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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第三章 ドグ・カルマ星系
39/53

37.宣戦



 アテナの整備工房は兵器の種類に合わせて複数設置されている。戦闘機専門、ロボット専門、ロボットの兵装専門といった具合に。純粋に整備だけしているわけではなく、兄二人を頂点とする技術屋たちの遊び場と化している。素材の調達も加工も自前だから金がかかっていないって素晴らしい。兵器が異常に高価なのって、アレほとんど特許料だもんね。だから企業を介しちゃうと軍事費がイカれちゃうのにファウトゥースの連中はヤレヤレだこと。それはさておき兄たちからすると、国の下で働いていたころは予算の壁で絶対にできないことがやりたい放題なわけで、そりゃ羽目を外す。


 「骨格だけでもヤバいって分かる」

 「だろ?」

 「贅沢なんだろなぁ」


 工房の奥に吊り下げられて二本の足で立つ、仮組みされたロボットを見た私の反応に、ボア兄さんはドヤ顔で喜んだ。装甲はつけてなくて、人体骨格模型みたいに内側が見えている。明らかに既存のロボットと違う。具体的な構造なんて分からないけど、金額にしたら多分コレ、並みの戦艦くらいしそう。


 「ロボットってもっとシンプルだよね」

 「基本はな。ジェネレータがなくバッテリーで動くから軽い。制御系も複合ナノマシンだから見た目はコンパクト。推進系が複雑なくらいか。宇宙用の電磁スラスター、重力ブースター、地上用のエアブースター。あとはコクピット周りの慣性制御機構が精密機器だらけなくらいで、関節などの可動部はひたすら頑丈さを追求した無骨なデザインになるな」


 そうそれ。実戦で使われることはない理論上の数値だとしても、第三宇宙速度、秒速十七キロメートルくらいの機動に耐えられる素材と構造になっているはず。遠心力とか意味不明な負荷がかかるから、サスペンションに油圧だけでなく、スラスターと同じ電磁力の反発を使って摩擦なしにするなどの工夫がハイテクっぽいくらいで、見た目は人体の骨格と大差なかった。私の知るロボットはね。


 「アニメでしか見たことないような、巨大な機械仕掛けの義肢みたいな複雑な構造は何事?」

 「おお、それ的を射てる。やるなラッテ。ロボットの手足は複雑な動きは必要ない。肘から先に銃を直接くっつけてもアリなように、なんなら肩から銃を生やしてもアリなように、正確に狙いをつけて射撃できればなんでもいい。別にロボット同士でカンフーするわけじゃないんだから」

 「うへぇ、人間の動きを模倣できるの?」

 「ああ、お前専用機はカンフーできる変態機動が特徴だ。いやホントに徒手空拳で戦ったら壊れるからやめろよ。剣士タイプってやつだ。一応そんな機体はすでにあるけどここまで近接特化は珍しいだろうな」


 まぁパイロットの大半は貴族、貴族は見栄張ってナンボ。ロボットに巨大高周波ブレードを振らせる貴族も少しはいるか。射程三メートルのパイルバンカーを載せた戦車が役に立つか、考えるまでもないけど。じゃあ私は? 答えは。


 「機動力、すんごい?」

 「ああ、お前以外が乗ったら即死する。エクス王国男子たるもの一度はする、雨の中、雨粒を避けて移動する修行くらいの難易度だ」


 分かりずれぇ。でもそのおバカチャレンジは原始時代からありそう。


 「構造の多くは重力制御関係だ。通常重力ブースターは体の正面に対して五度から十度くらい斜め上に発生する。宇宙では前のめりのような態勢で前進できるように。地上でも使われはするが影響を体感するほどのチカラはかからない。電磁スラスターも影響が小さすぎて地上では使われない。機体が重くて意味がないからな。宇宙ではダンボール箱、地上では止まった車を子供が前後左右から押すようなもんか。ところがこの機体は、強力な重力ブースターを常に自然重力の反対にかけて相殺して、本来の三割程度の軽さって地上でも(わん)ちゃんの入ったダンボール箱にしてみた」


