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八十九話 敵か、味方か。

午後五時半


「じゃあね、歩。また日本でね」


飛行場で、手を振りながら深鈴さんと友里がそう言った。


「うん。二人とも、気をつけてね」


僕たちはそんな二人の姿を見送っていた。二人は一足先に、日本へと帰還するのであった。

今日の明朝に大使館に着いたのに、すぐに帰る手筈を整えられていた。流石に大使館の人だけあって早い仕事であった。

二人に僕たちがこれから何をするのかは一言も言っていない。

そして、二人が飛行機に乗り込んでから数分して、飛行機が動き始めた。飛行機の小さな窓から二人がまだ手を振っているのが見えた。


「歩、そろそろ行くぞ」


「・・・・うん」


二人の乗る飛行機が離陸したのを見届けると、僕たちは滑走路を離れていった。



飛行場から僕たちは車で二十分程度移動して、新轍さんに言われていた范怎で働いているという協力者の元へと訪れていた。

街の中心から少し離れた場所にある一軒家の前に僕たちはいた。


「お待ちしていました」


呼び鈴を連続で二度鳴らすと直ぐに家主、もとい例の協力者と思われる人物が出てきた。

その協力者は思っていたよりもずっと若かった。下手したら、僕や一平と同じくらいの歳に見えた。スラっとした痩せ型の体型で眼鏡をかけた男の人であった。


「? どうかしましたか?」


驚きが顔に出ていたのか、不思議そうにそう聞いてきた。


「ああ、いえ何でも無いです」


「・・・・そうですか? それなら、早速・・・・。ああ、まずは名前からですね。お・・・・僕の名前は矢羽田(やはた) 甚平(じんぺい)です。よろしくお願いします」


頭を下げつつ、丁寧に矢羽田さんが自己紹介をした。


「刻藤 歩です。よろしくお願いします」


僕たちはお互いに挨拶を交わすと、握手を行なった。

矢羽田さんは外見の通り、物腰が柔らかく優しい人であった。というか、今時あまり珍しい話では無いが、矢羽田さんは日本人であるようだった。


「さて、范怎についてですが。率直に言うと、范怎はかなり面倒です。范怎は表向きはちゃんとした企業ではあります。ただし、裏の顔は無銘教と繋がったことで莫大な力を持った暴力集団です」


僕たち用に用意してくれていたのか、人数分椅子がテーブルの周りに置かれていた。矢羽田さんは僕たちに椅子に座るように促すと話し始めた。


「暴力集団?」


「はい。多分、現在范怎は中国の中で力だけで見たらトップレベルになってしまっています」


「リン、フー、二人ともそれについては?」


「・・・・知らない。今、初めて聞いたよ。俺らが知らないなんて・・・・」


フーは首を振ると、そう言った。少し衝撃を受けているようだった。

フーとリンは中国の裏組織なだけあって表に出ていない情報も多々知っている。そんな二人が全く知らない事が、陰であったと知れば衝撃を受けるのもおかしい話ではなかった。


「・・・・紫龍の方々が知らないのも無理はありません。奴らは基本、他の組織を隠れ蓑にして動いていましたから。そうですね・・・・。最近、色々事件がありませんでしたか?」


