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九十一話 交わってはいけない分岐点


———歩、やり過ぎたと思うぞ。


『え? そうですか? これくらいは普通でしょ。フーやリンはもちろん、一平やレナだってこうしますよ』


僕は何とも思っていない様子でそう言いながら、血塗れになった地面を歩いていた。夥しいほど血が地面に溢れ、臓物が撒き散らされて僕の身体にもまた、返り血がべっとりと付いていた。黒い御面にすら、はっきりと血だと分かるほど真っ赤な血が付着していた。

ほんの数分間の出来事だった。僕と、この人たちはそれ程までに実力に差があった。

・・・・一つ訂正しておいた方が良い。何とも思っていない様子じゃない、何とも思うことなく僕はレティアにそう言った。


一平を先に行かせた直後、僕が劣勢と思える戦いが始まった。


「封印:自転選択・速血」


僕は心臓の位置に右手を置いて、そう呟いた。心臓を起点にして、血液の巡りが速くなっていく。それと並行して、身体が脈打っていた。

僕は、ほんの僅かな予備動作すら見せずに、一番前にいた男へ肉薄した。


「?!」


男は瞬間移動をするかのように、一瞬にして目の前に現れた僕に反応が出来ていなかった。


「一人目」


僕は反応することすら出来ずに、隙だらけだった男の身体を袈裟斬りにした。

何の抵抗も無く、鬼月は男の身体をすり抜けた。


「ァ・・・・?」


抵抗すら許さずに、男を両断すると臓物が床一面に撒き散らされた。

鬼月に付着した血を振り払うと、返り血を浴びたまま残っている奴らを睨みつけた。奴らは、助けられないことを悟ると直ぐに僕から距離を取っていた。

残っているのはあと四人。早く片付けて先へと急ぎたかった。


「・・・・! お前・・・・」


「何? どうしたの? ほら、かかってこいよ。もう逃げるって選択肢は無いんだからさ。足掻いて死ねよ」


「随分と調子に乗るな。人数差が分からないのか?」


「アハハ! 調子に乗ってるつもりはないけど、人数差とか言い出す辺り、負ける気はしないよ。有象無象が集まったところで、格上に勝てるわけないだろ」


「それを調子に乗ってると言うんだろうが! 死んで後悔しろ!」


僕と話していた男がそう言った瞬間、僕の眼前を埋め尽くすようにして大量の暗器が飛んで来た。


「封印」


特に驚くことも無く、僕はその全ての暗器を対処した。しかし、相手の狙いはその暗器で僕を殺す事ではなかった。

相手の狙いは前方に意識を向け、警戒が薄くなった背後への攻撃だった。


「死ね、刻藤 歩!!」


「そんなのが、お前らの勝ち筋? 甘すぎだろ」


右脚を軸にしてすぐさま反転すると、背後に現れた小刀のようなものを両手に持った男の心臓を貫いた。


「ゴボッ・・・・! な、なぜ・・・・」


血を口から大量に吐き出すと、右手の小刀が地面に落ちた。


「二人目」


元から陰に潜んでいたやつがいるのは分かっていたけど、これくらいで殺せると思っていたのには笑いすら出てこなかった。

速血は身体能力と共に、動体視力すら普段よりも速く、強く、向上する。今の僕にとって真後ろから襲ってくる奴を躱すのは特段難しいことでは無かった。


「ァ・・・・、し、死ね・・・・!」


心臓を貫くことしかしていなかったせいか、男はすぐ絶命しなかった。そのせいで最後の足掻きというかのように左手に持っていた小刀で僕の腕を斬った。

男は僕の腕を斬って直ぐに、左手の小刀も床に落とすと、力無く僕にもたれかかった。


「こんなので・・・・!」


男を振り払って、鬼月から身体を引き抜くと、正面を向き直した。

けれど、直ぐに視界が揺れるように眩暈がし始めた。


「毒・・・・」


「よくやってくれた、チュン! 即効性の毒の味はどうだ、刻藤 歩」


少し興奮するようにそう叫んだ。


「あぁ、そう」


速血には明確な弱点がある。レナの能力とは違って、速血は体内の血流に封印を数回行って強制的に流れを速くしている。だから、毒などが身体に入ったとき、その毒も急速に全身に回ってしまうのだった。

知ってか知らずか、奴らは僕にとって最悪となる手を打って来た。


「さぁ、どうするんだ!!」


「・・・・封印・停止」


僕は速血を解除すると、身体の中の異物である毒のみに封印を施した。毒が消えたわけではないため、治療しなければいけないけれど、後でノアか誰かに治療して貰えば良い。今は、毒の効果が無くなれば良かった。


