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九十三話 別れる道筋、始まる物語

「ありがとう、フー、リン。お陰様で、元に戻ったよ」


僕はフーとリンにそう言いながら頭を下げた。

もう、僕の身体は完璧に動くようになっていた。神経障害が残った感じも無く、完全に治っていた。


「良かったよ、ちゃんと治って」


「そうね。中国で死なれでもしたら評判が落ちるしね」


「あはは。本当にありがとうね、二人とも」


「「うん」」


フーとリンは同時にそう答えた。流石は双子、答えるタイミングが示し合わせたかのように揃っていた。


「・・・・歩、一平にはもう言ったけど、俺たちもお前に感謝してる。だから、これからも———」


「分かってる、もう僕たちは仲間・・・・だよね? だから、何かあったら呼んでよ。やるだけのことはやるからさ」


僕はフーの言葉を遮ってそう言った。何を言いたいのかはだいたい察すことが出来た。


「! ・・・・っあはは。そうだな、俺たちはもう仲間だよ。ありがとう、歩」


フーは一平と同じような応えをした僕の言葉に笑った。僕も、一平も二人のことは仲間だと思っていた。そして、その思いはちゃんと二人に伝わることが出来ていた。


「・・・・そういえば、歩。まだ言ってなかったわ。私を殺さないでくれてありがとうね。ほら、私あんまり人の話を聞かないから先走っちゃって」


まさか自覚があるとは。というか、リンの性格的に謝ってくるとは思わなかった。


「・・・・ううん、リンが謝る事じゃないよ。結果はどうであれ、傷つけたのは僕だし。むしろ、僕がごめん」


「ふふ・・・・、それなら良いわ。今度会う時はもっと強くなっているはずよ。だからその時はまた相手・・・・してね?」


リンは少し頬を赤く染めながらそう言った。それにしても、別れる時にまた戦って欲しいだなんて、戦闘狂にも程がある。

僕の周りの人はそんな人ばっかりだった。けれど、素直に嬉しかった。二人が僕とまた会う約束をしてれたことが嬉しかった。


「! うん、もちろん!」


「・・・・それじゃあな。もしかしたらまたすぐ会うかもしれんけど、今回はありがとうな」


「こちらこそ、ありがとう。おかげで死なずに済んだよ」


僕は、フーが差し出してきた右手を握って、そう言った。


「まぁ、巻き込んだのは俺たちでもあるんだけどな・・・・」


フーが苦笑いしながらそう言った。


「良いんだよ、細かいことは。・・・・じゃあね、二人とも。また会おう!」


「「うん。じゃあね!」


僕はそう言って二人に別れを告げるとポケットに入れておいた青色の結晶を取り出して砕き割った。

青色の結晶はすぐに光り輝き、僕の体を包んだ。そして、僕は一瞬で転移したのだった。



「もう大丈夫なんだよな?」


一瞬で転移した先で、一平が待っていた。転移した先は僕たちが中国に転移した時に着いた場所だった。

今回は事が事のため、僕があまり中国にいられると問題が起こるらしい。

だから、僕は普段は違法となる一気に日本へと転移したのだった。


「もちろんだよ。それよりも、頼んでいた件はどう?」


一平と共に、歩きながら話していた。僕は、前日に一平に連絡を取っていた。

安全の確認と帰る旨を伝え、そしてもう一つだけ頼み事をしていたのだった。


「良い話は残念ながら無いけどな」


「それでも良いよ、聞かせて」


「・・・・まず、戸籍だが無かった。盈戯 新轍、矢羽田 甚平、マリー・アルスフィア。三名とも全く痕跡が無かった」


一平は歩きながら、クリップで纏められた数枚の書類のようなものを僕に渡した。


「・・・・、それって結構やばいね」


その書類に目を通すと、一平の言う通り一つとして情報は書かれていなかった。日本人であれば国の最高機密としてデータベースに管理されている。

名前を元に、そのデータベースから調べてみても、何も情報は書かれていなかった。


「やばいなんてレベルじゃ無い。僕たちですら戸籍が分からないとなると完全に抹消されてる。つまり、アイツらは何者でも無くて何者にでもなれるって事だ」


一平は少し目に陰を落としながらそう言った。


「それって足跡が何も掴めないって事なんじゃ?」


「そう。一応、フーたちやアメリカにも聞いては見たがやはり同じだったらしい。何も情報が無いと」


日本人では無いという可能性もほぼ除外された。全世界から情報を得たわけでは無いから、まだ確証では無いが、三ヶ国全てに痕跡が一つとして無いとなると、奴らの情報は無いと考えるのが妥当であった。