「! ・・・・ある。ここ一年間で数十個の中国マフィアや、指定暴力集団を抹消してる・・・・」


少し考えてからフーがそう言った。うっすらと冷や汗が出ていた。


「はい、そういう事です。范怎は自身に敵対していた組織を使って自分たちに捜査が届かないようにしていました」


「相当、頭がキレる奴がいるという事ですか?」


「はい。・・・・というより、頭がキレるのだけならまだマシだったんですが、強い能力を持った者も多くいます。それが范怎がこの一年間で急成長した理由です」


「暴力的な手段ですか・・・・」


僕のその言葉に矢羽田さんが頷いた。


「・・・・成る程。それは厳しいですね。今回も、一般人には被害を出さず、なるべく迅速かつ察知されないようにやる必要があるんですよね?」


「はい。けれど、今回は僕が一般人を全員避難させておきます。なので、范怎の幹部及び、攫われた人だけを残します」


「そんな事が出来るんですか?」


「はい。そのために、僕は色んな人と繋がりを持っておきましたから。新轍さんから聞いているとは思いますが、もう少しでその状態になります。だから、後はお願いします」


矢羽田さんはそう言って深々と頭を下げた。


「分かりました。ありがとうございます」


「いえ、感謝されることでは無いです。僕にあれを潰すだけの力は有りませんしね」


矢羽田さんは少し自嘲するようにそう言って苦笑した。


「・・・・あと一時間ほどで準備は終わります。ですのでよろしくお願いいたします。それとこのデータをどうぞ」


矢羽田さんはそう言って僕にメモリを手渡した。


「この中に、内部の情報が入っています。ただ、僕が調べられた分しか取れていませんが・・・・」


「! いえ、十分です。それがあるだけで助かります」


矢羽田さんは謙遜こそしているが、していることは僕たちにとってとても大きいことであった。

友里たちの救出の時と違って一般人に気を配る必要が無くなるのはとても戦いやすくなる。

それに加えて途中までだとしても内部の情報があるのはとてもありがたいものだった。


「健闘を祈っています」


「ありがとうございます」


そして、僕たちは范怎の本拠地となるビルへと向かった。


「・・・・」


歩たちが消えた後、甚平は度の入っていない眼鏡を投げ捨てるとソファに雑に座り込んだ。


「どうだった? 刻藤 歩は。期待外れだった?」


銀髪の美少女が甚平の背後から耳元でそう尋ねた。少し鬱陶しそうに耳元を払って振り返ると、そこにいたのは以前、バーターを倒した張本人であるマリー・アルスフィアであった。


「その現れ方はやめてくれ。・・・・いや、そこそこは強いよ。多分、能力も二段階くらいまでは進化してるんじゃね?」


甚平は少し考えるそぶりを見せてからそう言った。


「へー、二段階ねー! ・・・・まぁそりゃ流石に完全には出来上がってないか」


少し嬉しそうにしながらマリーがそう言っていた。


「ああ。早く覚醒してもらわないと困るんだけどな。けど、あいつの覚醒条件が分からない以上、もう少し時間をかけるしかないっぽいけど」


「・・・・そうだよねー。まぁ、今回で実力はちゃんと分かるでしょ。それを見てからだね」


「ああ、そうだな」


甚平は少し不敵に笑って頷いた。


「何? 悪いことでも考えてんの?」


「いや?」


「そ・れ・と・も、この絶世の美少女たるマリーちゃんに見惚れちゃった?!」


「・・・・」


嫌そうな顔をしながら、甚平はマリーを見ていた。


「・・・・ねぇ、ほんの冗談じゃん。そんな嫌そうな顔しなくても」


「はぁ・・・・。これだから残念美少女は嫌なんだ。とりあえず、後は頼む」


甚平は額を軽く押さえながらそう呟いた。


「良いよー、上手くやっとくね。能力も見せて良いんでしょ?」


「もちろん」


「オッケー! じゃあ、また後でー」


「ああ」


甚平にそう言うと、マリーはドアを開けて家から出て行った。



事前に新轍さんから聞いていた情報では、范怎のビルには一部の者しか知らない地下があると言う。どこまで地下があるのかは分からないらしいが、間違いなく人質は地下にいるらしい。