「・・・・ふぅ。毒は確かにヤバいよ。けど、僕とは相性が悪かった」


「! マジで・・・・言ってんのか」


「で、あと三人」


三人の能力が分からない以上、出来るだけ速く殺す必要があった。能力によっては、僕が手出しできない可能性がある以上、安心することはできなかった。


「一式:封印 虚空・伏」


突如、僕のすぐ目の前から斬撃が飛び出した。僕は予備動作どころか、全く動いてすらいなかったのに、斬撃が生まれた。

僕は虚空を事前に、一人目を殺した時に同時に虚空をその場で留めておいていた。まるで罠のように仕掛けておくことで、任意で斬撃を飛ばせるようにしていたのだった。


「!!」


「死ね」


「ッ・・・・」


正直、僕はこの一撃で全員殺せると思っていた。しかし、さっきまで話していた男が隣にいた女性の膝を蹴って倒れさせると虚空を躱したのだった。

結果的に、殺せたのは一人だけだった。

袈裟斬りの状態で虚空を出したのが良くなかった。斜めにしてしまったことで右側に避ける空間を大きくしてしまった。それは反省点だった。


「刻藤 歩ッ!!」


「何を怒ってんの? 殺し合いってこういうことだよ? それともさ、今まで狩る側だったから狩られることなんて無いとタカを括ってた? そんなわけ無いだろ。覚悟しろ、ぶち殺す」


「アアアッッ!!」


さっきの咄嗟の判断だけは良いと思ったけど、この男はイカれてるわけじゃ無かった。自分よりも弱い敵を一方的に倒して舞い上がってるタイプの人間だった。だから、手加減はしない。

人生最後に、現実を見せるのが僕の役目だと思った。


「封印:部分融合」


右手だけに融合をすると、僕は構えた。


「鉛の牢獄!」


男がそう叫ぶと両腕から黒い球体が、散弾のようにして僕の全身に向かって撒き散らされた。

散弾を出し尽くしたのか、小太刀のようなものを片手に持つと、僕へと走り出して来た。


「奥義:封印 月影・裂断」


僕は右腕を縦に振り抜いた。迫り来る散弾ごと、全てを抉り去った。それは、空間すらも引き裂いた。一瞬消えた空間から強い風がこの場に吹き荒れた。

そして、僕に襲いかかって来た男は四肢のみを残してその身体が消え去った。床には四肢から流れ出た血と四肢、そして男の血が飛び散った小太刀が散らばった。

残っていたのは床にへたり込んで、恐怖に支配された顔で震えながら僕をみていた女だけだった。



「や、やめて・・・・」


腰が抜けたのか、ビクビクと身体を震わせるだけでもう戦う気力は残されていないようだった。


「やめて? ・・・・何を言ってるんだよ。お前らが始めたんじゃ無いのか? 今更、後悔するなよ。良心が痛むじゃんか」


女を見下ろしながら、鬼月を一度下に向けてそう言った。


「な、なら・・・・!」


「けど、それとこれとは話が別だよ。後悔先に立たずってね。・・・・それじゃ、死ね」


———歩!


頭の中で響いたレティアの声に僕は振り下ろした鬼月を当たる寸前で止めた。


『・・・・急に何ですか? 何で止めるんですか?』


———そいつを殺したところで、何も意味は無いだろう。それよりかは、捕らえておいた方が幾分マシだろう。


『・・・・まぁ、それもそうですね。なら、殺すのは辞めておきます』


———ああ、その方が良い。

(もう、取り返しはつかないのかもしれないな・・・・。歩、君は本当に・・・・)


「いやー、面白いもんを見たよ。まさか瞬殺するとはねー」


パチパチと手を叩きながら軽い様子で誰かがそう言った。

僕の前には銀髪の美少女が笑いながら歩いて来た。


———!