「・・・・それは・・・・」


奴らの気味悪さをはっきりと自覚した。

何者でも無くて何者にでもなれるなんて、下手したら無銘教よりもタチが悪い。


「でも、どうして急にそんな事聞いてきたんだ?」


「・・・・いや、僕はマリーと会ったからさ。しかも、手も足も出ないくらいボコボコにされたんだし、知りたいと思ってさ」


「ああ、なるほど」


僕はマリーに勧誘された話はしていなかった。別に変な意味で隠そうと思ったんじゃ無くて、ただこれを言ってしまうのは危険だと感じたからだった。

それに、一平を変なことに巻き込んでしまっても申し訳ないとも思っていたからだった。


「そっか・・・・、情報は無いのか・・・・」


「ああ。・・・・、ところで帰る準備は大丈夫か?」


少し落胆する僕を見ながら、一平がそう尋ねてきた。


「ん? ああ、大丈夫だよ。もう行く?」


「・・・・そうだな、早い方が良いからな」


「オッケー。じゃあ行こっか」


既に準備を終えていた一平は一瞬で転移を行った。やっと、僕たちは東京へと戻るのだった。


東京都内 廃病院


「んー、やっと帰ってきたね」


「そうだな。日にち自体は短かったけど、すげぇ長く感じたな」


「まぁ、沖縄の事件からぶっ続けだったからね」


日にちで考えればこの事件は一週間ちょいくらいの長さだった。けれど、その一週間に詰め込まれた内容は過密すぎるものだった。


「・・・・なぁ、歩。僕たちはすぐに違う事件に追われて知らなかった事だが、レナたちを含め、どうなったか知りたくないか?」


レナたちが聞いていたら、余計な事を言うなとかって言われるだろう。

けれど、一平は少しだけ迷った後、今回の事件で負った事を話す事を決めた。


「!! 聞いてなかった・・・・。どうなったの・・・・?」


「・・・・。死者三十一名、重症者七名。あれに参加した冒険者のうち、八割近くが再起不能レベルになった」


「!!」


「餅次 遼山や、閃光のメンバーも半分が死んだ。

その代わり、僕たちが得たのは闇組合の殲滅と無銘教の撃退、そして市山財閥の解体と星桜・宮家財閥令嬢の救出。結果から言えば、この犠牲でここまでの成果を得られたのは大きい」