「うわ、デッカ・・・・!」


范怎の本社であるビルは空高くそびえ立っていた。まるで、持っている力を誇示するかのように、周囲の建物とは一線を画すようであった。


「デカいよねー。こんなん流石に笑うしか無いよ。他の奴らよりも優れていることを誇張してるみたいだよね」


「・・・・確かに」


そのビルの大きさは、調子に乗っていると思われても仕方の無いほどであった。けれど、それを言う者は誰一人としていない。

それこそが、范怎の強さなんだろう。


『刻藤さん、着きましたか?』


フーと話していると、ズボンの右ポケットに入れておいたスマホが振動した。

直ぐに取り出して電話に出ると、矢羽田さんがそう聞いてきた。


「はい。今、着きました。そちらはどうなっていますか?」


『ついさっき、完了しました。ただ、警備員が十名ほどまだ残っています。これに関してはすみません』


「成る程・・・・。分かりました、ありがとうございます」


『後は、お願いします。お気を付けて』


「はい」


そして、向こうから通話を切ると、僕は右ポケットにスマホをしまい直した。


「みんな、今中にいるのは警備員だけらしい。・・・・いける?」


「もちろん、いけるよー」


「僕も大丈夫。それくらいならどうって事はない」


「分かった、じゃあ突入するよ」


僕はそう言って裏口のドアノブに手をかけた。少しひんやりとした金属の感触を感じながら、ゆっくりとドアノブを右に回してドアを開けた。

裏口から入ったビルの中は薄暗く、まばらに電光灯が付いていた。


「下の階まではエレベーターしか使えないから・・・・。まずは管制室からだね」


甚平さん曰く、管制室までには手が回せなかったらしい。だから、突入して第一にやる事は管制室での映像をダミーにすり替える事だった。

無数にある防犯カメラは透明化出来るマントで対処できる。けれど、エレベーター自体が透明化出来ない以上、作動したらバレるのは必然であった。だからこそ、下へ行くために、管制室に向かう必要があった。


「・・・・。いや、歩。管制室は俺が一人で行ってくる。三人は先にエレベーターで下に行ってくれ」


矢羽田さんから受け取った内部の情報から、管制室へと向かおうとすると、フーが立ち止まってそう言い出した。


「フーが一人で行くの?」


「ああ。そっちの方が効率が良いし、俺一人で動いた方がバレにくいだろ」


「・・・・分かった。じゃあ頼んだ」


確かに、フーの言うとおり、管制室にはフーが一人で行く方が良いだろう。多分、こういうのは適任だろうし。

だから、僕はフーの提案に頷いて肯定した。


「うん、任せておいて」


「・・・・。フー」


リンがフーの耳元に寄って何かを言っていた。一平がどうかは分からないけど、少なくとも僕は聞き取れなかった。


「・・・・分かってる、お姉ちゃん。今は・・・・」


「・・・・はぁ、分かったわ。あんたがそう言うならそれで良いわ」


「うん、ありがとう。それじゃまた後で」


「気を付けて」


そして、僕たちはフーを一人だけ残して、エレベーターの方へと向かって行った。



「・・・・さて、出てこいよ。もう、隠れるのは意味無いから」


歩たちが行った後、首だけを後しろに向けて、そう言った。


「へー、気付いてたのか。なら、他の三人を行かせたのは俺を一人で止めるためか?」


フーの言葉に応えるようにして、物陰から金髪に、耳や口元にピアスを開けた男が現れた。


「・・・・分かりきった事を口に出すとか、もしかして頭が悪いのか?」


意地の悪そうに、ニヤついて挑発するようにフーがそう言った。

これだけフーが余裕そうにしているのは、ひとえにフー自身が強いためだった。この前、一平と戦っていた時も直接的に能力を使うことなく圧倒していた。いくら一平が暁月の諜報メインだとしても決して弱いわけでは無い。それを能力無しで一方的に圧倒出来る。