「? 誰だ・・・・?」


「・・・・名乗る前に、部外者には眠っててもらおうかな」


銀髪の美少女はそう言うと、笑顔のまま床にへたり込んでいた女へ近づいた。


「いやっ・・・・!!」


「大丈夫だよ、死ぬわけじゃ無い」


美少女はそう言いながら、しゃがんで顔を近づけると、女の耳元で何かを囁いた。


「———!」


その直後、女は一瞬にして白眼を剥きながら床に崩れ落ちた。気絶しているのか、女に意識は無かった。


「さてと、名前だったね。私はマリー・アルスフィア。君と同じ異能力を持つ人間だよ、刻藤 歩君」


立ち上がりながら、僕の方を見て少女はそう言った。


「!! 異能力?!」


一瞬で気絶させた事もそうだけど、それ以上に異能力という言葉に僕は驚きを隠すことができなかった。


「予想通り、面白い反応をするねー。そう、私たちは異能力を持ってるんだよ」


「・・・・、待って、意味が分からない・・・・」


本当に意味が分からなかった。頭を抱えて僕は考え込むようにそう言った。


「まぁ口で言うより、見せた方が早いね。構えてよ、ちょっとだけ戦お」


「は? ちょっとま———!」


顔ををすぐさま上げ、マリーの方を見た。構えきれていない僕とは違い、マリーは既に走り出していた。


「遅いよっ!」


突如、マリーの右手のすぐ上に黒い穴のようなものが開くと同時に、その中から黒い鎌が現れた。


「封印!」


僕は慌てながらも、マリーのすぐ目の前に空気の壁を作り出した。


「こんなので止められないよー!」


黒い鎌を一度後ろへ振りかぶると、思い切り空気の壁へ刃を当てた。刃が当たった瞬間、まるで豆腐のように壁が崩れた。


「・・・・マジか」


けれど、僕は少し体勢を整えたかっただけだった。だから、ほんの少しだけ、僕への攻撃が遅くなるのならそれで良かった。

僕はすぐさま、踏み込むと鎌を振り下ろされないように距離を詰めた。


「その判断は良いね! けど、鎌だけが私の武器じゃ無いんだよねー」


マリーはそう言うと、黒い巨大な鎌を消し去ってその代わりに両腕に籠手が嵌められていた。


「は———!」


鎌が一瞬にして消えた事によって、鎌に力をかけていた僕は前のめりになってしまった。


「せいっ!」


そして、その隙に僕の腹部へとマリーが強烈な打撃を喰らわせた。

僕は何とかその間に壁を捩じ込むと、ほんの少しだけ威力を削いだ。しかし、ほとんど意味は無く空気の壁は完全に叩き割られ、僕は吹き飛んだ。


「ゴホッ・・・・!」


壁を一枚突き破って、広い部屋に僕は転がった。


「そんなもん? もっと力を見せてよ、特にその能力をさ!」


「・・・・何が目的ですか?」


「え? ただ単に力を見たかっただけだよ。だからー、今のところはちょっーと期待外れかな」


「・・・・」


速血が毒によって使えない以上、今、目の前のマリーを倒すためには僕は融合を使うしか無い。けれど、部分的なもので勝てるとは思えなかった。勝機があるとすれば、全身の融合による速攻だけだった。

ただ、何個武器があるか分からず、加えて何の能力かも分からない。

歩が後手に回っているのは確かだった。


「・・・・はぁ。封印:融合」


けど、やるしか無かった。殺す気は無いんだろうけれど、ここで何も出来なかったら、何かを失うようなそんな気がしていた。

僕の両眼が少し濁ったような青色に変化した。


「! おっ? それが本気かな?」


「そうだよ、これが僕の本気だ。全力でいってやる」


「面白そうだね。良いよ、私も本気でいくよ」


マリーはそう言うと、籠手を嵌めた上で両手でさっきの鎌を持った。

そして、その上で僕と同じように顔の上半分を隠すようにして仮面を着けた。


「さっ、やろっか」


「複式:封印 虚爪・滅尽」


相手を細切れにするどころでは無い威力の無数の斬撃が一瞬にしてマリーへと襲いかかった。


「複式封印 龍巣・消尽」


そして、その上でマリーの背後へと回り込むと最大級の一撃を浴びせた。


「権能・怠惰、暴食」


マリーは鎌を一度、前方に向かって大きく振ると空間を消し飛ばすようにして僕の斬撃が全て消え去った。

そして、鎌の遠心力を利用して流れるように後ろを向くと鎌を上空に放り投げた。

そして、龍巣に向かって殴りつけるように籠手をぶつけた。


「!」


籠手が近づくとともに、龍巣のスピードは減速し、その威力も急激に落ちていった。

そして、籠手に龍巣が触れた瞬間にはまるで龍巣なんてものは無かったかのように斬撃が消えていた。


「複式:封印 虚爪・増幅」


マリーの後ろから斬撃が飛び出てきた。さっき、奴らにやった時間差の斬撃、それに封印によって何重にも力を増加させたものだった。

それと同時に、僕はマリーとの距離を詰めた。

後ろを対処すれば、僕の攻撃が直撃する。僕の攻撃を対処すれば、背後の攻撃が直撃する。

完璧とまでは行かなくても、それに近しい一手を打った。


「発想は良いねー。相当力が無いと、くらっちゃうね。まっ、私には効かないんだけどっ!」


マリーはそう言う叫ぶと、背後には見向きもせずに、僕の方へと突っ込んできた。


「五式:封———!」


「権能・怠惰:堕落の空間(コンバージ・ゼロ)!」


瞬間、身体が重くなった。いや、重くなったと言うよりかは動かなくなったと言う方が正しいほどにいきなり身体の制御をすることが出来なかった。

例えるなら、眠気に勝て無いのと同じように、抗いようのない重さだった。

そして、それは僕だけでは無かったようだった。マリーの背後に迫っていた斬撃もまたその速度を急激に落としていた。結果的に、挟み込んだ攻撃はそのどちらもがマリーに届くことなく消え去った。