「・・・・」


「歩、これはそんなに珍しいことじゃない。冒険者が命を落とすのは、冒険者である限り常にすぐそばにあることだ」


「それでも、・・・・いや。なんでもない」


「・・・・お前にありのままを教えた僕が言うのもなんだが、責任は絶対に感じるな。その責任は死んでいった者たちへの侮辱になる」


「分かってるよ。あの人たちは全力を、自らの命を賭けて戦ったんだろ。あの人たちがいたおかげで僕たちも成功した。僕は誇りに思うよ」


「そうだな」


「・・・・悲しいことには変わりは無いけど」


「そうだな。優秀な冒険者が大勢消えてった。辛いことではあるな・・・・」


「うん。けれど、これが僕たちの選んだ道だから・・・・」


「・・・・そうだな。すまなかったな、空気が悪くなる話をして。・・・・先にノアたちも帰ってるらしいし、歩は行ってこいよ」


「え、良いの?」


「ああ、面倒臭いのは僕の仕事だからな。あーでも、ちょっと話は聞かせてもらうかもしれないけど」


「それくらい、大丈夫だよ。ありがとうね、一平」


「ああ。じゃあ、またな」


「うん、また。今回はありがとう、色々と助かったよ」


「それはお互い様だ。むしろ、僕が助けられてばっかりだったけど」


「そんな事ないでしょ。・・・・とりあえず、ありがとう。じゃ、行ってくる!」


「ああ」


「・・・・そろそろ出てきたらどうですか? どうせ全部聞いてたんでしょ?」


一平は僕が見えなくなったのを確認してから、振り返る事なく、そう言った。


「・・・・、流石に今回は疲れたか? 一平」


一平の背後に僅かにあった影から背の高い男が現れた。

背の男は一平の直属の上司である鞍馬紳助であった。


「そりゃ、疲れましたよ。二回ほど死を覚悟しかけましたし」


今回の事件を振り返りながら、ため息を吐いた。


「ははは、それはご苦労だった。・・・・で、お前に命じていた事に関しては?」


今回の事件を容認するにあたって、紳助は一つ命令を課していた。

早い話、日本の上層部はある人物に懐疑心を得ていた。


「・・・・特に問題は無いと思いますよ」


一平に例えその命令の意味が分からなくとも、組織の命令である以上、逆らう事は許されない。

だからこそ、一平は少し考えてからそう言った。


「精神面も含めてか?」


「・・・・、今のところは」


一平は自信を持って大丈夫だとは答えなかった。認めたいわけでは無い。けれど、認めざるを得ない。監視目標の持つ力は尋常では無いことを薄々気付いていた。

今は問題は無いとは思う。しかし、今後絶対の確証は無い。だからこそ断言する事なくそう言った。


「そうか、それなら良い。・・・・充分気を付けろよ」


「分かってますよ。歩が悪となる時は、容赦はしないです。だから、ちゃんと見極めますよ」


今回の事件を経て、友達となった歩を殺す覚悟を既に持っていた。

暁月のメンバーである一平は私情は持ち込んではならない。

例え、友を殺せという命令であろうとも、日本を脅かす可能性があるならば排除しなければならなかった。


「ああ。それで良い」


「・・・・・・・・刻藤 歩。アイツはなんなんでしょうか?」


一平はつぶやくようにそう言った。一平に感情が無い訳ではない。

だからこそ、覚悟はあっても友達を殺すかもしれないことには理由が欲しかった。


「さぁな。けれど用心に越したことは無い。俺たちの仕事は日本という国を守ることだからな」


「・・・・そうですね」


一平は少しの間、目を瞑ってそう小さく答えた。

良いやつじゃ無かったら良かったのに。一平は心のどこかでそう考えてしまうのだった。



「歩君!!」


「うわっ!」


僕はいきなりレナに飛びつかれた。


「いったた・・・・」


レナに勢いよく飛びつかれると、僕は姿勢を崩して、レナを支えながら後ろに倒れ込んだ。


「心配したんだよ?! 連絡一つすらしないで行動してさ!!」


レナは感情を露わにしながら説教するように僕に向かって叫んだ。


「あ・・・・、それは・・・・ごめん」


確かに、レナたちには何の連絡もしなかった。方法はあったけれど、僕はしなかった。

二人からしてみれば、何が起こったのかもよく分からないまま、ただ僕が瀕死になった事を聞かされたらたまったもんではないだろう。


「ちょっと身体見せろ、異常無いか調べるから」


