』

 『バダウィ星系から傭兵来たとか』

 『誰が呼んだんだよ』

 『オワタ、この星オワタ』


 これは……、テシガワラ重工か。あー、なんとなく全体像が見えてきたかも。

 給仕してくれたコに礼を言って食後の紅茶を一口。周りはいくつかのグループに分かれたりまとまってガヤガヤと、この合宿のような雰囲気落ち着くぅ。今日は猫背ではないルーブが近付いてきた。途中間違い探し系女子に髪を褒められほおが緩んでいる。


 「団長、お呼びですか?」

 「ルーブ、休んでるとこゴメンね。聞きたいことがあって」

 「はい、なんでもどうぞ」

 「ドグ・カルマ星系ってさ、他星系が危ないと思ってる?」

 「そう……、ですね。戦争が多くて野蛮なイメージは強いかと」


 ルーブがエスキモアにきてブラックを自覚したって話を聞いた時に疑問をもった。ブラックを知らないとはホワイトを知らないってこと。ファウトゥースがしんどい星だとして、普通しんどくない星の情報を知って羨ましいとか思わない? 私からすると、しんどいなら他所に行けばいいじゃん、て思う。お金や縁故の問題で簡単に他所には行けないとしても、自分のとこがブラックと自覚できないほどホワイトな他所の情報が入ってこないって、ファウトゥース星人全員、企業の情報操作に騙されているよね。自分の惑星は普通であり、他所はもっとキツイって。そのくせ企業は他星系に進出とか、他所のエースの私をナメてた? 支配者側は騙している自覚あり、と。そんで蓋を開けたら過剰反応。私の戦闘力ヤベーって上は話が違うとパニクり、下は都市伝説を目撃したような恐怖に震えている、と。


 「えーとなんだっけ、バダウィ星系はどんなとこ?」

 「お隣の、一番危険な星系です。スキャナー星系も戦争だらけで有名ですが、バダウィ星系は修羅の星と呼ばれています。銃すら禁止して、カタナと弓矢で殺し合う『合戦』とかイカれた文化のせいで動画も閲覧注意と恐れられています」


 そういうやり口ね。グロテスクな動画なんてどの星系でもいくらでもあるはず。そういう事実を多めに見せて、これがあちらの日常と誤解するような割合でコンテンツを調整してるって感じかな。しかも惑星全体で、企業が手を組んで。悪質というか品がない。


 「団長の考えは分かります。私も外を知って中を察したので。ただ、バダウィ星系は実際凄まじいらしいですよ。大体人口の八割くらいはまともというか、農家だのビジネスマンだの普通の人ではあるけど、二割が軍属で死者数がエグいとか」

 「へぇ、国家が緊急事態に徴兵する五%でも凶悪なのに二十%は異常ね。それと、ドグ・カルマ星系は死を避けてる感じかな? 王侯貴族は人口が増えると御せなくなるから間引きしようと考えるけど、企業はマンパワーを重視して増やしたいから。ここ数年戦争しなくなっていたのもそういう意図があったんでしょうし」


 民衆の視点では平和が一番ありがたいでしょうね。人が増えすぎると困るとか広い視野は持たない。だから目先の欲に振り回される庶民の要望を優先する民主主義が自滅型なんだけど。にしても数字をおさえるルーブは有能。二十%って数字は異常さがハッキリ理解できた。言っちゃ悪いけど軍人って国防の有用性を除くと生産力のない、経済から見ると完全な穀潰しだからね。税金から給料を出す足手まといが二割もいる国って普通は運営不可能。だから合戦とかいう安上がりの肉弾戦をして減らすのか、確かにヤバ。


 「そのバダウィ星系からテシガワラ重工が傭兵団を編成して招いたようですね。団長の質問の意図もこれだと思いますが、近日中に戦争を始めるようです」

 「ほう、ラティシス殿、やるのか?」

 「ナハシュ、気が早いって。面白そうだとは思うけどそれだけで首を突っ込むのは酔狂でしょ。個人的には企業が支配する星の末路を見届けたいけど、もう王政復古は確定っぽいし」

 「確定なんスか?」

 「だってウーミンインダストリとテシガワラ重工の支配地域に暮らす人たちが、王侯貴族の治めるホワイトな社会の動画とか観たら自国にブーイングするんじゃない」


 星系丸ごとグルだったから成立した詐欺なだけで、一角が崩れた今、民衆が騙されていたと自覚した時が終わりってもうすぐじゃん。テシガワラ重工なんてそれを恐れて外部の軍事力を用意してるんだろうし、ウーミンインダストリはどんなテをうっているのやら。


 「さっきナハシュが言った通り、グループって無理があったのよ。各国が自治するって自然な形に戻るだけのこと。私たちは観光のタイミングを待って高みの見物してましょ」


 ドグ・カルマ星系はここ百年くらいで様変わりしたらしい。つまりアレよ。産業革命からの資本主義だの民主化だのが優れたシステムと思い込んでいた地球の歴史をまんまなぞっているだけ。たくさん寝ることが贅沢とされる社会のどのへんが優れているつもりなのか。歴史から学ばない人は繰り返す。だからまぁ、今後の展開も多分予想が当たる。やらかすのは……、ウーミンインダストリだろうなぁ。ラブコメよりオチが読める現実ってなんか脱力。


 

 


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