「あっはははは! 一回死んでみる?!」


楽しそうに笑いながら、僕へと鎌を振り下ろしたマリーの姿は、その整った顔とのギャップに酷く歪に見えた。

僕が今できる最善の状態でも動かない身体に向かって完全な死が襲った。

そして、僕の意識が途切れたのはここからだった。


「!!」


刹那、僕の身体の制御を何かが塗り替えた。



「はぁ、お前。起きろー」


ペチペチと誰かが僕の右頬を叩いた。


「っんぅ・・・・、はっ!」


右頬に伝わる僅かな痛みに僕はうっすらと眼を開けた。そして、直ぐに身体を起こして辺りを見渡した。辺りは、以前僕がハオさんと会った時のように真っ白い空間だった。


「おっ、やっと起きたか」


僕の頭があった方には、頬杖をつきながらしゃがみ込んでいたハオさんの姿があった。


「・・・・貴方は・・・・、ハオさん?」


少し、警戒を解きながらハオさんに向かってそう尋ねた。


「おっ、ちゃーんと覚えてたか。そっ、ハオさんだ」


「あれ? 僕は何で?! もしかして死・・・・?」


「んにゃ、お前は死んどらんよ。ただ・・・・ちょーっとだけ、まずいことにはなってるけどな」


ハオさんは僕が言い切る前に、否定してそう応えた。けど、ハオさんの言い方だと、違う問題が発生しているようだった。


「え?」


「はぁ・・・・、先に言っとくとなぁ。今、お前の身体の主導権はお前さんじゃ無い。率直に言うと()()()()()()()()状態だ」


ハオさんは頭をポリポリと掻きながら、難しそうな顔をしてそう言った。


「乗っ取られてる?! 誰にですか!?」


あまりに衝撃的な言葉だった。以前、会った時は身体はそのままで、特に何も起きていなかったのに、今回は身体を乗っ取られているのはあまりにも異常すぎた。


「お前であってお前で無い存在だよ。まぁ、俺の半身といえば分かりやすいか」


「ハオさんの半身・・・・? どういうことですか・・・・?」


「・・・・俺は刻帝覇王のうち、覇王の部分の力だ。今、お前の身体を使っているのは刻帝の部分の力の方だ。

以前、あぁ今お前が着けている御面の持ち主のオーガを倒したろう? その時に、オーガを倒したのも同じ、刻帝の方だ」


そんな事は初めて聞いた。ハオさんが言っていなかったのもあるだろうけど、少なくとも僕は僕の中に二つの存在がいる事なんて全く分からなかった。


「! え? ハオさんがオーガを倒したんじゃ無かったんですか?」


「あぁ、そうだよ。俺じゃなく、刻帝が倒した。まぁ、俺は元々()()()()()()()()()は持っていないしな」


「そうだったのか・・・・。! 僕の身体はいつまで乗っ取られたままなんですか?!」


僕にとってそれが問題だった。少し焦ってハオさんに尋ねた。


「あー、まぁ、アビス持ちを倒すか、お前の身体が限界を迎えるかのどっちかまでだろうなぁ。恐らくは後者だろうけど」


ハオさんは考えるように顎に手を置いて、斜め上を見てそう言った。


「? アビス・・・・?」


ずっとこのまま出ないことが分かって少し安心した。そして、僕はハオさんが言った負けるという言葉よりも、聞き慣れないアビスという言葉に反応した。


「ああ、そうか。お前はアビスを知らんのか」


僕の質問に一人納得したようにハオさんが頷いた。


「はい。アビスって何なんですか?」


「アビスっていうのは、異能力の名前だ。正確には、アビス・エンド。まぁ、魔黒卿(デーモンロード)という名もあるが」


「アビス・エンド・・・・」


「そう。しかも、あれは今のお前の数段上の力を持ってる。いくら、刻帝でも倒せんだろうな」


「そんなに、強いんですか・・・・?」


それは能力がという事なのか、僕自身の力がという事なのかは分からないけれど、どちらにしろ僕に勝機は無いようだった。


「あぁ。・・・・そうだ、ちょうど良い。もう少し時間もあるようだし、異能力と能力についてちゃんと話しておこう。それに、ダンジョンについてもな」


思い出したように、そう言うとハオさんは話し始めた。この世界の理に関係するような重要なことを。


「異能力とダンジョンですか・・・・?」


「そうだ。お前も他人事では無いからな。聞いておいて損はないだろう。

まず、お前に質問だ。能力とは何だ?」


「・・・・それは、危機に陥った人の脳が進化した事による恩恵なんじゃ無いんですか?」


特に難しいわけでも無い、基本的な質問だった。この世界で生きている人間なら、能力が何故発現したのかは嫌というほど聞かされる。義務教育の過程でも何回も学ぶほどそれは周知の事実だった。


「あぁ、そうだ。じゃあ、能力は1()9()9()9()()()()の人間は持っていたと思うか?」


「? え、それは違うんじゃないんですか? だってダンジョンによって脳が覚醒したのが原因なんじゃ・・・・」


ハオさんの言い方に少し引っ掛かるような感じがしたけれど、さっき僕が言った説明だと、あの事件以前の人は能力を持っていなかったという事になる。


「不正解。能力はな、元から人間全てが有していたものだ。特に、俺を含めた異能力は()()()()()()()()()()から存在しているんだよ」


「! それは、つまり・・・・、太古の昔から能力は備わっていたっていう事ですか・・・・?」


「そうだ。ただ、人間がそれを理解し、使用する事が出来なかっただけだ。それに、ダンジョンも同じだよ。ダンジョンも常にあった。ダンジョンに至っては、人類が生まれるその前から存在していた」


「は?! ダンジョンが元からあった?!」


能力については、ハオさんの説明でまだ理解出来る。けれど、ダンジョンに関しては理解が出来なかった。

ダンジョンなんてものが太古からあったなんて、そんな事をもし研究者などに言ったら門前払いをされるか嘲笑を受けるくらいの荒唐無稽な話であった。僕が驚くのも無理はない事だった。