ノアはそう言うと、僕に答えせる暇すら与えずに、僕の背中へ触れた。

ノアも少し苛ついているようだった。


「・・・・異常は無いな。けど、相当無茶したろ」


「・・・・ちょっとだけだよ」


「ちょっと? お前これ相当な重症だったろ。向こうに優秀な人間がいたようだから良かったものの、一歩間違えたら死んでるぞこれ」


普段はそこまで感情を剥き出しにしないノアもまた、強くそう言った。


「ごめん・・・・」


「はぁ。まぁ無事なら良い。けどな、ちゃんと次からは連絡くらいは入れろ。お前が仲間を裏切るようなことをするなよ」


「・・・・ごめん」


「歩君、もっと私たちを頼って?」


「・・・・うん、ごめん」


「・・・・、はぁ。色々他にも言いたい事はあるけど、何がどうなったんだ? 」


ノアはため息を吐いて、そう切り出した。


「・・・・うん。まずは中国の企業である范怎が崩壊した。加えて、市山 柊鵝が死体で発見された。・・・・あと、異能力持ちの人間がいた」


僕は特に隠す事なく、起こった事を伝えた。別段緘口令が敷かれている訳でもないから隠す必要は無かった。


「「!!」」


二人は僕の言った異能力持ちの人間の部分に強く反応した。


「名前はマリー・アルスフィア」


「ほ、本当・・・・? 歩君以外に異能力持ちが?!」


「うん。しかも、今の僕じゃ到底勝ち目なんて無いレベルの強さ。ボッコボコにされた」


マリーにボコボコにされた事を思い返しながらそう言った。とは言っても結果的にボコボコにされて何がどうなってあんな事になったのかはよく分かっていないけど。


「マジか・・・・、そんな奴が敵に?」


絶句するように、ノアがそう言った。


「いや、敵・・・・では無いんだけど・・・・。うーん、何と言うか、味方でも無いけど敵でも無い感じ」


「? よく分かんないけど、歩君を殺さなかったって事は、何かしら理由はあるっぽいね」


「・・・・、そうだね」


ごめん、二人とも。

僕はまた二人に黙ってしまう事を選択した。二人を信用してないわけじゃ無い。むしろ、二人を心の底から尊敬してるし、信頼もしてる。けど、だからこそ、異能力の事に二人を巻き込んではいけないと思った。

ハオさんが言っていたように、異能力は普通じゃ無い。人の人生如き簡単に歪め、壊してしまう事が出来る。

僕はそれが怖かった。それで失敗して、取り返しが付かなくなった時、僕は僕のままではいられない。そして、それは最悪となる予感があった。


「日本では何があったの?」


「・・・・まずはこの前も行ったけど宗一郎さんと、ハインツさんの二人が無銘教の暴徒二名を制圧した事。そして、市山財閥が完全に崩壊した事」


やはり、市山財閥は完全に無くなったらしい。これからは歴史に名を刻むだろう。もちろん、悪い意味でだけど。


「やっぱり崩壊したんだ・・・・」


「うん。けど、問題は崩壊による市山財閥にいた人たちだったんだよね」


「あー、なるほどね」


一平もうんざりしていたのはここだろう。市山財閥が崩壊したことによって起きる様々な事。その最たる例が市山財閥に関係する全ての人間への被害だった。

腐っても財閥。その影響は日本全国にまで及ぶ事になる。


「まぁ、残りの三つの財閥が協力して元市山財閥の人たちを鎮圧してくれたんだけど。あと二、三日でもすれば完全に終わると思う」


「へー、そっか。それなら心配は無いんだ」


間違いなく、裏では一平たちといった表には知られることのない組織が動いてくれているんだろう。だからこそ、迅速に対処出来ている。


「あ、そうそう。これは朗報なんだけど。三つの財閥が歩君を支援するってさ」


レナが軽くそう言ってきた。


「・・・・? え?」


「つまりね、本来一つと契約出来れば万々歳ってところを、三つの財閥と契約出来るって事だよ」


「は、は?!」


あまりの事に、僕は思わず、間抜けな声が漏れた。


「三つ?! ど、は、え?!」


「あはは、まぁ驚くよねー。正直言って、異例だとかそう言う次元じゃ無いよね、異常の域だよ」


普通、冒険者が何らかの企業と契約を行う事はかなり凄いことだった。特に、財閥と契約なんて、夢幻と言っても良いほどだった。

そんな中、今現在日本に残っている財閥全てが僕と契約を行う。しかも、今回に関しては契約ではなく支援であった。事実上、財閥側が見返りを求めず、一方的に僕に対してサポートをするということだった。