それはフーの実力を物語っていた。

それに、今目の前に立つ男にフーはさほど危機感を抱いていなかった。せいぜい、常人が一匹の蜂に対して思うほどの警戒心であった。


「・・・・口は達者のようだなぁ」


「口も、の間違いだけどな。・・・・で、お前は誰なんだ? 流石にそこまでは分からんからさ」


「・・・・俺? 俺は、ここの幹部だが」


「へぇ」


男のその言葉に、フーの眉が僅かにピクッと動いた。


「ふーん。そっか、お前は幹部か。じゃあお前を殺しとけばちょっと楽になるってことか」


少し警戒心を上げつつ、尚も挑発するようにそう言い放った。


「・・・・そう言うテメェは何なんだよ?」


不快そうな声と、ポーカーフェイスが出来ないのか、不快そうな態度を顔に出しながら男がそう言った。


「俺は中国政府闇組織、紫龍のメンバーだけど」


「!! 紫龍・・・・。名前は聞いた事があるぜ。政府の犬で、政府が迂闊に手を出せない組織や反抗勢力を抹殺しているんだってなぁ」


男は少し考えるように顎に右手を当ててからそう言った。中国の、それも黒寄りの危ない仕事をしている立場の人間は流石にその情報は知っているようだった。


「だいせいかーい。そこまで知ってるなら話は早いな。・・・・上手くやってたようだけど、お前らはやりすぎた。覚悟しとけ? お前らに明日が来ると軽々しく思うなよ?」


脅すように、圧を強めてフーはそう言った。


「・・・・紫龍だろうが何だろうが、立ちはだかるのなら潰す。そうして、俺らは成り上がったんだからなぁ!」


けれど、男に脅しは通用しなかった。見た目で反応するのは良くないが、見るからにヤンキー寄りの金髪の男に脅しは意味が無かったらしい。


「アハハハハハ!! 面白いこと言うじゃん! ちょうど良いや、最近は本気とか出せてなかったし。やっぱ偶には全力を出して、身体が鈍らないようにしないとね」


フーは両手を叩いて、お腹を抑えながら大笑いした。ツボに入ったのか、しばらく笑って目元の涙を拭って、金髪の男を正面から見直してそう言った。


「・・・・やってみろや、クソガキッ!!」


薄い青色のパーカーを着た男がそうイラついたように叫んでフーへと殴りかかった。

フーは口角を上げつつ、男へと構えたのだった。



「もう、管制室まで着いたかな?」


透明化出来るマントを被った僕たちはエレベーターの前で話していた。


「多分、大丈夫でしょ。これでバレたらアイツの手際が悪かったせいにすれば良いわ」


「うーん、そんなもんかなぁ」


リンは中々に手厳しいことを言う。身内だから強めに言っているのかもしれないけれど、僕たちがここに着くまでに僅か数分しか経っていない。いくらフーだとしてもその数分で管制室に辿り着き、映像をダミーにすり替えるのは中々に至難だろう。

けれど、連絡出来ない以上は、リンの言葉とフーを信じて行くしか無い。


「そんなもんよ。ほら、私たちは先に行くわよ」


そして、リンは迷うことなく、エレベーターの下ボタンを押した。

まもなくして、3階から降りてきたエレベーターが一階で止まった。


「じゃあ行くよ」


素早くエレベータに乗り込むと、B1と書かれていたボタンを押した。

すぐに扉が閉まると、ゆっくり加速して下へと降り始めた。


「地下一階までのは情報しか無いから、慎重に行こう」


矢羽田さんから渡されたメモリの情報をコピーしたものを、腕につけたブレスレットから映像化しながらそう言った。

ブンッと音がして、大きめの透明な映像に、地下一階の緻密な情報が浮かび上がった。

甚平さんが渡してくれた情報は地下一階までの緻密すぎる内容だった。どこに何があるかはもちろん、その幅や距離が何メートルあるかでさえ書かれていた。この情報がある限り、地下一階ではまず間違いなく、迷う事も、仮に戦闘になったとしても後手を踏む事は無いだろう。

けれど、その情報は地下一階まで。他に何階あるのかは分からないけれど、この下からは慎重に行かざるを得ない。


「分かってる。それよりも、問題は地下一階に敵がいるのかどうかでしょ」


「・・・・そうだね。でも、大丈夫。どんなだろうと、僕が殺す」


「・・・・いや、歩と一平は先に行くべきよ。私たちの能力は救助向きじゃ無いから。それに、私たちは殺人や、何かを潰す事ばかりやってきたから、誰かを助けるのは得意じゃ無いのよ」


リンは少し俯きながらそう言った。リンたちの事はまだよく知らないけれど、僕以上に壮絶な人生を送ってきたんだろう。同情するわけでは無いが、少し心にくるものがあった。


「・・・・分かった。リン、もし敵が出てきたら頼んだ」


「はいはーい」


「? 一平、どうしたの?」


「・・・・いや、何でも無い」


「? なら、良いんだけど。なんか、考え込んでるように思って」


「・・・・・・・・、大丈夫。それよりも、もう着くぞ」


一平が言うように、エレベーターが減速して、停止した。

一平が考え込んでいたのは少し気になるけれど、着いてしまった以上は、余計なことを考えている暇は無かった。


「・・・・そうだね。行こっか」


そして、ゆっくりドアが開いた。僕たちはエレベーターから降りると、そこは少し薄暗かった上とは違って、全ての電光灯が付いており明るかった。


「上よりも明るいとか・・・・」


僕たちは歩き出した。僕たちが向かうのは、ある通路であった。

矢羽田さんの調べによると、下へと続く道は分からなかったが、ある場所で人が消えるの事が多々あったらしい。そして、その人が消える場所が僕たちが向かおうとしている通路であった。