 射程三メートルのパイルバンカーを載せた犬小屋ダンボール箱が残像を出しまくる戦場、確かに普通は即死だし敵兵発狂するかも。


 「地上は空気抵抗があるから宇宙戦闘の速度は無理だけどな」

 「地上でマッハ十や二十出されたら私でも死ぬっつーの」


 つまづいただけで終わりやん。初見のBダッシュかよ。


 「それでも安全な範囲で音速の壁の手前まではいけそう。試験運用のデータだが」

 「地上で時速千キロメートル超えて安全って正気を疑うわね。最高じゃん」

 「剣速は音速を軽く超える」

 「すご、そりゃそうなるのか」

 「作っといてなんだが乗れるか?」

 「兵器はどれだけ頑丈に作ってもどれだけ金をかけてもワンパンなんだから、戦闘はスピードが正義なの。とりあえずシミュレータで速度域を確かめるとして、乗れなくても乗ってみせる」


 兵器といえば。


 「プー兄さんは関わってないの?」

 「あいつは兵装のほうだ。機体は出力アップとかいろいろイジりはしたが新発明とかはないしな。俺が構想だけ練っていた設計を実現できた」

 「パイルバンカーくらいはありえるのかぁ」

 「ああまぁ確実にあるだろうな」


 『(ピポピポピポ)ぼちぼちファウトゥースに近付いてきたが、いったん待機させた。世界中の政局が荒れている。艦内時刻16:00に緊急ブリーフィングを行う』


 「あと三十分、早いけど会議室行くか」

 「ええ、政局を荒らした犯人はプー兄さんって晩ごはんを賭けてもいいけど」

 「そこは同意するが……、なにか心当たりあるのか? いややっぱ聞きたくない」

 「ありもしない餅ニウム争奪戦が起きそうとか」

 「記憶力が高くて後悔するとは。先に行ってくれ。俺は医務室に寄る」 


 ピンポンダッシュSEボケはスルーして、売店に寄ってポップコーンを買って会議室に向かった。ちなみに三千人暮らすアテナ艦内で電子マネーの流通を始めてみた。毎月の給料とかダルいから有り金は景気良く分配して、あとは各自好きにしてみようと。元の金は外貨になるわけだけど、別星系の電子通貨はワープゲート隣りのISSでのみその星系の為替レートに従って両替できる。国際というか人類生存圏ルール。要はFX、為替で稼ぐ行為の封鎖。この辺りの経済の仕組みは私もイマイチ、分かるような分からないような。


 実はアテナは共産主義と言えなくもない状態だけど、これってトップがクズとかみんなが資本主義と張り合わなければ有効な形態だから面白半分に実験観察している。クズだったらもう手に負えない地獄を生む形態だから真似しちゃダメ。張り合うと? 共産主義は頑張っても頑張らなくても稼ぎが同じだから、誰も頑張らなくなって競争社会の資本主義に負けて食い物にされる。それで頑張らない奴は死ねって恐怖政治あたりがお約束。おや、社畜のいる資本主義と同じような。


 「あら、アビャーナシャンプー変えた?」

 「合格です」

 「なにが」

 「リンスとコンディショナーは同じなのか」

 「アドラーセクハラ」

 「撃つぞコラ」

 「ラーメンは縮れためんに奥義が隠されている気がするっス」

 「人の天パ見ながらなに言ってんの」


 『揃ったかどうかは知らんがブリーフィングを始める』


 一分前の内容も忘れる中身のないおしゃべりをしていたら会議室の明かりが落ちて、ホログラムの宙域図とBGM。

 

 『まずは前提の情勢を整理する。惑星ファウトゥースはシャンデストリ王国のリュックザイテ社、オーヨウ王国のウーミンインダストリ、セネナゼーデン王国のテシガワラ重工の三強が競い、他の中小国もとい中小企業はいずれかの傘下に入っているか独立、というか眼中にない扱いを受けている』


 「国力にそんなに明確な差がつくものか?」

 「差がつくほどグループにまとまっている、ということでしょうね」


 ナハシュの疑問はもっとも。答えるアビャーナも正解。地図の国境線を見ると三国は特別大国ではないし、人口のデータも突出していない。国ごとの技術に圧倒的な差なんてない現代は基本マンパワーが国力だから、三強にはならないように思えるけど、大看板を掲げたグループが三つあるってことね。各藩をまとめた幕府が三つみたいな。