「まぁ、驚くよな。そう、ダンジョンは太古から存在していた。そもそも、ダンジョンは地球上の全ての物の負の感情などが少しずつ積み重なった結果だ。全ての灰汁を()()()させたようなものだ」


「? ・・・・じゃあ、何でダンジョンの量が1999年に急激に増えたんですか?」


「それは・・・・、時期に分かる。直ぐにかは分からんが近い内に必ず、お前はその答えに直面する」


ハオさんは急に口篭った。その顔は気持ち悪そうな、どこか憤慨しているようなそんな表情だった。


「? どう言う事ですか・・・・?」


「・・・・これ以上は、俺の口からは言えないって事だ。お前には悪いがな」


左右の人差し指を交差させ、口の前でバツマークを作りながらハオさんはそう言った。


「そんな・・・・。じゃあ異能力は、ハオさんは太古からいたって言ってましたけど、それはどういう事なんですか?」


「あー、それなら言えるな。異能力は地球の意志だ。全ての生物、それこそ無機物にすら魂は存在する。それと同じように地球そのものにも()は存在している。そして、俺たちはそこから生まれた存在だ」


少しハオさんは考えた後、口を開いた。


「地球の意志・・・・ですか?」


「ああ。人間に欲があるように、地球にも地球上の存在と自分自身を存続させたいという欲がある。それを叶えるために生み出され、()()()()()()()()人間にその力が備わった。それが俺たちだ」


「それは、前にハオさんが言っていた普通の死に方は出来ないって事に関係があるんですか・・・・?」


「そうだ。異能力を持つのは完全にこの世界のイレギュラーとも言える。だから、地球の存続や人を含む生物の存続の危機を対処しなければならない。特に、今はな。・・・・少なくとも、過去に俺を所有していた人間はその全てが寿命で死ぬことは無かった」


「多くの人を助ける事は出来るけど、自分は救えないってそう言う事だったんですか・・・・」


ここに来てから思い出したけど、以前にハオさんに聞かれた質問に納得がいった。あの時の質問はこの事情があったからだった。


「覚えてたか・・・・、そう言う事だ。・・・・おっ、そろそろ決着だな。やっぱり、俺の想像通りか」


何かに気づいたようにハオさんがそう呟いた。どうやら、現実の方で決着がつくらしい。


「・・・・って事は、僕は負けたんですか」


「そうだな。まぁ、今のお前の力じゃこれくらいだろうよ。けど、お前はまだまだ強くなれる。特に、刻帝の力を操れるようになれ。今、お前が使っているのはほぼ俺の力だけだからな。そのためにも経験を積め、努力しろ。才能はあるんだからな」


ハオさんはハオさんなりに僕を励ましているようだった。


「・・・・頑張りますよ」


「あぁ。・・・・最後にもう少しだけ。お前の力である俺たちは異能力の中でもトップに位置する。その分、扱いと覚醒が難しい。一つアドバイスをすると、異能力持ちの人間ににもっと会え、そして理解しろ。それがお前の()になる」


ハオさんは真剣な顔をして、そう言った。多分、ハオさんが言えるギリギリのラインなんだろうと感じた。

ハオさんが言っている事を完全に理解した訳では無いけれど、僕はその事をしっかりと記憶した。


「? 分かり・・・・ました」


「あー、それと、異能力は全員が味方じゃあ無い。そこは肝に銘じておけ」


完全なハオさんの忠告。異能力を持つのが人間である以上、当たり前の事だけどふとした時に忘れてしまう重要な事だった。


「! はい」


「それじゃあな。次に会う時は・・・・、いや何でも無い。・・・・頑張れ、歩」


ハオさんは何かを言おうとして、口をつくんだ。そして、少し微笑むようにして僕をみると手を振ってそう言った。


「?」



「・・・・はっ! いっ・・・・!!」


そして、僕は現実で目を醒ました。仰向けに倒れていた僕は目を開けると天井が視界に飛び込んできた。ここが病室だったら、『知らない天井だ』とか言っていたのだろうけど、生憎と今はそんな余裕は無かった。

起きあがろうとすると、全身に痛みが走った。特に、右腕と両足、肋骨のあたりには強い痛みがあった。


「あぁーっ! 疲れたぁー!」


僕から少し離れた所で、少しボロボロになって、小さな傷が身体中にあったマリーの姿があった。


「いやー、ごめんね、急に襲っちゃって」


「いえ、それよりも・・・・」


薄々気づいてはいるけれど、ハオさんにも言われた手前、一応聞いておかなければならなかった。


「分かってる、私たちは君の敵じゃ無いよ。それだけは信じて欲しいかな。君がどれだけ異能力を操れるのかを知りたかったんだ」


やっぱり、マリーは僕の敵と言うわけではなかった。敵だったら、間違いなく僕が死んでいる事からも、それに関しては信用して良さそうだった。


「あぁ、なるほど。・・・・どうでした?」


「うーん、弱くは無いよ。ただ特段強いっていうわけでも無いかな」


「・・・・そうですか」


「別に貶してるわけじゃ無いんだよ!? ただ、これからはもっと異能力が必要になってくるからねー。もし、速く強くなりたいなら、私たちの組織に加わらない?」


「えっ・・・・?」


「返事は今じゃなくて良いよ。ゆっくり考えといてよ」


「・・・・はい、分かりました」


「一つアドバイスっていうか忠告なんだけどさ・・・・刻藤君。異能力はちゃんと制御した方が良いよ。君の場合は特に。もう結構力に呑み込まれ始めてる、思ったより重症だね。・・・・そのままだと取り返しが付かなくなる」