「一平、通路に何があると思う?」


「まぁ、十中八九その原因が魔道具なのは間違いないだろうな」


「そうだよね。だけど問題は・・・・、それが何なのかが分かんないことだよね」


『主人、分かりますよ』


「え?」


『僕、分かりますよ。他の魔道具の波長をこの前、覚えたので。初めてやるので正確に出来るかは分かりませんけど、多分出来ますよ』


「この前? この前って、二人を助けた時の?」


『はい、そうですよ』


「まじか・・・・」


付喪神が言う事は、今の僕たちにとってとてもありがたい事だった。

今回はバレる事が一番やってはいけない。けれど、時間がかかりすぎる事もまた問題なのは間違いない。

だから、魔道具を見つけることができる存在はその時間を大幅に削減できる。それは願ってもない存在であった。


「・・・・二人とも、うちの付喪神が魔道具分かるって」


「「は?!」」


二人とも、面白いくらいに同じ反応をしていた。そもそも、リンには付喪神のことを話していなかった。

とは言っても、長々と説明している暇は無いので、簡潔に付喪神のことを話した。


「へー、そんな存在がいるのね。って言うかそれ、新発見なんじゃないの?」


「うーん、でも公表する気は無いよ。面倒ごとになりそうだし」


後から分かったことだけど、この付喪神は新発見なんかじゃ無い。この付喪神はダンジョンによって生まれたイレギュラーな存在なわけでは無かった。こいつは、この力は、僕自身の影響によるものだった。