「凄い話ですよね。最近のニュースはこの事いつも報道してますし」


そう言いながら、ノアがテレビの電源を点けると丁度、僕の名前をアナウンサーが読んでいた。

ドッキリとかではなく、ちゃんと本当の事らしい。


「ま、マジか・・・・」


「まぁでも、悪い事じゃ無いし。それに、何かあった時の後ろ盾は強くて損は無いしね」


「それはそうだけど・・・・」


「・・・・んで、ここからはもっと重要な話。これはついさっき判明した事なんだけど」


さっきよりも真面目な顔つきで、ノアがそう切り出した。


「? うん」


「歩、全世界共同戦線のメンバーに選ばれたぞ」


とんでもない一言だった。さっき言っていた三つの財閥が支援をするということよりも、もっととんでもない事だった。

全世界共同戦線、通称は世界戦線。それは世界各国から選ばれた冒険者が共同して一つの黒級、測定不能ダンジョンを攻略するというものだった。

それに選ばれる事はオリンピックで代表になるなんて比じゃない。

文字通り日本の全てを背負っている。


「・・・・は?!!」


「まぁ正確には、トリックスターが選ばれた。あと、柳生宗一郎さん」


「! 流石は黒級・・・・」


師匠は、黒級であり毎回のように全世界共同戦線に選ばれていた。


「けど、別件で参加出来ないそうだから、実質的に選ばれたのは僕たちだけ」


「っ・・・・、色々と聞きたい事はあるけど、場所は?」


驚いたし、正直荷が重いとは思う。けれど、選ばれた以上はやるしかない。だから、僕は何よりも先に攻略対象となるダンジョンについて聞いた。


「! ・・・・、残念だけどそれはまだ発表されてない。何せ、メンバーもついさっき発表されたからな。

多分だけど、財閥はこの情報を知ってたんだろ。だからこそ、三つ全てが歩を欲しがったのかもな。・・・・まぁ、将来性とか話題性、純粋な力も含めて、欲しがろうと思うのもおかしな話では無いし」


「ふふ、ノアが褒めてくれるなんて珍しいね」


「悪いかよ」


「いいや、ありがとう。ノア。・・・・それにしても全世界共同戦線かぁ・・・・」


「まさか選ばれるとはねぇー。オリンピックとかと同じくらいのことだもんね」


「そうですね。日本代表・・・・いや、場合によってはそれ以上の事ですし」


「荷が重いだとか、そう言う次元じゃ無いよね・・・・」


「まっ、選ばれたとは言っても、結局やる事はいつもと変わらないんだし。多少はプレッシャーとかあると思うけどやるしか無いねー」


「・・・・そうだね。まぁ、問題は無銘教・・・・かな」


「うん・・・・。アイツらがこの状況を見逃すとは思えないし・・・・」


「でも、私たちに手を出せるかな? 私たち以外にも各国の冒険者がいる中でさ」


「うーん・・・・。ただ、アイツらは異常なほどに力を持ってるからなぁ・・・・」


現に、無銘教の力は未知数だった。氷山の一角である陸ですら、かなりの力を持っている。陸以外にも多くの戦力を保有していると考えると、アイツらは全世界の冒険者に対しても戦うことが出来る可能性が十二分にあった。