少し間を空けて、マリーがそう言った。その顔はさっきまでとは違って真剣そのものだった。

マリーの表情を見るに、僕は僕が思っているよりもずっと危険な状態だったらしい。


「取り返しが、付かなくなる・・・・?」


激痛に耐えつつ、ゆっくりと少しずつ僕は立ち上がった。


「うん、そう。自分自身と、自分の能力とちゃんと向き合いな? 壊れちゃうよ、刻藤君が」


「・・・・っ、はい」


少し心当たりがあった。いや、目を逸らしていたと言った方が正しいかもしれない。

ラウストと戦った時くらいから僕は人を殺すという事に対して、感覚が狂い始めていた。まるで、自分が塗り替えられていくかのように。

だからこそ、マリーに言われた事にはいっそう気を付けなければならなかった。


「うん、素直でよろしい! じゃあ私はもう行くね、会えて良かったよ。・・・・また直ぐに会おう!」


「はい」


「あっ、それと! 怪我は割と酷いからちゃんと医者かノア・ライヘンドア辺りに診てもらいなよ! じゃっ!」



マリーはそう言うと、懐から青い結晶のようなものを取り出して砕くと、僕の前から消え去った。

どうやら、使い捨ての魔道具を使ったらしい。


「ぐっ・・・・、いってて・・・・!」


僕はマリーが消えたのを見ると、フラフラとしながらも歩き始めた。

歩くたびに激痛が走った。けど、こんな所でいつまでも寝ている暇は無かった。こんな状態である以上、今はここで気絶している女は放置しておく他なかった。

直ぐに、一平の元へと行かなければならなかった。


「ぐっ・・・・!」


少しずつ僕は一平が走って行った方へと歩いて行った。


范怎 地下三階


一平は完全な劣勢で闘っていた。歩と違って人数的な不利というわけではなく、純粋に力の差で劣勢になっていた。


「どうしたのですか?! そんなものなんでしょうか!」


「チッ・・・・!!」


そもそも、一平は生身だけでの戦闘ならばいざ知らず、能力を使った戦いではほとんど相手に有利を取る事ができない。

能力の都合上、相手へ攻撃するためには銃などを使うしか無く、その攻撃パターンも決して多いとは言えないためだった。


「螺旋弾!」


一平は弾丸に風を纏わせるようにして、撃ち出した。通常の弾よりも弾速は速く、威力も風によって上昇させた弾丸だった。


「おおっ?! けれど、当たらなければ意味がないでしょう?!」


男はそう言いながら、一平の弾丸を全て躱しきった。


「お返しに、マジックを見せましょう!」


男は白い帽子を取ると、その帽子の中に右手を突っ込んだ。


「タネも仕掛けもない、この帽子からナイフがナイフが飛び出します! ご注意ください!」


右手を帽子から抜くと、その右手には四本のナイフが握られていた。

そして、その四本を一平へと投擲した。


「こんなの———」


「そして、四本のナイフは増加致しますっ!!」


「!!」


確実に四本だったナイフが、空中でその数を数倍以上に増加させた。

一平は、飛び込むようにして椅子の裏へと隠れた。

もう少し飛び込むのが遅ければ全身にナイフが突き刺さっていた事であろう。現に、即座に飛び込んだにも関わらず、一平の頬には切り傷が付いていた。


「隠れたって無駄でしょう?! だって、貴方の傷は増加してしまうのですから!!」


男がそう叫んで、指をパチンと鳴らした。その瞬間、一平の右頬だけにあった切り傷が増加した。


「!! っぅ・・・・!」


切り傷は顔中に広がり、首にもうっすらと切られたような痕が現れていた。

痛みによって椅子に頭をつけると、顔から溢れた血がボタボタと床に落ちた。


「如何でしょうか?! それではお代は命で払ってもらいましょうか!」


未だ、舞台の中央で両手を広げながら高笑いしている男がそう叫んだ。


「・・・・勝手に見せてきてお代を取るとか、詐欺だろ」


一平は椅子に隠れたまま男へそう言った。


「詐欺? 何を仰るか、貴方は見た。しかも、文字通り肌で味わった。マジックを体験したでしょう? そのお代を頂戴するのは当然でしょう!!」


「クソマジシャンが・・・・!」


「失礼なお客ですね・・・・!」


一平の言葉に眉を動かした男は、あからさまにその言葉にイラついたようだった。


「口の利き方がなっていないお客は早々に片付けないといけないですね!」


男がさっきナイフを取り出した時のように、帽子の中に右手を突っ込んだ。中からは、ナイフではなく手榴弾が一つ現れた。


「それでは、束の間の花火をお楽しみ下さい。勿論、死ななければの話ですが!」


男はそう言うと、一平が隠れた椅子へ向かってピンを抜いた手榴弾を投げた。

そして、空中でピンの抜けた状態で手榴弾が増加した。十を超える数の手榴弾が一平は向かって飛んで行った。


「!!」