「ふーん、まぁ歩自身がそう言うならそれで良いわ。今はさっさと向かうべきね」


リンは特に深入りする事もなく、淡白にそう言った。


「うん、そうだね。急ごう」


僕たちはマントを着けたまま、通路へと少し急いで走って行った。


「!! あー、二人とも」


少し走ったところで、リンが急に立ち止まった。


「? どうしたの?」


「急いで走って。少しまずいかも」


「まずいって・・・・!!」


リンの言葉に首を傾げた瞬間に、僕たちも気づいた。誰かは分からないけれど、二人の気配を感じ取ったのだった。


「気づいた?」


「うん」


「早く行って、私が片付ける」


「でも、これ一人じゃ・・・・」


「みなまで言わなくて良いわ。分かってるから」


僕に最後まで言わせずに、食い気味に言った。


「だったら・・・・」


「ううん、必要ない。私だけで十分よ。だから早く行って、むしろ邪魔になるから」


「・・・・、、分かった。先に行く」


僕はリンに頷くと、一平と一緒に走り出した。


「それで良いわ。じゃあ、また後でね」


リンはマントを脱ぎ捨てて、手を振りながらそう言った。

僕たちは、リンを置いて通路へと走り出した。



「女一人に二人で戦うのかな?」


歩たちを目で追った後、正面に立つ二人に向かってそう言った。

言葉ではそう言ってはいるものの、リンの顔に恐怖は微塵も無く、むしろ戦いたくてうずうずしているようだった。


「はっ、ほざけ。戦いに性別なんて関係ないだろ」


いかつい黒いマスクをした男がリンへそう言った。


「まあ、それには同意。一対一の方が楽しいからそう言っただけ。だから気にしないで」


リンは笑顔で言うと、双剣を取り出した。


「遠慮無くそうする。むしろ、全力で叩き潰してやるよ」


「・・・・あんま、イキんなよ。大体分かってきた。お前らここの幹部辺りだろ?」


笑顔を引っ込めると、切先を男へと向けながら言った。


「そうだが」


「アハッ。良いね、私一人で二人も狩れるとか」


リンは不気味に口角を上げて笑った。


「ひー、ゾッとするねぇ・・・・。俺はやめても良いか?」


リンの笑顔を見て、少し長めの髪と髭の生えた四十代くらいのおじさんがやる気無さそうにそう言った。


「ダメに決まってますよ。手ぇ抜いたりしたら減給されますよ」


黒いマスクの男が敬語を使いながら、おじさんにそう言った。どうやら、礼儀はあるらしい。


「それは困るなぁ・・・・。家族を養わなくちゃならんからなぁ」


「なら、気合い入れてください。ちゃんとやってくれますか」


「はぁ・・・・。はいはい、戦いは嫌いなんだが・・・・。悪いな、嬢ちゃん」


頭をぽりぽりと掻いて、リンへそう言った。


「別に良いよ。むしろ私が謝っておくわ。家族と会えなくなったら、ごめんなさいね?」


リンは強気な態度を崩すこと無く、おじさんに笑顔でそう言った。リンは間接的に殺すという意志を伝えたのだった。


「・・・・それは、困るなぁ・・・・」


フーッと息を吐くと、おじさんは強いプレッシャーを放ちながらリンを見るのだった。



『主人、これです。この二番目の絵です』


人型になった付喪神が通路に飾られていた絵画を指さしてそう言っていた。


「この絵画?」


『そうです。これが多分、下へ行くための鍵です』


「絵画・・・・? ああ、成る程。こうなってたのか」


そう呟くと、一平は絵画の額縁をペタペタと触った。


「・・・・。! あった」


額縁をなぞっていた一平が角の部分をグッと押した。カチッと言う音がすると、通路の真ん中付近に半透明のゲートのようなものが現れた。


「これだ。歩、行くぞ」


「凄い、本当に現れた・・・・。付喪神も一平もありがとう」


『いえ、お役に立てたのなら良かったですよ』


「下からは全く持って未知だ。気をつけろよ、歩」


「そっちこそ」


「さぁ行くか」


ゲートに触れると、指が入って行った。ゲートの部分から空間がねじれているのか、目では通路の先が見えるのに、ゲートの先は違う場所へと続いていた。

そして、ゲートを潜り抜けると真っ暗な一本道になっていた。

僕たちがゲートを完全に潜り抜けると同時に、段々と電光灯が付いていった。


「!! ・・・・マジか」


光が付くと同時に見えてきたのは、武装した数人の姿であった。


「一平、空飛べるよね?」


「? いける。・・・・ああ、そう言うことか」


「うん、僕がやる。一平ならこの一本道でも先にすぐに行けるでしょ」


「・・・・分かった。すぐに追いかけて来い、良いな?」


「もちろん。一平こそ、気を付けて」


「分かってるよ」


僕の出した右手の甲に一平が左拳を軽くゴツッと当てた。一平が直ぐにマントを着けたまま奴らの頭上を飛んでいくのを見てから僕はマントを脱いで、異空鞄の中にしまった。

そして、右手の指輪をグッと回して鬼月を取り出した。


「そんなに待ち構えて、どうしました?」


鬼月を腰に持ちつつ、一応聞いておいた。絶対無いとは思うけど、万が一の可能性を考慮しないわけにはいかない。


「・・・・どうしましたって、図太いやつだな。侵入者がいたのなら排除するのは当たり前だろ」


鎧のような防具と、巨大すぎるほどの大剣を背負っていた男がそう言った。そいつがリーダーなのか、他の奴らよりもオーラが強かった。


「あー、気づかれてたんですね」


誰かが失敗したとかそう言うことじゃ無いんだろう。多分、初めから気づかれていたらしい。

ってことは、リンだけじゃ無い、フーもまた敵と遭遇して戦っているのだろう。


「流石にな。それに、()()もあった」


「情報? じゃあ何で僕たちが来たのかも分かってる?」


「? ・・・・さぁ、知っているかもしれないし、知らないかもしれないな」