 「グループを作る感覚がおかしくないか?」


 なおも首をかしげるアドラーに首肯する。


 「おかしくはないけど簡単に言うと企業は帝国ってこと。自分をトップとする組織の拡大が止まらない。本物の国家はとっくの昔に捨てて、確か西暦二千年までにはひとつも残らなかった帝国の在り方が企業なの。国としてはもうありえないから他所者の私たちには違和感になる」

 「成功しないんスか?」

 「ええ、古代はともかくある程度文明が進むと通用しない。組織は大きくなると必ず分裂するし、ひとつの国の維持だけでも大変なのに、手を広げたら無理ゲーなの。アレよ。フィクションのハーレムを夢見て現実に浮気したら慰謝料か刺されるバッドエンド確定が帝国ルートってこと」

 「姐さんだったら」

 「かかとで踏み潰す」

 「きゃー(ハート)」


 宇宙に進出してまだ帝国を名乗る国があったらただのギャグ。企業も、まぁギャグか。社名を複数くっつけないだけ地球よりマシ程度。


 『それでも三つ巴になることで拡大が止まって安定はしていたんだがな。延命のために他星系を踏み台にした競争を続けようとしたら誰かさんがぶち壊した』


 「踏み台を阻止したスキャナー星系からすれば私ギャラクシー平和賞をもらえる偉業じゃん」

 「敵を潰して平和、姐さんカッケー」

 「宙賊マフィアと軍の両面(リャンメン)待ちだから平和というか平和(ピンフ)?」

 「おー、アドラー美しいロン」

 「えっと麻雀? 分からない」


 『ウーミンインダストリは倫理観低いというか、黒い噂の多いタイプらしい。禁忌とされる脳を使用したCPU開発がバレた件について、こっちの人たちの反応は“やっぱりな”が普通らしい。が、イメージダウンがすぎて他の企業も撤退させられたから、他の二社を先頭に世界中から罵られて孤立、というのが一手目だ』


 一手目。やっぱ仕掛けてんの兄さんかよ。


 『ウーミンインダストリは黙って非難されるだけか? なわけない。他星系の選択肢が消えて、協定を結ぶ、手を組む意味も消えた。とはいえ同格相手に戦争したら共倒れ、いや、相手は二社だからやられる前にって先に潰されるのは自社になる。だからやることは、残った独立勢力の吸収。他の二社も同様に動く、と言いたいところだが』


 二手目、例のアレか。


 『テシガワラ重工の所有する宙域にて新元素発見、及び新素材の開発成功の噂が流れた。その名もモチニウム』


 「信じる人がいるってのが信じられない。あれちょっと待って、ルーブ貴女、私の卒論調べたりしてない?」


 情報が命の企業なら調べてそうだし、彼女ならなおさら調べてそうなのに変ね。


 「えーと仰る意味が分かりませんが、団長の卒論は、その……、目玉にウジの湧いたらくが……、絵画だったと」

 「うっそだろオイよりによって同期の地図もどきと差し替えたの兄さん?」


 『安心しろ。テシガワラ重工のデータベース限定だ。企業ならお前の身元調査くらいエドゥー星系までウラを取りに来るかと試してみたが、データベースにアクセスして満足して、社員の誰が調査したかも確認しないとは不合格。というわけでテシガワラ重工はこの噂とお前の関連性に気付いていない』


 「安心しろじゃなく謝罪しろや」

 「わ、わた、わた、まだ嵌められてた?」


 『お前の妄想作文もどっちもどっちじゃねーか。モチニウムの特性と発見される可能性のある宇宙線の溢れる宙域を考察した嘘論文は俺の名で書き直してリュックザイテ社のデータベースに入れといた』


 「あー、それでリュックザイテ社のほうは信じていると。やりたい放題ね」


 『天才の論文は誰にも理解できないってあるあるだ。しかも天才の先入観(バイアス)がかかっていると、自分は賢いと思ってるそのへんのインテリが知ったかぶりして解説するからそれ以下のバカは全員信じるのさ』


 まぁ天才もバカも同じパパなのだーだだーのだー。


 『テシガワラ重工スキャナー星系支部の独断でラティシスに暗殺者を差し向け失敗。あのアシェムートンでも駄目だったと各社に情報は流れた。関係ないが支部長は支部の撤退と同時に左遷済み。どの企業もエスキモアに支部を置いてあるから本社の情報操作に役立った』