椅子の隙間からそれを見ていた一平は、すぐさま能力を使用しつつ、向かいくる手榴弾と直角の方向の空中へと飛び上がった。


「ぐぅっ・・・・!」


手榴弾の爆風自体は、能力を使えば対処できる。

けれど、十を超える数の手榴弾によって破壊されて吹き飛ばされた椅子の破片が一平へと急速で飛んで行った。あくまで風の動きを操る一平の能力では椅子は対処出来なかった。

速さを伴った椅子の破片が一平へとぶつかった。


「花火は堪能しましたでしょうか?!」


椅子が直撃し、床を転がった一平に追撃をかけようとはせずに、尚も舞台の上から一平を見下ろすようにしていた。


「ゴホ、ゴホッ・・・・! お陰様で・・・・、十分堪能したよ。・・・・お返しだっ!」


一平は何発もの弾丸を連射した。


「? どこを狙ってるんです?」


しかし、その弾は全て男を直撃する事はなく、掠る程度の軌道だった。


「あー、なるほど。私が躱すのを期待してと言う事でしょうか。なんと浅はか———!!」


「ああ、初撃はな!」


一平が前に伸ばした右手をぐっと強く握り込んだ。その瞬間、ズレていた軌道上を走っていた弾丸が空中で何かに弾かれるようにして全方位から男に飛び込んで行った。

空中で跳弾した事で、銃弾はさらに加速した。流石に、全方位から不意打ちにも近い無数の銃弾を躱しきることは出来なかった。

幾つかの弾が男に直撃した。


「ぐっ・・・・!」


「お代は気に入ってもらえたか? クソマジシャン」


一平は傷だらけになりながらも立ち上がると、銃弾を受けた男へ向かってそう言い放った。


「・・・・、たかが一撃。あまり舐めないでいただきたいですねぇっ!!」


男は右肩と腹部に弾が貫通したのか、スーツに赤い染みが出来ていた。


「それに、貴方如きでは、私には勝てない!」


そう叫ぶと、男の口から血が漏れた。けれど、それに構う事なく、帽子の中に手を突っ込んだ。


「! ・・・・いや、俺の勝ちだ。粘り勝ちだけどな」


一平は、ダランと腕を下げると、男を見ながらそう言った。


「貰うわよ、その影」


「なっ!!」


男の身体が急にガクンと落ちた。力が上手く入らないようになった男はかろうじて床に伏せてしままうのを耐えている状態だった。


「よく耐えたわね、一平」


「遅ぇよ、リン」


「何言ってんだか、間に合ってんだから良いでしょ」


「あ、貴女は・・・・」


「命が掛かった勝負だから。卑怯とは思わないでね」


リンは呟くようにそう言うと、一瞬で男との距離を詰め、顎に二回拳を打ち込んだ。


「があっ・・・・」


男は抵抗する事なく、脳震盪を起こしその意識を手放した。

僅かに呻いた後、男は地面に倒れ込んだ。


「あー、死ぬかと思った・・・・」


それを見て、一平は床にドサリと腰を落とした。顔の無数の切り傷はまだ止血出来ておらず、血が流れていた。


「痛そうな顔ね、一平」


「割と血は流れてるけど、別にそんな痛くは無いよ。クラクラはしてるけどな。そんなとこより、歩たちは?」


普通に考えて、一本道であったのにリンが歩と合流することなく現れたのは不可解なことだった。


「私が聞きたいくらいだわ」


「・・・・後ろの人たちは?」


「ん? あー別に気にしなくて良いわよ。私に二体一で負けて命を助ける代わりに范怎を裏切ることになった人たちだから」


「・・・・あー、なるほど」


リンの自信満々な顔と、後ろで疲れた表情をしていたヤンを見てだいたい何があったのかを察知した。多分、あの一本道とは違う道があったのだろう。それを利用してリンたちはここに来れたらしい。


「一平、休んでる暇はないよ。ちゃっちゃと先に行かないと」


そんなことを考えていると、リンがそう言った。


「多分ここが一番下なんじゃ無いの?」


「いや? もう一個下があるってさ」


後ろにいたヤンたちに聞いたのか、レナは床を指差しながらそう言った。


「・・・・分かった。よいしょっ・・・・と、アイツはどうすんの?」


少し反動をつけてから立ち上がると、椅子の破片のような木屑を払った。


「うーん、フーがいれば楽だったんだけどなー。一平は歩けるんでしょ? なら私が引きずって行くわ」


「分かった。じゃあ行こう」


僕がそう言うと、リンは頷いて倒れていた男の襟首を強引に掴んで引きずって歩いていた。

そして、一平たち五人は更に下へと向かっていったのだった。


中国 上海


「クソッッ!! なんで、范怎にまでアイツらが・・・・!」


路地裏のような薄暗い場所で今回の大事件の引き金である市山 柊鵝が壁を強く叩きつけた。その充血した瞳には焦りが現れていた。

柊鵝は沖縄で歩が地下に現れるよりも少し先に、沖縄ダンジョンから逃げ出していた。柊鵝はプライドは高いが、自分の命に関する事ならば、逃げる事を恥だとは思わない人間だった。