「・・・・まぁ良いや。どうせ皆殺しにしないともう意味が無いし」


「そんなに自分が強いと思っているのか、刻藤歩? つい先日、無銘教と市山を倒したそうだがそれ如きで調子に乗っているのか?」


「さぁね?」


つい昨日起こった事件の事は箝口令も敷かれている。だから、その事を知っているのは少ない。それなのに、この男はその情報を知っている。

この男があの場にいたのか、それとも誰かがこいつらに情報を渡していたのかは分からない。

しかし、早めに排除するのが得策だろう。


「まぁ良い。それよりも、先に行かせるのは一人で良いのか?」


「・・・・。一人じゃないだろ、僕も入れて二人だ。むしろ、追わなくて良いのか?」


僕は慣れない挑発を男へ向かって言い放った。けれど、あまり意味は無いようだった。


「死ぬ場所が変わるだけだ。追う必要なんて無いだろ」


「・・・・そっか」


「さて、一応聞いておこう。冒険者辞めて、こっちに来いよ。特別待遇で迎い入れるが」


「無理、反吐が出る。寝言は寝て言ってくれ」


僕は嫌悪感をまるで隠そうともせずに言い切った。


「ハッ、そうだろうな。だから一応、と言ったろ。こっちにつく気が無いなら殺すしか無いな」


「こっちのセリフだよ。諦めないんなら皆殺しだけど、良いんだね?」


僕は鞘からゆっくりと鬼月を引き抜いてそう言った。


「・・・・殺るぞ。お前ら」


静かに、殺気を放ちながら、各々が僕へと武器を構えた。


「速攻で終わらせようか」


僕は異空鞄から取り出した鬼の面を着け、青い目を輝かせながら、呟いた。

光に照らされた僕の影が薄く伸びていくのだった。



先に進んだ一平は直ぐに、階段を見つけた。ここに来る時までとは違い、この場にいる人間に隠す必要が無いためか、案外簡単に見つかった。


「・・・・行くか」


一平は階段を降りる前に、近くの壁に急拵えの目印を残しておくと、一気に降りていった。

地下三階は、一本道の通路と少しの部屋しか無かった二階とは違って、監獄のように小さめの部屋が無数に存在していた。悪臭がしそうな場所であったが、咽せるほどの消毒液の匂いが充満していた。


「・・・・、この階層か?」


一平は、地下三階に降り立ち、状況を把握すると、直ぐに動いた。ここに、囚われているのは明らかであった。急いで一つずつ部屋を覗きながら先に進んでいった。

しかし、無数にある部屋はどれも空室で、誰も居なかった。あったのは誰かがいたような形跡と、床にこびり付いた血の痕だけだった。


「・・・・酷いもんだな」


一平は歩と同じ十八歳とはいえ、これまでに様々な現場を見てきた。その中には目を覆いたくなるような現場や、吐き気を催すような場所もあった。そんな経験した一平をして、酷いと言わせるここは、余程のものであった。現に、誰もいないのに牢屋の中を見ると、叫び声が聞こえてくるようであった。


「・・・・、何処だ?」


一平は奥の方へと進んで行った。奥へと進むほど、部屋の数は減っていき、突き当たりの部分には重厚な扉があった。扉の直ぐ隣にはパスワードを打ち込むための機械が設置されていた。


「・・・・あー、めんどくさいなぁ」


そう言いつつ、一平は即座に異空鞄の中から小型の丸い物体を取り出すと、機械に接続した。


「えーっと・・・・。ああ、こうか」


一分にも満たない少ない時間でパスワードを割り出すと、重厚な扉がゆっくりと開いた。


「・・・・」


扉の向こう側は、牢屋側とは違って綺麗で明るくなっていた。


「・・・・奴隷オークションか」


少し先にあった扉を開けて、中に入った一平はそう呟いた。中は、ホールのようになっていて、二階まである多数の高級そうな椅子と、見せ物をするための舞台があった。

少し暗いそのホールの中を、舞台の方へと一平が歩いて行った。

その瞬間、一斉にホール内の明かりが付いた。


「!!」


そして、舞台の中心にスポットライトが当たった。


「ようこそ、侵入者! 今日は何の用で?」


スポットライトの光は執事のような礼をして、頭に白いシルクハットを被ったスーツ姿の男を照らしていた。


「・・・・先に聞いておく。お前ら、最近人、いや大使館の人間を攫ったか?」


「・・・・何故? 何故、そんな事を聞くのかは知りませんが、私が知る限りはそんな情報は()()ですね」


「チッ、()()()()()・・・・」


一平の中で考えていた事が当たってしまった。

大使館の人は誘拐されてなんかいないという事に。

じゃあ、この依頼を出した新轍さんたちは何者で、何の意図があるのかと考えが頭を巡った。

けれど、そんな事を考えてる暇は無かった。


「? それで、私の質問の答えは?」


「・・・・無銘教と繋がっているって聞いたら、潰すしかないよな?」


「あー、成る程、成る程。それなら、貴方はお客さんではないですね。全力で排除、及び掃除いたしましょうか!!」


シルクハットのつばを触りながら男が叫んだ。


「歩、早く来てくれよ・・・・。僕じゃ、勝ち目は薄そうだ・・・・」


二丁拳銃を取り出した一平は、舞台に立つ男を見ながらそう呟いた。

更新が遅くなりました、すみません。少し、言い訳をすると、風邪を拗らせていました。

次回は、金曜日までに行いたいです。


今回ですが、作中で奴隷オークションについて説明出来なかったので説明すると、言葉の通り、様々な奴隷を一部の富豪層たちがオークションをしています。もちろん、違法なことなので普通に捕まります。

ちなみに、余談ですがリンとフーは一度オークションで売られかけてます。その際、紫龍によって助けられ、二人は紫龍に入りました。

その辺の話はいずれ、書く機会があればちゃんと書きます。


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