「・・・・結局のところ、私たちは与えられた使命をやり遂げるしかないね。まぁ、障害はあるだろうけど」


「うん、・・・・そうだね」


「とりあえず、この話は終わらせましょう。歩の回復とか今回の諸々を含めて宴会でもしましょうよ」


ノアがそう言いながら、歩き出した。


「おー、良いね。じゃあ私が予約しとくねー」


ノアの提案に即座に乗ったレナは携帯を取り出すと電話を掛けた。

そうして、僕たちは宴会をしに行くのだった。



「・・・・時間通りだね」


レナたちとの宴会の後、僕は未だダンジョンの跡が残る新宿御苑にいた。

既に時間は十二時に近く、辺りは街灯はあるものの明かりは充分ではなく、暗かった。

ポケットに手を突っ込んだまま、暗い公園に一人で佇んでいた。

足音を消してはいるけれど、誰かが僕の方へと近づいてきていた。


「まぁね、そっちは早いね。・・・・で、どうするの? 刻藤 歩君」


指定された時間通りにマリーは現れると、単刀直入にすぐさま聞いてきた。


「・・・・僕は、お前らの仲間になる気は無いよ」


ここからは賭けだ。気迫が、言い方が少しでも間違えば僕の命は無くなるかもしれない。

けれど、賭ける価値はあった。普通ならこんな賭けはしないだろう。

けれど、今の僕はこの賭けをしなければならない理由があった。全てにとって、最低最悪の未来を少しでも回避するために。


「・・・・へー。君は弱いままを選ぶんだ?」


「いいや、違う」


つい昨日、僕は会った。いや、会ってしまった。だからこそ、今からの選択を僕は選ぶ。


「? 何が言いたいの?」


「僕は強くなる。・・・・だから、僕に異能力の使い方を教えろ」


マリーたちに協力するんじゃない。けれど、拒絶するでも無い。

アイツらの持つ力を僕は利用する。


「! ・・・・、、あっははは! 何を言い出すかと思えば、とんでも無いことを言うね!」


マリーは声をあげてそう笑い出した。


「僕は本気で言ってる。どうなんだ?」


「私がそれに良いって言うと思う?」


僕が冗談を言った訳ではないことを悟ると、笑いを止めて、マリーはそう言った。

途端に、マリーの圧が強くなった。以前、初めてレナと会った時に感じたような強者からの威圧だった。


「・・・・・・・・」


強く睨むマリーを僕は真正面から見据えた。一言も発すること無く、無言でマリーの両目を捉えた。


「・・・・、なーんて。良いよ、君のその案を受け入れてあげる」


マリーはそう言って、張り詰めた空気を消した。

そして、にっこりと笑うと僕の要求を快諾した。


「!」


「元を辿れば私たちの異能力は君にくだるものだしね。・・・・それに、君には強くなってもらわなきゃ困る」


マリーは独り言を言うように小さくそう呟いた。


「? 何を言って・・・・」


「・・・・いいや、何でもない。刻藤君、君を世界戦線までに今の何倍も強くしてあげる。その代わり、一切手は抜かない」


「覚悟の上だよ」


「・・・・あと、私たち側からも条件がある」


「・・・・僕に可能な事なら」


「何があろうと、私たちを信用して。それが条件。簡単な話でしょ?」


マリーは、真面目な顔でそう言った。条件としては、僕に不利益を被るようなものではなく、しかも特段難しい訳でも無かった。

何を考えてそう言ったのかは分からないけれど、今はその条件を受け入れるしか無かった。


「・・・・何かしらの思惑は有りそうだけど、分かった」


「よし! これで契約成立だね。じゃ、明日辺りにまた来るから、準備しといてね。詳細はまた何かしらで伝える」


そう言って、マリーは来た道を引き返すようにして歩いて行った。


「・・・・はぁ・・・・」


マリーが消えた後、僕はベンチの背もたれに背中全てを預けて座っていた。少しずつ冷たくなり始めた夜風が全身に当たった。


———歩、その選択で良いんだな?


レティアがそう問い掛けてきた。レティアの言いたい事は分かる。僕の選択は客観的に見て、間違っているとしか言いようのないものだった。

けれど、僕はそれしか選べなかった。


「・・・・もちろん。後悔はないです」


———誰にも言わずに、一人で背負う。それが君の選択か。


「・・・・結果的に皆んなを何回も裏切る事にはなるんでしょうね」


———馬鹿な生き方だな。


レティアはそう言いきった。遠回しに伝える事なく、ストレートにそう言った。


「ハハ・・・・、本当にそうですよね。・・・・でも、生き方くらいは馬鹿な方がちょうどいいでしょ? 自分にとっても、周りにとっても。そのためなら、僕は愚者(バカ)で良いですよ」


———ふっ、そうか。・・・・これは君の人生だからな。


「そうですね。どれだけ間違ったとしても、せめて後悔だけは、したく無いですから」


———後悔・・・・か。後悔をしない事。もしかしたら、それが正解という結果につながるのかもな。


レティアが、どこか悲しむようにそう言った。


「正解・・・・なんてものがあるんですかね」


———さぁな。けれど、人によって正解の定義はそれぞれだ。私が思うに、君が目指すべきは正解じゃなくて()()だと思うよ。

正解という言葉と最善は似たように扱われることが多い。けれど、似ていても全くの別物だ。


「・・・・最善、ですか」


———それに、最善だったら、正解よりも形を伴っているだろう?