そして、柊鵝は直ぐに逃げると同時に今回の事件に関わっていた范怎の元へと単身で訪れていた。

しかし、その選択こそが柊鵝の命取りとなってしまった。


「くそ・・・・、このままじゃ終わる・・・・!」


柊鵝は焦ったまま、そう呟いていた。そして、そんな中、薄暗い中に誰かが柊鵝の元へと歩いてきていた。


「やっと来やがったな! 俺を、一刻も早く無銘教に退避させやがれよ!」


柊鵝は誰かが来たのを知るなり、怒鳴るようにそう叫んだ。


「・・・・」


「おい!」


「叫ばなくても聞こえてるわよ。無銘教で匿えってことでしょう?」


柊鵝の元に来たのは、艶やかで色っぽいお姉さんだった。こんな場所にいなければ、それこそ東京の渋谷あたりにでもいれば即座にスカウトが来るくらいには色気があった。


「ああ、そうだ。そういう契約だっただろ!」


柊鵝は万が一の時に備えて無銘教と契約をしていた。もし、自分の身が危険になった際に、無銘教に匿ってもらうことを約束していたのだった。


「うーん、生憎と妾たちがそれをする義理は無いわよねぇ」


「は?」


目の前の女が言ったことに理解が出来ずに、間抜けな声を漏らした。


「だって・・・・、力もお金も無い人間を助ける義理なんて・・・・、どこにも無いでしょう?」


「な、何を言ってるんだよ・・・・! 契約だっただろうが! 契約を破るのか?!」


「契約・・・・? それ、誰とやったの? 妾に関係あるの?」


女は唇に人差し指を置いて、とぼけるようにそう言った。


「は?」


「少なくとも、妾はそんな契約は知らない。だから、破るもなにも」


「! ・・・・じ、じゃあなんでお前はここに来たんだ! 少なからず誰かしらがお前にその契約のことを伝えたんだろうが!」


「来た理由・・・・ねぇ」


女が不気味に笑った。艶やかな見た目とは裏腹にその笑顔はとても不気味で恐いものであった。


「そんなの・・・・決まってるでしょう。使い道の無い者をいつまでも放置してられるわけがないじゃない?」


「! それは、まさか・・・・」


ここまで言われればこの女が自分の前に来た理由は明白だった。この女が柊鵝の前に来た理由、それは口封じのためだった。


「ふふっ・・・・! 怨みなさいな、蔑んでいた無能に成り果てた自分を」


「やめろ、やめろっ・・・・! 来るなぁぁぁぁぁあっっつ!!」


柊鵝は逃げ出した。本能が柊鵝に逃げろと語りかけてきた。それを抗うことなく受け入れると、背を向けて逃げ出した。


「あら? この状況で背を向けるなんて。本当に・・・・無能なのね」


「嫌だ、こんなところで———!」


柊鵝は宙を蹴って空へと逃げ出そうとした。宙をたった一歩蹴っただけで数メートルほどの高さへと昇った。普通なら、すぐさま射程から外れ、取り逃してしまうほどであった。


「はーい、さようなら」


けれど、この女に普通は当てはまらなかった。この女は無銘教、それもナンバーズであった。柊鵝には勝ち目だころか、逃げる術すら持ち合わせてなんかいなかった。


「ッギャァァァァッッ・・・・!!」


逃げる柊鵝の両足をどこからか取り出したのか巨大な斧で斬り飛ばした。

両足が消えたことによって、宙を蹴ることができずに、数メートル上から地面に叩きつけられた。


「嫌だ、いやだ・・・・! 助けてくれっ、何でもする! 何でもするから命だけはッッ・・・・!!」


足が無いから逃げることが出来ず、ゆっくりと後退りをするようにしながら柊鵝は命乞いをしていた。その姿を見て、これが市山財閥のトップだとは誰も思えないほどに真剣だった。


「ふふふ、妾は人の痛がってるところと、血を見るとゾクゾクしちゃうの。だから、他にはなーんにも要らないの。・・・・ねぇ? 貴方はどんな死に方かしら?」


けれど、柊鵝の命乞いに耳を貸されることは無かった。舌舐めずりをした女は片手で斧を振り上げた。


「ヒッ・・・・、ギャァダァあだだツァだダァだあああッッッ———!!!!!!」


路地裏に、柊鵝の絶叫が響き渡った。誰も助けは来ない。直ぐに死なないように手加減され、永遠とも思えるほどの時間、柊鵝は女に弄ばれ尽くされたのだった。


「あっははははははははっっっ!!!!!!」


その光景はまるで地獄絵図だった。

その数時間後、ぐちゃぐちゃになり、身元が特定できないほどの残骸と化した柊鵝が発見されたのだった。

すみません、更新が遅くなりました。次回は来週の金曜日までにやりたいです。


本編では言ってませんでしたが、ダンジョンは恐竜がいた時代にもありました。ただ、その時はダンジョンから溢れ出た弊害に対処することが出来ませんでした。その結果、恐竜は絶滅しています。

あまり、言い過ぎるとネタバレに繋がりそうなので、この辺で。


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