 関係なくはないけど別にいいか。


 『それでそろそろ……、お……、きたな』


 会議室正面のスクリーンにニュース番組が映った。衛星軌道の各国SSにも通じるように電波を流しているからだけど、まだ離れているアテナにも届くのか。


 『……、繰り返します。シャンデストリ王国報道官より緊急声明の発表があります。用意が整ったようなので現場に繋ぎます』


 様式美に則った狭そうな室内、プレス席に座る記者団の後頭部の先の壇上にカツカツ歩く、プー兄さんと雰囲気は似た青年。いかにも仕事できそう。そしてモテそう。宣伝の重要さを理解する企業ならではの人事って感心する。でもコイツは国の役職につく貴族、つまりリュックザイテ社の操り人形。庶民に札束で殴られて従う貴族とか惨めなもんね。


 『始めます。現在、遠く離れた別星系から強大な武装勢力が侵入してきました。ラティシス・ウッドストックを首魁とするこの勢力は、要塞と呼ぶ規模の宇宙船を有し、先日隣りのスキャナー星系にて各国正規軍を壊滅させるなど暴虐の限りを尽くしました』


 報道官の隣りに映像が映る。おっ、アテナでも使われている謎技術か。いや画素数が凄いホログラムか。どっちにしろサラッとチカラをアピる姿勢も悪くない。

 映像はどうやら惑星エスキモア地上から見た赤い流星群と、燃える空気に包まれて墜落する塊に撃ち込まれる対空レールガンのぶっとい射線。


 『ことが起きてからでは遅い。スキャナー星系の惨状から、シャンデストリ王国はこの武装勢力を対話不可能な敵性存在と断定し、先制攻撃も辞さない対応をとります。国民の皆さん及び各国へ、理解と協力をお願いします』


 記者との質疑応答とか報道は続きそうだけど映像は切られた。


 「リュックザイテ社か。エスキモアでやった宙賊退治をされると困るからって先に仕掛けてくるとは、対応の早さは有能じゃない?」

 「なんスか、なんなんスか。オレらを宙賊扱いってざけやがって」

 「まあまあ、怒らないの。立場が違えば見方も変わる。地上の国から見た私たちというか私は次に何をするか読めない怖さがあるから攻撃したいのよきっと」


 例えばアラブの歴史は宗教が複雑だからすぐにUターンしたけど、シーア派とスンニ派がどうとかまったく意味が分からなかった。知らない勢力の善悪とか理解しろってほうが無茶でしょ。


 『もう少し裏はあるかもな。実は連中は会見と同時に先制攻撃する予定だったらしい。その前にアテナを止めてどうするか様子を見たが、このぶんだと強行だな。不意討ちは防いだが、近いうちに来るぞ』


 おお、すでに駆け引きしてるのか、やるぅ。


 『なんせアテナを、お前をナメている。ここはついで、リュックザイテ社の本命はテシガワラ重工になる』


 「うーん? あ、接点は嘘論文か」


 『そう、この俺の論文に合致する新発見。アテナとテシガワラ重工は組んでいる、とリュックザイテ社は思い込んでいるかも知れない。アシェムートンも生きてアテナにいるし』


 「なんか踊らされているわね。ルーブ、家族を人質にとられる心配とかありそ?」

 「いえ、最近はともかく戦争があったころのファウトゥースのファームに行く人は、大体家庭に問題ありなので」

 「エスキモアと同じか。いや私はコロニーだけど」

 「闇が深い」


 『向こうにとっては事実がどうであれ、噂があればそれでいい。リュックザイテ社はアテナを取り込んだ勢いでテシガワラ重工も世間的に悪のレッテルを貼る、という狙いに見える。まぁ相手の情報収集力が正確には不明だから、俺たちもあまり決めつけると足をすくわれそうだが』


 「姐さん、いいんスか、悪者にされて」

 「周りにどう思われようとあまり気にしないかな。ナメられて放置はしないけど。そもそも正義の味方よりは悪者のほうが合ってるし。相手の土俵に降りて口喧嘩するエネルギーが下らない。世間に対して私たちはどんな勢力か、口ではなく行動で示すだけ。とりあえずリュックザイテ社が戦争仕掛けてくるようだから━━」


 私はスクリーンまで歩き、笑顔で振り返った。トップはいつでも自信を見せなきゃ。


 「返り討ちにするわよ」


 『ブリーフィングは途中だ。敵戦力を聞け』


 「はいはい」

 



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