曖昧な正解よりもはっきりとした形の最善を追うべきだと私は思うよ。


「・・・・そうですね。・・・・僕にとっての、最善」


———後悔しないことと悩まないのは同義じゃ無いからな、存分に悩めば良い。


「・・・・僕は———」


———フッ。そうだな、それが良いよ。


僕の答えを聞くと、レティアは笑ってそう言った。



「ほら、私言ったでしょ? 賭けは私の勝ちだねー!」


テレビを観ていた甚平の肩を後ろから突きながらマリーがそう言った。


「チッ・・・・、まぁいいや。で、誰が教えんの?」


邪魔くさいと言うようにそう煽ってくるマリーの手を払いながら舌打ちした。

甚平は財布から千円札を取り出すと、マリーへと投げ渡した。


「私は無理だよー。扱い方が私は全く違うし。ってか、能力的な意味で教えられんのは一人しかいないでしょ」


飛んできた千円札を取ると、甚平に絡むのをやめて近くの椅子に座りながらそう言った。


「・・・・まぁ、そうだな。ただ、あの人の教え方は雑だからなー。ワンチャン死ぬっしょ」


淡い青色の髪をした男がソファから首だけをダラんと後ろに垂らしてそう言った。


「死んだら困るけど・・・・、まぁ僕らによって死ぬ分には良いか。どの道、その程度じゃ未来は無いんだし」


丸眼鏡を付け、白衣を着た少年が本を読みながらそう答えた。


「そうだな。最悪は・・・・」


上海の日本大使館にいた盈戯 新轍が少年の言葉に頷きながら、目を閉じた。


「そうだねー。最悪は、私たちが()()()()()()


「・・・・ああ、そうだな」


全員が同じことを思っていた。使えない者に出来すぎた力は要らない。もしも、歩がそうであれば待っているのは問答無用の死であった。


「・・・・折角のトップに位置する異能力を持ってんだ。死んでほしくは無いけどな」


それは、異能力の中でも最上位の物を持ってしまった者の宿命であった。


宴会から二日後の夜

狐丸財閥 欲の摩天楼


「さて、刻藤 歩はん。わっちに、貴方は何を見せてくれはるん? 楽しみや、ほんまに楽しみやわぁ・・・・」


摩天楼の屋上。和一色で染め上げられた場所から夜空に浮かぶ満月へと右腕を伸ばして、白銀の髪と透き通るほどに白い肌の妖艶な女性が呟いた。


「・・・・女狐、私の仲間たちに変なことしたら許さんからな」


入り口近くでレナが腕を組みながら、不満そうな顔を隠そうともせずにそう言った。


「おー、怖いわぁ。レナ。そんな睨まんくても、わっちはあの子に危害を加えることなんかせぇへんよ」


現、狐丸財閥トップである狐丸(こま) 真白(ましら)が微笑みながら持っていた木製の扇子で口元を隠して振り返った。


「・・・・、本当に食えない女だね」


レナは大きくため息を吐くと、呆れたような目でそう言った。


「褒め言葉として受け取っとくわぁ、大きになぁ」


「はぁ・・・・。で、用は? どうせ、何かあるんでしょ。それも面倒な事が」


「ふふ・・・・、話早くて助かるわぁ。レナにはお使い頼まれて貰お思てなぁ」


「また碌でも無い物でしょ」


「さぁねぇ。けど、大事なもんよぉ。わっちにも、そしてレナたちにもねぇ」


「?」


「場所はなぁ、ちょっと複雑な所やけど・・・・」


「良いよ、それが私たちの契約だから。で、どこに行けば良いの?」


レナの契約した内容は狐丸財閥がレナの全ての冒険者活動に対して支援を行い、代わりにレナは真白の要求に応えるというものだった。

レナは度々、無茶な要求をされており今回もその類だと思っていた。

けれど、その予想は悪い意味で外れた。


「・・・・()()()()()()()()()の研究所」


「! お前・・・・」


真白から言われた一言で、レナは強く睨んだ。それも当たり前のことだった。恨みとかも強いけれど、一番の理由は何故そのことを知っているかだった。

ラウスト=バラックについてはその情報の殆どが制限されている。だから、アイツの研究所の場所なんて知りようのない情報だった。


「おー、怖いわぁ。そんな睨まんといてぇな」


「お前、どこでその情報を?」


レナは真白を強く睨んだ。けれど、真白はそんな睨みに全くとして動揺する事は無かった。


「高ーいお金払って得た情報よぉ。でも、今はそれを聞くのは必要無いやろ? ただねぇ、そこには重要なものがあるはずや」


「・・・・、分かった。場所を後で私に渡して」


これ以上何を言っても意味が無いと思ったのかレナは追及することをやめた。

ほぼ、間違い無く正攻法で情報を得た訳では無いとは分かっていたけれど、真白がそれを言うとは思えなかった。


「おー、流石やなぁ。ほんなら、頼むでレナ」


目を細めてパチパチと手を叩きながら、真白は笑ってそう言った。


「・・・・。それで終わりなら私は帰る」


「そう? ほんじゃあ、また後日よろしくなぁ」


背を向けて、襖に手を掛けたレナを見ながらヒラヒラと手を振った。


「はぁ、疲れるわぁ。・・・・けど、これが最善なんやろ?」


レナが出て行った後、真白は月を見ながらそう呟くのだった。

その瞳は哀しそうに、よく光る月を捉えているのだった。


東京スカイツリーの最上部、普通は人が入ることが出来ない場所に何者かが座っていた。


「・・・・、世界の揺らぎ・・・・?」


少女が、何かに気づいたようにピクッと反応すると辺りを見渡した。


「! 本当か?! 誰がやった?」


少女の言葉に酷く動揺して、隣にいた青年が少女の肩を掴んだ。


「分かんない・・・・。けど、間違い無く動いた。それも最近までの小さなやつじゃない。とても()()()()()()


「・・・・一体、誰が? ・・・・どっちに動く?」


「まだ・・・・はっきりしてない。凄く、不安定。可能性は五分五分」


少女は、青年の問いに曖昧な返事をすると、両目を閉じた。

少女は苦しそうな表情を浮かべながら、世界の軸を観測し続けていた。


「・・・・。誰だか知らんが、何を・・・・?」


「あ、分岐・・・・した」


そして、()()した。完全に分かれた道を少女は観測することが出来たのだった。

分岐した以上、誰にも未来は変えられない。元とは違う不確かな未来に向けて時間は動き始める。

その行く先は神さえも知る事は出来ない。


「! っ・・・・、分岐した以上は信じるしかないか・・・・」


青年は唇を噛むと、絞り出した声でそう言った。


「うん。最悪の時は・・・・」


「ああ、分かってる。その時は俺の出番だ」


「うん・・・・。ごめん、もう寝る。ちょっと疲れた・・・・」


道の観測は想像以上に精神を擦り減らす。青年にそう伝えると少女は、糸が切れたように眠り出した。


「ああ。・・・・、おやすみ」


「ん」


「・・・・、あと何回か分からないが、頼むぞ・・・・。これで終わってくれ・・・・」


猫のように丸くなって眠る少女の髪を撫でながら、青年は祈るようにそう呟いた。


「それにしても・・・・、こんな事は無かったはずだぞ・・・・? 今回は何が起きた?」


空に広がる星を見ながら、青年は血塗りの一つとして明かりのない過去を、成れの果ての未来を思い返す。たった()()を救うためのその結末を。

この青年もまた、大いなる歯車の一部に組み込まれていくのだった。

次回は来週の土曜日までに行いたいとは思います。


だいぶ物語のキーポイントなる話が書けました。色々と新人物も出せて良かったです。

3.5章は共同戦線に入る直前までです。幕間とかも書きたいなー、とは思っているのであと3〜4話くらいで終わると思います。

今回あんまり書いて無いですけど、歩は日本国内であれば無茶苦茶に、知名度が急上昇してます。学校とか自宅とかにマスコミが大勢来てます。ただ、歩は取材とか苦手なので全力で回避してます。ただ、それだけです。


面白い、続きが読みたいと思った方は下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてポイント高評価、ブックマーク登録をお願い致します。

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